Okadaさんのオーストラリア遠征記です。

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≪はじめに≫
 産業革命発祥の地、英国テムズ川にてビッグベンからグリニッジ天文台へ通ずる 遊覧船がある。たいそうな髭を生やした船長はジョークを交えながら語り、遊覧船 は煤けた大きなアーチの元をゆっくり進んでいく。

 しかし、おおよそその地の裏、豪州では、白銀に光り輝く巨大なアーチが音もな く赤い大地をほのかに照らし、沈むことのない南十字がキリストの慈愛のごとく優 しく見つめている。ティーポットに映る対日照は朝食までの残り時間を知らせてく れ、巨人の舌のように天頂高く突き上げられた黄道光は、小さな星雲・星団達をこ とごとく一飲みにするほどの明るさであった。
 言葉にしても表現しきれないオーストラリアの空。日本ではどんなに空が良くて も残念なことに銀河中心部が天頂に来ることがありませんが、ここでは暗黒帯が複 雑に入り組んだ巨大なエッジオン銀河が横たわり、煌々たるバルジが天頂に来ます。 よく星明かりという言葉がありますが、驚いたことにこの地では天の川にて影が出 来るのです!

 手のひらを銀マットにかざし動かすと、真下に影ができ同調して動くのです。こ んな最高の空の元でごろりと寝ころび、銀河浴を楽しめるのは星見を趣味とする我 々としては最高の至福の一時でありました。
≪完成まで≫
 この夜空の元でEMSで天の川下りをしたい。これが今回のSky90Twinを作製した理 由です。鏡筒選定にあたって、トラベル仕様にしたいため軽量であること、広視界 が得られること、出来るだけ口径は大きい方がよいという欲張った要求がありまし た。幸いにも松本様のユーザーリポートにも掲載されております尾形様のSky90-BI NOを覗ける機会があり、Sky90に決心することができました。また,架台はTeleVueの F2経緯台を想定しておりましたが、これまた幸いにもインターネットオークション にて自作の軽量経緯台が出ており、その経緯台をベースに作製を進めることとしま した。

 作製の手順は以下となります。
  1.鏡筒・EMSの入手
  2.鏡筒・EMS・アイピース関連のつじつま合わせ
  3.架台設計

 まずは、双眼作製のスタートとして鏡筒・EMSの入手を行いました。この辺のディ メンジョンがわからないと3.架台設計が進められないためです。鏡筒はちょっとし た小さなこだわりで双眼を意識し、ステッカーが対称になるよう一方の鏡筒を反対 側に貼って頂くよう販売店の方にお願いを致しました。またSky90はf値が小さいた め焦点位置がシビアとなることから、接眼部は頑張ってフェザータッチフォーカサー に変えることとしました。鏡筒との接続アダプターを出来る限り切りつめたことに よりNagler Type4-22mmでも20mmほどのバックフォーカスの余裕を設けることが出 来ました。

 さて架台設計に移るのですが、ここからが慎重に行う必要があることろです。方 式は設計が楽な平行スライド方式を採用することとしました。目幅調整を如何ほど にするのか。57-72mmとし、最小値はEMSの幅で決まり、最大値は双眼鏡の目幅を参 考にしました。そしてエドモンド社の微動送り(±10mm)を松本様ユーザーリポート にも掲載されております井上様より譲って頂き、上記数値を鑑みて設計値中心を62 mmになるように鏡筒取り付け位置を決定しました。その時の鏡筒間隔は私の使用し ておりますEMS-Lで136mmとなります(EMSの黒色中間リングの長さによって多少数値 が異なってくるのと、使用していて最大値が74mmほどあった方が良いようですので、 数値を参考にする方は各自実測するようお願い致します)。

 上下回転の中心位置は、鏡筒下周りの金物を軽量に行ったため鏡筒中心より上側 にしております。これは下重心にすることにより天頂を向けた時、鏡筒が人側に倒 れることを防止することと、Naglerのような重いレンズが重心位置を上げてしまう ためです。細かな計算はあまり参考になりませんので回転軸周りの設計コンセプト のみ簡単に記載すると、45°傾けた状態でアイピースが合焦する位置でモーメント 計算を行います。アイピース交換等でモーメント量が変化することがわかっている ことから回転軸の摩擦を振り分けできるようにという配慮です。また合焦位置で計 算するのは、小型望遠鏡の場合長さが短いため、焦点以外に持っていくだけでもバ ランスが崩れ易くなるためです。

