
数十年のキャリアの天文マニアさん、自他が認める望遠鏡のオーソリティで、「今更聞けない、射出瞳の意味!」状態になっていませんか? スルーするより、分かった方がずっと幸せになりますよ!
望遠鏡って凄いですね。燃料もバッテリーも食わずに、黙々と光年単位の時空を超えさせてくれる。しかも、超働き者で、直接頼んでいない仕事も、勝手にやってくれています。
赤い線が、皆さんも常に意識しているはずの、望遠鏡のメインの仕事。対物レンズの焦点をアイピースが無限遠虚像にして、長時間楽に覗けるようにしています。
で、アイピースには、もう一つの大きな役目があります。そのサブの仕事を、濃紺の線(時に黒く見えるかも?)で表しました。
それは、対物レンズ(枠)の縮小実像をアイピースの手前に作ってくれることです。口径と倍率さえ適正に選べば、あの大きな対物レンズを通過する光線を全て眼内に投入させることが出来ます。(ガリレオ式望遠鏡の致命的な弱点は、射出瞳が実像ではなく、常にアイレンズの向こう側の虚像だということです。)
射出瞳は、アイピースの焦点距離が短いほど、かつ望遠鏡の焦点距離が長いほど、アイピースの眼側焦点近くに出来ますが、40mmとかの長焦点のアイピースを短焦点の望遠鏡に使用する際は、射出瞳位置とアイピースの眼側焦点の誤差が無視できないこと、上の光路図からご納得いただけると思います。対物の焦点距離が短いほど、アイレリーフが長くなるということです。
「それが何の役に立つのかさっぱり分からん!」と友人から言われ続けていますが、望遠鏡の基礎的なメカニズム、分かった方が百倍楽しくなりますよ!
40mmのアイピースが1枚の薄レンズなら、アイレリーフは40mm期待できますが、実際は、諸収差の補正のために多数のレンズで構成されていて、主点位置の関係で、長焦点であってもアイレリーフを20mm以上確保するには、それなりの設計努力を要します。
一方で、焦点距離が10mm以下でもアイレリーフを20mm以上確保しているアイピースがあります。これはいかに?
それも、主点位置のマジックで、眼側主点がアイレンズ頂点よりも手前の空間に出せれば可能なわけです。このように、”主点”を理解することも、望遠鏡やカメラの基礎を理解するためには必須なんです。
また、主点を結像(虚像ですが)してくれているのも、レンズ系の大きな仕事であり、これも、文句を言わずに陰でこなしてくれています。射出瞳は望遠鏡対物のアイピースによる実像。アイピースの両主点は、 ”等価な薄レンズの中心” に相当する ”虚” の点 のペアで、その点を含んで光軸に垂直な面が主面。第1主面が虚物点が存在する虚物面で、第2主面が第1主面の虚像面で、両虚像面同士の横倍率は常に+1の共役面です。(近軸光学で言う横とは、光軸に垂直な方向(つまり縦方向)のことで、縦の収差とか言う時の”縦”とは、光軸方法(横方向^^:)のことなので、光学初心者の方は、その点の注意は必要ですね。)
今からでも遅くないので、「それを知らなくて困ったことは一度もない!」なんて言わずに、目を開いてみてはいかがでしょう?
お友達にもいるでしょう?「スマホもPCも持たない主義だが、一度も困ったことはない!」と言う頑固者。 困るはずないよね! 知らない世界なんだから。新な事を学ぶために、自分のバイアスを否定したくない、という潜在的に不健康な思いがあるのだろうね。
私はほぼ毎日、世界中の天文マニアからあらゆる質問を受けますが、中には、自分のバイアスの追認が欲しいのか? 真摯にバイアスを捨てて白紙になって話を聴く気があるのか?と思わせられることがある。
最後に、射出瞳が対物レンズの実像であることを疑う人は、対物レンズの端にマスキングテープ等でマーキングして、最低倍率のアイピースをセットして、眼をアイピースから離して射出瞳を見てみてください。ちゃんと射出瞳の反対の端にマーキングが見え、対物レンズの倒立実像を見ていることに納得いただけるはずです。
(「天文マニアの全員が光路計算の達人になれ!」なんてことは、一言も言うつもりは当初からありません。ただ、概念的なことだけでも知っておく(”理解する”じゃない)、つまり受け入れていただけば、瞬時にハッピーになるのです。自分の引き出しのバイアスに自信がある方は、素直に受け入れられないようですね。
近軸追跡に行列を導入したのは、私ではなく、ずっと優秀な先人です。ある(自称インテリ)方に、「それ(行列で表現できること)は、間違っていると思う!」と言われましたが、数十年以上前に確立した方法なんです。^^:
私が行列の方法をまとめ直したのは、市井の専門書の角度や距離の符号の取り方が、著者の流儀によってバラバラで、望遠鏡マニアの読者は混乱するに違いないと思ったからです。望遠鏡マニアが違和感を持たないような符号(つまり角度や長さの正方向)の取り方を採用しています。だから、他の書物と比べて、公式が一見微妙に異なっているように見えると思いますが、そういう事情なのでご安心ください。)