SKY90-BINO

≪はじめに≫
 産業革命発祥の地、英国テムズ川にてビッグベンからグリニッジ天文台へ通ずる 遊覧船がある。たいそうな髭を生やした船長はジョークを交えながら語り、遊覧船 は煤けた大きなアーチの元をゆっくり進んでいく。 しかし、おおよそその地の裏、豪州では、白銀に光り輝く巨大なアーチが音もな く赤い大地をほのかに照らし、沈むことのない南十字がキリストの慈愛のごとく優 しく見つめている。ティーポットに映る対日照は朝食までの残り時間を知らせてく れ、巨人の舌のように天頂高く突き上げられた黄道光は、小さな星雲・星団達をこ とごとく一飲みにするほどの明るさであった。

 言葉にしても表現しきれないオーストラリアの空。日本ではどんなに空が良くて も残念なことに銀河中心部が天頂に来ることがありませんが、ここでは暗黒帯が複 雑に入り組んだ巨大なエッジオン銀河が横たわり、煌々たるバルジが天頂に来ます。 よく星明かりという言葉がありますが、驚いたことにこの地では天の川にて影が出 来るのです! 手のひらを銀マットにかざし動かすと、真下に影ができ同調して動くのです。こ んな最高の空の元でごろりと寝ころび、銀河浴を楽しめるのは星見を趣味とする我 々としては最高の至福の一時でありました。

≪完成まで≫
 この夜空の元でEMSで天の川下りをしたい。これが今回のSky90Twinを作製した理 由です。鏡筒選定にあたって、トラベル仕様にしたいため軽量であること、広視界 が得られること、出来るだけ口径は大きい方がよいという欲張った要求がありまし た。幸いにも松本様のユーザーリポートにも掲載されております尾形様のSky90-BI NOを覗ける機会があり、Sky90に決心することができました。また,架台はTeleVueの F2経緯台を想定しておりましたが、これまた幸いにもインターネットオークション にて自作の軽量経緯台が出ており、その経緯台をベースに作製を進めることとしま した。

 作製の手順は以下となります。
  1.鏡筒・EMSの入手
  2.鏡筒・EMS・アイピース関連のつじつま合わせ
  3.架台設計

 まずは、双眼作製のスタートとして鏡筒・EMSの入手を行いました。この辺のディ メンジョンがわからないと3.架台設計が進められないためです。鏡筒はちょっとし た小さなこだわりで双眼を意識し、ステッカーが対称になるよう一方の鏡筒を反対 側に貼って頂くよう販売店の方にお願いを致しました。またSky90はf値が小さいた め焦点位置がシビアとなることから、接眼部は頑張ってフェザータッチフォーカサー に変えることとしました。鏡筒との接続アダプターを出来る限り切りつめたことに よりNagler Type4-22mmでも20mmほどのバックフォーカスの余裕を設けることが出 来ました。

 さて架台設計に移るのですが、ここからが慎重に行う必要があることろです。方 式は設計が楽な平行スライド方式を採用することとしました。目幅調整を如何ほど にするのか。57-72mmとし、最小値はEMSの幅で決まり、最大値は双眼鏡の目幅を参 考にしました。そしてエドモンド社の微動送り(±10mm)を松本様ユーザーリポート にも掲載されております井上様より譲って頂き、上記数値を鑑みて設計値中心を62 mmになるように鏡筒取り付け位置を決定しました。その時の鏡筒間隔は私の使用し ておりますEMS-Lで136mmとなります(EMSの黒色中間リングの長さによって多少数値 が異なってくるのと、使用していて最大値が74mmほどあった方が良いようですので、 数値を参考にする方は各自実測するようお願い致します)。

 上下回転の中心位置は、鏡筒下周りの金物を軽量に行ったため鏡筒中心より上側 にしております。これは下重心にすることにより天頂を向けた時、鏡筒が人側に倒 れることを防止することと、Naglerのような重いレンズが重心位置を上げてしまう ためです。細かな計算はあまり参考になりませんので回転軸周りの設計コンセプト のみ簡単に記載すると、45°傾けた状態でアイピースが合焦する位置でモーメント 計算を行います。アイピース交換等でモーメント量が変化することがわかっている ことから回転軸の摩擦を振り分けできるようにという配慮です。また合焦位置で計 算するのは、小型望遠鏡の場合長さが短いため、焦点以外に持っていくだけでもバ ランスが崩れ易くなるためです。

