BLANCA115EDT-BINO

 1月の末、115EDT-BINOを受け取ってからずっと天候不順だったため、まったく星を見ることができませんでした。鳥取訪問から4週間近くたった先日、ようやく晴れた夜空にきれいな半月を見つけ、待ちに待ったファーストライトとなりました。 仕事から帰宅すると急いで2階にかけ上がり、自室に置いているBINOをベランダへと移動。月へと照準を合わせたのでした。

人生伴侶のテレスコープを松本式BINOに

 星に興味を持ち始めたのは小6の頃でしょうか。中学時代の星仲間は小型の望遠鏡を使っていましたが、私は藤井旭著「星雲星団ガイド」の中の、双眼鏡でもこれだけ見えるよ、という解説を参考にビクセン7×50の双眼鏡を買ってもらい、以後高校までそれを愛用していました。ところが、大学時代に購入した初望遠鏡のFC-76セットの見え味には、期待が大きかったせいか正直に言って満足できず、次第に星から興味が遠のいていったのでした。

 その後30年たち、目の衰えが気になりだしてから、もう一度宇宙の美しさをこの目で楽しみたいと思うようになりました。まずは手頃なBORG77EDを購入。星に地上に望遠レンズにとマルチに活躍してくれましたが、やはりよく見える望遠鏡が欲しくなり、次の機種の選考に入りました。さまざまな鏡筒や架台、それに双眼装置との組み合わせなども考えましたが、最終的に松本式BINOに決定したのは、始めに星を見る道具として双眼鏡を選んだ経験が強く影響していることは間違いありません。

鏡筒選定

観望場所は基本的に自宅のベランダです。自宅だと部屋からすぐ持ち出せるのは良いのですが、市街地に近いため、よく晴れた日でも3等星がやっとの悪条件です。対象はどうしても月惑星が多くなりそうです。よって選定条件として、収差が少なくシャープで、組み立てた状態で容易に持ち運びでき、価格もリーズナブルなこと、を重視しました。松本さんに10cm前後のEDアポを相談したところ、その頃発売されたBLANCA-115EDTは?、とすすめられ、私も実は気になっていたため、即これに決定することができました。ただし移動距離が長かったならば、より軽量な10cmEDアポか12cmF5を選んでいたのではないでしょうか。

取り扱い

 鳥取まで受け取りに行った際に、松本さんから本当に詳しく説明してもらいました。また、長年の地道な改良のお陰でしょう、全体の構成がシンプルで扱いやすく、昼間に何回か練習を行っていたため、EMSも含めて夜間でも操作に迷うことはありませんでした。

 組み上がったBINOは、3枚玉アポのしっかりした対物セルのために本体重量が17.8kgと、(予想していたとは言え)少し重くなってしまいました。そこで部屋での保管時にはEMSを外した状態にして、ベランダ設置時にアイピースの付いたEMSを取り付けることにしました。また付属のパランスウエイトは、やや重量不足だったため思いきってはずし、その代わり足首用のトレーニングウエイトを巻き付けて調節することにしまた。(写真の赤く見えるのがそれです)。それらの工夫で、移動時の本体重量を15kgまで減らすことができました。

 アイピースは必要最小限の構成にしたかったため、まずEWV-32mmと2倍ショートバローを、そして中高倍率用にイーソス6mmを購入、2インチサイズで揃えました。これらを組み合わせて25倍、44倍、133倍、233倍が得られます。

ファーストライト

 早速ベランダにBINOを設置して、いきなりイーソス6mm133倍で月を入れてみました。視野が広いためにスポットファインダーで十分です。目幅、ピント、EMS調整をすると・・・「これが月なのか!」・・・というのが第一感想です。当日はシンチレーションが悪く、それでもユラユラゆれる気流の向こう側に、これまで見たことのない月が浮かんでいます。次第に双眼視に慣れてくると、細かいクレーターや山脈、谷などが、まさに立体的な風景として目に飛び込んでくるのです。片目とはまったく別物、Google Moonの写真とも違う双眼視だけの「体験」です。当初6mmでは倍率が高すぎたかなと思っていましたが、広い視野いっぱいに色付きのない月面全体を眺めながら、ある一カ所に注意を集中すると驚く程細部まで地表の形態を「感じる」ことができます。1本で中倍率と高倍率を行き来できる、と言えばよいのでしょうか。コントラストも片目で見るよりは、ずっと強く感じます。

