松本の光学講座 2024;応用編-5/Distortion and the Iris/ 絞りの位置と歪曲

 この問題も結構奥が深いですが、逆に、視覚的、直感的に理解しやすいかも分かりません。
同じレンズ系でも、絞の位置で歪曲の傾向が逆転することがあります。上図のような単レンズですと、絞を物側のレンズ前に置くと樽型歪曲、像側に置くと、糸巻き型歪曲になります。
 グレードの低い虫メガネを見ると③の糸巻き型に歪曲して見えるのは、自分の眼の瞳孔が図の該当位置の絞りになるからです。
 単レンズの場合、図の①の位置に絞りを置くことは出来ないのですが、敢えて置いてシミュレーションすると、歪曲から解放されることが分かります。ほとんどのカメラレンズが、絞を中央にしてシンメトリックなレンズ構成になっている所以の一端について、ご納得いただけたと思います。
 余談ですが、歪曲と像面湾曲が頭の中でごちゃごちゃになっている方が多いように見受けます。
今回取り扱ったのは、“歪曲”であり、像面自体の湾曲とは関係ありません。ですから、作図も敢えて像面が平坦だと相当して描いています。
 絞りの中心を通る光線が、光学系入射前と射出後で平行に出て行けば(つまり角倍率=+1)、歪曲はなくなります。


Mirror sizes of EMS-UL and EMS-UMA,UMB /EMS-ULと-UMA,UMBの比較

 EMS-ULとEMS-UMBの選択に迷う方が意外に多いので、ご参考までに、両者のミラーサイズの実感比較の材料をお示しします。
 EMS-UMBは、-ULに対して、12mmの光路長の短縮がありますが、2枚のミラーの干渉を回避するためには、上の写真のように、ミラーサイズを小さくする必要があるのです。-UMは単なる安価バージョンではないということです。
 「-UMBでも2インチアイピース使用可なら、安価な方がいいじゃない!」という価値判断の方もおありだったかも知れませんがね。
  ミラーサイズは、大は小を兼ねます。鏡筒のバックフォーカスとお財布が許す限り、迷うことなく、-ULをお選びください。
 とは言え、UMのミラーも、光路長に対しては最大限の大きさを確保しています。ハウジングに対して完全にセンター配置だと、ミラーが大き過ぎて、互いのミラーが干渉するため、独特の方法で互いのミラーエッジを回避しています。従いまして、(ULも同じですが)ヘリコイド仕様で作ったEMSを、中途でヘリコイドを撤去して、固定単体仕様に減築しようとすると、ミラー同士が衝突しますので、それは不可能になります。

松本の光学講座 2024;応用編-4/Spherical Aberration/experiment/ 球面収差の補正(実験)

 球面レンズに球面収差があることは、皆さんもよくご存じのはずで、3/11に、球面の球面収差を可視化した図をお示ししました。また、3/14にも、+10Dの平凸レンズの実際の球面収差も図示しました。
 今回は、3/14の+10Dの平凸レンズの後ろに、上図のように-5Dの凹平レンズを配置したらどうなるか?について検証してみました。
 F 点が近軸焦点(下の図も同じ)で、赤い点で示しました。下の、等価の平凸レンズに比べて、高さ30mmの平行光線の焦点位置がずっと近軸焦点に接近したことが分かります。

 システムマトリックスから、合成パワー=6Dと出ましたので、比較をフェアにするため、元の10Dではなく、6Dの平凸レンズについて、下に近軸と高さ30mmのそれぞれの焦点を図示しました。

+10Dと-5Dのレンズを密着させると+5Dのレンズになりますが、図の間隔に配置した結果、+6Dの合成パワーになりました。
 収差補正の考え方ですが、+(凸)レンズの収差を、逆の収差を持つ ー(凹)レンズの収差でキャンセルしようというものです。一番分かりやすい例としては、
+10のレンズにー10のレンズを重ねれば、球面収差を初めとするほとんどの収差がキャンセルされますね。同時にレンズとしてのパワーもゼロになりますがね。
 収差はキャンセルしながら、凸レンズのパワーを残す方法はないのか?という話です。
同じ凸レンズの度数でも、形状や配置で収差量が変化する実例を、昨日お見せしました。
球面収差が小さくなるように形状を配慮した凸レンズと、敢えて球面収差が大きくなる形状の凹レンズを組み合わせれば、凸レンズ成分を残しながら、球面収差を軽減、キャンセルできるのではないか?という話です。

 先日も申しましたが、今は優秀な無料の光線追跡ソフト(アプリ)が利用できる時代なので、こうした考察は無意味だとお考えでしょうか? 
 私はそうは思いません。そうした便利ツールを利用し始める前に、原理を体感しておくことは極めて重要なことだと思っています。

