Coo ran away! / クーが家出

人間で言えば高校生くらいの、推定満一歳のオス猫クーは、日増しに活発になり、外に出たくてしようが なかった。ただ、町中で放すと交通事故が待っている。だから戸締りをする夜以外は、大抵リードに繋がれていたクー。 でも十分に長いリードだったので、そんなに拘束したつもりはなかった。

それでも可愛そうに思い、二階の窓から商店街のアーケードの屋根に出して遊ばせたのがいけなかった。3mの高さは猫にとって、というか 外の世界を希求するクーにとってはさほどの高さではなかったらしい。 昼過ぎにアーケードに出してほんの数分、眼を離した時には クーの姿は見えず、いつ飛び降りたのやら。21時現在、帰って来ない。

いくら猫でもアーケードは飛び降りるにそう低くない。クーよ、お前は満腹と自由を天秤にかけて決めたのだな。しばらく頭を冷やして、 自分の生き方を決めればよい。帰らなくても探さないし、帰ってくれば好物が待っているよ。

CAPRI-102ED-BINO

 メガネのマツモトさんに製作を依頼しましたCAPRI-102ED-BINOが昨年12月に完成しました。 おそらくCAPRI鏡筒の双眼望遠鏡として世界初、1号機だと思います。 機材導入の経緯から、製作過程、インプレッションまでReportします。 長文で申し訳ありませんが、しばしお付き合いいただければ嬉しいです。

【導入の経緯】

・大口径&双眼視に魅せられて、現在は口径38cm/F5のドブソニアンに双眼装置をつけて 観望しております。このシステムでの双眼視の最低倍率は140倍/実視界0.6°となります。

・中倍率用にミヤウチ製10cm双眼鏡(セミアポ45度対空)を愛用しておりました。  大変、覗きやすくよい機材でしたが接眼レンズの選択に制約があり、手持ちの広視界ア イピースが使用できません。また月を見た時、エッジ部での若干の色収差が気になり ました。ドブではカバーできない140倍以下をカバーできる双眼鏡があればいいなぁと  常々思っておりました。

・天文仲間にSKY90-BINO、12cmF5BINO、FS-102-BINOのユーザーがいらっしゃいます。  彼らの機材を覗かせてもらう度に心はどんどん高まってきてました。「いつかは自分も 双眼望遠鏡を手にしたい」と。

・双眼望遠鏡を検討する際、散開星団、天の川など低倍率から惑星など高倍率まで一台で こなせ、月をみても色収差を感じない鏡筒となるとやはり、アポクロマートを使いたい。  しかし、鏡筒だけでも高価でなかば諦めかけていた折、笠井トレーディングから新製品  :CAPRI-102EDが発売となりました。  スペックはほぼ希望どおり、これなら価格も手が届くのではと思うと高ぶる心が抑えきれず、 実際の星像を確認することなく、今回の製作依頼となりました。

【BINOの仕様と製作】

・CAPRI鏡筒がマツモトさんへ入荷したとの連絡で早速、手持ちのアイピースで合焦の確認 と打合せを兼ねてマツモトさんを訪問しました。CAPRIはEMSの使用も想定し、市販鏡筒 の中ではバックフォーカスを十分にとってある鏡筒なのですが、手持ちのアイピースで最 もバックフォーカスが必要なWS(ワイドスキャン)20mmにおいてはかろうじて合焦する  ものの余裕がないことがわかり、エンドフランジの加工で1cm短縮していただきました。  これでほとんどのアイピースで合焦可能です。(マイナスポイントアイピ-スアダプター など使用すると筒は無加工でも合焦できるかもしれませんがEMSの保護フィルターとの干 渉を確認しないといけません)  この短縮改造で、CAPRI純正のマイクロフォーカサーがそのまま使用できました(写真③)。

・眼幅の調整は10cmクラスでは鏡筒スライド式がマツモトさんの推奨とのことで、この方式としました。・その他、主な加工は、左鏡筒のマイクロファーカスノブの左右対称化加工と、左右鏡筒バ ンドが干渉する部分の切除加工です。

・CAPRI鏡筒がマツモトさんに入荷してから、製作着手までの約1ヶ月、1本をお借りし実際の 星像を確認しました。高倍率でも色収差はほとんど気にならず、星像も非常にシャープで 優秀な機材であり、完成したBINOに寄せる期待がさらに膨らみました。

