昨夕放送のNHKのトリセツショー”楽に見えるメガネ”を、家内に促されて見たが、
酷いものだった。
この手の番組で、眼の構造や生理を正しく紹介したものは未だかつて見たことがなく、
落胆させられるのが分かっていたので、私はまず視ないのだけど、今回も、やっぱりか!という印象しかなかった。
思い出すだけで腹が立つので、早く切り上げたい。
まずは、毛様体は水晶体を直接抱き込んでいるのではない。
番組の立体モデルでは、毛様体が水晶体を周囲から懸命に絞りこんで膨らませている様子が描かれ、
誤解を助長していた。
毛様体筋が水晶体を絞り込んで力ずくで膨らませているイメージは、99%の方が持っている誤ったイメージで、昨夕のNHKによる説明は、その誤解をさらに定着させるもので、許しがたい。
毛様体筋は、図のように輪ゴム状の筋肉で、肛門の括約筋と同じだ。リラックスした状態では、輪ゴム(毛様体筋)の直径は大きくなり、結果として、水晶体を周囲から引っ張るので、水晶体は薄くなる。
緊張すると、輪ゴム(毛様体筋)の直径が小さくなるので、水晶体はチン氏帯を介して毛様体に引っぱられていた張力から解放されることで、自らの元の厚い形状を弾力的に取り戻す。水晶体自体は意識の無い器官であり、チン氏帯で引っ張られることでその時の形状(厚み)が決まっているに過ぎない。
もう一度まとめておくと、水晶体は決して頑張って脹れているのではなく、元来、膨らんでいる本来の形状を周囲の毛様体のリラックス度に応じてチン氏帯に引っぱられて一定の厚さを保っているということです。
水晶体が加齢で変質し、弾力性を失って来ると、毛様体筋の努力が徒労に終わって、希望値ほどには膨らんでくれなくなるのが、いわゆる老視(老眼)の状態なのです。 従って、毛様体筋に活力を与えて老視(老眼)の症状を改善させると謳っている目薬なんかは、前提から間違っていて、限りなく”詐欺”に近いものだと言えるわけです。
番組では、「現代人は、遠く(5m以上)よりも近くを見ている時間が圧倒的に長いから、無限遠設定よりも、近めに焦点を合わせたメガネの方が楽ですよ。」という趣旨でしたが、果たして、そうなのか?
番組では、年齢のことを全く言わず、一律に上記の診断を下しているところがおかしい。
番組の主旨を言い換えると、「年齢に関係なく、メガネは無限遠に合わせるよりも、適当な有限距離に合わせた方が楽ですよ。」
と言っていることになる。 これは、無限遠に合わせたメガネに対して、若干の+度数(凸レンズ)を装用した方が生活が楽になりますよ。と言っているのと同値である。
それを仮に2mとすると+0.50D, 1mなら +1.0D ということになる。 これは、実は私が常日頃から、これから白内障の手術を予定している方に推奨している、眼内レンズの度数と被る。その意味では、私と同意見のようにも思えるが、これから白内障の手術を受ける予定の70歳以上の老人と、十代、二十代の若者とに同じ処方が適用できるわけがない。白内障手術で濁った水晶体の代わりに挿入する眼内レンズは生の水晶体のように伸縮せず、固定しているために、明視距離に対する配慮が特別に必要になるわけだ。
調節力が十分に旺盛な若者に対して、わざわざ調節を介助してやる必要はないどころか、有害でしかない。
私たちの眼は距離に応じて調節すると同時に、連動して自律的に目標に輻輳するようになっている。
調節だけ解放して、輻輳は今まで通りにやりなさい、という信号を出さないといけない脳は疲れる。
若い正視の人(メガネ不装用の人)に、「あなたは近くを見ることが多いので、常にS+0.5Dくらいの凸レンズのメガネを装用しなさい。」と言っているのと同じで、これは、足腰に全く問題のない若者に対して、筋力アシストの装具を着せて、「どう?いつもより楽でしょう?」と言っているのと、何ら変わらない。