BLANCA130EDT-BINO

5年前からテレビューPRONT-BINO、笠井SCHWARZ150S-BINO(以下SCHWARZ)の2台を使用しています。今回3台目のBINOとして笠井トレーディングのBLANCA130EDT-BINO(以下BLANCA)を導入しましたのでレポートします。

【BLANCAの構造】
松本さんのところから届く時は(写真1)のような梱包状態です。梱包はしっかりしていましたが、左側鏡筒の合焦機構にガタが出ていたので松本さんに確認しながら調整しました。松本さんの所で2晩テストした時点では異常が無かったとの事なので輸送時に衝撃が加わったものと思われます。

(写真2)は以前からドーム内で使用していたSCHWARZと並べたところです。拡幅HF経緯台(真鍮耳軸+バランスウエイト付き)+スライド式眼幅調整機構は同じですが、スライド機構の精度向上、アルマイト加工、アリガタ式鏡筒単独取付機構、鏡筒スケアリング調整機構が追加されています。(写真3)この部分の構造はBINO Progress Report 製作状況速報の2010年10月5日前後に詳しく紹介されています。

スライド眼幅調整機構は樹脂系軸受けを使用した新型だそうです。ガタ無く、精密に動きますが、予想より鏡筒が長かったのでアイピースを覗きながら眼幅調整するのはやや困難になりました。(3枚玉の対物レンズが重いので接眼側が長くなる)より大型の鏡筒の場合は鏡筒固定+IPDクレイフォード眼幅調整式の方が使いやすいかもしれません。

BLANCAは焦点距離が900mmあるため、SCHWARZより一回り大きく感じます。双眼状態で重量は約24kgです。SCHWARZが約20kgですから、かなり重いです。(ともにバンド・スライド機構・ファインダー・ウエイトシステムを含む)ただグリップハンドルの太さが適切なため、鏡筒を1本ずつ持ち上げるのは比較的楽でアリガタ式の鏡筒単独取付けの効果もあり、重さ・大きさの割りに組み立ては簡単です。またグリップハンドルは鏡筒の指向方向を確認するのにも便利です。対空型ファインダーをはじめて装備しましたが導入時の姿勢が楽になりました。

合焦機構には減速微動装置があり、この部分が左右対称に調整されて出荷されています。特に高倍率時の合焦に便利です。尚、合焦機構の取扱説明書は入っていましたが、光軸調整機構の説明書はありませんでした。

ウエイトシャフトは360度回転できます。対物側が重いので後ろ側にシャフトを出して鏡筒の重量バランスを調整しています。(写真4鏡筒右側)

(BINO Progress Report 製作状況速報の2010年10月17日にも記事があります)ウエイト位置を簡単に調整できますので、アイピース交換に伴う重量バランス変動をすぐにキャンセルできます。ウエイトは1個約500gです。

操作ハンドルは鏡筒直付けです。SCHWARZでは架台取付方式でした。(写真5)それぞれ一長一短がありますが、握り部分の太さと材質の面ではSCHWARZ(樹脂製)の方が良いと思います。また鏡筒直付け式は、高倍率時にやや振動を生みやすい印象です。これはピラーに移動用キャスターを付けている事も影響しているようです。

【手持ちアイピースでの印象】
SCHWARZとBLANCAを簡単に比較してみました。最上段は倍率、実視界(見掛視界を倍率で割った概算値)、射出瞳径です。


EWV32mm(笠井)
見掛視界85度 アイレリーフ20mm 480g/1個

SCHWARZ150S
【23倍 3.6度 6.4mm】
BLANCAに比べれば星像は大きめですが十分立派な像です。二重星団などは賑やで美しく見えます。 また色を楽しむ二重星もアポ鏡筒より向いているかも知れません。 低倍率では乱視の影響が大きく出るので眼鏡着用など対策が重要になります。80%くらいから同心円状に像が流れ、最周辺部は崩れますが十分実用範囲です。自宅の空ではIDAS-LPS-P2フィルターを併用することが多いです。

BLANCA130EDT
【28倍 3度 4.6mm】
小さく収束するシャープな星像と、非常にすっきりしたコントラストの高い像質が印象的です。周辺像の崩れ方はSCHWARZとほぼ同傾向のようです。射出瞳径が少し小さくなり背景が暗くなるので光害カットフィルター無しでも使えます。SCHWARZでは自宅か らだと難物だった螺旋状星雲やNGC253も容易に確認できました。 また月を見ると背後の恒星群の中に浮かんだような姿を見ることができます。月をこれほど美しく見せる望遠鏡は初めてです。


