Optical Common sense Quiz-2-2-answer / 光学常識クイズ 第二段-2-解説

 まず、凸レンズによる実物体の実像は、常に倒立ですから、前問の正立像(ブルーの矢印)は全て不正解ということになります。
また、もし光軸に目盛りが打ってなくて、物点位置も規定されてなければ、A も I も正解になります。Gも紛らわしいですが、Gの像位置がQよりもレンズに近いので、Qよりも像が小さくないとおかしいですね。
 しかし、レンズの焦点位置を明記していますので、正解は B と E に限られるわけです。
ここで、(近軸の)光路図についての考え方ですが、以前にも問題にしましたように、レンズ前に障害物があっても、無い物として描いて、全く差支えありません。あるいは、物の高さがレンズより高くても、レンズ面を延長して作図イメージすれば良いのです。近軸理論ではあっても、作図まで敢えて細く描く必要はないのです。

 次に数式で考えてみます。
物側、像側の焦点を基準にすると、上の図では、
物点距離=-f、像点距離= f ですから、その積=-f`^2となって、ニュートンの公式を満たします。

 下の図では、
物点距離=-2f、像点距離= (1/2)f ですから、その積=-f`^2 となって、これもニュートンの公式を満たすわけです。

Optical Common sense Quiz-2-1-answer / 光学常識クイズ 第二段-1-解説

A(正解)と答えた方が多かったと思いますが、意外に天文マニアで C と答えた方も少なくなかったはずです。なぜなら、ニュートン反射の斜鏡のイメージがあるからです。多分、密かに C と答えてしまった方は、図の右のようなイメージがあったのだと思います。
 自然界ではほぼないのですが、右のように凸レンズ(や凹面鏡)でBに収斂される光束がミラー面に投入されれば、に実像を結びます。は虚物点で、はその実像になります。
 平面鏡単体では、光束を収斂させるパワーがないので、像は常に虚像になり、その存在位置は常にミラー面より向こう側になります。これは、日々、姿見の鏡で体験されているはずです。像は、鏡面に対して、常に反対の対称位置に出来ます。観察者の眼の位置は無関係です。像点が決まれば、前の鏡は無い物として考えれば良いわけです。
 また、”物”と”像”の相互、互換性も極めて重要なポイントです。
 O から発する無数の光線は全て A から発したように反射する。そして、A をめがけて収斂する全ての光線は、O に実像を作ります。

  どうでしょう? このモデルで、物と像の関係がより明瞭にご理解いただけたら非常に幸いです。

Optical Common sense Quiz-2 / 光学常識クイズ 第二段-1

根深い部分で誤解が蔓延しているようなので、さらに掘り下げて、仕切り直しです。

問1:Oは実物点とします。O→P→Q は、Oから発した光線を代表する1本を描いたもので、Qを経過するものとします。(Pは反射点)
 Oの像点として、正しい物を A, B, C から選んでください。

The EYE, the cause of misunderstandings ! / ”眼”こそ誤解の元凶!

 仕事柄、日々眼に関する質問を受けるが、「乱視って、どんな目ですか?」という質問は来ても、近視や正視のことを質問する方はいなかった。酷いのは、「視力0.9以下が近視でしょう?」とか、「遠くが見えないのが近視で、遠くが見えすぎるのが遠視でしょう?」というのもある。
  視力にからめて理解しようとするのが間違いで、上記の屈折異常と視力は無関係なのです。
 ちょっと詳しい人は、平行光線が眼底の手前や向こうで結像する屈折異常のモデル図を覚えておられるかも知れませんが、その手の光路図を100年眺めても、屈折異常の定量的な理解には至りません。
 網膜の中心窩(視線の中心)から発して眼外に射出する光束がどこで焦点を結ぶか?を考えることで、矯正するためのレンズ度数が特定できるわけです。若い水晶体は容易に膨らむ(調節する)ので、屈折異常も正視も、全て、水晶体が調節を完全に解除した状態であることが前提です。
 近視は、中心窩から発した光束が眼前の有限距離に結像する眼です。その点のことを遠点と言います。(以下、省略)
 その遠点を焦点とする凹レンズを眼前に装着させれば、その近視は完全矯正できるわけです。

