PRONTO-BINO(7cmF7),Mr.Kato (2010,5/29)

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photo 3
photo 4 (before)
photo 5 (after adjust)
photo 6 (mirror)

テレビュー製のプロントEMS-BINO(7cm F7)が納入されたのが2005/2ですから ちょうど5年強が経過しました。 この間の利用状況、印象などをご報告します。

 テレビュー社では「最もよい望遠鏡とは、最もよく使う望遠鏡」のコンセプトで 何種類もの魅力的な望遠鏡をラインナップしていますが、その初期のものが プロントだと思います。 もちろん大型機にはそれぞれの魅力があるのですが「まずは使ってこそ」 と言う考え方には非常に共感します。

 プロントEMS-BINO導入してから5年の間に体調を崩し、入退院・手術を繰り返して 最終的には人工透析(週3~4回 7時間/1回 帰宅は24時頃)を受けることになりました。 このため星を見ることができる時間が大幅に制限されましたが、 プロントEMS-BINOはその扱いやすさから重宝しています。

【運用】(写真1) 通常は自宅2階の書斎に置いてあり、ベランダ観望に用いています。 EMS-BINOとしてはかなりの小型機ですが、その分、

・軽量・コンパクトなため簡単に準備ができる(文字通り数秒)
・対物レンズなど光学系の温度順応が早い
・鏡筒が短いため狭いベランダでも使いやすい
・光学系全体の優秀さゆえ星像が美しく、かなりの高倍率まで耐える(架台の限界はあります) ことから稼働率は高く、晴れ間があれば直ぐに使えます。
(透析日の就寝時間は午前1時頃ですが、就寝前に見ることもあります)

 ベランダ(南向き)のため視界は限られますが 月、惑星はおおむね見ることができます。(西に低くなると隣家の屋根にかかり見えない) またEMSにより視線が下寄りに向くため、街灯の影響を受けにくいのもメリットです。

【使用アイピースと星像】

 EMS-Lを選択したため2インチアイピースが使えます。 現在、主力アイピースはツァィスの12.5mm(見かけ視界90度)で 笠井トレーディングの2インチマルチショートバローのレンズ部のみを取り付けて 約60倍で使用しています。
このアイピースは合焦位置がかなり対物レンズ寄りなのでバロー(約1.5倍)を 合焦用のエクステンダーとして利用しています。

 このアイピースはナグラー・イーソスなどと比較すると 「シャープさを持ちながらも、やわらかめの像質」の印象です。
周辺まで比較的良像を結び、特にFの短い鏡筒との相性が良いように感じます。

 周辺部を注視すると星が流れているのは判るのですが、 中央付近に視線を置くと周辺部の流れが余り気になりません。 眼の構造のためか、何か特別な設計ノウハウがあるのかは判りません。

 地上を見た際の像の湾曲が少ないのも特徴です。(イーソスは盛大に曲がります) また軽量なのも長所でしょう。

・アイレリーフが短い
・合焦位置がかなり対物レンズ寄りで望遠鏡によっては合焦しない(エクステンダーで回避可能)
・月を見ると若干黄色系の着色がある(もともと地上用の光学系として設計されている為らしい)
なことが難点でしょうか。

 この組み合わせでも、星像は十分満足行くものになります。 イーソス10mmを使う場合もありますが、この組み合わせだと 最早文句を言うところが見当たりません。

他にシュバルツ150SEMS-BINO、Ninja320を現在所有しており 過去には

 高橋:MT200、ミューロン250、FC76、FC100N
笠井:アルター(15cmルマック型マクストフカセ)、スーパービノ15倍110mm双眼鏡
ミード:20cmシュミカセ、40cmドブ
宮内:10cm 45度対空双眼鏡
などを使用してきましたが 星像の気持ちよさではダントツで最高だと思います。

