Red- Green Test

RG rays in the eye
Red-Green chart

私たちの眼は、生体として、光学器械が真似の出来ない 生理的な機能を備えていることは事実ですが、純粋に光学的に評価しますと、 高級品ではないことを認めざるを得ません。

眼科での眼底写真の撮影等のために、散瞳剤(瞳を広げる薬)を点眼されて、しばらく苦労された経験がおありの 方も多いと思いますが、私たちの眼は、絞り開放では、まったく使い物にならないほどの甚大な 球面収差を持っています。

また、色収差も甚だしく、この性質を利用すると、眼の微妙なピントのずれを比較的客観的に 検知することが出来るのです。

上のレッドグリーン指標でご自身の眼を試してみてください。(まずは単眼で検査した方が分かりやすいでしょう。)黒い二重線が赤のバックと緑のバックで比べて、 どちらがはっきりと見えるでしょう。輝度やコントラストの差に幻惑されないように、線(隙間)のシャープネスだけに着目します。 両方とも大きくぼかしてしまうと、区別が出来なくなります。

また、特に初めての方は、ピントの前後をセットにして、レッドとグリーンのシャープネスが逆転する様子を見ないと分かりにくいかも知れません。 近視のメガネを掛けている方は、メガネを外し、遠点(はっきり見える一番遠い距離)付近でチャートに微妙に近付いたり離れたりして見ると レッドとグリーンの見え方(シャープネス)が逆転するのが分かるでしょう。

読書距離で見て、明らかにグリーンの方がはっきり見えたら、老視の赤信号^^;です。 (近視の方は、メガネを掛けて見てください。)
指標を拡大して3m以上離れて見た時に 赤い方がはっきり見えたら近視です。 また、読書距離で両方ともはっきり見える方でも、距離を近付けて行きますと、調節限界付近 からグリーンの方がレッドよりもはっきり見えるようになります。
また、3m以上離れて見てグリーンの方が極端にはっきり見える方は、近視のメガネの度が強すぎるか、遠視である可能性があります。
横線(縦線)だけがはっきり見えたら、乱視の疑いがあります。

波長の長いレッドは波長の短いグリーンよりも焦点距離が長いので、それぞれの結像位置が微妙に異なることが、この検査を 成り立たせている理由です。(上の図は、弱度近視の状態です。)

眼の屈折に関与する角膜、房水、水晶体、硝子体の組み合わせは、残念ながら色収差の軽減に対する(神様の^^;)配慮は全く見られません。 もっとも、明るい所では縮瞳(瞳が小さくなること)して極めて小口径であり、散瞳するのは暗い時で、眼の視力も落ち、色盲になっている(低照度下で活躍する旱状体視細胞は色盲) ので、アポは必要なしとのことなのでしょう。

マリオット氏盲点

双眼視の効果は議論する余地がないほどのものと思っていましたので、あまり具体的にコメントした 記憶がありません。 しかし、双眼視の効果が大分認識されるようになった昨今でも、やはり認識に温度差が あるようなので、今日は敢えてコメントしてみることにしました。

今回はその中でも、意外に知られていない単眼の視野についてご説明します。  上の写真は右眼で、見掛け視界60度のアイピースで見た地上風景です。視野中心から右に約 15度の所に浮かぶ黒い楕円は何でしょう? 黒い風船ではありません。あなたが右眼単眼でアイピースを覗いている時、 ほぼこの黒楕円の範囲は何も見えていないのです。

この盲点のことを”マリオット氏盲点”と言うのです。横幅で5度、縦幅で6度以上あるでしょう。これは、眼底の視神経乳頭 に当たる部分で、網膜の視細胞の一つを、眼底のお椀の表面に配置した光ファイバー1本の端面に例えると、全てのファイバーを束ねて お椀(眼球)の外に取り出す穴だと考えることが出来ます。

上の画像は、60度の視野を想定していますので、実際の角度をシミュレートするには ずっと大きな画像が必要で、例えば55cmくらい離れたモニター上では、盲点の領域(画像の黒楕円)は2インチのバレル径くらいの面積に相当することになります。   この盲点は、かなりの面積で、20mも離れれば、自動車が1台すっぽり入りそうな大きさです。