 ただし、これらの誤差は製作後の鏡筒の前後である程度とれますし、最悪わから ない場合はベースプレートを横縫いにしておき、回転中心を鏡筒上数十mmほどにな るように作製すれば、後ほどの修正も側面板の穴あけ加工のみで済むかと思われま す(今回のSky90では10mm、鏡筒下回りが重いほど鏡筒中心に近づきます)。

 最後に軽量化に関してですが、鏡筒の連結が容易且つ軽量な手段として、マグネ シウム合金の中判カメラ用のクイックシュー (Velbon QRA-667L)を用いました。目 幅調整を行う都合、移動プレートとベースプレートが必要となりますが、通常は付 け足しの発想となりがちですが、ベースプレートをくり抜き、そこに移動プレート を入れました。また移動プレートを保持する要素として、松本様も採用されている リニアブッシュを採用するのが安価かつ精度も確実なのですが、重量が重いためリ ニアガイドを使用する方法を採りました。2本前後方向に配置することによりその 方向の倒れを押さえ、さらに2連のガイドブロックにすることにより左右方向の倒 れを拘束しています。

 移動プレートとベースプレートの連結は小型アルミブロックを介して前出の微動 送りと連結しています。また鏡筒バンドに関しては、既製品は非常に重い且つ横に 張り出しているため特別に作製をお願い致しました。それにより元重量の半分以下 にすることが出来たのと、架台部左右幅が350mm程に押さえることができました。

≪観望≫  スッーと滲んだ光が点になった瞬間、そこはまさに別天地でした。アイリスのよ うに煌びやかに咲くエータカリーナ星雲。砂粒を集めたようなオメガ星雲。長くた なびくNGC4945。フライフィッシングを楽しむ釣人NGC2547。視野いっぱいに広がる 大・小マゼラン。どれをとっても来て良かったと思わせる瞬間でした。いつまで見 ていても飽きることはありません。広がりがあるのに中心の集光が凄い球状星団NG C104、不気味なタランチュラ星雲(Sky90ではどちらかというとかわいい子蜘蛛)、 南天にはすばらしい天体がいっぱいあるのです。

 しかし北天も負けてはいません。いて座付近の散開・散光・球状をはじめ、ハー ト形のアンテナ銀河NGC4038/4039、鋭く切り裂かれたM104ソンブレロ、M13と双璧を なすM5などなど。90mmでもビノのおかげで余裕で見えるマルカリアンチェーン、う みへび座NGC3311付近(Abell1060)の銀河団ですらたった90mmで見えるほどの空でし た。

 北十字が昇る頃、乳白色に輝く天の川が頭上を通過しクライマックスを迎えます。 しばし経緯台はお休みし、銀マットに寝ころびながら壮大な天の川を見ていると、 自分の小ささを思い知らされます。天の川と平行に寝ころぶと、天の川の光に吸収 されそうな錯覚さえ覚えました。

 天の川が傾きを持った頃、大きな窓を持ったEMS双眼で、あたかも宮沢賢治の 銀河鉄道の夜を奏でたのでした。10°程度しか昇らない北アメリカ星雲やγ星付近 の散光星雲も、UHCフィルターを用いれば難なく見えてしまいました。徐々に高度を 上げると、白鳥区の終わりであるアルビレオの観測所に到着。二つの大きなサファ イアとトパースの玉はどこまでも透き通っています。黒い空間に突如とポッカリ浮 かぶM27,賢治のマントを掛けるCr399コートハンガー、天文学者泣かせのM71を通過 した後、鷲の停車場に着きます。

