松本の光学講座;2024-15, 準備運動-5/ Paraxial rays and the ideal imaging/近軸結像と理想結像/α’=α+hΦ

近軸光線の屈折について、基礎からご説明します。
近軸とは、光軸に極限まで近付いた光線のことで、理想的な結像をすることは経験的にも分かっていますが、そのままでは作図も考察も出来ないため、常に高さ(h)のある光線を想定することになります。
 言い換えますと、近軸光線追跡は、完全無収差の光学系による理想結像をシミュレートするものです。

 上図のように、平行光線 A, B, C が全て F に結像するのが、理想結像です。
今回も、レンズは厚みが無視できる、度数Φ=+1.0(焦点距離=1.0m)の凸レンズとします。
Φ=1.0Dとしたのは、光線傾角 tangent の分母が常に1になり、傾角要素のαが、α=tanα=h となって、長さの要素として可視化できるためです。(αは、下向きが+で、上向きがーです。)

 入射光線の傾角 α について、パワーΦの屈折面を高さ h で通過後に α’ となるとすると、
α’=α+hΦ (Φはレンズの度数、1/f ) となることについて、図に則してご説明します。
P2で光軸に平行に入射する光線 C は、傾角α=0,h=h2, Φ=1, を、それぞれ上式に代入すると、
α’=0+h2 = h2 となり、焦点 F でX軸と交わります。
光線 B も同様に計算できます。(α’=h1)

 光線は、屈折点Pで、レンズの度数と、光軸からの屈折点の高さに比例した角度で折れ曲がるということです。(α=tanα で定義された屈折角度) 上例は、入射角 α=0ですが、α の値とは無関係に、屈折面に突入する高さhでの光線の折曲がり角度(α=tanα で定義された屈折角度)は一定なのです。

 先ほどは、入射角 α=0 の特殊なモデルでご紹介しましたが、上図のようなケースも、全く同様にご説明できます。

 入射光線 B についてご説明しますと、P1で屈折しない場合は、P1’に到達しますが、屈折により、P1’→Fに移動するわけです。
 お気付きと思いますが、αもα’も、通常の角度ではなく、tanα で定義されているところが重要です。
この図でも、α’=α+hΦ となっていることがお分かりになると思います。

 理想の薄レンズに入射する光線は、「レンズ上の入射点の高さ h とレンズの度数 Φ に比例した角度で曲がり、それは入射光線の傾角に依存しない。」—ということです。(ただし、角度は下向き “tangent”で定義された値。)
* h の初期値には、全く制限がなく、どんな数字を入れてもかまいません。(計算に好都合な初期値で良い);  

繰り返しになりますが、
  α’=α+hΦ
  h’= h
これを行列表記すると、こうなります。↓

また、2つの屈折面に挟まれた空間は屈折せずに直進するため、αは変化せず、h のみが変化します。
通過間隔(光の進行方向=+)= t とすると、
α’=α
h’= h – αt
これを行列で表記すると、こうなります。

移行マトリックス

 どんなに複雑に見える光学系も、屈折マトリックスと移行マトリックスを次々に掛け合わせることで、その全系のシステムマトリックスが得られるわけです。結果として得られたシステムマトリックスの行列式の値も1です。

*一見、通常の平面上の幾何学的ベクトルと混同し勝ちですが、そうではありません。
  α、α’はx座標ではなく、その光線の基点に於ける傾角(特別に定義された)です。

松本の光学講座;2024-14/準備運動-4/Warm-up exercise

また、準備運動しましょう。
 光線をその位置に於ける傾角と高さで表すと、非常に便利ですよ、というのが前回の講座でした。
では、実例に則して、概略をご説明しましょう。
レンズは、厚さが無視できる、焦点距離1m(度数=1.0D)の凸レンズとします。
 まず、X軸とY軸の尺度が違うことに気付かれたと思います。この辺も初心者にはハードルになりますが、近軸光線追跡に用いるXY座標は、X,Yの尺度を統一する必要がないのです。理由を話すと長くなるので、今回は詳細は割愛しますが、一般的な結像公式(1/S’-1/S=Φ)の両辺にhを掛けたことと同じですので、問題ないわけで、これが、この方法の強みなのです。