 ただし、これらの誤差は製作後の鏡筒の前後である程度とれますし、最悪わから ない場合はベースプレートを横縫いにしておき、回転中心を鏡筒上数十mmほどにな るように作製すれば、後ほどの修正も側面板の穴あけ加工のみで済むかと思われま す(今回のSky90では10mm、鏡筒下回りが重いほど鏡筒中心に近づきます)。

 最後に軽量化に関してですが、鏡筒の連結が容易且つ軽量な手段として、マグネ シウム合金の中判カメラ用のクイックシュー (Velbon QRA-667L)を用いました。目 幅調整を行う都合、移動プレートとベースプレートが必要となりますが、通常は付 け足しの発想となりがちですが、ベースプレートをくり抜き、そこに移動プレート を入れました。また移動プレートを保持する要素として、松本様も採用されている リニアブッシュを採用するのが安価かつ精度も確実なのですが、重量が重いためリ ニアガイドを使用する方法を採りました。2本前後方向に配置することによりその 方向の倒れを押さえ、さらに2連のガイドブロックにすることにより左右方向の倒 れを拘束しています。

 移動プレートとベースプレートの連結は小型アルミブロックを介して前出の微動 送りと連結しています。また鏡筒バンドに関しては、既製品は非常に重い且つ横に 張り出しているため特別に作製をお願い致しました。それにより元重量の半分以下 にすることが出来たのと、架台部左右幅が350mm程に押さえることができました。

≪観望≫  スッーと滲んだ光が点になった瞬間、そこはまさに別天地でした。アイリスのよ うに煌びやかに咲くエータカリーナ星雲。砂粒を集めたようなオメガ星雲。長くた なびくNGC4945。フライフィッシングを楽しむ釣人NGC2547。視野いっぱいに広がる 大・小マゼラン。どれをとっても来て良かったと思わせる瞬間でした。いつまで見 ていても飽きることはありません。広がりがあるのに中心の集光が凄い球状星団NG C104、不気味なタランチュラ星雲(Sky90ではどちらかというとかわいい子蜘蛛)、 南天にはすばらしい天体がいっぱいあるのです。

 しかし北天も負けてはいません。いて座付近の散開・散光・球状をはじめ、ハー ト形のアンテナ銀河NGC4038/4039、鋭く切り裂かれたM104ソンブレロ、M13と双璧を なすM5などなど。90mmでもビノのおかげで余裕で見えるマルカリアンチェーン、う みへび座NGC3311付近(Abell1060)の銀河団ですらたった90mmで見えるほどの空でし た。

 北十字が昇る頃、乳白色に輝く天の川が頭上を通過しクライマックスを迎えます。 しばし経緯台はお休みし、銀マットに寝ころびながら壮大な天の川を見ていると、 自分の小ささを思い知らされます。天の川と平行に寝ころぶと、天の川の光に吸収 されそうな錯覚さえ覚えました。

 天の川が傾きを持った頃、大きな窓を持ったEMS双眼で、あたかも宮沢賢治の 銀河鉄道の夜を奏でたのでした。10°程度しか昇らない北アメリカ星雲やγ星付近 の散光星雲も、UHCフィルターを用いれば難なく見えてしまいました。徐々に高度を 上げると、白鳥区の終わりであるアルビレオの観測所に到着。二つの大きなサファ イアとトパースの玉はどこまでも透き通っています。黒い空間に突如とポッカリ浮 かぶM27,賢治のマントを掛けるCr399コートハンガー、天文学者泣かせのM71を通過 した後、鷲の停車場に着きます。

 盾の散開を通過する頃から銀河の一部なのか星雲・星団なのかわからないほどに なっていき、M17のオメガ星雲にさしかかる。倍率を上げるとまさしく白鳥が優雅に 漆黒の宇宙に浮かんでいるようです。バンビの横顔(私はお茶の水博士に見える)は 写真のように見え、珊瑚礁に囲まれた南の小島M8でしばしバカンスを楽しんだ後は、 ζ星と色の対比が美しいNGC6231がある蠍の尾に至ります。盾からの暗黒帯が複雑に 入り組んだこのあたりは本当にすばらしいの一言です。