 蛇足になるかも知れませんが、上の要素行列についてご説明します。

 まず、光学面が4面で、間隔(厚みも含む)が3つで構成されたレンズ系になります。
 従って、厳密には、屈折マトリックスが4個と、移行マトリックスが3個の、合計7つの行列が連なるはずですが、上の要素は5つしか書いていません。

 凸平レンズの平面と、凹平レンズの平面です。それらの等価薄レンズとしての屈折マトリックス(両方が同じ)を書いてみると、
1  0
0  1
  となり、
 単位行列となることが分かります。(パワー=0 だから)
 つまり、挿入しても何の変化も及ぼさないので、省略したわけです。





松本の光学講座 2024;応用編-3/Spherical Aberration/Just Playing/ 球面収差の実感(お遊び)

 せっかく用意したモデルなので、同じレンズで球面収差のシミュレーションをしてみました。
上は、前回の厚肉レンズ(18.0D)で、下はそのレンズを中央で分割して凸面を対面させた物。
 上下とも、高さ20mmの光軸に平行な入射光線。凸面対面密着で配置すると合成パワーが 20.0Dと、上のモデルよりも1割強強くなります。収差量の評価は、厳密には同じ焦点距離で比較すべきところですが、傾向を掴むには、そのままで十分です。下の方が、劇的に球面収差が改善していることが分かりますね。( F は近軸焦点
 直感的な解釈としては、
1. 合成パワーはレンズ間隔が開くほど弱くなる。
2. 凸レンズの球面収差は、光軸から遠いほど度が強くなるわけだから、上に行くほどレンズ間隔を開けば緩和することになる。
  ・・・ということで、説明が付きますね。^^

松本の光学講座 2024;応用編-2/Testing the theory/ エレメントの厚み/実際に検証

 昨日の講座の具体例について、本当に厚肉レンズの表面を削ぎ取って、中の平行ガラスを除去し、さらに間隔を1/N で保持したら完璧に等価な薄レンズ2枚系となるのか?実際に光線追跡してみました。
 上図がその結果です。見事に一致しました。
 上は、実際に1面ごとに近軸追跡した結果です。
(参考までに、実際に光線追跡した結果を黒い線でお示ししました。球面収差がよく分かります。)
 下は、等価なはずの2枚レンズ系の追跡結果です。
 その、等価な薄レンズ2枚系のシステムマトリックスを以下にお示しします。

 システムマトリックスの右上の成分、18 が、2枚レンズ系の合成パワーです。焦点距離=1/18=0.0555・・ m =55.55・・mmです。
ガラスの屈折率=1.5で、上の両凸レンズの r =50mm です。
 仮に、上のレンズの厚み30mmの間隔を残したまま中央の平行ガラスだけを除去したらどうなるか?ですが、上のシステムマトリックスの計算例から、中央の移行マトリックスの左下の成分 -0.02を-0.03に変えて、各自で計算してみてください。 合成パワーが 17D になることが分かります。つまり、同じ間隔のまま、中の平行ガラスだけを除去すると、合成パワーが弱くなるのです。
 その他に興味深いこととして、主点位置があります。元の厚肉レンズと、下の等価薄肉レンズ系とで、光学端面からの主点距離が同じになっています。しかし、下の等価肉薄レンズ系の間隔が小さいため、物側主点と像側主点の位置が交差しています。
 システムマトリックスの左上と右下の成分が等しいので、両主点の位置が全系の中心に対して対称になることが分かります。実際に計算してみると、(0.8-1)18 =- 0.01111・・≒ – 11mmになることが分かります。レンズ間隔=20mmなので、2mmほど交差することが分かります。
 以上、厚肉レンズが、所定の間隔で保持された薄肉レンズ2枚系と等価になることの検証でした。




松本の光学講座 2024;応用編-1/ エレメントの厚み

今までで一番難解かも分かりません。分かる範囲でお読み取りください。
 せめて、実感を持ちながらお読みいただきたいので、具体的な数値を決めてご説明します。
物界は空気中(屈折率1)とします。上の図は、像界が全て屈折率1.5の媒体で満たされているモデルです。界面のr=50mmとすると、近軸の幾何学的焦点距離=150mmとなります。赤い光線が、近軸(理想)結像の直線です。黒い線は、私が実際にモデル上で光線追跡をした実際の光路で、球面収差の影響が出ていますが、これはオマケでお示ししたもので、今回の説明主旨とは無関係です。
 幾何学的な焦点距離=150mmと書きましたが、上のように、像界が屈折率N(今回のモデルでは1.5)で満たされている場合、空気中で焦点距離150mmの薄レンズと比べると、像の大きさ=1/Nになります。理由は長くなるので割愛しますが、各自、考えてみてください。
 ということは、本例では、上のモデルの150mmの幾何学的焦点距離は、空気中の薄レンズ換算だと、150/1.5=100mmの光学的焦点距離と等価になるわけです。