描画ソフトを使うと、自分の盲点を正確に描画することが出来ます。モニターの中央より少し左寄りに固視点になるような目印を 描き、左目を遮蔽し、右眼でその固視点から眼を離さないようにしながら、カーソルを少し揺らしながら固視点から右の方に 移動させて行きます。カーソルが消えた時点で直線を引き始め、カーソルが出始めたら引き終えます。その作業を異なる高さで 繰り返すと、自分の眼の盲点の領域が作図出来るわけです。(50cmも離れますと、盲点はモニターの右端に近い方に来るでしょう。)  説明のために黒い楕円で示しましたが、盲点というのはそこに視細胞そのものが無い所ですから、黒い点とも、白い点とも 認識されるわけではありません。上の画像では、アンテナの背景の空に溶け込んでいて、盲点は本人にはほとんど認識できません。  また、認識できないが故に”盲点”であるとも言えるのです。
潜在的に見る能力がある部分を遮蔽されて初めて黒点として認識 できる訳です。この事は、単なる理科的な興味だけではなく、私たちの認識の仕方の原点を鋭くえぐる、深い示唆に富んだ現象だと 思われませんか。 老人が、「わしゃ大分ボケてしまったわい。」と嘆いている間は惚けていず、「わしゃボケとらんわい!」と怒りだしたら ボケているのと似ていますね。^^;

左眼だと、ちょうど対称的な位置に盲点が来ます。両眼視で初めて盲点が無くなる訳ですね。うまく出来ているものです。

双眼視によるコンポジット効果で眼の解像度や視野の明るさが飛躍的に増すことを議論する以前の決定的な問題として、 この盲点があるのです。

TOA130-BINO

Mr. Jiro Inoue

 火星大接近に向けて…という訳だけではないのですが、2年半近く使用 してきたシュワルツ150F8Binoの鏡筒を変更してしまいました。今もっとも 旬の鏡筒、高橋TOA130Sです。なんとかファーストライトまでこぎつけまし たので報告させていただきます。

 鏡筒は2月末に注文しましたが、思いのほか早く4月中旬には納品されま した。しかし逆に早過ぎて架台の構想を練る時間がなかったため、とりあ えずシュワルツ150F8Binoの架台に最小限の改造を加えて乗り切ることに しました。基本的な構造は以前作成したTV85双眼と同じで、鏡筒は1本づつ 取り外しを可能にしています。TV85双眼との差異としては、左右を連結する プレートを省略し、リニアシャフトで連結してその上に鏡筒保持部を構築 している点です。もちろん、鏡筒重量を考えて、各部分をサイズアップし ています。このせいで全体ではかなりの重量増になっていますが、もとも と鏡筒が重量級なため、この点は現時点ではやむなし、として眼をつむっ ています。

 ようやく天文雑誌にもリポートが載りはじめたTOA130ですが、その光学 性能は素晴らしいの一言に尽きます。低倍率での抜けの良さ、中倍率での 細部の分解力、高倍率でのシャープネスとコントラスト、全域を通しての 着色のないニュートラルな視界と豊かな色彩…。木星ではEZ内の濃淡や 高緯度の縞も容易に判別可能で、NB、SBのうねりなどは細部まで良く見え ます。333倍まで倍率を上げても像は崩れる兆候すら感じさせません。実に 色彩豊かでシャープな像です。恒星も色鮮やかです。200倍で見たアンタ レスは、燃えるような赤色の主星と僅かにグリーンがかったブルーの伴星 との色彩のコントラストが鮮やかで、しばしみとれるほどでした。71倍で 月齢9の月の全景を見ても、背景への光の拡散は一切なく、迷光対策が万全 であることが分かります。また、エッジ部での色収差も全く見えません。 倍率を200倍に上げても印象は変わらず、たんにシャープなだけでなく、 中間トーンが豊かで美しい像を見せてくれます。双眼による立体感・コン トラスト検出能力の向上とあわせて、38万km彼方の地形を見ているとは 思えないリアル感が味わえます。今のところ透明度に恵まれておらず、 最大の楽しみであった「天の川下り」はおあずけになっていますが、これ も大いに期待できそうです。