対物・EMS・接眼レンズの優秀さもありますが、 EMS-BINOの特徴である

(1)双眼視
(2)90度対空型による観望時の姿勢の安定
(3)眼・脳へのストレスの少なさ
が寄与しているものと思います。

他に32mmアイピース(笠井見掛視界70度)を使って15倍70mmという中型双眼鏡なみの スペックで使用することもあります。 天の川を流すと楽しいですし、 UHCフィルター等を併用すると、普段と違う宇宙を楽しむことができます。

【構造】 (写真2:フードを収納した状態、写真3:スライド機構・フード延長状態)
・写真をご覧いただければ判りますが「極めてコンパクト」です。  重量こそ単体プロント鏡筒の3倍強の11kg(2インチアイピース・5cmファインダー含む)で、横方向にも大きくなっていますが  「よく使う望遠鏡」の美質は失っていません。

・接眼部はプロント標準の2インチです。
・EMS-Lに長めにアイピースを使用しますので、接眼部が目立ちます。
・相対的にEMS-L部分が重いため、鏡筒前方にカウンターウエイトが付いています。
・左右鏡筒の焦点距離がセンチ単位で違っていたようですが、倍率の違いは認識できません。
・鏡筒は数センチ切断しています。
・架台は標準のHF経緯台です。
・スライド機構はリニアブッシュ式で5年使用しましたが全く不具合ありません。
・鏡筒がコンパクトで軽量なため、この構造で不具合を感じたことはありません。
 (鏡筒の重いシュバルツ150SEMS-BINOでは若干不具合を感じる部分がありますが、 現在の製品では改善されています)

【トラブル経験】

 導入初期の頃ですが 観望中に突然、左右の像に(少しずつ)ズレが生じ始めました。 XYチルト機構で修正したのですがズレが止まらないので明らかな異常と判断し 室内の照明を点けて確認すると 「右側の鏡筒バンドが緩み、鏡筒が少し回転しながらずり落ちていた」ことが 判りました。

 鏡筒をセットしなおして、XYチルト機構での修正分を(見当で)元に戻しました。 レーザーコリメーターでのチェックはしていませんので、どこまで原点復帰できたか は多少不安ではあります。
(BINO MAKING Progress Reportの2010年5月24日説明のような状態になっている可能性あり)

最近の製品はXYチルト機構の原点復帰マークがありますので心配ないと思います。 これ以外には特にトラブル経験はありません。

【調整】

 長期間使用していると鏡筒バンドの緩み等で左右のEMSのスケアリングがずれたり 像の倒れが発生することがあります。 星を見ているだけでは、かなりの誤差になっても、意外と気づかないものですが (眼が修正してしまう) ときどき昼間に調整します。

(1)左右の接眼スリーブが平行になっているか? 高さがあっているか?メジャー等をあてて目視でチェックします。

(2)像の倒れの修正  直定規を対物レンズの前に置いて修正しています。(写真 修正前・修正後)
両目で見ると調整中に眼が修正してしまうので、片目で見るか、デジカメで撮影しながら追い込むようにしています。 (BINO MAKING Progress Reportの2009年12月9日説明を参照下さい)

(3)EMSミラーの清掃

 「EMSには保護フィルターが装着されています。星像への影響をほとんど感じないので 観望中も装着したままにしています。(気になる方は観望時に外すことも可能)

 フィルターのおかげでミラーは5年経過後も新品同様です。 それでもどこからか僅かな埃は侵入するのでダスターで飛ばしています。(写真6 ミラー面 フィルターを外して撮影 小さな埃は付着してますが綺麗です)
私はミラー面を無水アルコールで洗浄した経験はありません。 (詳細手順はホームページのEMSミラーのメンテナンス を参照してください)

【遠征】

 病気の制約であまり遠征には行きませんが、Ninja320とともに遠征したことが数回 あります。(自宅から15分程度で着ける直ぐ近くの場所です)