 次に、P点での光線ベクトルが2つあるのにも違和感を覚えられたかも知れません。
屈折面では、瞬時に光線の方向が変わるため、同じ点に屈折前(A→)と屈折後(B→)の、2種類の光線ベクトルが存在するわけです。前回、位置ベクトルではない、と申し上げた所以です。
 光線の進行を最初から辿ってみます。

1. 入射光線は、Y軸に一致した屈折面に、光軸に平行に、高さ 1 で突入します。
  横に、α(傾角)とh(高さ)を成分とする 行列 A→を併記しました。
2.  光線は、同じ位置のまま、屈折して、光線ベクトル B→ に変化します。
   これも、行列B→を併記しています。
3. この光線追跡方法の有用なところは、基準面をどこにでも設定できることです。
  練習のために、レンズと焦点の中間点(X=0.5)に新たな基準面を立ててみました。
  光線がPに到達した時、傾角は元のままですが、高さ(h)だけが半分になります。
   これも 行列 C→ を併記しています。

 今回は、(逃げられないように^^;)敢えて計算式を省きましたが、 点では、レンズの 屈折マトリックス、P’では、X=0→0.5 の間の 移行マトリックス を掛けてやることで、新たな αh が決定できるということです。
 屈折マトリックス、移行マトリックス について、改めてご興味を抱いていただけましたら、講座の最初から見直していただけると幸いです。


松本の光学講座;2024-13/ Definition of the Angle of the Ray / 光線の傾角の定義と物点(像点)位置の正負

 光線の傾角の定義や、物点/像点 の位置の正負の約束を講座の最初にしっかりとご説明すべきでした。
後先になりましたが、改めてご説明します。まず、図から、角度の正負の方向の定義をご確認ください。

 上図は、必ずしも物点Sと像点Sをお示ししたのではなく(そう解釈されても問題ありませんが)、光線が(進行方向に対して)上向き傾斜のベクトルAと、下向きのベクトルBに分けてご説明するものです。
 S,S’が物点と像点だとすると、1/s’ – 1/s = 1/f から、3つのパラメーターの一つが分からなくても、その値が求められることはご承知の通りです。
 今回の一連の講座は、一般的な結像公式を使わずに、光軸に垂直な基準面(線)上の(光軸からの)高さhの点を通る光線を、傾斜角αとhとの2元のベクトルで表し、屈折面と面間隔の通過による変化を追跡する方法をご紹介したものでした。
 ただ、二次元平面上のベクトルと言うと、どうしてもXY座標中の位置ベクトルを想起されると思いますが、それとは異なります。この辺が混乱を招くのでは?と心配しております。
 図中の2元ベクトル、A,Bの成分の下の方は、点PのY座標なので、問題ないと思いますが、上の成分はX座標ではないことにご注意ください。
 上の成分は、図中で定義した傾角=α であり、それ自体に方向の情報を持っていますが、tanαというスカラーとしてご理解いただければ良いと思います。

 なぜ、光線の傾角の正方向を、数学の慣例の半時計回りとしなかったか?ですが、x座標の正領域と、実像点の位置の正領域が合致するためには、図の方向を正とすることが必須でした。図のように定義すると、像点の位置の正負とxy座標とが矛盾なく合致します。

Vignetting, not that simple! / 単純じゃない、”けられ”

 大根でも、人参でも、先っちょを切れば断面は小さく、上になるほど断面が大きくなるのは御承知の通り。だから、天頂ミラーでも何でも、アクセサリーを対物寄りにセットするほど、より開口径の大きな物、大きなミラーを準備しないといけないわけです。
 上図で言うと、赤い三角形のABF、絶対不可侵の領域で、これに絞りが侵入すると、軸上での口径をケルことになるからです。
 ところがですよ、同時に、逆の要素もあるのです。
 まず、イメージサークル(CD)付近の絞りSを、同じ口径のままS’に移動してみましょう。
何と、それまでケラレていた視野の最周辺が、周辺減光はあるものの、ちゃんと見えて来るではありませんか!
 天文マニアの最大の関心事は、アイピースの視野のケラレ(欠損)なので、図の三角形DPCを考慮すると、ミラー等は、焦点に近いほど大きくしないといけない、という逆説的なことも言えるわけです。BINOの場合は、目幅の制約がありますから、眼側のミラーを大きくするには限界がありますがね。
 EMSの場合で言うと、対物側のミラーサイズは、主に口径食に関係し、アイピースの視野を確保したいのなら、眼側のミラーのサイズが重要だということになります。

Optical Common sense Quiz / 光学常識クイズ1~5

Now, I am asking 5-optical common sense quiz.
Each of the answering time-limit is 20-second.
光学常識問題を5つご用意しました。制限時間は、いずれも20秒です。

Q1; What is the angle “X”? 角x?