 そして、祭壇に飾られた球状星団NGC6352,6397を恐る恐る眺めた後、力強くもオ レンジ色に光り輝く二重星ケンタウルスαに目を奪われていると、そこはまもなく 終着駅の南十字星。漆黒なるコールサックの脇に輝く、決して手にすることは出来 ない宝石箱を眺めながらカムパネルラとジョバンニの旅は終わるのです。

≪主な仕様≫
鏡  筒:Takahashi Sky90 (f500mm、F5.6)
接 眼 部:Starlight Instruments, Feather Touch Focuser 2.0″ Travel
双眼装置:EMS-L
ファインダー :等倍ファインダー (Baader Planetarium, Sky SurferⅢ)
架  台:平行スライド方式(二連リニアガイド仕様)
目幅調整:57~72mm
上下範囲:-5°程~100程°
微動装置:フリクション固定、ネジ押し式 (上下・水平共)
三  脚:Berlebach, Report2042 (Vixen開止付)
使用接眼:Meade UW8.8、TeleVue NaglerType4-12mm、22mm、WideScan TypeⅢ 30mm、
Pentax XL40
総 重 量:15kg(三脚込、アイピース別)

≪謝辞≫  本双眼望遠鏡を作製するにあたってアドバイス等頂きました井上様、快く見せて 頂きました尾形様、加工部品の作製にご協力頂きましたコプティック星座館、遊馬 様、唐沢様にはこの場を借りまして心よりお礼を申し上げます。
 また、本オーストラリア旅行を本当に楽しい旅行にして頂きましたトラさん、村 山さん、同行した皆様、そして現地の皆様、心より感謝致します。

Okada


管理者のコメント;
 Okadaさんが、オーストラリア遠征記を持参されたSky90-BINOの製作記を兼ねた、非常に 内容の濃いリポートをくださいました。 非常にコンパクトかつ優秀なBINOで、台座の精密な メカの写真からもOkadaさんの意気込みが伝わって来ます。

  一緒にお送りいただいた銀河の写真もインパクトがありますね。 実際にその中に浸れば、 人生観までもが変わりそうですね。 多大なエネルギーを傾注して遠征される意義が分かるような 気がします。



トラさんのオーストラリア遠征記

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シュワルツBino150Sユーザーのトラです。この松本式EMSビノを携えての海外遠征も、今度のオーストラリアのクー ナバラブラン村で4回を数えました。

今回は、OkadaさんのタカハシSKY90双胴、村山さんのビクセンED115双胴も一緒です。並べて覘いた感想は次のよう なものです。

SKY90双胴
とにかく全体がコンパクト。重さも、三脚付きセットでささっと移動できて羨ましかったです。こだわりにこだわっ た使いやすいメカは必見。手前に縦に伸びた2本のハンドルはバイクのハンドルを握っているような操作感です。 三脚が木製である上に、先端には防振パッドを当てているため、高倍率でも振動が直ぐに止まり、目に快適です。 手持ち双眼鏡に迫る広い実視野にフローライトの星像が広がるのは圧巻。シーイングが良いときには、これって9cm? と思えるほど木星のフェストゥーンが見えました。

ED115双胴
  サイズ的にはシュワルツBino150Sに近く大型、でもかなり軽量です。アイピースについては、アイピース選択の幅が シュワルツBino150Sよりも広いようで、ペンタックスXL40やワイドスキャンシリーズのアイピースもかなり実用になっ ていました。また、この位の口径のEDになると、シーイングが良いときには、木星もかなりの迫力とコントラストで 見ることができました。惑星も含めたオールラウンダーとして、一台だけ遠征に持って行く場合には、質量とのバラン スからも、ED115は理想に近いと思います。

シュワルツ150S双胴
  国内でED115とシュワルツ150Sとを見比べると、口径の差ほどは星の明るさや数の違いを感じないのですが、今回のよう な空では、計算上の集光力の差がダイレクトに目に見え、15cmがいわゆるリッチェスト・フィールド機であることを 実感しました。天の川付近に向けた場合に、視野に見える星の数を口径別に机上で計算すると、口径15cmがピークにな るという、いくつかの記事を昔読んだように記憶しています。シュワルツ150Sの星像は、フローライトやEDのそれと較 べると、低倍率においても、良くも悪くも「ハデ」な印象です。惑星は11cm程度に絞らないと実用にならないです。 ハード面では、真鍮製のウェイト兼ハンドルは、手になじみますし、観望中に手を休めるのに丁度よいです。私もOkada さんと同じく、三脚先端に防振パッドを使用してます。総質量はもちろんシュワルツ150Sが一番大きいです。