 盾の散開を通過する頃から銀河の一部なのか星雲・星団なのかわからないほどに なっていき、M17のオメガ星雲にさしかかる。倍率を上げるとまさしく白鳥が優雅に 漆黒の宇宙に浮かんでいるようです。バンビの横顔(私はお茶の水博士に見える)は 写真のように見え、珊瑚礁に囲まれた南の小島M8でしばしバカンスを楽しんだ後は、 ζ星と色の対比が美しいNGC6231がある蠍の尾に至ります。盾からの暗黒帯が複雑に 入り組んだこのあたりは本当にすばらしいの一言です。

 そして、祭壇に飾られた球状星団NGC6352,6397を恐る恐る眺めた後、力強くもオ レンジ色に光り輝く二重星ケンタウルスαに目を奪われていると、そこはまもなく 終着駅の南十字星。漆黒なるコールサックの脇に輝く、決して手にすることは出来 ない宝石箱を眺めながらカムパネルラとジョバンニの旅は終わるのです。

≪主な仕様≫
鏡  筒:Takahashi Sky90 (f500mm、F5.6)
接 眼 部:Starlight Instruments, Feather Touch Focuser 2.0″ Travel
双眼装置:EMS-L
ファインダー :等倍ファインダー (Baader Planetarium, Sky SurferⅢ)
架  台:平行スライド方式(二連リニアガイド仕様)
目幅調整:57~72mm
上下範囲:-5°程~100程°
微動装置:フリクション固定、ネジ押し式 (上下・水平共)
三  脚:Berlebach, Report2042 (Vixen開止付)
使用接眼:Meade UW8.8、TeleVue NaglerType4-12mm、22mm、WideScan TypeⅢ 30mm、
Pentax XL40
総 重 量:15kg(三脚込、アイピース別)

≪謝辞≫  本双眼望遠鏡を作製するにあたってアドバイス等頂きました井上様、快く見せて 頂きました尾形様、加工部品の作製にご協力頂きましたコプティック星座館、遊馬 様、唐沢様にはこの場を借りまして心よりお礼を申し上げます。
 また、本オーストラリア旅行を本当に楽しい旅行にして頂きましたトラさん、村 山さん、同行した皆様、そして現地の皆様、心より感謝致します。

Okada

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 Okadaさんが、オーストラリア遠征記を持参されたSky90-BINOの製作記を兼ねた、非常に 内容の濃いリポートをくださいました。 非常にコンパクトかつ優秀なBINOで、台座の精密な メカの写真からもOkadaさんの意気込みが伝わって来ます。

  一緒にお送りいただいた銀河の写真もインパクトがありますね。 実際にその中に浸れば、 人生観までもが変わりそうですね。 多大なエネルギーを傾注して遠征される意義が分かるような 気がします。

SKY90-BINO (Mr. Tsuji)

 松本さんに双眼望遠鏡の構造をいろいろお聞きしたのが去年(2006年)9月。12月末にヘリコイド式EMS-Lを納品してい ただき、今年(2007年)4月になりようやくBINOとして覗ける形になりました。簡単ですがレポートを送ります。

催眠誘導?
三重の大台ヶ原で見かけたSky90-BINOが最初に目撃した松本式BINOでした。そのときは「ずいぶん凝っ てるね~」「調整大変そう」という程度で、失礼ながらそれ以上の関心は湧かなかったのです。その後 数年が過ぎ、所属している同好会の方が作製したNerius80-BINO(愛称ヘビーノ)で富士山の測候所跡な どを見上げる機会があり「けっこう行けてるね~」となり、同氏が作製した双眼ドブソニアン(愛称ド ビーノ)やその方から影響された方の10cm屈折BINOなどが誘引剤として作用し、いつしか「お気軽観望 用にBINOが欲しいな~・・・」と感化されていったのでした。

コンセプト
星見遠征での基本スタイルは写真撮影です。せっかくの星空も撮影の合間に手持ち双眼鏡で見上げるだ けともったいない状態でした。車に載せた撮影機材のすき間に大型の観望機材を押し込むこともでき ず、撮影を始めればヒマをもてあます・・・。これでは趣味として長続きしません。といったところが BINOのコンセプトを考える元になっています。