 下のモデルは、上のモデルの凸面を厚さ15mmで切り取った状態です。厚み → 0 にすると、両主面が上のモデルに収束して行きます。
 この切り取った平凸レンズの焦点距離=100mmです。上のモデルの幾何学的焦点距離を屈折率1.5で割った数値になります。
 前回まで、厚み=0 と見なせる薄レンズの近軸光線追跡についての講座でしたが、実際の厚みのある光学系の追跡をどうするか?という時に、最初に必要になる考察をご紹介しました。
 

 どんなに厚いレンズも、両端面の2枚の薄レンズが厚い平行平板を挟んでいる、と考えることが出来ます。屈折率 N の平行平板は、実長 1/N の空気層と等価であることが分かっています。

 このように、構成する光学面を等価な薄レンズと考え、軸上の厚みや間隔を1/N の等価な空気間隔とみなせば、どんなに厚くて複雑な光学系の近軸追跡も全く障害なく行えるのです。

 まとめますと;

 空気中に配列された複数の薄レンズで構成された光学系のシステムマトリックスが、構成するレンズのパワーとレンズ間隔を、代表する屈折マトリックスと移行マトリックスを掛け合わせて行くことで求まる、というのが前回までの講座でした。
 それから発展し、屈折境界面を全て等価な薄レンズとみなし、厚みや間隔については、その屈折率で割った換算距離を用いれば、空気中の薄レンズの場合と全く同じ手法が成り立つということです。


Optical Common sense /How to draw the refracted ray/ 光学常識 第3段-屈折光線の作図方法

一々 sinθ やsinθ‘ を計算しなくても、純粋に幾何学的な方法だけで、かなり正確に屈折光線を作図する方法があります。
 入射光線は最初から長めに描いておきます。—-①
 すると、➁、③ の円弧と➃の補助線の、合計3つの補助線を引くだけで、屈折光線が決定できます。

 ①と③ の交点 R から、PCと平行に補助線 ➃ を引きます。
➃ と 弧➁ の交点を Q とすると、PQ ⑤が求める屈折光線になります。

Optical Common sense /Exit Pupil ?/ 光学常識 第3段-射出瞳って何??

 長文を書いても、ほぼ読んでくださらないことが分かったので、図に可視化してみました。
”射出瞳”を一言で言うと、”接眼レンズが作る入射瞳の実像” ということになります。
言い換えると、「接眼レンズによる対物レンズ自体の実像」です。
 ①の光線は実在しませんが、光路図に描いても問題なく、むしろ考察に有効です。
Fは、アイピースの物側焦点であり、かつ対物レンズの像側焦点でもあります。
F’は アイピースの像側焦点。
 対物レンズ枠は、アイピースにとって有限距離にあるので、常にその像側焦点 F よりも外側に結像します。この図でお分かりのように、対物レンズ枠がアイピースに近いほど射出瞳は外側に出るわけで、実は、アイレリーフは固定されたものではなく、対物レンズの焦点距離によって微妙に変化します。(対物の焦点距離が短い方がアイレリーフが長くなる。)
 この図から、望遠鏡の倍率=入射瞳径/ 射出瞳径 となることにもご納得いただけたと思います。

 もう一度、図の入射瞳(Entrance Pupil)と射出瞳(Exit Pupil)の関係をよくご覧ください。
入射瞳の環の中をくぐる光線は、ことごとく、射出瞳の環の中から出て行く! ということです。
  
 ここに観察者の眼の入射瞳を置けば、対物レンズをくぐる光線をことごとく捉えることが出来るわけです。( 瞳孔径>射出瞳 が前提ですけどね) 眼の入射瞳は、角膜上ではなく、角膜が作る、解剖学的瞳孔の虚像で、角膜よりも眼の内部にあるため、角膜は射出瞳よりも前に位置しないといけません。一見十分そうなアイレリーフの公称値に反して覗きにくいアイピースが多い所以です。

 いかがでしょうか? これで射出瞳の本当の意味がご理解いただけたでしょうか?
72年の人生を振り返って、天文に興味を持ち始めてからでも52年、あらゆる方と出会いましたが、射出瞳の意味を明瞭に理解している方と出会ったことがありません。
 それは、教育界から天文マニア、望遠鏡業界を含めて異常なことだと私は思っています。
 これで、「初めて射出瞳の意味が分かった!」という方がおられましたら、ご連絡いただけると励みになります。 また、教育界や望遠鏡業界の方で、”初めて分かった!”という方は、正しい知識の啓蒙に努めていただけますと幸いです。