それから、ドブソニアンも一緒に持ち込みました。松本さんのホームページに加藤さんがレポートされている表現をお借 りすると、「広視界と濃さ」のシュワルツ150S双胴では銀河散策、「分解能と集光力」のドブソニアンではオメガや NGC104球状星団、エータカリーナやタランチュラ星雲等々のアップと、使い分けました。また、惑星については、 シーイングが極めて安定している今回のような場所では、ドブソニアンが、フェストゥーンの先端のねじれとか、 大赤斑内部の模様とか、圧倒的にカラフルで詳細な木星像を見せてくれました。8秒チョッとの火星も、巨大な南極冠 をはじめ大きな模様を楽しめました。同行の友人は、普段、星雲星団について用いる「口径の暴力」という表現を、 今回は惑星についても用いてました。

その他、銀河のバルジという面的な対象を、裸眼と瞳径7mmの双眼鏡・双眼望遠鏡とで見比べると、ほぼ同じ明るさ に見えるという、当たり前のことを実感できました。空、暗順応した瞳のサイズ、機材の総合透過率という条件がそろ ったのだと思います。

それにしても、光害のない空は、肉眼で、銀河系や太陽系を実感させてくれます。いわゆる「星明り」があるのですが、 惑星による星明りではなく(これらはくっきりとした影ができる)、あきらかに銀河のバルジを中心とする星明りが、 バルジと反対方向にできるぼんやりとした影で確認できます。薄明前の巨大な舌状の黄道光は、星雲星団をかき消し、 細い黄道帯となって対日照に到っているのがわかります。黄道光は天の川に較べてやや暖色系に感じます。大小マゼラ ンは白い雲のように、大気の雲は銀河の暗黒帯にように見えます。

最後に、自動車だけでなく飛行機で遠征する観点からEMS双胴望遠鏡の構造に関して、ど素人ながら、2点コメント させてください。

鏡筒固定方法
目幅調整について、「鏡筒平行移動式」と、「左右鏡筒固定式」=接眼部移動式(ヘリコイドやピント補償次世代EMS) とがあり、さらに左右鏡筒固定式の中でも、左右の鏡筒リング同士を直接連結させ且つ耳軸をリングの外側に取り付ける 「左右鏡筒直結固定式」と、ベースプレートに左右鏡筒リングと耳軸を固定する「左右鏡筒プレート固定式」とがありま すね。

飛行機で遠征する場合、総質量を軽減する必要に加えて、どうしても架台からの鏡筒一本一本の分離・組立という 作業を迅速に行う必要が出てきます。質量の観点からは左右鏡筒直結固定式が最も有利なのですが、鏡筒の分離・組立の 観点からは取扱にくいと思います。

遠征先のホテルで落ち着いて組立した上で観測場所に移動できない場合には、組立作 台がない観測場所で三脚から順番に組み立てて、フォークの上で左右鏡筒を組み合わる必要があるからです。 その点、耳軸のついたプレートに鏡筒をセットできる左右鏡筒プレート固定式が有利なのですが、ベースプレートと 耳軸をオフセットする部分の質量が加わってしまい、悩ましいところです。そこで、例えば、左右鏡筒を同時に挟み 込む幅広のW型(下側)とM型(上側)の鏡筒固定枠を作成し、下側のW型枠の両端に耳軸を固定すると便利かも、 と思いました(「メガネ型枠上下挟み込み式」?)。

もちろん下側のW型枠の強度の設定如何で、左右鏡筒プレート 固定式と大して変わらない質量になってしまう可能性もあります。強度確保と質量軽減のバランスについては、 敢えて下側のW型枠の強度は低く抑えて上下枠を組み合わせた段階で強度が出るようにするという考え方と、 下側のW型枠の強度を充分に高くして上側のM型枠の機能を鏡筒の固定だけに限定して軽くするという考え方とが、 あるかもしれません。