眼底(中心窩)から発した光束は、眼球内の光学エレメント(硝子体、水晶体、房水、角膜)で収斂されて眼外に出るわけですが、近視は屈折力が過剰なために、平行を通り越して余計に収斂して、有限距離に結像してしまうわけです。

眼の屈折異常を視力にからめて理解(誤解)している方にとっては、遠視は難解のようです。しかし、眼底(中心窩)から逆進する光路をイメージすると、明瞭に理解することが出来ます。
 遠視は、さきほどの近視とは逆で、眼の屈折系による収斂力が足りないため、眼の外に出る光束が平行光線になり切らずに、やや発散した光束で出て行くものです。ピントが合わない点では近視と同じなのですが、若い眼は容易に調節して、上の正視に偽装できる(もちろん無意識、自律的に)ため、当人はほぼ自覚せず、周囲にも分からないことが多いわけです。
 近視の場合は、偽装する手立てがない(水晶体は膨れるのが専門)ので、矯正を放置していても疲れることは少ないのですが、割とよく見える遠視の方が、常に偽装しているので疲れることが多いわけです。特に、幼時の遠視を放置するといけないのは、過度の偽装(調節)をする際に、脳が輻輳(より眼にする)の信号を出し、複視を避けるために、効き目でない方の情報を遮断し、いずれその遮断された眼は弱視になって、成長後には復帰しなくなるからです。そうした事例にずっとかかわって来ましたが、それを正確に理解しているご家族はほぼ皆無でした。「何年眼科に通っても、遠視が治らない!」と言われる保護者の方が多くいました。
 遠視のメガネは遠視を治すためではなく、それを放置することによる弱視化を防ぐものなのです。

 まとめますと、屈折異常というのは、遠点が前方(もしくは後方)の無限遠以外にある眼のことです。近視は、眼前の有限距離。 遠視は頭の後ろの有限距離です。頭の後ろに遠点、というのは、初心者には理解し難いかも分かりませんね。眼の眼底より後ろに向かう収斂光線でないと網膜に結像しない眼です。そういう収斂光線は自然界には存在しませんから、無調節では、遠視は遠くも見えず、近くはさらに見にくい眼だと言えます。(若いと偽装(調節)するので、自覚はないのが普通)
 レンズによる矯正は、その遠点の虚像を、眼前のレンズで前方無限遠に作ってやることです。

 ”老眼” を屈折異常と混同してはいけませんね。身長と体重を混同するくらいに的が外れています。大人が、体重が2kg増えたから、身長も2cm増えただろう!”と思うくらいの誤解です。

 老眼は、水晶体が十分に膨らまなくなることなので、水晶体が一番薄い状態(無調節状態)での屈折状態を議論する屈折異常とは次元が異なるわけです。

 つまり、正視も、近視も、遠視も老眼になります。近視の方が、「俺はメガネなしで近くがばっちり見える!」と自慢するのは、単なるトリックで、遠方用のメガネを掛けたら、たちまち化けの皮が剥げます。凹レンズである近視メガネを外す行為は、それを打ち消す凸レンズをメガネの上に装用するのと同値だからです。
 遠視の方は、一番悲惨で、遠方矯正用の基本度数の凸レンズに、老眼分の凸を加算しないといけないため、近用メガネは凸+凸の分厚い凸となるわけです。
 (適当な度数の)近視の方は、基本の凹レンズの上に凸レンズを加算する考え方なので、見かけ上打ち消されて0(ゼロ)度数で近くが快適に見えることが多いわけです。


 