【BINO完成・ファーストライト】

・CAPRI鏡筒はブルーのアクセントカラーが印象的な美しい鏡筒ですが写真①のように BINOにするとさらに美しい姿の双眼望遠鏡になりました。

・星像のファーストライトは、遠征仲間(気ままに星空観望仲間)の観望会となりました。  写真②は観望会当日のものです。BINO完成以来、遠征にはBINOと38cmドブを  車載し、それぞれの対象に合わせて楽しむという、とても贅沢な観望を楽しんでおります。

・いよいよファーストライトです。星像は極めてシャープ、かつ双眼の効果で臨場感あふ  れる見事な光景が視野いっぱいに広がります。2重星団、M46/M47、プレアデスなどは多 くの天文仲間からも絶賛でした。集光力では38cmドブには及びませんが、星像のシャープ さはさすがアポクロマートです。微光星までカチッと見えます。また明るさについて は単眼の2倍ではなく、数倍の明るさに感じます。10cm×2本の計算上の口径面積は14.4 cmに相当しますが感覚的には口径20cmかそれ以上の明るさに感じます。さらに倍率も双眼視 の効果により、単眼よりも大きく見えます。目の専門家のマツモトさんによれば、両目 で見ることで解像力が上がるため、大きく見えるように感じるとのことです。

【双眼用アイピース類】

・もともと双眼装置ユーザーであったので31.7mmサイズの広視界アイピースはペアで所有  しておりました。写真④がCAPRI-BINOに使用する見掛け視界80度以上のアイピース郡です。 高倍率にはJAPANOPTIK製の×2.8バローレンズを使用します。

・これらのラインアップで下のように倍率、実視界を対象に合わせて自在に選択できます。  アイピース   見かけ視界    倍率    実視界  射出瞳径

 EWV-32mm     85度     22倍    3.81度   4.6mm
 WS-20mm       84度     36倍    2.35度   2.9mm
  NA-17mm      82度     42倍    1.95度   2.4mm
  WS-16mm      84度     45倍    1.84度   2.3mm
  NA-13mm      82度     55倍    1.49度   1.9mm
  UWA-8.8mm     82度     81倍    1.01度   1.3mm
  WS-20×2.8     84度     100倍    0.84度   1.0mm
  WS-16×2.8     84度     125倍    0.67度   0.8mm
  NA-13mm×2.8   82度     154倍    0.53度   0.7mm
  UWA-8.8mm×2.8  82度     227倍    0.36度   0.4mm 

・アイピース交換時の重量バランスについてですが、HF経緯台のフリクションねじの調  整で多少のバランス変化でもフリーストップとはなりますが、高倍率ではバックラッシ ュが気になります。締め付けがきついと耳軸部の樹脂シートの微小な変形により発生す るのでは?と考えてます。そこで最も重いNA17mm装着時がデフォルトになるよう、鏡筒 バンド位置を決め、他のアイピースではウエイトをBINOのハンドルに引っ掛けます。  これにより、フリクションねじをかなり緩めた状態でバックラッシュがほとんどなくフリーストップ を達成しました。

【観望インプレッション】

・月: 球体であることを強く感じます。また雲の流れが月面を通過する時などは、遠近感に溢れ、立体的な光景が楽しめます。また200倍を超える倍率で月のエッジをみても、 色収差はほとんど感じません。ED2枚玉とはいえ、大変パファーマンスの高い鏡筒です。

・M46/M47: EWV-32mm(22倍)でM47の北にある散開星団NGC2423も同じ視界に入ります。  各々の散開星団の特徴が同時に見え、賑やかで面白い光景です。

・ホームズ彗星: 立体感、透明感に溢れ、まさに宇宙を漂う「水クラゲ」のようでした。

・M42: NAー17mm(42倍)で小三ツ星の全景とトラペジウムもキッチリ見えます。この倍率  で射出瞳径2.4mm、バックグランドも暗くなり、オリオン大星雲も浮かび上がります。

・土星: 高倍率の対象ですが、当日のシンチレーションに合わせ倍率、×154、×227を  選択します。227倍においても十分シャープな星像です。  これ以上の倍率はまだ試してませんが300倍程度なら実用域かもしれません。  高倍率時は追尾と合焦操作などで機材に触れると振動がやや気になりますが、この振動 は数秒で収まります。真っ暗なバックグランドにシャープな土星が浮かんでます。  コントラストも高く、本体の縞も良く見え、そして本体が球形であることを感じます。

