BLANCA-80SED-BINO by Mr.Ebi

今年3月に製作していただいた13cmF7APO-BINOをメインに、2年前より使用してきた10cmF5-BINOをサブに使用していますが、以前から小型軽量でバードウォッチングにも使用できる機動力のあるBINOが欲しかったため、8cmF7APO鏡筒を使ったBINOを組み立ててみました。ボール盤やタップ立てなどの工具を使用していないので製作ではなく組み立てです。すでに手元にある機材や部品を利用してコスト減を最優先にと、完全に割り切った考えに基づいての製作ですので他人にお勧めできるものではありませんが、工作機械無しでもBINOを製作できた例として報告いたします。

☆製作の動機と鏡筒の選択
13cmF7APO-BINOは当然として10cmF5-BINOもHF経緯台がかさばるため、小型軽量、かつそこそこの光学性能を持ったサブ機が欲しいと常々考えていました。スペックに必要な条件は、晴れるかどうかあやしい時に念のため持ち出すことができる機動力とベランダや玄関先での月や惑星のちょい見に使える光学性能の両立。さらには秋から冬のシーズンにはオオヒシクイの越冬地でのバードウォッチングにも使用できる性能です。これらの条件をクリアするバランスの取れた鏡筒が8cmクラスのAPOと考え、価格的にリーズナブルな笠井トレーディングのBLANCA-80SEDを選択しました。

☆コンセプト
以前から7cmや10cmクラスの対空双眼鏡をギア式エレベーター付きのカメラ三脚とビデオ雲台で運用しており、その使いやすさに慣れていたため同じくカメラ三脚とビデオ雲台での運用を絶対条件としました。また完全なサブ機としての使用であり、自分専用のBINOとするので、使い勝手や堅牢性、汎用性は二の次とし、徹底的にコストを抑えること、簡単に製作できる(工作機械を使わない)こと、そして気軽に持ち出せる機動性を第一義としました。

⭐︎製作(組立て)に到るまで
13cmF7APO-BINOと10cmF5-BINOを使用してわかったのですが、BINOの製作の根本は極めてシンプルです。松本さんの販売するEMSのLRペアを使用すれば、2本の鏡筒をキッチリ上下左右を平行に揃えて固定するだけでBINOが出来上がるのです。特にヘリコイドの目幅調整機能を備えたEMSペアであれば、90度正立機能と目幅調整機能、そして光軸調整機能を内包しているために、それだけでBINOを形成する要素を満たしています。つまり適当なアルミプレートに穴を開けて(きちんと平行になるように)鏡筒を2本固定してEMSペアを取り付ければBINOが出来上がるわけです。なんとシンプルで素晴らしいことでしょう!

ところが現実にはいくつかクリアしなければならない課題が立ちはだかります。
ざっと思いついたところで、以下のような事柄が挙げられると思います。

①鏡筒のバックフォーカス不足
市販の状態でのバックフォーカスがBINOの作成に不十分な鏡筒は当然として、それ以外に2本の鏡筒の間隔=Dが広がると光路長が伸びるため、鏡筒のバックフォーカスが不足するケースが発生します。これは鏡筒バンドの形状などによりDを広げざる得ない場合や、目幅調整用のヘリコイドを装着した場合にその可能性が高くなります。実際松本さんの過去の製作状況を見てもバックフォーカス不足の事例が多く、市販の鏡筒、部品等に加工を施さずに済む組み合わせを見つけるのは大変そうです。

②ヘリコイドを使用しないEMSペアを使用した場合には、目幅調整を鏡筒移動方式にするわけですが、その機構を考える必要があります。

③鏡筒の架台への搭載方法
市販品をベースに考えると、ビクセンのHF経緯台、各種経緯台+L型プレート、ビデオ用大型雲台などが考えられますが、いずれにしろ鏡筒の固定と経緯台との組み合わせ方法に悩まされます。

今回の製作に要する構成部品ですが、EMSは手元にEMS-UMのペアが1組余っていたのでそれを使用することに、そして鏡筒は前述の通りBLANCA-80SEDを選択しました。また、機動性を重視したためビデオ雲台+エレベーター付き大型カメラ三脚を使用することも決めていましたので、この組み合わせをベースに②の問題をクリアした上で、できる限り軽量シンプルなシステムにするすることを念頭に部品集めを考えました。ちなみに私のEMS-UMペアは2インチアダプター付きなので31.7EP使用時の光路長は本来138mmですが、2インチアダプターを52.5mmに短縮したもの(標準はおそらく58mm)を使用しているため、光路長は133mm程度になっていると思われます。従ってBLANCA-80SEDのバックフォーカスは145mmですので①の問題はクリアしている計算です。