Q2; Which is the area that will not allow the real image of the real object?
実物点の実像が出来ない範囲は 1~3 のどれ?
  1. A, 2.B & C, 3. nothing (該当なし)

Q3; Which is the right image? (Upper half of the lens is closed.)
上半分を遮蔽したレンズの結像。正しいのはどれ?
Q4; The direction of the movement of the focal plane?
実物をAの方向に動かした時の像面の移動方向は、

B, C のどちら?
Q5; Which is the image-side principal plane?
    像側主面はどれか?(A~C)

Q1以外は求値問題を避けた、概念的理解の問題です。

 当初、制限時間を5秒に設定しかけましたが、問題を読み取る時間もあるので、20秒に訂正しました。
 最後の問題(Q5)以外は、中学校、小学校レベルの問題だと考えています。
 時間内に答えられなかったり、少しでも頭を傾げた方は落第です。
 満点が取れなかった方は、大いに落胆、絶望し、猛省していただきたい。(私などは、ほぼ毎日絶望しています。^^;)
 落胆と絶望が反省と、真の理解のきっかけとなると信じるからです。
 私たちは文明の恩恵に浴して、日々生活しています。
しかし、文明の機器については、必ずしもメカニズムを理解していなくても使えます。
 スマホ・タブレットのゲームは、猫ですら興じます。
 今こそ、私たちは論理的に物事を考える姿勢が重要だと思うのです。
 視覚から直接入る、幾何光学的課題は、格好の教材だと信じます。

 くどいですが、屈折マトリックスは、2行2列の行列の右上の成分にその面パワー、その対角成分=0,後の2成分は1で、行列式=常に1です。

 移行マトリックスは、2行2列の行列の左下の成分に、面間隔×(-1)、その対角成分=0,その他の成分は2つとも1で、これも行列式の値は1です。

 従って、その要素行列を何個つないでも、積算した最終行列の行列式も常に1なのです。

 なぜ、この事実に感動してくださる方がおられないのか、不思議でなりません。

 どうか、スルーすることなく、今回の問題にトライしてみてください。

松本の光学講座;2024-12/ 実例(主点位置)

では、講座-2の実例に則して、物側、像側の主点(主面)を調べてみましょう。
両レンズの度数は図示した通り、間隔=0.5mです。

L1~L2のシステムマトリックスです。↑
これに、E=(B-1)/A; F=(D-1)/A を当てはめます。

すると、E= ー0.5; F=ー0.25 と出ます。

E,Fの両方共負数になったため、どりらも上図で想定した位置とは逆側にあることが分かります。
最初の図に戻っていただくと、明瞭になります。物側主面が第2レンズと合致しました。
像側主面の方が左に来ています。

松本の光学講座;2024-11 / 主点位置の算出

主点(主面)位置を図のように仮に設定します。実際の位置とは関係ありません。E,Fの算出後の正負で最終的に位置が決まります。この図に基いてH1,H2を基準にしたシステムマトリックスを考えると、以下のようになります。

中央の行列は、L1~Lnまでのシステムマトリックスです。各要素を特定していないので、具体的な数値は決まりませんが、上のように、反時計回りにABCDとしておきます。右上の成分Aが常にシステムのパワーとなっていることは以前にご説明した通りです。さらに、BD-AC=1であることは、全ての要素行列で共通です。

計算結果です。↑

ところで、一般的に、物平面と像平面を基点にしたシステムマトリックス(物像マトリックス)は、上の一般式になることが分かっています。Mは横倍率です。h’=Mhが成り立つためには、左下の成分は常に0になりますし、行列式の値は常に1ですから、対角成分=1/Mになるわけです。

H1とH2は、横倍率=+1になる物像平面ですから、M=1 を代入すれば、主点位置である E,F が算出できることになります。

B-AE=D-AF=1 から、
E=(B-1)/A ; F=(D-1)/A   となるわけです。

(AEF-BF+C-DE=0)

