BORG 71FL EMS-BINO完成

 以前BORG 71FL EMS-BINOのプロトタイプを報告しましたが、最近なんとか完成しました。 コンセプトは「公共交通機関と人力で運用可能な口径70mmの広視界対空双眼鏡」で、2インチアイピースでの実視野 が6度以上を目指しました(現在対空型でこのスペックの双眼鏡はありません)。 そしてもう一つの大切な条件は「接眼部が動かないこと」です。目幅調整のためのヘリコイドによる移動は 許容できますが、フォーカシングによる接眼部の移動はあまり好きではありません。というか、 一度でも接眼部の移動のないシステムを使うと後戻りできません。

 ということで、完成したのがこの双眼望遠鏡です。構造は至って簡単、H型ユニットに左右の望遠鏡 (ヘリコイドEMS仕様)を鏡筒バンドで固定するだけです。このH型のユニットはファインダーとアリガタを付 けるために一部突起部があるので、正確なH型ではありませんが、私はあえてH型と呼んでいます。この構造に よる双眼望遠鏡化はK-ASTEC製C型鏡筒バンドを活用することで可能となりました。フォーカシング用ヘリコイドはBORG製で対物ユニットを移動することでフォーカスシングしています。
 ところが、このヘリコイド は意外とヤワで「支え」が必要になります。ここで登場するのがすり割り式のC型鏡筒バンドです。通常の上 下分割式の鏡筒バンドでは対物ユニットを支え、かつヘリコイドでの摺動に対応することが上手くできません。 接眼部側の鏡筒バンドはただの固定なので、どちらでもかまいませんが、対物ユニット側の鏡筒バンドはこ のすり割り仕様であることが必須です。今回はH型ユニットを削りだし加工とし、鏡筒バンド連結部に溝を 付けました。これで、左右の鏡筒の平行性は無調整で担保されます。

 この双眼望遠鏡に組み合わせるアイピースは1.25インチがZeiss製のWw-Planokularです。焦点距離は23mm、 見かけ視界は65度の古いアイピースですが、視度調整機構が組み込まれています。凝った作りなので、見え 味は・・・と不安でしたが、他の最新型のアイピースを駆逐するだけの良像でした。このアイピースとの組合 せで17倍、3.7度の実視野が確保できます。さらに2インチによる広角仕様ではHyperion36mm (72度)で11倍6.5 度の実視野となります。使えるアイピースの種類が非常に多いこともこの双眼望遠鏡の特徴で、低倍率で も高倍率でもアイピースの選択には困りませんが、今はこの2種類に落ち着いています (ただし、Leica zoomも使えるので、こちらに移行する可能性はあります)。
 いずれにしてもおそろし く抜けの良い像の双眼望遠鏡です。同口径の双眼鏡と比較しましたが、網膜に届く光の量が明らかに違います。 感覚的にはガラス窓を通して見るのか、それとも窓を開けて見るのかの違いがあります。2枚玉の対物 と銀コートミラー2枚のおかげかもしれません。とにかく透過率が高い印象です。

 問題点もないわけではありません。鏡筒バンドの間隔、鏡筒長の最適解がまだ見つけられていません。 現状は無限遠の焦点位置に余裕を持たせる長さになっていますが、もう少し鏡筒を長くしてもいいと思って います。使用するアイピースもほぼ決まっているし、近距離から無限遠の合焦範囲を詰める必要があるかもし れません。ただ、実際に覗いてみるとそんなことはどうでもいいように思えてしまいます。とにかく枝葉末節 がどうでもよくなる楽しい双眼望遠鏡に仕上がりました。

 現在は私のような機械工作の素人でも既存の部品を組み合わせることで比較的簡単に双眼視を楽しむ ことができるようになりました。EMSの存在はその大前提ですが、的確なアドバイスや細かな手直しを引き受 けていただけるプロの手助けがあるからでもあります。EMS開発者の松本さんとK-ASRECの川野さんにこの場 を借りて深謝いたします。

黒木嘉典 (Kuroki Yoshifumi)
栃木県宇都宮市

Comment by Mtsumoto/ 管理者のコメント;

 黒木さんの自前設計によるBORG 71FL EMS-BINOの完成です。 じっくりと検討されたようで、見事に 理にかなった構造になっています。 まずは、心より、「おめでとうございます。」と申し上げたいと思います。

 このBINOの特筆すべき点は、H型のジョイントと前方のスリット付きバンドでしょうか。  一見しただけでは見過ごしそうなほど、さらっとシンプルに仕上がっていますが、ここをよく見ていただかないと、 このBINOの真価を理解したことにはなりません。

 実際に物を作るということは、自然に使い方も学ぶことになります。 作れないからと言って、その人がBINOを 使いこなせないわけではありません。工作や設計は全く出来なくても、BINOを上手に使いこなしている方もあります。 しかし、作れる人は、まず光軸調整に困ることはありません。
”使える”→”作れる”は常に真ではありませんが、 ”作れる”→”使える”は常に真です。 海外からの依頼は、もっぱらEMS部単体で自作されますが、使いこなせなかった例は 過去に一件もありません。

 この度は、非常に斬新なアイデアによるBORG 71FL EMS-BINOのリポートをいただき、ありがとうございました。  SWAROVSKI-X95-BINOの完成が梅雨の最中でしたので、多分まだ十分に見比べをされるチャンスがなかったと思いますが、 梅雨明け後にじっくりと観望されたご感想をいただけましたら幸いです。

Back-Focus saving (50ED;KOKUSAI-KOHKI) / バックフォーカスの確保(50ED;KOKUSAI-KOHKI)

I would often say “Never go panic when you find the original back-focus to be too short for the EMS.”.Here is a good example. Photo 4 (from left) shows that the original back-focus is only 108mm that is far less than “120mm” EMS-US or UM requires with no margin. 130mm or longer back-focus is desirable for the EMS-US(/UM) to use it with a margin of about 10mm.

In this case, minus profiled adapter is the answer, but how would you deal with it?The answer is the male flange of 2″ in diameter that will fit directly into the EMS housing.

EMS単体のご注文は常に最優先で、ほぼ即納を堅持してまいりましたので、今回もそれに従っています。(BINOの方、ご理解くださいませ。)さて、バックフォーカスが108㎜しかなく(写真4)、しかも31.7φスリーブのみです。 また、ドローチューブは細く、2インチバレルが挿入できません。EMSのバレルをショートタイプ(12㎜)に交換しても、バックフォーカスは遠く及びません。 あなたならどうされますか。

結論から申しますと、アダプター側(鏡筒側に接続)に2インチのオスフランジをセットし、EMSのハウジングを直接それに被せることで、EMS-USで(無限遠で)8㎜の余裕を残しました。(つまり128㎜のバックフォーカスを確保)

今回はEMSを特殊なメス接続にしたので、普通ならバレル先端にセットする内径30mmφの遮光環が取り付きません。 遮光環がなくても 致命的な問題は生じませんが、どこか取り付く所はないか探してみました。 すると、幸いなことにドローチューブ内径にP=0.75のネジが切ってあったので、それに合わせて遮光環の外周を加工して、独立的にセットしました。(写真3、5)