 鏡筒最大幅は約180mmですが、初期型シュワルツ150F8Binoは最大幅190 mmに対応した大型EMSが採用されていましたので、鏡筒バンド(あの高橋の 立派なヤツです)さえ左右の鏡筒で互い違いに組めばEMSも無改造で流用 可能でした。問題になるかと思われたフォーカスですが、延長筒類を全て 撤去すれば実に270mm以上もの筒外焦点が取れるというありがたい設計に 救われ、今回は切断もなしで済みました。

 架台は上記の通り松本さん製作の大型フォークをそのまま使用していま す。2年以上大したメンテナンスもせず使っていますが、初期のスムース ネスを維持しており、大変快適です。TOA130双眼では今までよりもずいぶん と重量を背負うことになってしまいましたが、それでもなおスムースに動い てくれています。333倍/見掛け視界50°という、フリーストップ経緯台では 通常使おうと思わない倍率・視野まで試しましたが、視野の狭さからくる 煩わしさは拭えないものの、動きそのものにストレスを感じることはあり ませんでした。今まで屈折用のフリーストップ架台でこれ以上のスムース さを有するものはお目にかかっておりません。

 また、今回の架台部の改造では、操作ハンドル兼ウェイトシャフトと してSUSのシャフトを組み、ここに真鍮の可動式ウェイトを通しました。 一応、アイピース交換に伴うバランス変動に対応させるための装備だった のですが、シャフトの取り付け位置が悪かったため、操作性に難を残して います。これは今後の課題です。

 自作となった平行移動台座部もなんとかものになっております。ただ、 目幅調整用のラック&ピニオンのノブの位置が手元からかなり遠くになっ てしまい、覗きながらの目幅調整が難しくなってしまっています。ノブ部 に延長シャフトを加えるなどの改造が必要そうです。

 …と、まあとりあえず動いた、という段階であり、完成度はまだまだ ですが、まずは実用に耐え得るシステムになりそうです。Wenglerさんの StarFire7inch-Binoや服部さんのBigBinoには遠く及びませんが、私自身 が作成・所有できる屈折双眼望遠鏡としては、ドライブシステムの搭載 といったベクトルでの進化の道は残っているものの、光学系的にはこれで 打ち止めかな、という安堵感(?)を感じております (またまたローンでの購入、双眼望遠鏡貧乏一直線で安堵している場合 ではないのですが)。

 もともとの鏡筒重量が重たいこともあり、気軽に使えるシステムでは なくなってしまっていますが、それでもなお移動可能な範疇には納まって おり、さまざまな空の下で素晴らしい宇宙を見せてくれそうです。

謝辞:

 本双眼の作成にあたっては、遊馬製作所・遊馬弘さんに部品加工の大半 を行っていただきました。私の拙い構想と落書きのような寸法図にも関ら ず、鏡筒納品から1月弱でここまでこれたのはひとえに遊馬さんのお力に よるものです。この場を借りてお礼を申し上げます。
                     Jiro Inoue

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

  実は、TOA130-BINOは外国の方が検討していたのですが、井上さんがあっさりと先に実現してしまいました。 同鏡筒は、極めて斬新、高級な設計に基づく3枚玉のアポクロマートで、その収差曲線(というより直線)に仰天したものですが、 実際の見え味も理論値を裏切らない素晴らしいもののようですね。

  TeleVue85-BINOに続き、見事な快挙です。少なくとも光学的な性能では究極に至ったようですね。  複数の優秀な望遠鏡と複数の観察者による同時的な比較結果もお知らせいただき、この双眼望遠鏡の並はずれた能力を証明していますが、  他の望遠鏡に支障が出るほどの結果なので、そのままお伝えできないのが残念です。 今年の双眼鏡・望遠鏡サミットに参加 される予定なので、そこで現物をご覧になればその凄さを実感できるでしょう。