鏡筒分解
パッキングについて、接眼部(合焦・目幅調整機構とEMS)込み鏡筒全長がネックになることがあります。これには、 対物レンズ側での対処と接眼部側での対処が考えられます。対物レンズ側での対処については、光軸再現性を保ちつつ 対物レンズ部が鏡筒から分離できるトミーボーグが有利ですが、125mmと150mmとは新規生産を行っていないようです。

ビクセンも対物レンズ部を分離できるようですが、これは分離してしますと保証が利かなくなってしまいそうです (まあ、鏡筒を切断短縮してしまうのであれば、保証の点はそもそも関係なくなりますが)。接眼部については、 今後、合焦・目幅調整機構とEMSが一体化した次世代EMSもオプションになると思いますが、接眼部全体が鏡筒から 簡単に分離でき、光軸を維持した形で再組立できるよう、ご配慮いただけると、運搬にかかる負担が軽減されると 思います。


管理者のコメント;
 トラさんがOkadaさん、村山さんと共にオーストラリア遠征から帰宅され、疲れを癒す間もなく 写真を送ってくださいました。 景色の雄大さに息をのみ、写真のみをいち早く掲載させていただく ことにしました。 3台のBINOのそれぞれのownerの方のリポートを心待ちにしております。(6月14日)

 (6月27日)
先に写真をお送りいただいていたトラさんから、詳細なリポートをいただきました。  3人のオウナーが各1台のEMS-BINOを携えて、オーストラリアの最高の空の下で観望するという、 夢のような話が実現しました。 3台のBINOの特徴を、トラさんの目で的確に捉え、まとめてくださいました。   口径なりの分解能が体感できるだけの安定した大気、銀河の影が出来るという驚愕のご報告、体験者ならではの 迫力で伝わって来ます。

 鏡筒固定方法についてご提案いただきましたが、実は先日の村山さんのリポートの写真(BINOの分解写真) を拝見し、はっとしたのです。 運搬、それも海外への空輸を考慮すれば、大型のBINOは簡単に分解組み立てが出来ないといけませんね。

 左右鏡筒を連結固定することで、双眼鏡並の光軸メンテフリーをと思って次世代BINOを設計していた最中でした ので、これは大問題でありました。 どうやら今回の次世代BINOの計画は一度振り出しに戻し、考え直す必要が出て 来たようです。 メンテフリーと分解式は相矛盾するからです。 恐らく、解答は、ある規模より小さいBINOでは 1体連結鏡筒にして、巨大なBINOでは分解式ということになるでしょう。 問題はその分岐点をどうするかです。 また極端に小口径になると、光路長の関係で平行移動目幅調整が有利になる場合もあり、そうなると、むしろ完全1体 型のBINOの適用範囲は意外に狭くなりそうです。

 ともかく、トラさんのリポートは多くの方が興味深く読まれたのではないでしょうか。 非常に衝撃的で、示唆に富んだリポート をいただいたと思っています。

 トラさん、Okadaさん、村山さんの3人の快挙に、改めて喝采をお贈りしたいと思います。(6月27日)



加藤さんがPRONTOに続き、SCHWARZ150S-BINOのリポートをくださいました。

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 プロントBINOを発注した時点では、まず現物を見て納得できたら 15cm級を発注するつもりでした。 しかし、完成までの間の松本さんとのメールのやり取り、皆さんのユーザーリポートを見て、 思い切ってSCHWARZ150S-BINOを発注しました。 結果的には鏡筒供給中断により受注休止になる直前に滑り込みセーフとなり幸運でした。

 SCHWARZ150S-BINOは自宅屋上の2.5mドームで使用することを前提にしています。 ドームはミューロン250用に設置したものですが、星雲・星団の観望頻度が高いことから、 ミューロンと赤道儀を手放してSCHWARZ150S-BINOとNinja320を併用することにしました。  機材の変更に合わせてドームの床の嵩上げを行ない、SCHWARZ150S-BINO、Ninja320 共にキャスターでドーム内を簡単に移動できるようにしてあります。  ドームのスリット幅が1mと狭く、ミューロン+EM200では不便を感じていましたが、 SCHWARZ150S-BINOは経緯台式なのとキャスター移動できるのでかなり広く感じます。 ドームでSCHWARZ150S-BINOやNinja320を使うのは例外的なケースだと思いますが 外光のカット、風や夜露を避けられるなどメリットは大きいです。