松本の光学講座;2024-17 /Newton’s Formula/ニュートンの公式

  準備運動ばかりやっている間に、桟敷席がほぼ空になってしまったことを実感しています。今回は、ご理解いただくというよりも、天文マニアが日々体験しておられて、感心があるはずの事象についてご説明します。意義が分かれば、基礎から理解しようとするモチベーションも高まるかと思うからです。
 望遠鏡を地上目標に向けた時、近い目標ほどピントが外(手前)に出て来る現象は、天文マニアなら、もはや空気を吸うように、日々実感しておられるはずです。
 「自室の窓からはせいぜい100mくらいまでの目標しか見られないが、無限遠の対象でのピント位置との差を把握したい。」
 ↑こんなご経験が何度かあったはずです。バックフォーカスがシビアな場合には、これは深刻な問題となりますね。上図で言うと、t’ が知りたいわけです。 具体例として、焦点距離1mで、目標距離 (t+1)が101mのとき、t’ = 0.01m =1cmとなります。

 レンズを基点にした結像公式  (1/s’ – 1/s = 1/f )  は皆さんよくご存じかと思いますが、2つの焦点(F,F’;物側、像側)を基点にした結像公式(ニュートンの公式)もあります。
上図によると、
( t・t’ = – f^2 ) というのが、ニュートンの結像公式です。右辺に( – )が付いているのは、t<0とする約束のためです。(絶対値だけ問題にするのであれば、( – )は省いても良いでしょう。)
ニュートンの公式は、一般的な結像公式 (1/s’ – 1/s = 1/f ) s’= f + t’; s= -f + t を代入して整理すれば得られますが、計算に慣れていない方は面倒かも分かりません。
 では、2つの焦点(F,F’)面を基点にした 焦点マトリックス と、物体面と像面 (S,S’) を基点にした 物像マトリックス を求めてみましょう。

焦点基準(F-F’)のマトリックスからでもニュートンの公式は簡単に導出できますが、下の物像マトリックスではより簡単に導出できます。
以前にも、申しましたように、どんなシステムマトリックスも、行列式の値=1 ですので、
t ・(-t’)・Φ^2 = 1 → t ・t’ = -1/ Φ^2 = – f^2  となります。
 また、物像マトリックスの右下の成分=横倍率 M で、その対角成分=1/M となることは以前にもご説明しましたが、これも注目すべき点です。左下の成分=常に0です。

 行列の掛け算は、結合法則{ A(BC)=(AB)C }は成り立ちますが、交換法則は成り立ちません { ABC ≠ CAB }ので、ご注意ください。
 それから、左から右に掛けていくという行列の計算の事情から、各屈折や移行を代表する要素行列の並び順が実際の光線の進行方向とは逆になります。
 言い換えますと、光線は 左 → 右 ですが、、該当する要素行列は 右 → 左、と、全く逆の並びになりますので、混乱しないようにお願いします。

 最後に、t,t’ の関係を、焦点距離1mとして、グラフにしてみました。目盛りの単位=1mです。
原点(座標軸交点)が焦点になります。ただし、t’ 軸については、一般的な焦点(像側)であり、t 軸については、物側焦点となるので、同じ原点であっても全く異なる点を基点としています。”ニュートンの公式”の最初の図を参照しながら見ていただくと、理解しやすいかと思います。

 左上(第2象限)のグラフは、望遠鏡対物ではほぼ使用しない領域です。t>0ということは、物体が対物レンズの物側焦点より手前(焦点距離1mだと、対物レンズから1m以内)なので、あり得ませんね。しかし、理論的にはあり得るわけで、その領域に入ると倒立実像ではなくて、遠い前方に正立虚像が出来ます。つまり、物体が1m(焦点距離)以内に来ると、対物レンズはルーペになるわけです。

 ということで、天文マニアにとって、関係あるのは、右下(第4象限)のグラフで、しかも、天体望遠鏡で10m以内の目標を見ることはまずないので、切り取ったグラフの枠外、ずっと下側で使うことになります。グラフはもはや曲線というよりも直線に近くなりますね。
 | t |=t’ (本例では1m)となる点がありますね。それぞれが、物側焦点、像側焦点から焦点距離分離れた点に位置するときです。
 ですから、レンズを基点にすると、それからの距離の絶対値が 2f となる点です。
 その時、物と像の大きさが全く同じになります。
 これを応用すれば、未知の光学系の焦点距離を非破壊(非分解)検査することが出来ます。