イーソス17mm(テレビュー)
見掛視界100度 アイレリーフ15mm 725g/1個

SCHWARZ150S
【44倍 2.3度 3.4mm】
見かけ視界100度は絶景です。それも双眼視ですから尚更です。ただ双眼視だと、何故か視野枠がやや目立ちます。目幅や覗く角度に注意がいるのかも知れません。 乱視がある場合はディオプトロクス(乱視補正レンズ)を装着しないと性能を発揮できません。視野の70%辺りから像が流れているように感じられます。昼間の地上風景では色収差と糸巻状の歪曲がかなり出ますが、星では気になりません。

BLANCA130EDT
【53倍 1.9度 2.5mm】
SCHWARZで気になる周辺部での像の乱れが少なくなり、さらに見事な超広視界の世界が楽しめます。射出瞳径がちょうど良いようで、背景が適度に暗くなり星雲状天体が見やすくなります。M42やM33はSCHWARZよりもディテールが見えているようです。昼間の地上風景は、色は感じないものの、歪曲が気になります。


イーソス10mm(テレビュー)
見掛視界100度 アイレリーフ15mm 499g/1個

SCHWARZ150S
【75倍 1.3度 2.0mm】
17mmよりかなり引き出した位置で合焦します。非常に相性が良いようで超広角にもかかわらず、全視野ほぼ良像です。最周辺は若干ピント位置が異なり星像が肥大しますが、余り気になりません。光害が残る空では、この位の 射出瞳径が淡い天体の検出に向くようです。お奨めの組み合わせです。

BLANCA130EDT
【90倍 1.1度 1.4mm】
こちらも視野全面で素晴らしい像です。星像がSCHWARZより小さくなるので見栄えがします。 またコントラストが非常に高くM42の暗黒星雲部が穴のように見えます。月は全景が収まりますが、同時に細部構造まで良く見えます。DEEP-SKYから惑星まで幅広く楽しめる組み合わせです。


ラジアン4mm(テレビュー)
見掛視界60度 アイレリーフ20mm 345g/1個

SCHWARZ150S
【188倍】
アイレリーフが長く覗きやすいですがさすがに過剰倍率ぎみです。月や木星を見ると青紫のハロが気になりますが、模様は意外と良く見えます。第四世代型なので合焦操作がやや大変です。クレイフォード式なら 問題ないでしょう。

BLANCA130EDT
【225倍】
ハロ・着色も無く非常にすっきりした像を結びます。対物レンズは更に高倍率に耐えそうですが、架台の制約でこの位の倍率が実用限界のようです。 木星はこの倍率でも眩しいので、笠井のムーン&スカイグローフィルター かNDフィルターを使うと模様が見やすくなります。


倍率、射出瞳径が異なるので単純な比較は難しいですが、銀ミラーのBLANCAはアルミミラーの15cmSCHWARZと同等か、それ以上の集光力があるように感じます。優秀な光学系により星像が小さく収束する上に、銀ミラーの反射率UPが効いているようです。特に淡い星雲状天体の検出ではBLANCAが勝るようです。但し銀ミラー同士で比較すれば集光力はSCHWARZが上回るかもしれません。

今回、あらためて痛感しましたが、低倍率では乱視の影響が強く出ます。(私の乱視は右目-1.5(90度) 左目-0.75(110度))アイレリーフに余裕のあるEWV32mmでは眼鏡を着用すれば概ねOKですが、イーソス17mmではテレビューのディオプトロクス(乱視補正レンズ)が必要になります。ディオプトロクスの回転位置を調整すると別物のように星が点像になり、光学系の性能が1ランク上がったように感じられます。乱視の方がアイレリーフの短いアイピースを使う場合には必需品でしょう。またFの明るいSCHWARZの方が顕著に影響が出ます。

