FL80S-BINO

  EMS-M ユーザーの坂本です。

  私は鳥の観察に松本式正立双眼鏡を使用しております。

  数キロ先の遠方にいる鳥の観察のため、かねてから双眼望遠鏡の必要性を感 じ、以下の3条件を兼ね備えた機種を探していました。・当然、正立像であること。
・アポクロマート屈折で微細な部分まで観察可能なこと。
・アイピース交換式で、超広角アイピースが使用できること。

  しかし、都合良く思うような製品がなかったので、天体望遠鏡を利用して大型 双眼鏡を自分で組むことにしました。

 松本氏のホームページは当時から光軸調整について大変参考にさせていただ き、EMSも使ってみたいとは思っていたのですが、動き回る動物を観察する のに、直角対空型がどの程度使えるのか不安があったので、ポロプリズムを用 いて組んでみることにしました。

  ポロ型地上双眼鏡でまずまずの成果は得られたのですが、光軸を追い込んでい くと、悩ましい問題が発生してしまいました。光軸調整装置の微動にともなう ガタをなくそうとすると微動装置が大型になり、逆にコンパクトにまとめよう とすると脆弱になってしまいます。シフターなどの粗動装置では、アイピース 交換時の微妙な光軸のずれには対処できません。やはりEMSしかないなと思 いました。

 直角対空型に少々の不安を残しながら、松本氏にご相談のメールをお送りしま した。氏は天体門外漢の私にも懇切丁寧にアドバイスをしていただき、「人間 の体は下を向くように出来ている」という言葉でEMSの購入に踏み切り、氏 の適切なアドバイスのもと、松本式FL80S-BINOが組上がりました。架台は業務用 のビデオ撮影用三脚を使用しております。

 使用してみると、やはり視界のクリアーさと鋭さが印象的です。プリズムの影 響がないということはこれほど違うのかと、改めて実感します。直視の単眼倒 立像である程度わかっていたつもりですが、双眼・立体視になるとその差は歴 然としており、知人の言葉を借りれば「いつまでも見ていたい」見え具合で す。直角対空も対象を導入してしまえば気にならず、顕微鏡を見ている感覚で 楽に観察が出来ます。

 超広角アイピースが使用できるのも、市販品にはない大きな魅力です。私は超 広角アイピースとして笠井さん扱いのツァイス12.5mm 90°を使用(合焦の問 題でアダプターを工夫しましたが)しておりますが、約50倍、見かけ視界90° の双眼視は快感です。

 EMSの光軸調整機構は非常にコンパクトかつ合理的で、機材全体の軽量化と 剛性の向上を図ることが出来ました。アイピース交換時の微妙な光軸調整も可 能なので、高倍率をかけることも容易です。プリズム型の地上望遠鏡では80mm クラスのフローライト機種でも60倍程度が限界のように思いますが、EMSマ シンでは100倍程度でも暗くはなるものの、像自体は十分実用に耐えると思いま す。遠方の対象や、羽毛の1枚1枚といった細かい部分の観察を望まれるバー ドウォッチャーにも是非お勧めしたいものです。

 天体観測に使用した際の性能は、先輩のユーザーの方々が詳しくレポートされ ている通りです。

 動物については、群をなしている対象の観察が魅力的です。カモやシギ・チド リ類の群を80°オーバーの超広角でみると、とても楽しいものです。立体感が あり、クリアーな像が目前に広がり、臨場感も抜群です。

 双眼視は見ていて疲れないので、遠方に飛翔する鳥類を見つけやすく、シャー プな像なので、シーイングがよければトビくらいの大きさであれば5キロくら い離れていても、しっかり形が分かります。通常の機材ではとっつきにくい海 鳥も楽に観察できそうです。今から秋のワシタカ渡りのシーズンが楽しみで す。超広角で見るタカ柱はさぞかしおもしろいことでしょう。

 なお、私は双眼鏡をファインダー代わりに取り付け観察しています。直角対空 型による導入の難しさも解決されます。

 今は目幅調整機構がありませんが、いずれは平行移動台座の作製にも挑戦し、 目幅の異なる方にもEMSマシンで見る世界のすばらしさを体験していただけ るようになればと思います。天体関係のアイピースが使用できるのでデジタル カメラでの撮影も手軽です。最近流行のデジスコ(デジタルカメラ+フィール ドスコープ)による写真撮影を考えられている野鳥や動物好きの皆様にも、E MSは強力なパートナーとなると思います。

 最後に、素晴らしい機材と世界を提供してくださった松本龍郎氏に感謝いたし ます。

坂本 泰隆
Yasutaka Sakamoto

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

  坂本さんは、20枚以上の美しい写真を送ってくださり、本頁に掲載させていただく分を 選別するのに、随分と迷いました。 広大な大自然を背景に光に満ち溢れた写真集に、自分が引き込まれて行くのを感じました。
  天文マニアは、天体望遠鏡は夜、星を見る道具だと思い勝ちですが、一番身近な天体である美しい地球を眺めないのは、 実にもったいないことであることを坂本さんに改めて教えられた思いです。

  この度の坂本さんの投稿は、バードウォッチャーの方の初めての投稿であることと、 EMS-M(双眼用カスタム仕様)を使用した自作例である点で、非常に新鮮で、新たにご参考にして いただく部分が多いと思います。

  EMS-MはEMS-LとEMS-Sの間にあって、見過ごされやすいようですが、 今回の坂本さんのリポートを機会に、光路長が短く、30mm60度クラスの 2インチアイピースまで使用できるEMS-Mの存在意義を見直してみていただけますと幸いです。

 坂本さんのFL80S-BINOは、外観が美しいばかりでなく、取手、架台、双眼鏡ファインダー等が 合理的にコーディネイトされていることが写真から見て取れます。 また、同時にいただいたメールから、「左右の視野環が完璧に合致した。」 とのことで、組立も完全であることが分かります。事前にポロプリズムで双眼の自作を経験されていたことも プラスに貢献したのだと推察します。

 90度対空が地上風景観察に支障が無いことも、坂本さんが実証してくださいました。  これには、90度対空型に相応しい架台高というものがあるのですが、坂本さんがこれを良く理解されて いることが分かります。  「屈折望遠鏡は長い脚に載せるもの。」という固定観念を持つ方が多いように見受けますが、 直視や45度対空同様に長い(高い)脚に載せてしまっては、90度対空のメリットが活かせません。

 坂本さんのFL80S-BINOは、非常に軽量、コンパクトで機動性に富んでいるようですので、 ぜひ、天体を含めた観測の続報をお願いしたいものです。