・ばら星雲: さらにEWV-32両眼にナローバンドフィルターの装着で、ドブでは部分しか見 ることのできなかった「ばら星雲」の全景を見ることができました。
 実は同じフィルターを2個持っていませんので、左右で若干異なるフィルターを装着して みました。 NBN-PV(IDAS)とスーパーネビュラフィルター(笠井)ですが、片目ずつ覗い てみるとフィルターによるコントラストの差はわかるのですが、両目で見た時は違和感  は全くありません。恐らく左右の明るさ、色などの若干の違いならば人間の脳内で合成 してひとつの映像として感じているのでしょうね。  この現象を応用すると、例えば、UHCとOⅢとを左右に装着し、微光星の輝きを損ねるこ となく星雲のコントラストを上げる。あるいはOⅢとHβの組み合わせで難物とされる対 象をより美しく見ることができる。このような期待ができるかもしれません。  今後のチャレンジ課題です。

・おとめ座銀河団: 実視界3.8度が確保でき、口径10cmとは思えないぐらい、多数の銀河を はっきりと確認できます。

・M81/M82のペア: BINO;42倍(NA-17)、38cmドブ;59倍(EWV-32)で比較してみました。  10cmBINOは大口径に決して見劣りしません。コントラストはBINOに軍配があがります。  (瞳径の差によるコントラストの向上の影響もあるのでしょう)

【今後の期待】

 昨年12月に完成し、まだ2ヶ月弱の稼動ですが、夏の天の川やその中の暗黒星雲、網状星 雲の全景など今から楽しみです。

【最後に】

 以上、大変長々と書き綴ってしまいました。BINO自慢ばかりでお聞き苦しい点が多々ありま したがご容赦ください。BINOの購入、製作を計画されている方やBINOユーザーの方に少しでも 参考になれば幸甚です。

おおた
奈良県

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

『おおたさん』より、CAPRI-102ED-BINOの詳細なリポートをいただきました。  おおたさんには、CAPRI-102ED鏡筒の入荷時と、BINOの完成時(お引取り)の2回、ご訪問いただきましたが、 やはり直接お会いすることで、仕様の打ち合わせばかりでなく、より多い情報をお伝え出来たような気が しています。(百聞は一見にしかずの諺が当てはまります。)

 「長文なので編集して良い・・」とおっしゃっていましたが、有用な情報ばかりですので、 写真を含め、全文を掲載させていただきました。これからBINOを検討される方にとっても、すでにBINOの ユーザーとなられている方にとっても大変有意義なリポートだと思います。

 10年ほど前より大口径(15cm)アクロマートがアマチュアの射程に入って以来、Deep-Sky用の大口径 BINOブームが続いているわけですが、最近になって中小口径のアポ鏡筒の価格的なハードルも下がり、いよいよアポ鏡筒BINO の時代の到来の兆しが見え始めました。

 おおたさんのBINO用アイピースのフルラインナップには感心いたしましたが、左右異種のネビュラーフィルターを試された 研究心にも注目しました。私たちの眼は、左右の像の大きさの違いには極めて不寛容で、ストレスの原因と なるのですが、左右眼の視野の色の違いには極めて寛大です。試しに肉眼で白い壁等を見ながら左右の眼による壁の白色 を比較すると、大抵の場合、色調が大きく異なることを発見して驚かれることと思います。 おおたさんが提案された 左右異種のフィルターを使用することの効果については、今後多方面で検証が進むことを期待しています。

 鏡筒が高級になるに従って、架台が課題になって行くのは、もとより承知しておりました。 ナイロンブッシュ式の耳軸は、中低倍では極めて有効であるものの、高倍率では使いにくいようです。アポ鏡筒仕様の BINOユーザーの方のために真鍮製の耳軸を用意しましたので、今後希望される方はご用命ください。ただし、真鍮耳軸に しますと、バランスの変化に敏感になりますので、その対策も必要です。(2009年4月10日追記: その後の検証で、低倍に於いても真鍮耳軸で問題ないことが判明し、現在では全面的に 真鍮耳軸に移行しました。)

 おおたさん、この度は記念すべきリポートをありがとうございました。 また、お名前は分かりませんが、 おおたさんをこの世界に導いてくださったSKY90-BINO、12cmF5BINO、FS-102-BINOのそれぞれのユーザーの方々にも 深くお礼申し上げます。