 SCHWARZ150S-BINOの梱包を見ての第一印象は「やっぱりデカイ!」 取っ手があるので鏡筒部を持つのは楽なのですが、狭い階段を持ち上げるのが大変でした。  基本的にプロントBINOと構造が同じなので組み立ては簡単。 平行移動台座は軽量のプロントBINOでは全く問題ありませんが、重量級のSCHWARZ150Sではちょっと慣れが必要でした。 次世代BINOだとこの辺は解決されそうですね。

 合焦部はDOCTOR OPTICSのSUPER-WIDE12.5mmの使用を前提にしたため、 約30mmバックフォーカスを長めに確保できるようカスタマイズして頂いています。 このアイピースはコーティング等ではやや古さを感じますが、軽量で見掛け視界が90度あり、 F値の明るい光学系でも像の崩れが小さいので気に入っています。

 ピラーは耳軸高約1100mmと短めにしました。 キャスターのロックを解除すれば指1本で移動できます。 天頂付近を見る時は直接床に座り、低空では高さ調節できる椅子を使いますが快適です。 尚、このピラー部分はNIKON製ピラーをベースに遊馬製作所/SCOPE LIFE に特注加工をお願いしたものです。

 実際に観望しての印象は「淡い天体が濃く見える」です。 これは90度対空双眼による効果と、ドームによる外光カットの両方が効いているように 感じます。到着したのが既に春霞のシーズンでしたが、春の銀河を十分に堪能できました。  笠井トレーディングのWAE32mmにLPS-P2とUHCフィルターを使用したところ 北アメリカ星雲や網状星雲がクッキリ見えたのには驚きました。自宅からここまで明瞭に 見えるとは思いませんでした。いて座近辺の天の川も素晴らしい眺めです。 フィルターを付けたり、外したりしながら何度も眺めています。

 口径差が2倍強あるNinja320と比較しても見え味は優劣が付け難いです。 「広視界と濃さ」でSCHWARZ150S-BINO、「分解能と集光力」ではNinja320が優位ですが 結局2台とも使用することが多いです。

 高価な機材でもあり発注時は悩みましたが、思い切って決断して良かったと実感しています。 松本さん、遊馬さんのおかげで素晴らしい作品を手に入れることが出来ました。 感謝しております。

加藤 仁
Hitoshi Katoh


管理者のコメント;
 最後のSCHWARZ150S-BINOが、相応しい方に渡ったという印象を強く持ちました。 短期間に2台のEMS-BINOを発注くださった加藤さんのエネルギーの傾注ぶりには、製作者としての 責任を強く感じ、さらなる精進の手を緩めてはならないと、自戒の念を強めております。

  ドーム内で使うキャスター付き経緯台の便利さは、私も経験しております。 ドームの中心には 大型赤道儀という固定観念を捨てるのには勇気が要ったと思いますが、加藤さんの英断にはエールを贈りたいと 思います。 ドームはほぼ完璧な暗箱を提供し、その中で90度対空で観察するのですから、効果覿面です。 町中の空も、ドームのスリットの額縁で切り取ると、まんざら捨てた物ではないと思えるものです。

  耳軸高を低めに設定されたのは、90度対空として極めて正解でした。 (この点を誤解をしている方が多く、 高めの設定でせっかくの90度対空の良さを半減させている方も少なくありません。) 星見を知り尽くした遊馬さんによるポール と相俟って、架台の操作性の良さが容易に想像できます。

 加藤さん、引き続いての素晴らしいリポートをありがとうございました。  



村山さんのオーストラリア遠征記です。

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 ED115-BINOユーザーの村山です。
オーストラリアへ愛機を持ち込み、南天の星空を堪能してきました。 搬送方法を中心にレポートしたいと思います。

 ・前置き:
 鏡筒選択の際、「海は100%渡らない」つもりでした。 コンパクトさは無視し、口径の割には体積が大きい現在の 鏡筒を選びました。EMSは65mmバレル、HF経緯台は幅広改造が施され ています。(体積的にはシュワルツ150S-BINOと大差がありません)。 そのためこんな日が来るとは思っていませんでした。