 このTOA130-BINOもTeleVue85-BINOと同じく、鏡筒平行 移動方式にされました。 ただ、元の架台の特徴を活かされたのか、ベースプレートを省いてシンプルな構造を実現しておられます。
  まさに「藍より出て藍より青し」の諺通り、井上さんの工業デザイン的なセンスにはいつも脱帽させられます。去年の望遠鏡サミットで 一緒させていただきましたが、同じ架台に載っていたSCHWARZ-F8-BINO(初期仕様)のロッド式focuserをクレイフォード式に改造 しておられたのにも非常に感心しました。またその時TeleVue85-BINOも見せていただきましたが、作りや見え味が素晴らしいだけでなく、 光軸が完璧に調整されていたのも印象に残っています。

 さて、今回は時間的なご都合もあって旧架台を利用してくださったものと思います。落ち着かれましたら、トータル的に さらなる進化に挑戦されるのではないでしょうか。 平行移動方式は眼幅を変えてもピントが変化しないメリットがありますが、丁度今回の サイズ的(重量的)な規模が、平行移動式か、鏡筒固定のヘリコイド調整式かを判断する分岐点になるようです。 より軽量、シンプルにするには、 後者の方法が有利かも分かりませんね。

 遊馬さん、機械加工ご苦労様でした。お見事です。遊馬さんは最近独立されるまで、ずっと望遠鏡販売店に勤務しておられたので、 関東方面の方はご存知の方も多いと思います。
 遊馬さんはEMSが出て間もない頃(初期のEMS-1の頃)からその意義を見抜き、並でない思い入れで EMSを応援し続けてくれた方です。
 当時は、業界はもとより、大半のマニアが「EMS=海の物とも山の物とも分からない?」という感じで遠巻きにしていた頃です。 販売店勤務の立場上、私のEMSを応援するために相当な逆風も浴びられたことを察しています。遊馬氏私用の MTTを勤め先の販売店に置いておられたら、上司より持ち帰るように言われた事等を思い出します。

  さて、このコーナーにも次々に画期的なBINOが登場するようになりましたが、一番最初、EMS-1を装着した小型の屈折鏡筒2本を 別々のカメラ三脚に載せ、平行を出して臨時の双眼を構成し、地上を試験的に覗いて見たのを思い出すと感慨無量です。
  老婆心ながら、この時期での皆さんへのお願いは、究極に近いBINOが登場しても、引かないでいただきたいということです。 どなたも究極の機材には一朝一夕に到達していません。先を越されたとか思うのではなく、自分自身の今のニーズと環境に合った 物を手に入れてください。後から来た方には、またそれなりの拾い物や、新しい発見があるものですから。

C8-BINO

メガネのマツモト製EMSで軽量・コンパクトな20cmシュミカセ双眼を製作

「軽量・コンパクトな双眼望遠鏡が欲しい。しかもできるだけ大口径で・・・・」 大変ムシのよいコンセプトです。

 軽量・コンパクトで大口径と言えばやはりシュミカセ。しかも筒外焦点距離も長く取 れるからEMSをつければ正立対空90°も実現できる。もうこれしかないでしょう、 ということで20cmシュミカセを2本使って製作を開始しました。しかし・・・

 眼幅調整を鏡筒平行移動式としたため箱形の左右連結部分その他の重量がかさみ、一 式重量が20kgを軽く越えてしまい、重い! またEMS部分も自作のため光路長が 長く、焦点引き出し量が多くなってバッフル先端で口径が18cmくらいにケラれる、損 だ!  これでも一応星は見えたのですが、何か違う・・・軽量・コンパクトな20cm 双眼望遠鏡を作るはずだったのに。何とかしなければ。

  そこで、まず鏡筒の平行移動をやめ、余分な重量物は全部取っ払って左右の鏡筒を ガッチリとビス止めしました。これで大分軽量化し、左右鏡筒のインターバルも最小 となりました。しかし、こうするとEMSの第一・第二ミラー間の距離を変えること で眼幅調整を行わなければならなくなります。