⭐︎製作(組立て)
最初に鏡筒の固定と目幅調整機構ですが、松本さんのサイトにいくつかのアルカスイスのプレートとクイックリリースクランプを組み合わせての事例がありましたので、概ねこれに類似した方向を模索していました。そんな折、ヤフオク!で非常に安価な(1万円少々、原稿執筆時も出品されています)部品が目に留まりました。ビクセン規格のアリガタプレートにスライド式の台座が2個付いており、この価格ならダメ元で試す価値ありと思い購入したのですが、結果的に問題ありませんでした。おかげで低コストの目的は十分達せられました。架台は手元にマンフロット503HDV(ビデオ雲台)と475Bアルミ三脚が余っていましたので、鏡筒を載せたこのアリガタプレートを503HDVのプレートに固定するだけで完成してしまったのです。

手順ですが、まずBLANCA-80SED付属のアリガタ金具をスライド式台座にネジ2本で固定します。幸いBLANCAのアリガタ金具に適度な間隔のネジ穴が2本並んでおり、加工無しでスライド台座に固定できました。あとは鏡筒の載ったスライド台座をアリガタプレートに搭載するだけです。アリガタプレートはあらかじめ503HDVのプレートに固定しておきました。ちなみに503HDVのプレートはロングタイプ(501P LONG)に交換してあります。アイピースの変更に伴う前後バランスの調整はこのロングタイプを採用した事により、プレートの前後スライドのみで十分対応することができました。プレートのスライドも数秒で完了します。

肝心の光軸ですが、上下はBLANCAの鏡筒バンドとアリガタ金具の接続面にスペーサーを入れて調節しました。左右はBLANCAのアリガタ金具とスライド台座の固定用のネジの遊びの部分で調節できました。あとは2本の鏡筒を載せたスライド台座をアリガタプレートに固定するときに2本のローレットネジを締め上げていくのですが、この時にガタが出ないように注意するだけです。目幅調整はこのスライド台座を左右に移動させることにより行います。左右の鏡筒バンドの隙間の関係から最少目幅が64mmとやや広めですが私自身は目幅66mmなので無問題です。64mmよりも狭くしたい場合は左右の鏡筒バンドの位置をオフセットさせれば可能ですが、前後重量バランスが取りにくくなることと見た目が多少見苦しくなる可能性があります。また、このスライド台座を左右に移動させるのにローレットネジを計4本操作する必要があるため、普通の双眼鏡のように簡単に目幅調整はできません。少なくとも観望会等で複数の人々に見てもらうには無理があるシステムです。あくまで個人専用のBINOとしての使用が前提かと思います。

⭐︎完成に至るまで
鏡筒、架台以外の部品は前述のヤフオク!購入品のほかは、鏡筒固定等に必要なネジとナット類をホームセンターで購入しただけです。組み立てと光軸調整に要した時間は2時間以下という短さであっけなく完成しました。しかし、構想期間中は色々と悩み、思い立ってから計画実行までは随分と時間がかかりました。

一番頭を悩ませたのは架台(503HDV)への搭載方法と目幅調整機構です。ビデオ雲台に載せるにはアルカスイスのプレートとクイックリリースクランプの組み合わせが使えそうな気はしていたのですが、どの部品を組み合わせれば良いのか、実物を見ないで(ネット上での情報のみで)選択するのは難しかったです。前述のヤフオク!で購入した部品はプレートとスライド式台座がセットになっており、商品説明の写真も非常にわかりやすかったため、完成時の姿が容易にイメージできたため助かりました。この部品の発見が成功の大きな要因と言っても過言ではありません。

次に問題となったのは、BLANCA-80SEDを2本並べて固定した時の間隔=Dの寸法でした。使用するEMSはUMペアですので適合するDの寸法の範囲は決まっています。鏡筒を2本並べた時に左右の鏡筒バンドがぶつからない時の「D」が大きすぎるとEMS-UMでは対応できなくなります。その場合はEMS-ULを使用すれば良いのですが、そうするとBLANCA-80SEDのバックフォーカスが不足するため新たな問題が発生します。この問題の解決に関しては、半ばバクチでした。BLANCA-80SEDを先ずは1本だけ購入したのです。(1本だけなら失敗しても他に使い道は有ります)そして先に入手していたアリガタプレートとスライド式台座に鏡筒を固定して(EMSも装着して)2本並べた状態のクリアランスをシミュレートしました。その結果、眼幅66mmなら大丈夫との予想ができたため2本目の鏡筒を購入し組み立てに至りました。