Forgive me, “Coo”. / クーちゃん、ごめんよ。

 

昨年の10月に当家に迷い込んだオスの子(中)猫は、娘が『空也』(クーヤ)と名付けた(迷い込んだ子猫に父(祖父)が 思わず「クーや」と呼びかけたのを娘が聞いたのが由来)ので、一昨年に他界した犬のクーと同じ、”クーちゃん”となった。

賢く?綺麗な猫ながら、人間で言うと高校生くらいのやんちゃ盛り、母の体力の限界を超えるほどの暴君ぶりに母も辟易。

昨今の家猫(オス)では半ば一般化した”去勢”なるものを考えざるを得なくなり、11月30日に手術。

「”去勢”は人間の身勝手。それは少女監禁の変質者と同じ行い。」とまで思って悩んだけれど、現実に町なかでオス 猫と共生するには、どうも避けがたいことのよう。

クーちゃん、ごめんね。 見方によれば、法と規範に縛られた僕たち人間も似たようなものだから我慢して。 宦官になっちゃったけど、子供の時に敵に捕らわれて宦官にされながらも、新たな国で重臣となって尊敬を集めた王子もいたように聞いているし・・・。

この前の大雪の日、電気カーペットの上でとろけて寝ていたクーちゃんを見て、ノラになってあの恐ろしい寒さ、ひもじさに 耐えるよりはマシだよな、と勝手に思った。

でも、ばあちゃんの料理は旨いだろう。 松葉ガニには特に目がないクー。 グルメ三昧で、2.5kgだった体重が今や5kg。 デブネコ にならないでね。

2007年を振り返って

 Sky&Telescope誌の1982年11月号で自作の8cm双眼望遠鏡が紹介されてから、25年もの歳月が 流れましたが、私の到達点と一般マニアや望遠鏡業界、天文誌、一般人それぞれとの 理解度、認識レベルのタイムラグは広がりこそすれ、一向に縮まないことを痛感せざるを得ません。

 EMSの開発史の年表を作るとすると、81年頃のAmici Analogue(一体ケース型)のEMSの発案、90年頃の60度偏角 ミラーユニットの採用、95年頃のミラーチルトによるX-Y光軸調整の実現と続き、今年は、(鏡筒固定で)ピント移動のない 眼幅調整(focus compensator)の実現で、少なくとも原理的な部分では、ほぼ積年の懸案をクリヤーした、特別な年だったと言えると思います。

 とは言うものの、ごく一部ながら、EMS-BINOの理解者やユーザーの方々が増えて来たことも事実です。
 そして、恐れていた悲しい別れもやって来ました。 3月にはユーザーリポートも投稿してくださっていたSさんが 、そして12月には、ユーザーサイトとしてリンクさせていただいていたMさんが亡くなられました。
 ご両名のご冥福を心よりお祈りします。また、来年からもEMS-BINOの完成度をさらに高めるべく 精進していくことが、天国にいるご両名に喜んでいただくことだと思っています。

NP127-BINO(自作)(2007年11月25日)