 よし、ヘリコイドを入れたEMSを作るぜ! と思いましたがミラーにニュートン式の 斜鏡を流用している限りどうやってもハウジング部分が大きくなって左右鏡筒のイン ターバル内に納めることができません。おまけに使うつもりだったボーグのヘリコイ ドTが製造中止になってるじゃないですか。 この時点で私の「軽量・コンパクトな20cmシュミカセ双眼」という目的を達成できる 選択枝が一つしかないのがハッキリしました。そう、「メガネのマツモト製EMS」で す。即、発注。

  「メガネのマツモト製EMS」は多種ありますが、私が松本さんに製作依頼したものは

1 2インチ仕様
2 ヘリコイドで眼幅調整
3 左右像合わせチルト機構
4 防塵フィルター
5 左右鏡筒のインターバル指定

  というカスタマイズのものです。

  ほぼ即納された「メガネのマツモト製EMS」は自作のモグリEMSばかり作ってきた私に は本当にすばらしい物に見えました(一瞬、使わずに床の間に飾っておきたい衝動に も駆られましたが、もちろんそんなことをしても何にもなりません)。

  まず、ミラーが細長い! 私たちがEMSを自作するときは、長径:短径=√2:1のニュートン式の斜鏡を流用 するのが一般的なんですが、これだと短径が大すぎて干渉するからハウジングが大き くなってしまうんです。しかし「メガネのマツモト製EMS」では斜鏡を流用してある のは同じなんですが、長径:短径=2:1ぐらいに細長く削りこんであるんですね。 これによって最小のサイズで最大のイメージサークルが得られる、と。当然ハウジン グもコンンパクト化できます。

  チルト機構の操作性が素晴らしい! 双眼仕様のEMSは右側の第一ミラーハウジングに「左右像合わせチルト機構」が設 けられています。これは左右の像が微妙に狂った時、二本のツマミをXYに操作して 瞬時に合致させるという優れものです。双眼鏡と双眼望遠鏡の違いのひとつは左右像 の合致をユーザーに調節させるか否かだと思いますが、その考え方の根幹をなす機構 と言えましょう。また私のようにシュミカセで双眼望遠鏡を作った場合、ピント合わ せのミラーシフトで左右像がズレますのでその修正に必須です。

  眼幅調整のヘリコイド(ペンタックスのやつ)が同じ向きに回せる! 眼幅調整のヘリコイドをそのまま取り付けると、眼幅を狭める、広げる、どちらの動 きでも左右逆向きに回さないといけないので操作性が悪くなります。「メガネのマツ モト製EMS」では左右ヘリコイドが上下逆転して取り付けられているので同じに向き に回せばいい。これはやりやすいです。

   このEMSを取り付けて完成した20cmシュミカセ双眼の鏡筒部(耳軸、2インチアイ ピース含む)ですがなんと総重量12.4kg!  20cmの双眼望遠鏡としてはひょっとして日本一軽いのではないでしょうか? なんて 思ってしまいます。。「メガネのマツモト製EMS」のおかげでしょう。しかしEMSは決 して安価なものではありません。今回の私の20cm双眼でも総制作費の半額以上がEMS のコストになってます。

  松本さんのHP上で言うのも何なんですが、EMSの原理を応用した正立ミラーユ ニットの自作は可能です。私も実際に何回か作ってみました。今はウェブ上でいろい ろな情報が得られますのでそんなに難しい物ではないと思います。ひょっとしたら自 作はEMSの構造や調整方法を知るのに一番いい方法なのかも知れません。それになん と言っても安くできるし、製作機材によっては十分実用性のある物が作れると思いま す。

  しかし、今回の私のようにギリギリの条件でやろうとした場合、まず自作は無理で しょう。技術と製作機材環境に恵まれた人が時間やコストを度外視して取り組めば別 だとは思いますが、それだと「メガネのマツモト製EMS」を買った方が安いはずで す。さて、皆さんはどうお考えになりますか?