イ) 見た目カッコよく! 趣味は形から
ロ) 気軽に持ち出せる小型軽量機材
ハ) 月・惑星から星雲・星団まで何でも見えること
ニ) ずっと使える耐久性

構造
「お気楽でもちゃんと見える」をマジメにやるとなかなか大変です。さいわいなことに双眼望遠鏡の世 界は松本氏やBigBino服部氏のサイトなどで詳細に説明されていますので何度も眺め返すと、ストレス のないBINOの特徴は単眼でも良好な望遠鏡としっかりした足回りの組合せがキモらしいとわかります。

本機は90mmの小口径BINOですが、よいタイミングでEMSのヘリコイドがペンタックスからボーグに代 わったことにより筒外焦点距離の消費が減り選択しやすくなったのと、全体の軽量化と調整項目を減ら す目的から鏡筒固定タイプにしました。眼幅調整はEMS中間筒に設けられたヘリコイドによります。鏡 筒間隔をD=156mmとすることで67mmを中心にして60~74mmに対応しています。また、合焦装置をFeather Touch Focuser に換装することで難物のNaglarType4-22mmをヘリコイドが最も伸びた状態でも約6mmの 繰り出し量を確保して合焦させられました(写真4)。

左右鏡筒の光軸調整は接眼方向から向かって左側を基準鏡筒にして、右側の鏡筒をファインダーと同じ 要領で前後3ヶ所ずつの押しネジにより調整します。初期調整時には200倍まで調整しましたがアイピー スの抜き差し具合でもズレますのであまり神経質に調整しなくても問題はありません。固定枠はズレが 生じないよう強固に造りましたので「象が踏んでも・・・」というほどではないですが、私が踏んでし まっても大丈夫でした。

架台はユーザーレポートにあるWenglar氏作製のTeleVue140-BINOが理想です。しかし、これほど潔くは なれないため、カッコだけ真似て細かいギミックを付け足して逃げています。まず、TeleVue F2経緯台 から軸受け部分と側板を流用し、メガネ状の鏡筒固定枠を耳軸部で前後にスライドさせて重量バランス をとれるようにしました。架台を載せる足は1/2インチネジが使える軸受けをつくりタカハシのEM200赤 道儀用三脚を使っています。とても丈夫です。もとのF2経緯台の軸受けに戻せば3/8インチネジになり 大型のカメラ三脚も使えるようになりますので海外遠征などはカメラ三脚仕様で行く予定です。

観望

イ)初期調整

初期調整のために見た春がすみでモヤッと白んだ昼間の景色はやはり単眼とは大違いでした。白んだ空 気が対流で視野の中を移動していく立体感がわかってしまいます。ためしに同じ状態で片目をつぶると 「アレッ?」というほど立体感が失われます。

ロ)ファーストライト

4月中旬に富士山近郊でファーストライトを迎えました。明るいうちに現着してケースからBINOを取り 出すと右側のEMSがヘリコイドと第一ミラーケースのつなぎ目で回転しているのを発見。応急処置で視 野の回転を合わせましたが、左右の接眼筒の位置が多少斜めになって視野回転が合う状態に。さらに片 方のSky90がわずかに光軸不良なのも発見。カスミがひどいのと合わせてファーストライトは不発に終 わりました。

ハ)再調整

Sky90はメーカー送り。EMSは松本氏のHPを参考に調整治具を作製してミラーの原点復帰を行い、数キロ 先のビルを見ながら捻れ角も調整。はたして、元どおり?になったSky90-BINOは200倍の高倍率でも スッキリした視界が確保できるようになりました。

ニ)本領発揮?