 月が沈んだ後気がついたのですが、その夜は2等星までしか見えておらず、どうも薄雲がかかっていたようです。そこでM42は確認程度にして、今度は昔よく見ていたシリウス下のM41を入れてみました。星々は暗めですが、双眼鏡では雲状に見えていた微恒星が無数の光の点として確認できます。さらに驚いたのが星の色です。M41内の比較的明るい星ならば赤や緑の色がはっきりわかります。特に赤がしっかり出ている印象で、星の色の違いを明確に感じることができます。赤色を正確に反射する銀ミラーの効果なのでしょう。星の色の差を認識できる、ということが、こんなに楽しいものとは知りませんでした。

 この日は月を妻や子供達にも見せました。家族にいきなり双眼視は難しいため、その時はEMSを逆はの字に回転させ、2連望遠鏡として使用しました。こんな変則的な使い方ができるのも松本式BINOならではですね。

それから数日後、気流のおだやかな、絶好の夜がやってきました。再び月を…、ゆらぎがないため前回よりはるかにすばらしい眺めです。コペルニクスは、そこから四方八方に広がる「猛烈な」起伏、詳細に見えるクレーターの淵や内部様子が本当に見事で、30分以上同じ所を眺めても全然見飽きません。もっと地形を勉強しなければ!。倍率は、バーローをつけた233倍よりは、133倍の方が月には合っている(少しまぶしいですが)、と私は感じました。何しろ全景と詳細が同時に見られるのですから。

 月明かりの中、次はM42です。トラペジウムを見るのは初めてでしたが、133倍ですぐにそれとわかりました。4つの明るい星のそばに5番目の星が微かに確認できます。事前に写真などで星の位置関係を知っていれば、6番目も見つけられたかもしれません。星像ににじみがないため、当初の予想以上にすっきりと気持ちよく対象を見ることができます。これで夜空の暗い場所で観望したなら、一体どんなふうに見えるのか…、当初の予定になかった欲望がわき起こります。

Life with BINO

 朝目覚めると、真っ先にBINOの姿が目に入ります。使わない時はコンパクトに部屋の隅にたたずみ、いざ星に向けるとすばらしい光景を見せてくれる。完成した115EDT-BINOは、これからの人生に無くてはならない存在になる、そう予感します。それに昔愛用していた双眼鏡が、姿形を変えて戻って来たかのような懐かしさもあるのです。今度の「双眼鏡」がどんなすばらしい世界を見せてくれるのか、これから末永く楽しんでいきたいと思います。松本さん、そして理解ある家族に感謝します。

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

藤原さんより、BLANCA115EDT-BINOの第1号機のリポートをいただきました。
 星見を7X50の双眼鏡からスタートされ、また本来の双眼に戻られた形とのことで、大変光栄に思います。  当1号機は、新たな部分が多く、随分とお待たせしてしまいましたが、寛大にお待ちくださり、また遠路を 車で引き取りにお見えくださいました。

  このサイズ規模のBINOが、鏡筒平行移動か、鏡筒固定で目幅クレイフォード方式かの分岐点ですが、今回は よりシンプルな構造を希望されたため、後者の方法を採用することになりました。 後者の方法は、小規模のBINOの場合、EMSの第1と第2のユニットの間隔が、目幅クレイフォードを挿入するのに十分確保できない場合が多く、毎回苦心するのですが、今回は新たな構造により、さらなるlow-profile化を達成しました。

 HF経緯台も、幅広改造をしない方向で進めました。 ただし、最終的にはどうしてもほんの少し(10mmほど)幅が足りなくなったため、大手術を施すことなく、特殊な形状のスペーサーを作ってうまく対処しました。

 ファーストライトでこのBINOの色の再現性の良さに気付かれたのは、さすがです。製作者である私自身は、実際にBINOで星を見る機会は少ないのですが、屋内の壁に掛けている赤い散光星雲の天体写真を、アルミ、銀、それぞれのミラー(1回反射)で反射させてみると、1回反射の段階ですでに区別できて、非常に興味深いものです。 自分の顔を映してみても歴然ですが、銀とアルミは、健康人と病人くらいの顔色の違いがあります。普段 見慣れている姿見の鏡も、実際の色を再現していないことが分かります。相対的に銀の方が赤味がさして見えるのですが、その 血色が忠実な再現なのであり、普通の鏡の色の方が嘘なのです。