松本の光学講座;2024-10/準備運動-3/主点と主面

図では、H1が物側主面、H2が像側主面です。
定義は実にシンプルで、「横倍率=+1の共役面が、H1,H2」 ということです。
初心者の方はこの辺から躓くはずです。私も当初、理解に苦しんだからです。
横倍率と聞いて、初心者が描く、物と像のイメ―ジは下図のように、実物と実像の関係しかないからです。この際、これを忘れていただく必要があります。

主面の解釈で用いる物点と像点は、ABのような実像でも実物でもなく、
「光学系内を光線が通過する間に、常にPQ=P’Q’となるような共役面が1対、自ずと発生しますよ。」 という意味なのです。

「物側主面のどの高さにある虚物点Qも、同じ高さの像側主面のQ’にその虚像点を生じる。」
ということ。そうした1対の共役面(H1,H2)がどんな光学系にも存在しますよ、ということです。
そして、どんな分厚い光学系も、主面を基準にすれば、薄い単レンズの近軸結像公式が適用できるということです。

そして、2行2列の物像マトリックスから、P,P’の位置がいとも簡単に算出できます。

以前にもご説明しましたが、H1,H2は本例のようにレンズ内にあるとは限らず、また、並び順も逆転することも少なくありません。
 解析をする際には、見やすい(考えやすい)ように、H1が第1面の手前(左)、H2が最終面の後ろ(右)に来るように作図(イメージ)し、算出結果の数値の正負から実際の主点の位置を把握するわけです。

松本の光学講座;2024-9/近軸結像公式

準備運動1,2が終わったところで、近軸結像公式を導いてみましょう。
まず、屈折の法則である、Nsinθ=N’sinθ’が、近軸領域では、Nθ=N’θ’となることを前回までにご説明しました。ここでは、よりシンプルにするために、N=1, N’ =N とします。
X座標の負領域(屈折面まで)を空気中(屈折率=1)とし、正領域の屈折率を1とします。
7.従って、θ=Nθ’ となります。
近軸を前提としているので、屈折面(半径r)はY軸と密着しているはずですが、作図の都合上、見やすいように描いています。
8. 上図から、θ=αーβ、θ’=αーγ となります。
9. 近軸前提なので、α=h/r1、β=h/S、γ=h/S’ となります。
(Sが物点(虚物点)で、S’がその像点とします。)
10. これらを(8)の式に代入すると、θ=h(1/r1ー1/S)、θ’=h(1/r1ー1/S’) となります。
11.  これらを(7)の式に代入すると、h(1/r1ー1/S)=Nh(1/r1ー1/S’) → (1/r1ー1/S)=N(1/r1ー1/S’)
    となります。
12. さらに整理して、N/S’=1/S+(N-1)/r1 となります。
13. 次に、屈折率1とNの領域を反転させたモデルで計算してみます。
  つまり、薄レンズの第2面による屈折の考察です。S’が第2面での屈折の新たな物点になり、その像点S”を求める式を立ててみます。
(12)の式のエレメントを入れ替えて、1/S”=N/S’+(1-N)/r2 と表せます。
14. これと(12)の式から S’ を消去すると、1/S”=1/S + (N-1)(1/r1ー1/r2)、もしくは、
             1/S”ー1/S =(N-1)(1/r1ー1/r2) と表せます。(近軸結像公式)
15.  ここで、物点距離S→∞ とした時のS”が薄レンズの焦点距離 f なので、
        1/f =(N-1)(1/r1ー1/r2) となり、これが薄レンズのパワー(度数)になります。

● r が入射光線に対して凹面の場合は、r < 0 となります。X-Y 座標に忠実に正負を設定する限り、どんなケースでも式は破綻しません。

 ここまでご理解いただいてから、講座1に戻っていただきますと、より理解が深まるかと思います。
理解できないところがありましたら、その番号をお知らせいただけば、さらにご説明します。

松本の光学講座;2024-8/ 準備運動-2

4. 三角形の基本定理です。∠A + ∠B + ∠C=180° (πrad.)
5.  ∠Cの補角、∠D=∠A + ∠B
6.  上記より、∠B=∠Dー∠A

 以上、三角形の基本中の基本の定理ですが、よく使うため、改めてご説明しました。
ここまで、準備運動1,2の項目について、連番を1~6まで振りましたので、分からない方は、何番から分からないのかをお知らせいただければ、さらにご説明します。