a)天の川22mmのアイピースをつけて23倍ほどの倍率で天の川下りをすると、天の川沿いの散開星団、散光星雲、 球状星団が次々と視野に入り、双眼鏡でもドブソニアンでも出しにくい谷間の倍率が今までにない新鮮 な視界を創り出します。さらに、単眼では片目を開いても閉じても左右の視野の明るさがちぐはぐにな り長時間見続けるのは疲れますが、BINOでは長時間の観望が楽になり目を離さずに次々と対象を移動で きるためまさにクルーズ状態です。時間をかけて覗けることで暗黒星雲の切れ込みもハッキリと追いか けられます。また、アポ屈折のスッキリした星像のおかげで散開星団巡りにはおそらく最高の組合せで はないか?という気がします。やはりユーザーレポートで皆さんが言われるように、NaglarType4-22mm は双眼望遠鏡に特別にマッチするようです。

b)惑星
200倍で見る土星は輪の影がスパッとエッジの立った状態で土星本体に落ちているのがわかります。輪 の傾きが寝てきているのでカシニのすき間は1/4周ずつ両サイドに確認できるだけですが、両眼視によ る安定感から経緯台での追尾にもストレスは多くありません。今シーズン、南天低い木星はフェストー ンがうねうねとしているのが容易にわかります。模様のわかりやすさは20cmニュートン反射のMT200と ほぼ同じなのにはビックリです。さすがに口径が小さいので模様の色は淡いですが、これだけハッキリ 見えれば気が向いたときにサッと出せる機材としてはじゅうぶんです。

c)月
口径90mmともなればじゅうぶんに眩しい月が見え、それが双眼視によって色彩情報も昼間の景色のよう にハッキリと感じられるようになります。月の海にこんな色あったっけ?クレーターから伸びる光条ど こまで続いてるの?といった感想がでるほど色彩豊かな月面が広がります。クレーターの中を見るよう な高解像度は口径の限界で無理ですが、BINOによって得られる安定感とより確認しやすくなる多彩な色 によって飽きのこない楽しさが長続きします。片目で月を見ていた頃はアイピースから目を離すと効き 目だけ暗順応が無くなって違和感たっぷりだったのですが、BINOでは両目とも等しく暗順応が無くなる ので違和感無く周りが見えなくなります。

以上、長々と書いてまいりましたが、Sky90-BINO作製にあたり先達の方々のレポートや作例を参考にさ せていただけたおかげで、かなり満足できるBINOを完成させることができました。松本さんをはじめ参 考にさせていただいた皆様に感謝いたします。また、本レポートが次にBINOを作製される方の参考にな れば幸いです。ツジ

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写真の説明

●(写真7)富士山新五合目にてユーザーリポートに出られているスタークラウド宮野さんのMegrez90-BINO、 OkadaさんのSky90-BINOと偶然にも居合わせまして90mm-BINOを3台並べて記念写真を撮り、雑談などさ せていただきました。

●(写真6)同じ同好会の方のNerius80-BINO(愛称ヘビーノ)とツーショット

●(写真5)収納ケースに使用している東洋リビングのドライバッグF-47

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 「Sky90-BINOを鏡筒固定のヘリコイド仕様で製作したい」、とのご希望を最初にツジさんからお聞きしたときには、 Sky90鏡筒の場合はバックフォーカスの確保が難しいことを理由に、標準の鏡筒平行移動方式をお勧めしました。しかし、その後の交信から、ご計画が無理解に基づく 単なる思い付きではなく、綿密なプランに基づかれたものであることを知り、了解いたしました。

 ツジさんが描かれた詳細で美しい図面を拝見し、私もご計画の成功を確信し、安心してお手伝い出来ました。 写真をご覧になってお分かりのように、実際に仕上がったBINOも見事な物です。BINOのメカに関心を持っておられる方には、説明は 不要かと思いますが、念のために少しコメントさせていただきます。

 耳軸がアリミゾになっており、BINO本体のアリガタとの接続位置を調整することで、前後バランスを瞬時に調整できるようになっています。 カウンターウェイト等の余分な構造や追加重量を排除した優れた方法です。 その他にも優れた工夫が詰まっていて、”見事”としか言いようが ありません。