   話は20cmシュミカセ双眼に戻ります。 常用アイピースはWS30mm、67倍です。 鏡筒の平行調整に手間取っていたのでまだあまり稼働していませんが、さすが、20cm だけあってそれまで使っていた10cmの屈折双眼とは全然集光力が違います。銀河の構 造なんかがわかりやすいです。瞳径も小さめなのでバックも黒く引き締まって好みで す。しかし、地上の風景なんかで見るとコントラストは明らかに屈折に負けますね。 風景は視野も広い10cm屈折のほうが楽しめます。

  でもまあ、何と言っても20cm双眼にしちゃ軽いので、持ち出すのが苦にならなくてい いですね。これが一番です。以上です。

 天気は悪いですが、晴れ間をねらってちょくちょくC8双眼も稼働しています。 今までは等倍のクイックファインダーのみで導入していましたが、やはり暗い星が見 えないのでやりづらいものでした。そこで、5cm14倍・実視界5°(アイピースは ボーグSWK22mm70°)の正立ファインダーを自作して取り付けました。「実視界5 °」は僕が常用している「フィールド版スカイアトラス」の拡大星図部分(直径5° の円や長円で表示されている場合が多い)を意識したものです。ファインダーで見え る星野が拡大星図のイメージに近いので大分導入しやすくなりました。明るい対象だ とファインダーで直接確認できるのも○です。ただ総重量13.2kgと少し重量増にはな りました。

 ハンドルは、前のセパレートタイプが少し剛性がなかったので、左右一体のものに 付け替えました。ただこれだと頭の左右に両手を持ってくる形になって少し面倒です ね。ハンドルはシュワルツ双眼のようにアイピースの下にT字型にあるのがベストだ と思います。

 今後の最大の課題は、EMSと鏡筒接眼部との接続の強化です。 20cmともなるとEMSの第一ミラーと第二ミラーの距離(オフセット量)も結構なもの となります。EMSは2インチバレル&スリーブで三方向からネジで締め付けることに よってシュミカセ接眼部に固定されているのですが、モーメントの先端に2インチア イピースという重量物がついていることもあって、ちょっとした衝撃でほんの少し回 転してしまうんですね。すると、てきめん像の回転方向ズレとなって現れてきます。 何とか固定したいのですが、EMS部分に傷を付けずにできる方法がまだ思いつきませ ん。今後の懸案事項でしょうか。

 あと、焦点をかなり引き出しているのですが、厳密な合成焦点距離はよくわかりま せん。とりあえず、ノーマルの20cmF10と考えると、常用アイピースWS30mmで67 倍、瞳径3mmということになります。この瞳径は結構、眼の位置に敏感になり双眼望 遠鏡では眼幅の調節がシビアになる、と言った形であらわれます。具体的には「片目 ブラックアウト(?)現象」が発生しやすいですね。眼幅が合ってないことによる 「片目ブラックアウト」は、慣れてない人に双眼望遠鏡を見てもらうときにすごく心 配な部分です。

 もちろん慣れている人でも瞳径が大きい方がルーズに見られて楽なのでもっと長焦 点のアイピースも導入したいところです。しかし、2インチスリーブの制約上、見か け視界80°を越え、なおかつ30mm以上の長焦点アイピースは実現が難しいでしょう。 市販品の例では40mmだと60°、50mmだと50°ぐらいの見かけ視界になってしまうで しょうか。僕の場合、見かけ視界が広いことが最優先なので、これらのスペックでは あまり食指が動かないところです(いや、しかし、一応そろえておいた方がいいかな ・・・・)。