 足首用のウェイトをうまく利用されました。 フードの伸縮も前後のバランス調整に有効ですが、フードを 常に伸ばして使われたい場合は、他の場所で調整しないといけませんね。  

 この度、藤原さんにはファーストライトのご感想をタイムリーにご報告いただき、本当にありがとうございました。 これから気候も良くなりますので、またじっくりと観察された段階での追加リポートをお待ちしております。

刻舟求剣 (Searching for a sword by marking the gunnel)

“Searching for a sword by marking the gunnel.” is the fable from the Chinese classics written more than two thousand years ago. The original story is for a stupid man who was optimistic when he dropped his sword out of his ship. He said marking the gunnel of moving ship that “There will be no problem. I can take the sword at the marking point of the gunnel at the next port.” I just remembered the fable after the series of exchange of Q and A with a novice binosocpe user. It is not only for the “Novice” but is the warning to all of us including myself at thinking of an appropriate strategy for collimating the binoscopes.

「舟を刻みて剣を求める・・」というのは、紀元前の中国の古典由来の言葉です。 昔、楚の国の人が、動いている舟の舟べりから剣を落としてしまいました。 でも、その人は少しも慌てずに 落とした所の舟べりに印を付け、「次の港で、この舟べりの傷の所で潜って取るから心配ない。」と 言ったとのことです。 古典の趣旨は、舟の動きを大きなスパンでの時間(時勢)の流れと捉え、より深い意味での訓話としている らしいのですが、もっと素直に文字通りに捉えても、直接的な教訓が読み取れると思います。 先日、20年前の(赤道儀用)回転装置が調整のために里帰りしたことを、製作情報速報でご紹介しました。 鏡筒を外して、回転装置のみを送って来られましたので、かなり酷い管理状況(20年間、注油等のメンテの形跡がなく、埃まみれというよりも土まみれの状態^^;で、目幅調整も動かない状態。)だった装置をオーバーホールし、返送しました。

ところが、ユーザーの方より、「左右の望遠鏡の高さが合わない。」というご指摘があり、メールもFAXも 使えない方だったため、問題が、「光軸が合わない。」という意味だったと分かるまでにかなりの日数を要しました。 鏡筒バンドの下に紙等のシムを挟むようにご指導したところ、また数日後に電話をかけて 来られ、「1cmの厚さの物を挟んでもほとんど改善しない・・・」とのことで、結局、今度はEMSを 一式送って来られました。 そのEMSも清掃して再調整し、返送しました。 一緒に、当サイトの光軸調整関連項目をどっさりとプリントアウトしたものも同梱しておきました。

それから1週間後の今日、初めてその方からお電話があり、万事解決されたかと思ったのですが、 やはり解決しないとのことで、よくよくお話を聞いてみたところ、シムを前後の鏡筒バンドの下に 均等に挟んでおられたことが判明しました。 これだと、何センチ挟んでも変化が無いわけです。^^;  ということで、やっと疑問が氷解し、今度こそ、解決されることでしょう。

数百メートル先の地上物であっても、手元での鏡筒の少しの平行移動は光軸調整には、何らの関与もしませんが、相手が天体なら尚のことです。我が家で見ている月の方向は、お隣の中村さんの家からも、向かいの鈴木さんの家から見ても同じ方向なのです。ところが、角度のずれは鋭敏に影響し、どんなに酷い光軸ずれであっても、大抵は片方の鏡筒バンドの底に厚紙1枚挿入するだけで状況が激変します。

角度が変化しないようなシムや変形をいかに駆使しても、調整にはならないのです。 4本の鏡筒バンドをメガネ型に結束したシンプルなBINOは、バンドを少し緩めてBINO全体をほんの少し捻り、光軸が 復元した段階でバンドを締め直すと、簡単に光軸が復元出来ますが、これについても、 なかなか理解できない方があり、頭を捻らされたことがあります。
最終的には理解していただきましたが、その方は、鏡筒を光軸を軸として回転(これも確かにねじりですね^^;) させておられました。^^; これも、ちゃんと出来た鏡筒の場合は、何の意味もありません。 これで調整が出来たとしたら、鏡筒自体の光軸のスケアリングが著しく狂っていることになります。