32cmニュートンと7cmでは比較するのが無茶ですが

・星像が美しい(特に視野の均一性) [但し短Fニュートンでもパラコアを使えばコマ収差はほぼ減殺できます]
・淡い星雲などの識別性能が高い
・実視界が広い
・現地に到着して直ぐに使える(温度順応が早い)
ことでプロントBINOにも大きなメリットがあります。

 流石にNinja320の主鏡が温度順応し、パラコアを併用してコマ収差を減殺すると 天体の細部構造の見え味では勝負になりません。 ただ実視界には大きな差がありますし、大口径機が能力を発揮できる気流の夜は限られますので プロントEMS-BINOの存在価値は消えません。

【5年間使用しての感想】

 プロントEMS-BINOのような小口径のBINOは、コスト面でなかなか採用に踏み切るのは 難しいかもしれません(鏡筒自体がシュバルツ150Sよりかなり高価ですし)。 ただ上記のとおり、小型EMS-BINOであるがゆえのメリットは大きく 十分に存在意義はあると感じています。

ナグラーの言う「良く使う望遠鏡」としての良さを維持しつつ EMS-BONOにより「人間が両眼で、楽な姿勢で見るための光学系」としての長所を追加した 本機は天体望遠鏡の一つの到達点だと思います。

加藤 仁
Hitoshi Katoh

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

PRONTO-BINOとSCHWARZ150S-BINOのユーザーでいらっしゃる加藤さんより、 3回目のリポートをいただきました。

 ファーストライト直後の新鮮な感動をリポートいただくのも、もちろん嬉しいのですが、こうして5年間 に渡って愛用されたご感想をいただくのは、また格別の重みがあり、非常に価値あるものです。  体調の管理をされながら、渾身のリポートを作成してくださいました。

 当時の定番だった、リニアブッシュ(リニアベアリング)を使用したスライドマウントは、数年前に卒業した形式ですが、 当時の加工手段の範囲で最大限に知恵を搾った結果のデザインで、懐かしく再会させていただきました。 クランプを緩めると左鏡筒が台座ごと自由にスライドし、好みの位置でクランプするという形式でした。 現行モデルでは、クレイフォード(フリクションドライブ)式により微動送り機構を備えています。

 直定規を利用した像の倒れ調整について、よく理解され、見事に調整しておられます。 当方のサイトでは、手元にあった金属製の定規を置いていますが、加藤さんのように、透明の定規を 使われると、大変見やすいですね。 さすがです。 直定規を水平中心に置くのが難しい 場合は、紙箱の角等を利用した直角アングルを作って水平にしたBINOの筒先に置くと便利かも分かりません。 また、左右の見口より定規の直線性をチェックする際、片眼で交互に(素早く)見る ことも大事なポイントでした。

 ミラーのメンテについて、この場を借りて少しご注意申し上げます。 アルミ増反射コートにつきましては、すでに20年以上の実績があり、当方にある20年以上前のミラーも新品同様の輝きを保っております。 しかし、耐久性を加速実験にて確認したとは言え、増反射銀コートミラーにつきましては、まだ十年、二十年もの経年検証が済んでいません。 従いまして、銀ミラー仕様については、防塵フィルターは付け忘れを防ぐ意味でも、外さずに常時装着してご使用になることをお勧めします。 当方にあります銀ミラーサンプルは、すでに3年を経過して初期の反射率を維持していますが、空調が完備していない、吹きさらしに近い スライドルーフやドーム内での長期保管はお避けいただき、EMSだけは人間の快適生活空間で保管されることをお勧めします。(ただし、ご環境やご都合により、EMSの移動保管が現実的でない場合は、自己責任 にて保管してください。)

 忙しさに紛れて、当方のサイトでは唐突な掲載しか出来ていませんが、リポートの形で加藤さんより、改めて好適な保存版の教材をまとめていただいたようで、大変ありがたく思います。

  加藤さん、これからもお体を大事にされ、時々はこうしてリポートをいただけましたら、大変 ありがたく思います。 この度はまた渾身のリポートをいただき、本当にありがとうございました。