松本の光学講座;2024-16/準備運動-6/For those who have allergies to Matrix/行列に拒絶反応する方のために・・・・

上の連立方程式を、行列で表記すると、下の式になります。
このくらいの連立方程式ですと、そのまま暗算でも出来ますが、行列を使用するメリットは、計り知れないものがあります。
 2行2列までの行列の演算はすぐに覚えられますので、どうか毛嫌いしないで、昔の教科書を引っ張りだすなり、ネットで検索するなりして、復習してください。

松本の光学講座;2024-15, 準備運動-5/ Paraxial rays and the ideal imaging/近軸結像と理想結像/α’=α+hΦ

近軸光線の屈折について、基礎からご説明します。
近軸とは、光軸に極限まで近付いた光線のことで、理想的な結像をすることは経験的にも分かっていますが、そのままでは作図も考察も出来ないため、常に高さ(h)のある光線を想定することになります。
 言い換えますと、近軸光線追跡は、完全無収差の光学系による理想結像をシミュレートするものです。

 上図のように、平行光線 A, B, C が全て F に結像するのが、理想結像です。
今回も、レンズは厚みが無視できる、度数Φ=+1.0(焦点距離=1.0m)の凸レンズとします。
Φ=1.0Dとしたのは、光線傾角 tangent の分母が常に1になり、傾角要素のαが、α=tanα=h となって、長さの要素として可視化できるためです。(αは、下向きが+で、上向きがーです。)

 入射光線の傾角 α について、パワーΦの屈折面を高さ h で通過後に α’ となるとすると、
α’=α+hΦ (Φはレンズの度数、1/f ) となることについて、図に則してご説明します。
P2で光軸に平行に入射する光線 C は、傾角α=0,h=h2, Φ=1, を、それぞれ上式に代入すると、
α’=0+h2 = h2 となり、焦点 F でX軸と交わります。
光線 B も同様に計算できます。(α’=h1)

 光線は、屈折点Pで、レンズの度数と、光軸からの屈折点の高さに比例した角度で折れ曲がるということです。(α=tanα で定義された屈折角度) 上例は、入射角 α=0ですが、α の値とは無関係に、屈折面に突入する高さhでの光線の折曲がり角度(α=tanα で定義された屈折角度)は一定なのです。

 先ほどは、入射角 α=0 の特殊なモデルでご紹介しましたが、上図のようなケースも、全く同様にご説明できます。

 入射光線 B についてご説明しますと、P1で屈折しない場合は、P1’に到達しますが、屈折により、P1’→Fに移動するわけです。
 お気付きと思いますが、αもα’も、通常の角度ではなく、tanα で定義されているところが重要です。
この図でも、α’=α+hΦ となっていることがお分かりになると思います。

 理想の薄レンズに入射する光線は、「レンズ上の入射点の高さ h とレンズの度数 Φ に比例した角度で曲がり、それは入射光線の傾角に依存しない。」—ということです。(ただし、角度は下向き “tangent”で定義された値。)
* h の初期値には、全く制限がなく、どんな数字を入れてもかまいません。(計算に好都合な初期値で良い);  

繰り返しになりますが、
  α’=α+hΦ
  h’= h
これを行列表記すると、こうなります。↓

また、2つの屈折面に挟まれた空間は屈折せずに直進するため、αは変化せず、h のみが変化します。
通過間隔(光の進行方向=+)= t とすると、
α’=α
h’= h – αt
これを行列で表記すると、こうなります。

移行マトリックス

 どんなに複雑に見える光学系も、屈折マトリックスと移行マトリックスを次々に掛け合わせることで、その全系のシステムマトリックスが得られるわけです。結果として得られたシステムマトリックスの行列式の値も1です。

*一見、通常の平面上の幾何学的ベクトルと混同し勝ちですが、そうではありません。
  α、α’はx座標ではなく、その光線の基点に於ける傾角(特別に定義された)です。