 さて、20cmの集光力は思っていたより結構なものでした。僕は散開星団のM35が好 きなんですが、10cmで見るM35と20cmで見るM71(M35よりだいぶ小さいやつ)が同 じくらいの感じに見える気がします。ぎょしゃ座の3つの散開星団を見るのが今から 楽しみです。球状星団では、M13などあんまり大きく明るく見えたので「何かの間違 いでは?」と思ったくらいですし、10cmでは無理だったちょっと小さめの球状星団も 楽々分離します。少々透明度の悪い日でもM8、M17などメジャーな対象はそれなりに 楽しめます。ずいぶん観望の幅が拡がりました。今、「フィールド版スカイアトラ ス」に載ってる対象を順番に見て行ってるのですが、それぞれの対象についているコ メント内容がよく実感できます。なかなか楽しいものですね。自分としては個人的に これ以上の大口径双眼は稼働不可能だと思いますので20cmの双眼望遠鏡でこれだけ見 えたのはうれしい誤算でした。

 光学性能ですが、星像はそれほどシャープではないかも知れません。でも、これは 光軸を必死で追い込んでないからのような気がします。焦点内外像がパッと見た目で 同心円状に見える程度にはしてあるんですが、67倍で見てる限りではほとんど気に ならないので「これでよし」とし、一回合わせた後はいじってないです(面倒くさい ので)。あとF10、fl=2000mmだけあって、短焦点屈折と比べると視野はかなりフ ラットだと思います。最周辺はさすがに崩れますが。

横山 均
Hitoshi Yokoyama

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 横山さん、初めてのシュミカセ双眼のリポート、ありがとうございました。   シュミカセ等のカタディオプトリックタイプのBINOは、今まで10台以上手掛けて来たはずですが、 ずっと以前に北海道の方が天ガに投稿してくださったのを最後に、ほとんど公開されなかったように記憶します。

 この度の横山さんのリポートは、シュミカセであるということだけではなく、シュミカセBINOの自作経験者ならではのコメントを いただいていることに、高い価値があると思います。

  内蔵ミラーの形状とか、X-Y調整機構の意義についてのコメントは、自作に苦労された裏付けがあればこそでしょう。  極めてシンプルで合理的な作りになりました。グリップも90度対空として絶妙な位置に配置してあり、全体とのバランスも絶妙です。  去年の望遠鏡サミットでは、私のEMSを使用される前の段階でしたが、自力で仕上げられたユニークなシュミカセ双眼が参加者の 注目を集めていました。 この度さらに洗練されたシュミカセ双眼、今年の望遠鏡サミットで見せていただくのが楽しみです。

  シュミカセは、主鏡を移動させる合焦機構により、いくらでも焦点を外に出せるのが好都合です。また、それによる収差量の変化も、理論家が心配するほどではなく、 EMSが要求する程度の引き出しであれば、実害もありません。 ただ、主鏡を移動させて焦点を引き出しますから、合成焦点距離は伸びます。恐らく、元のF10がF12近くにはなっているでしょう。   もっとも、20cmF12の双眼があのようなコンパクトさ、軽量さで実現すると考えれば、有利な特徴とも言えますが。  

  また、本来の合焦操作時のミラーシフトの心配もありますが、その代わりに接眼部が固定なので重量物の接続には有利で、並の繰り出し装置のガタと比較すれば、致命的な減点にはならないかも分かりません。   さらに、他の合焦機構を外付けする解決策もあります。  総合的に見て、双眼望遠鏡の素材としてのシュミカセのデメリットは低倍が得難いこと、メリットは大口径が非常に軽量コンパクト、 しかも安価に実現することでしょうか。  私は自分で製作しながら、シュミカセ双眼で実際に夜空を見たのは一度しかありませんが、球状星団のM15の凄さが印象に残っています。
  また、地上風景には向かないようにおっしゃっていますが、口径が大きく、倍率も高いので、地表付近のシーイングの影響も考慮する 必要があると思います。 至近距離を見ると、意外なポテンシャルに驚かれるも分かりません。私の所から、数十メートル先の市役所の外壁のひび割れが非常にシャープ に見えたこと、また数百メートル先のネオンサインが綺麗だったことが印象に残っています。大地が冷えている早朝等、森の木々を見ても楽しいことでしょう。

  横山さん、懇切なリポート、本当にありがとうございました。 今度はぜひ観測リポートを追加してくださいますよう、お願いいたします。