シュワルツ150S-BINOが海を渡った実績がありましたので 何とか運ぶ気になりましたが、その前例が無ければまず運ばなかった と思います。

 ・搬送方法:
フードと、接眼部のピント調整軸を取り外すと鏡筒の全長は50cm強と なります。容量40リットルの登山用ザックに鏡筒2本とアイピースを 入れました。機内持込寸法(縦、横、高さの和が115cm以下)ぎりぎです (写真1左上)。アイピースは上からXL40mm(17倍)、Nagler22mm(30倍)、 WideScan13mm(51倍)、UltraWide6.7mm(100倍)。アイピース下の箱の中身は ファインダーです。

 EMSは他の身の回り品(筆記用具、ノートなど)と共に A4ファイルが入る程度のバッグに入れました。ザック、バッグ共に 機内に持ち込みました(写真1右上)。

 三脚など光学部品以外は衝撃対策として、目幅調整部分以外は可能な 限り分解し預け入れ荷物としました。
 しかし防寒着など、機材以外の荷物も当然必要で、何もしないと 預け入れの重量制限(20kg)を簡単に超えてしまいます。

 対策としてまず、RIMOWAの軽量スーツケース(73x50x26cmで3.5kg、一般的には7.5kg程 を別途購入しました。次に三脚の軽量化。日ごろはビクセンHAL110(5kg) を使用していますが、AL90(2.7kg)に変更しました。最後に軽量操作ハンドルを つくりました。DIYショップに行き、20mm角のアルミパイプで作成(写真左下手前、 奥はオリジナル)。ここで1kg強重量が減りました。費用は加工費込みで約2000円。 片道1kgの超過料金が約5000円なので安い投資だと思います。 全体の荷物としてはこんな感じです(写真1右下)。

 現地到着後、1時間ほどで組み立て直せたときはほっとしました。(写真2)

(なお、今回は以上のような方法で搬送しましたが、このようにすれば 搬送できることを保障するものではありません。機内持ち込み、重量制限 などの最新情報は航空会社にお問い合わせください。)
 ・観望:
観望はすばらしいの一言です。 北半球において「球状星団といえばこれ」「散光星雲、銀河、散開星団といえば これ」というような代表的なものってありますよね?しかし各ジャンルにおいて ことごとくのこれら北半球代表と同等、またはそれらを凌駕するような天体が 南天にはあります。しかも空は暗いしシーングはいいし。。。

 私の一番のお気に入りはエータカリーナおよびその周辺の散開星団でした。 何時間見ていても飽きません。 これが毎晩のように見える南半球の天文ファンがうらやましい限りです。

 ・今後に向けて
あと、有効な機材(?)としては寝転がって肉眼で天の川を見られるよう、 銀マットを持って行くことを強くお勧めします(今回はトラさんにお借りしました)。 天頂付近を中心とした天の川のながめは、まさに巨大エッジオン銀河そのものです。

私は低倍率~中倍率アイピースしかもっていきませんでしたが、 高倍率用も持っていったほうがいいです。空の暗さだけではなくシーングも 日本より圧倒的によいので、惑星も見ないともったいないです (今回はOkadaさんにお借りしました)。
 同行の方々、現地の人々、天候、機材全てに恵まれ非常に感慨深い旅でした。

村山 義彰
Yoshiaki Murayama


管理者のコメント;
 村山さんがトラさん、Okadaさんと共にオーストラリアに行って来られました。

 今回は搬送方法を中心にしてまとめてくださいましたが、示唆する事が多く、BINO作りを している者として、いろいろと考えさせられました。

 物作りに於いて、改善を目指す内に、どうしても付け足しの発想に陥りやすく、たとえば、剛性を 追求することで重量増になってしまったりするものです。 必要最小限の剛性をキープしながら 総重量を最小限に抑える努力が大切であることを改めて認識させられました。 開発中の次世代BINOにも この発想を活かさせていただきたいと思っています。

  村山さん、ご苦労様でした。 他の2名の方のリポートも楽しみにしております。 



茨城県の加藤さんのご投稿です。

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このたびは素晴らしい作品を提供頂きありがとうございます。 リポートが遅くなり申し訳ありません。

私は東京から200km弱離れたところにある自宅から、お手軽観望中心に楽しんでいます。 病気がちなこともあり遠征は殆ど行いません。 自宅の空は、条件が良い時に天の川が見える程度です。

これまで初期の宮内10cm(45度対空型) ロシア製SUPER-BINO 15倍110mm(30度対空型)等を使用してきました。 それぞれ印象深い素晴らしい個性を持った機材でしたが、 「倍率が変えられない」 「好みのアイピースが選択できない」 「UHC O3等のフィルターが使えない」 ことに不満を感じていたので、自然と次の選択肢としてマツモトEMSを 考えるようになりました。