【まとめ】
当初TOA130等他の鏡筒も検討しましたが、直焦点撮影をする予定が無いこと、架台の制約から使用上限が200倍強程度である事、新たにアイピースなどアクセサリー類を揃える必要もあった事から、コストパフォーマンスに優れるBLANCAを選択しました。実際の星を見ずに発注するのは不安もありましたが、光学系は十分満足の行くレベルで、トータルバランスに優れた組み合わせにできたと思います。
一方で、15cmF5級アクロマートの優秀さを再認識しました。DEEP-SKY中心に100倍程度までならアポ鏡筒と遜色ない性能を秘めています。アポ鏡筒とはかなり価格差がありますので、差額をアイピースやアクセサリー類、遠征費用にあてるという選択肢は十分に成り立つと思います。
今後はBLANCAをドームに設置し、SCHWARZを移動用に使う予定です。

【おまけ ドームへのルームドライヤー設置】
BLANCA導入に合わせて、連続運転できるダイキン製のルームドライヤーを取り付けました。(写真5右側に写っています) 工事費込で約4万円でした。これは横浜のY.K.さんのレポートにあった機種と同じものだと思います。構造上、室温を若干上げてしまいますが、対物レンズの温度順応に顕著な悪影響を与える程では無いようです。

ミサゴ
2010年11月9日


Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

3台目のBINOとしてBLANCA130EDT-BINOを導入してくださったミサゴさんより、さっそくリポートをいただきました。

まず、着荷時にメインのクレイフォード・フォーカサーが緩んでいたそうでしたが、うまく調整してくださいました。クレイフォード・フォーカサーは、物理実験用の円滑な4輪台車を、定盤(精密な平面)上で与圧を与えながら転がす原理ですので、構造は極めて単純明快です。  問題が生じるのは、与圧が足りなくなった時(ガタやスリップが生じる)や、定盤と車輪の間、またはドローチューブのフラット部とドライブシャフトの間に異物が混入した時(コロコロ感が出る)、あるいは、ノブからシャフトにかけて被覆した化粧パイプ等が移動してドローチューブにこすれている等の場合に限られますので、それらをチェックして原因を取り除くのは難しくありません。

今回は、この規模のBINOとしては、初めて鏡筒平行移動方式を採用してみました。 これは依頼者の方と相談の結果決定したものでしたが、私も新しい平行移動の機構を試してみたかった事情があり、速やかにその方式で合意に至りました。

初めての仕様だけに、操作性等、未知数なところがあり、得失が生じましたことには反省し、今後の改善に繋げたいと思っています。 ミサゴさんの長い経験に基く技量により、うまく使いこなしてくださっていることに感謝しています。

操作ハンドルは、今までも鏡筒固定方式のBINOで鏡筒直付けをしたことがありましたが、鏡筒平行移動方式に採用したのはこれが初めてでした。 今回はどうやら、今まで通り、CRADLEのベースプレートからロッドを延ばしてハンドルを付ける従来の方法がベターのようで、それに変更させていただく予定です。

お手持ちのアイピースとの相性等について、SCHWARZ150S-BINOとの詳細な比較をしてくださいました。アクロマートとアポクロマートの2種類のBINOについて、片方を完全に否定するのではなく、それぞれの存在意義を理解され、両方とも使いこなしておられることに感心しました。 より上の性能を目指すのが、人間のサガ(性)ではありますが、少なくともDEEP-SKY対象については、アクロマートでも十分に善戦することは、先日参加しました、双望会でも感じたことです。

また、銀ミラーの効果が口径の壁を越えることを検証くださいました。 銀ミラーの13cmがアルミミラーの15cmに匹敵もしくは凌駕するとのご報告は、他の方からも同様の感想をいただいておりますので、間違いないようです。 それは、単なる総合的な反射率の向上だけではなく、各色を平等に反射することによるコントラストの向上の効果が相乗するためだと思われます。 去る双望会の会場でも、多くの参加者の方々が異口同音にコメントしておられました。

望遠鏡の性能が良くなるにつれて、架台が課題になって行きます。 BINO製作の納期が延びるので、以前は架台の製作には手を染めないことにしていましたが、最近はそうも行かなくなって来ました。 バックオーダーの消化が滞りながら、自ら墓穴を掘っているような気もしますが、ここは加工手段を進化させながら乗り切らないといけないと思っています。

BINOは依頼者の方と一緒に作り上げて行くものだと思っています。 納品したらそれで終わりではなく、改善箇所があれば、依頼者の方と一緒に改善して行く姿勢でおりますので、今後ともよろしくお願いいたします。 ご多忙中にもかかわらず、懇切なリポートをありがとうございました