松本の光学講座 2024-1;節点と主点

 長年天文をやって来た方は、肉薄(厚み=ゼロと見なせる)レンズの近軸結像公式には慣れておられると思いますが、現実には、厚みの無い光学系は存在しませんし、近似的に厚みを無視するにしても、対物レンズ+レデューサー/エクステンダー とか、複数の光学素子で構成された光学系のパワー(焦点距離)を考察したいことがある(あった)はずです。
 そうしたケースで、”焦点”については理解できても、ではその”合成焦点距離”はどこを基点に測るのか?という問いの答を迫られたことがあるはずです。
 それをちゃんと理解するには、どうしても、”主点”という物を理解しないといけません。 言葉にすると、主点とは、”その光学系内の倍率=+1となる一対の共役面が光軸と交わる点(物側主点と像側主点)” のことですが、その定義を初めて聞いて、明瞭な絵が描ける方は少ないと思います。

 そこで、誰でも視覚的に主点のことが明瞭に理解できるモデルを描いてみました。
 数式を用いた考察も可能なのですが、今回は、まずは視覚的に理解して欲しいので、数式には踏み込みません。
 主点よりも理解しやすい概念として、”節点”というのがあるので、まずは節点をご説明します。 実は、空気中の光学系では、節点は主点と合致するため、節点を理解すれば、主点を理解したことになるからです。
 節点は、”角倍率=+1となる一対の共役面が光軸と交わる点”ですが、上図をしっかり見ていただけば納得いただけるはずです。

 厚いレンズを貫く光線の内、入射光線と出射光線が平行になるものが必ず存在します。
第1面 R1(球面)と第2面 R2の球心をそれぞれ、O1,O2とします。
B-O1//C-O2となるように入射(射出)する光線 ABCD について、ABの延長とCDの逆延長が光軸と交わる点、N1,N2がそれぞれ、物側、像側節点であり、空気中では、主点と合致します。
(* B-O1 // C-O2 なのでB,C点に於けるR1,R2の接平面も互いに平行になる。)
 付け加えますと、N1,N2は特定の条件のみで成り立つ共役点ではなく、一般的に成り立つ共役点であるということが大事です。少なくとも近軸領域では、入射角度に関係なく、N1を目指して入射する光線は全てN2から出射するということ。さらに、N1,N2を通って光軸に垂直な共役面上に於いて、N1上の平面の、光軸からhの高さに入射する光線は、必ず、同じ高さ(h)のN2上の平面の共役点から出射するということで、厚みがある光学系でも、厚みゼロのレンズの近軸公式が成り立つ、ということになります。
 蛇足と言われるかも分かりませんが、つまずいている方のために一言。

”焦点”とは、文字通り、凸レンズを太陽にかざして、物が焦げる点なのですが、幾何光学で議論する物点も像点も、そうした”実”の点だけではなく、実際には光線はそこを通らないような、虚の物点や虚の像点がむしろ多く、一々その区別をすることはしません。

 節点や主点も、実際に光線がそこから出たり入ったりするのではなく、そこに向かう、そこから出る、という意味です。

 N1に向かう全ての光線が、N2から出るということです。図の主光線ADCDは、実際にはN1もN2も通りませんが、そこに向かい、そこから出る、ということです。😁

 さらに、上の光路図は、N1,N2が両方共レンズ内にあって、物側、像側の並びになっていますが、それは分かりやすいモデルとして採用しただけであり、その並びは光学系によって逆もあり、さらにレンズの外にあることが多いものです。
 今まで理解できなかったが、初めてよく分かった!という方がおられましたら手を挙げていただけると、大いに励みになります。