ユーザーリポートで井上さんのTeleVue85-BINO(自作)を拝見し、 まず手持ちのプロントをEMS-BINO化しベランダ観望用にすることを考えました。 私は不器用なので自作は最初から諦め、松本さんにご相談しました。 メールで何度もピント外れの質問をしましたが、その度に丁寧に回答頂きました。

問題は既に生産終了している鏡筒をもう1本入手できるかでしたが、 TVJに問い合わたところ、あっさり委託品が見つかり助かりました。

松本さんからはEMS-Mをご提案頂きましたが、拡張性を考慮しEMS-Lを選択しました。 その為、鏡筒を約30mm切断しています。 元々コンパクトなプロントを切断したので「チョロQ」的な印象になりました。 接眼部が重いため対物側にカウンターウエイトが飛び出しているのも外観上の特徴です。

通常は笠井トレーディングのWA12mm(40倍)を使用することが多いのですが 透明度が良い時は、笠井WAE32mm(15倍)も使用します。

プロントBINOを使ってみて「双眼」と「90度正立対空型」の有効性が実感できました。 「双眼」だとバックが多少明るくてもあまり気になりません。 また「自然な姿勢で見る」ことが低コントラストの対象の視認性を向上させているように 感じます。 更に街灯などの光源が直接眼に入りにくくなり、暗順応が容易になる事は 予想外のメリットでした。

プロントBINOを使うようになって「星」の美しさを再認識しました。 もちろん月・惑星や星雲・星団も見るのですが、 星々の間を適当に流して色や配置を楽しむ時が一番楽しいです。

心配していた光軸等の調整ですが、自分で不満を感じない(認識できない)レベルまで 調整するのは簡単でした。ただもう少し追い込める感覚はありますので、 追々習熟していくつもりです。

実は土壇場でDOCTOR OPTICSのSUPER-WIDE12.5mmの2本目を 入手できたのですが、 既に鏡筒切断加工が完了しており、使えないのが残念でした。 決局、これが次のSCHWARZ150S-BINO に繋がります。 150のレポートは後日送付します。

加藤 仁
Hitoshi Katoh


管理者のコメント;
 ご投稿いただくBINOユーザーの方々は、EMS-BINOに対してはいずれ劣らぬ情熱の持ち主であられる のですが、加藤さんは1台目のPRONTO-BINOの完成を待たずに2台目のSCHWARZ150S-BINOをご注文いただいた 点で、強く印象に残っています。

 段階的にBINOの口径を増やして行かれる方、最初に大きめの口径のBINOを作り、セカンド機として8cmクラスのBINOを 作る方、等々、様々ですが、一挙に2台を作ってしまうのも、結果的にはいさぎよく、正解なのかも分かりません。

 EMS-BINOをご使用になって、90度対空の有効性を認識くださったようで、嬉しく思います。 私たちは視線が下を向いている方が 安楽でより集中できるようです。 裸眼で見る地平線付近の月や太陽が異常に大きく見えるのも頷けます。また、両眼で見ることで 暗い星の色がよく識別できるようになったと異口同音に指摘されます。

 ”「チョロQ」的な印象”と述べておられますが、完成を見た時、本当にコンパクトになって驚きました。画像はフードを伸ばして撮影しておられますが、 フードを完全に収納しますと、まさに加藤さんの表現通りです。 さらに短縮してSUPER-WIDE12.5mmでの合焦も可能ですが、 特殊なアイピースのために、他の普通のアイピースでは極端に繰り出しを引き出して観察することになるので、新たな鏡筒切断はお勧めしません でした。 その代わり、次のSCHWARZ150S-BINOでは、オリジナル合焦装置をさらにカスタマイズしてバックフォーカスを十分 確保しました。
( 蛇足ですが、先日次世代BINO宣言をいたしましたが、TELEVUE等の小口径BINOで、素材鏡筒の特徴をそのまま活かしたい(たとえばoriginalの繰り出し装置をそのまま使用)場合 は、今後も鏡筒平行移動方式を採用することになると思います。)

  加藤さん、ご投稿ありがとうございました。SCHWARZ150S-BINOの方のリポートもお待ちしております。