第1問
左鏡筒の像 右鏡筒の像
単体調整済みのEMSをセットした左右鏡筒を双眼に組み立て、左右のアイピースを別々に覗いたら、上図のように見えた。
これは、右鏡筒を基準に考えると、左鏡筒が( A )を向いているので、
左鏡筒を( B )向きに修正するか、右鏡筒を( C )向きに修正する必要がある。
A,B,Cに当てはまるものを以下より選択せよ。(同じ語を何度使用しても良い)
(右上、左上、右下、左下)
(初期調整時の鏡筒の平行出しの問題)
第2問
友達が自作した双眼望遠鏡を覗いたら、上図のように目標が左右にだぶって見えた。
上記の診断として最も正しいものを答えよ。
A:目幅が合っていないことが考えられる。
B:光軸が合っていないと考えられる。
C:上記A,Bのどちらも理由になり得るので、区別できない。
第3問
上記双眼望遠鏡を調整し、やっと像を合致させることが出来たが、
視野円が上図のように大きくダルマ状にずれてしまった。
上記の診断として最も正しいものを答えよ。
A:像が合致しているので、光軸は合っているが、目幅が大きく狂っている。
B:左右の光軸が、視線が寄り眼になる方向に狂っていて、これを鏡筒を振って直す場合は、左右の筒先(対物側)を開く方向に調整する必要がある。
C:左右の光軸が、視線が寄り眼になる方向に狂っていて、これを鏡筒を振って直す場合は、左右の筒先を閉じる方向に調整する必要がある。
D:左右の光軸が、視線が拡散する方向に狂っていて、これを鏡筒を振って直す場合は、左右の筒先を開く方向に調整する必要がある。
E:左右の光軸が、視線が拡散する方向に狂っていて、これを鏡筒を振って直す場合は、左右の筒先を閉じる方向に調整する必要がある。
1~3問の解答
第1問:A=左上 B=右下 C=左上
第2問:B
第3問:C
解説
ユーザーアジャストの双眼望遠鏡を使う上での最低限の常識を問題にしてみました。光学理論以前の常識ですが、アジャスタブルな双眼望遠鏡を作り始めて10年以上を経過し、基礎的な部分での誤解が誤った調整に繋がるケースが目立つことを痛感しましたので、このような問題を作成してみました。
第2問についてですが、これも90%以上の双眼初心者の方が誤解している問題です。
改めてペーパーテストにすれば、正解を出せても、現場では、特に左右の像が左右に拡散してだぶっていれば、大抵本能的に目幅を狭めてしまうものです。
”目幅が狂っていても光軸が合っていれば像はだぶらない。”という鉄則をまず覚えてください。 もう一度、「目幅と光軸は無関係!」です。
第3問については、左右の鏡筒の平行度が完璧であっても、観察者が輻輳した状態でEMSのX-Y調整をやってしまうと、同じ症状が表れるので、注意が必要です。
このような場合は、直ぐに器械を疑うのではなく、まずは自分自身の輻輳を疑ってください。
この状態で鏡筒をいじってしまって迷宮に入り込むケースがほとんどです。
ただし、無限遠で調整済みの双眼望遠鏡を至近距離に向けた時は、第3問の図の状態になるのが正常です。(adjustableな双眼は常に完璧な状態に 調整出来ますが・・・)(それと、最近は少なくなりましたが、視野環がずれた粗悪なアイピースでは、永久に視野円が重なりません。(偶然左右のアイピースが等量だけずれていれば別ですが))
調整の袋小路(迷路)に入ってしまうのは、必ずしも知識が足りないことその物ではなく、むしろ理解しているという思い込みが原因です。
第4問
木星を覗いたら、上図のように、本体はちゃんと合像するのに、 外の衛星ほど余計に上下に分離してしまった。
ウィンクをして見ると、最も左の衛星について、左鏡筒の像が下側にあることが判明した。
これについて、最も正しい診断を選択せよ。
A:これは、EMSの内蔵ミラーの角度が複雑に狂っているもので、ユーザーの手には負えないなので、MATSUMOTOに再調整を依頼すべきである。
B:左の像が右の像に対して反時計回りに回転しているので、左のEMS全体を左鏡筒の光軸の回りに少し反時計回りに回転させれば補正できる。アイピースの平行度が少し狂うが、実害は無い。
C:これは、”15cm双眼・・の使い方”で説明している、左右の像の天地方向が相対的にV字(逆八の字)傾向になっている例で、左右のEMSの対空角度を90度から91度の方向(対空角度が大きくなる方向)に微調整することで補正できる。
この時、左右のアイピーススリーブの平行度はキープすることが出来る。
D:基本的にはCの通りだが、左右の像の倒れのV字傾向が、左右対称的でなく、片方のみが余計に倒れているような場合は、像の倒れは修正できても、左右のアイピーススリーブの平行度はキープすることが出来ない。
第4問の解答
正解=C
解説
本問は、やや上級の問題です。 Bの方法でも像の回転を補正できますが、正しいのはCです。
調整量がわずかなので、最初はどちらに調整したら良いか迷うことと思いますが、こういう場合は、 常に極端なモデルを想定すると指針が分かります。”15cm双眼望遠鏡の使い方”の 中の”EMSの接続アングルの調整”の図を見ながらやれば簡単に出来るはずです。
左右の像の傾きが対称的でなくても、相対誤差を補正することのみに集中すれば良いのです。
この例に限らず、調整装置が連続的に双方向に機能し、誤差を逆傾向に持って来ることが出来れば、 必ずその中間に存在する正解に持って来ることが出来るということです。
ここでご注意いただきたいのは、未熟な観察者が極端に輻輳(寄り眼)した状態で右のEMSの X-Y調整を極端に操作して合像させますと、この状態が起きます。他項でも説明していますように、 このX-Y調整機構は微分的に成り立つもので、厳密には視野を回転させながら弧状に像を動かすので、 誤った使用は禁物です。
トラブルが発生した場合には、その診断に確信が持て、調整の指針が分かっていることを 前提にして調整してください。 指針が分からずにやみくもに各所をいじくり回すのは、 道に迷った人が、地図上の自分の位置が分からないのに動き回るのと同じです。
この調整で迷宮に入り込み、外国からEMS接眼部一式を再調整のために送り返して 来た方もありました。
(現行仕様のEMSには、XYノブにリミッターを装備していますので、上記のような迷宮に入り込む心配は解消しています。)