 EMS-BINOの目幅調整は、鏡筒自体を平行移動する方式と、ツジさんの例のようにEMSの2つのユニットの間隔をヘリコイド等で伸縮させる方式の 2種類があります。 私としては、小型のBINOには前者が適し、大型のBINOには後者が適すると考えていますが、構造をよりシンプル にして軽量化を図る上では、諸条件が許せば後者が有利になるようです。ただし、後者の方式では、目幅調整でピントが移動しますので、 大勢で観察する場合は前者の方式の方が便利かも分かりません。
 剛性については、トータル的には作り方次第で、必ずしも どちらが有利というわけではないと思います。 ただ、市販のヘリコイド自体がそう頑丈な物ではありませんので、 大型のBINOについては、今後は目幅調整用のヘリコイドの代わりに、当方オリジナルのクレイフォード方式に移行する準備を具体的に進めています。

 ツジさん、素晴らしいリポートをありがとうございました。
  これからBINOに入門される方の中には、あまりに凄すぎて、ひるんでしまわれる方もあるかも分かりませんが、 何事も一朝一夕には実現しないものです。 理解度や工作技術の達成度に合わせて、無理の無いご計画を立てられることを お勧めします。具体的には、まずは標準の仕様のBINOをご計画になることをお勧めします。

12cmF5-BINO

 2004年12月に、SCHWARZ120S-BINOを松本さんに注文し 今までいろんな場所に持って行き星空を楽しんでいました。 見え味は、素晴しく自宅にある30cmの望遠鏡より使う回数が 多くなったかもしれません。 しかし、今まで使っていたBINOの合焦機構は、微妙な調整が出来て よかったのですが、アイピースの交換の時やフィルターの取り付けの時に 調整するのに意外と時間がかかっていたこともあり、せっかく新しい アイピースを買ってもあまり使うことができませんでした。そんな時、たまたま見た山内さんのHPで、新型のクレイフォードが私のBINOにも取り付け が出来ることを知り、これだったら私でも微妙な調整が出来るような気がして 早速、リフォームするために松本さんに注文いたしました。

 2週間ぐらいで届き、G.Wが終わった後に取り付けをしました。 松本さんから、「もしかしたら望遠鏡側の穴とクレイフォード側の穴がピッタリと合わない かもしれません。」と言われていましたので大丈夫かなぁと思っていました。 やはり、取り付けの時穴が合わなかったのですが、そんな大きなずれではなかったので 松本さんに言われていたとうりに望遠鏡側の穴を少し削り何とか取り付けることが出来ました。

 そんな時、星見仲間から連絡をいただき今年初めての蔵王坊平に星見に行ってきました。 リフォームしたばかりのBINOを使い、春の銀河を久しぶりに楽しんできました。

 今まであまり使っていなかったアイピースも使ってみましたが調整がとても楽になりました。 リフォームして正解でした。使い方は、前と同じなのですが私には新型のクレイフォードの方が 調整しやすいみたいです。操作もとてもスムーズです。倍率高めで見た球状星団とても綺麗でした。

 自宅にある30cmの望遠鏡で夏になると球状星団巡りをするのが大好きなのですが これからは、BINOで空のいい場所で球状星団を楽しむことが多くなりそうです。 ますます30cmを使うことが少なくなりそうです。

松本様、今回最優先で加工していただきありがとうございました。

稲村陽子

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 稲村さんに第4世代のSCHWARZ120S-BINOを納品させていただいてから、2年半が経ちましたが、随分と長い期間のような、逆に短いような不思議な感じがいたします。 「EMS-BINOは常に進化しています。」と言えば一見格好良いのですが、私はもともと機械加工のプロではありません ので、以前の自分を振り返りますと、いつも顔が赤くなる思いです。本来なら、無償でリフォームをお引き受けすべき なくらいに思っているのですが、営業を考えると、残念ながらそういう訳にも行きません。^^; にもかかわらず、こうして パーツのみお送りし、ユーザーサイドで立派に取り付けて光軸を再現してくださったことに、敬意と感謝の気持ちで一杯です。

 写真をたくさん送ってくださいました。選んでくださいとのことでしたが、どれも意義のある写真でしたので、ほとんど全てを 掲載させていただきました。 稲村さんの観測室(写真1)を初めて見せていただきました。 スライディングルーフの観測室の 外にも広いベランダがあって、大変合理的で使いやすそうな観測所ですね。