光軸の追い込みは今までの経験のおかげで作業時間は1時間程度でできました。1.5kmほど先に100m以上の高さの工場煙突があるので、その先端を利用しての調整です。松本さんご推薦の平行法を駆使したのは言うまでもありません。スペーサーの厚さ調節(縦方向)と鏡筒固定のネジ穴の遊びを利用した調整(左右方向)を何度か行い完了です。調整を繰り返し、うまく左右の像が一致した時の快感はたまりませんでした。

⭐︎運用
実は6月初旬には完成していた本機ですが、完成以来6月7月と天候不良のため観望のチャンスは皆無でした。8月初めに1日だけ絶好の夜があったのですが、あまりに久しぶりのため主砲の13cmF7BINOを優先しました。結果、いまだに本格的に星空観望はできておらず、自宅からの月惑星と光害まみれの星野観望のみなのですが、「晴れるかもしれない」レベルの週末には何度か車に載せて持ち出しています。つまり、持ち出し、運搬、現地での組立てなどの機動力に関しては実験済みで、これに関しては期待通りの結果となっています。ハンドルも装着していないのですが、鏡筒2本とプレート、EMS-UMペアの組み合わせで約6.5kgしかなく、雲台の503HDVへの着脱も非常にスムーズで問題ありません。ケースはネット通販で適当なバッグを購入して、廃品利用で簡単な型枠を内部に形成して型崩れを防止しました。BINO本体とアイピース数本、ファインダーを入れても片手で持てますので三脚架台を入れたケース共々一度に持ち運びでき、市販の対空双眼鏡と同レベルの機動性を有しています。

使用鏡筒は80mmF7APOですが、単眼で使用する場合と観る対象はほぼ同じと考えられます。20倍から30倍前後での天の川流しをはじめとした星野と主なメシエ天体の観望、70倍から140倍くらいでの月と惑星の観望に向いているかと思います。APO鏡筒のおかげで星像は非常にシャープですしコントラストも高くすっきりとした見え味です。月や惑星の観望も余裕でこなし、土星のカッシーニの間隙や木星の大赤斑も綺麗に見えます。双眼視のため長時間の観望も苦になりません。また、雲が風に流され月の前をたなびいた時の立体感は単眼では感じられない迫力です。本機の製作までこのクラスの機材は市販の対空双眼鏡(ビクセンBT-ED70S-A)を使用していましたが、90度対空と2インチアイピースの使用、あと一息の口径アップが得られたので満足しています。

ところで、所有する主なアイピースの中で唯一バックフォーカスが足りなかったのは賞月観星XWA20mmのみでした。私は視力0.1以下の強い近視なのですが、同じく2インチのXWA13mmとMasuyama32mmはギリギリ無限遠で合焦します。(ドローチューブの余裕約1mm)ここで前述の52.5mmに短縮した2インチアダプターが功を奏しました。アメリカンサイズのアイピースはほとんど問題がなく、比較的光路長の長いビクセンLVW17mmで4mm、ペンタックスXW20mmで6mm程度の余裕です。2インチアダプターを使用しない標準のEMS-UMの光路長は122mmですので、アメリカンサイズのアイピースのみの運用でしたらバックフォーカスの余裕はさらに大きくなります。

☆まとめ
前述のように計画を思案中は実現できるか不安でしたが、あっけなく、しかも加工作業を一切抜きで狙い通りのBINOが完成しました。眼幅調整に手間がかかる、取って(ハンドル)が無いといったネガティブな面もありますが、冒頭にも記したように個人使用を前提とした割り切ったコンセプトですので自分的には満足です。もともとEMS-UMペアとビデオ雲台、三脚が余っていたせいもあり、非常に低コストで作ることもできました。成功の要因はちょうど良い部品が見つかったこともさることながら、松本さんのサイトにたくさんのヒントや情報が記されているおかげかと思います。常々松本さんはご自身のホームページはマニュアルも兼ねているとおっしゃていますがまさにその通りだと思いました。これからも素敵なアイディア、情報の発信を楽しみにしています。

Comment by Matsumoto / 管理者のコメント;

海老さんより、また新たなBINO(BLANCA-80SED-BINO)の渾身のレポートをいただきました。 まさに”Simple is Best.”の模範のような作例ですね。次回のレポートも楽しみにしています。^^