ただ、この”事件^^;”は決してこの方だけの問題ではなく、レベルに応じて私たちは簡単に間違いを犯してしまう、ということを自戒させられずにはいられません。 まずは、「20年問題なくBINOを使って来たのだから、基本的な 使い方は理解しているだろう。」というのが、私の最初の思い込みだったわけです。
(ただ、不幸中の幸いだったことは、20年前のEMSには、X-Y調整機構が無かったということです。これがもしあったら、この方はもっと迷宮の奥に入り込んで、二度と外に出られなくなっていたに違いありません。^^; また、まだネットがほとんど普及していなかった20年前、「FAXで視覚情報がやり取り出来ない方のご注文は 受けられません。」と言った私に熱心に製作を依頼された方だったことも、じわじわと思い出しました。)

冗長になってしまいましたが、基本からの調整マニュアルの作成の重要性を再認識させられた事件でした。 納期がずれ込んでいるバックオーダーとの二重苦ではありますが、何とか早くまとめたいものです。

楚人有渉江者。
其劍自舟中墜於水。
遽契其舟曰、是吾劍之所從墜也。
舟止。從其所契者、入水求之。
舟已行矣。而劍不行。
求劍若此、不亦惑乎。

 

MAINTENANCE OF THE EMS MIRRORS / EMSミラーのメンテナンス

From top…..;

0. You can use blower spray to blow the dusts off on the mirror. But be careful not to blow the liquid of the spray on the mirrors.

通常の清掃には、エアーダスターをご使用ください。ただし、スプレー缶内の液がミラーにかからないように ご注意ください。 使い始めのスプレーや、缶を斜めにしたりすると、液が出やすいのでご注意ください。 また細い先ノズルがエアーと一緒に抜けて吹き飛ぶことがありますので、事前にその部分はセロテープで補強しておいてください。

1. When you mistakingly blow the liquid on the mirror, or you find the mirrors dirty after long period of time; wipe the mirror with tissue paper soaked in absolute ethanol.

スプレーの液を誤ってミラーにかけてしまった時や、長期間のご使用で、スプレーでは落ちない汚れが付着しましたら、 無水エタノールで浸したティッシュペーパーで拭いてください。無水エタノールは薬局で500mlが¥1,000少々で売っています。無水でないといけません。(素早く乾燥する必要があるため、エーテルを混合するとさらに良いが、エーテルは署名捺印が要り、注文となるでしょう。無水エタノールで十分です。)

2. Of course, you should take off the sleeve and the filter to access the second mirror.

当然ながら、第2ミラーにアクセスするために、まずはスリーブやフィルターを撤去してください。

3.and 4. If you don’t want to take the barrel off, you should at least unscrew off the entrance aperture. You need not a special tool to do it. You have only to hook your fingers to unscrew the aperture. When it is too tight to unscrew, you can use rubber sheet or something to protect your finger.

バレルの分解が億劫な方は、遮光環だけでも外してください。遮光環を外すのには特殊な工具は要りません。 ただ指をひっかけて矢印の方向(右ネジが緩む方向)に強くねじるだけです。 固くて緩まない場合は、ゴムシート等で 指を保護して行ってください。(必ず緩みます。)(左手にデジカメを持って撮影に苦労していたら、遮光環が裏返し になっていました。^^;)

5. Then soak the tisse paper in the absolute ethanol.

テッシュペーパーに無水エタノールを少し滲み込ませます。 別にこの容器を準備する必要はありません。

6. Don’t save on the paper. Never wipe more than one stroke. You should dispose the paper in each stroke. Of course, when you see any dust on the mirror, you should blow off the dust in advance of wiping.

But, you don’t have to be too nervous of hurting the mirror as long as the tissue paper is wet and new. The mirror surface has enough durability in wet-wiping because it is dielectlic over coated on the silver coatings.

この時、決してティッシュペーパーをケチらないこと。^^; 1ストローク拭いたら必ず捨てて、もう一回拭きたい場合は、新たなティッシュペーパーで同じことを繰り返してください。同じティッシュでの2度拭きは禁止です。

ただ、拭くこと(あくまで濡れ拭き)に関して、必要以上に神経質になる必要はありません。 EMSのミラーは、銀コートの上を誘電体膜で保護していますので、ここに書いたメンテくらいでミラー面が傷むことはありません。 むしろ、汚れを放置する方が有害であり、またせっかくの銀ミラーの性能が目一杯に発揮されません。