かねてより計画中であった松本式EMSを使用した屈折双眼望遠鏡が完成したのでご報告いたします。

 最初の始まりは松本式NP101双眼望遠鏡でした。この機種で完全に屈折双眼望遠鏡の素晴らしい魅力にとりつかれ、 無謀にも大口径化へと進んでしまいました。
 まずは鏡筒選択です。中・低倍率で広視野を楽しむことを重点に鏡筒を選びました。結果、鏡筒はNP127 (660mm口径比5.2) に決定です。TOA130や現在単眼で使用しているTEC140などと随分悩みましたが、小さく軽いこと(1本7Kg弱)と焦点距離が決め手 でした。31.7mmサイズのアイピース(パンオプティック24mm)でさえ33倍2.3度の視野が取れます。
 鏡筒は固定式として目幅調整は松本式EMSヘリコイド式を使用、また筒外焦点距離の調整のために接眼部をフェザータッチ フォカッサーに変更しています。ヘリコイド式EMSの使用がこれほどよいとは思いませんでした(以前のNP101双眼は鏡筒平行移動 式でした)。ヘリコイドの質感は最高ではありませんが、現在望み得る一番良いシステムではないでしょうか。松本式EMSの発明で 私のようなアマチュアに双眼望遠鏡の道が開けたのだと思います。
 架台はフォーク式経緯台でTG-Lのフォークアームを2本と水平回転軸を流用し手元にあったビクセンのピラー脚使用にしまし た。ノブスターを利用し工具無しで簡単に組み立てができます。架台は鏡筒が小型(通常の10cmより少し大きい程度)であるため にフォークアームの間隔も狭く作製することができて十分な剛性を確保することもできました。とにかく小さいことは重要な性能 の一つだと思います。
 仰角はおよそ85度です。ベースプレートの一部を切り込んで鏡筒との干渉を避けています。フォークアームを寝かせればよい のですが、その工作精度に自信がなかったこととベースプレートとフォークアームの固定ネジの強化をしていないので垂直で妥協し た結果です。もともと経緯台では天頂が特異点になるのでそれほど気にはなりません。
 バランスシステムはハンドルを利用してロスマンディーのバランスシステムを流用しています。これは垂直方向のバランスも 取れるのでなかなかよいシステムです。本当はハンドルをもっと長くして鏡筒の保護にも利用したかったのですが、工作機械の大き さの制限があり予定より短くなっています。架台の塗装はマークエックスブルーにするつもりでしたが、実際に見せてもらったペン タックスMS-3Nのグリーンに心を奪われ、外注でペンタックスグリーンに塗っていただきました。鏡筒と組み上がった姿はかなりフ ォトジェニックです。
 ファインダーはテレビューのスタービームと宮内の5cm正立ファインダーを使用しています。たまたま持っていただけで特に 選択の理由はありません。  自動導入は必要ありませんが惑星をじっくり観る場合に自動追尾が欲しくなります。完全なるフリーストップと自動追尾の両立 を可能とするシステムが理想・・・ですが、これについてはまだ具体的にアイディアがまとまりません。実現はまだまだ先になり そうです。私自身は30分も追尾してもらえば十分なのですが・・・。
 アイピースについてはまだ決定していません。
通常は1.25インチサイズアイピースのテレビュー パンオプティック/24mm(27.5倍2.3度@瞳径4.6mm)、ナグラータイプ5/16mm( 41.3倍1.9度@瞳径3.1mm)の使用頻度が高いようですが、最近はテレビュー イーソス13mm(50.8倍1.9度@瞳径2.5mm)がデフォ ルトになっています。さらに広視野を望む場合はパンオプティック27mm(22.4倍2.6度@瞳径5.2mm)を使うことが多いようです。 アイピースとの組み合わせでは4度弱も視野も可能ですが、星像の美しさや視野のコントラストを考慮すると上記のようになりまし た。中・高倍率は経緯台なので必然的に広視野が得られるアイピースになります。高倍率は双眼効果?で132倍程度でかなり満足し ています。
 星空の下での報告です。アイピースの選択はイーソス13mm(50.8倍1.9度@瞳径2.5mm)です。この組み合わせでは視野のほと んど端まで星が「点」です。歪曲収差は非常に少なく、フリーストップで視野を動かしても違和感がありません。中心部のコントラ ストも十分高いようです。超広視野と双眼効果でそのまま肉眼で見ているような錯覚に捉えられます。アイレリーフは15mmでアイポ イントがややシビアですが、双眼なので目の位置はほぼ固定されるためか(しかも星空の背景は黒い)ブラックアウトもそれほど気 にならず、何ら問題はありません。ただ、どうしてもアイレンズと眼球の距離が短くなるのでアイレンズが曇りやすくなります (興奮しているためでもあります)。架台の強度も十分でしかも非常にスムース、おかげで余計なことに気を回さず星空に浸るこ とが出来ます。
 M31では伴星雲が浮遊している感じがします。この浮遊感は初めての経験でした。M42ではトラペジウムがあれだけはっきり 離れて見えるのに視野内に小三つ星が入っています。プレアデスも星がゴチャッとではなく離れた感じで全部視野内に入ります。 二重星団も十分離れているのに同一視野です。しかも中心部では擬似立体感を味わうことが出来ます。M13は背景?の星野に周辺が 星に十分に分離した状態で浮かんでいます。M57も然り。これらは初めての経験でした。
 なにぶん高価な機材であり、またほとんど工作経験のない状態での制作でした。架台のアイディアを頂いた井上さんをはじめ として鏡筒の入手に尽力していただいた吉田さん、奈良部さんや三野輪さん、服部さん、野木さんらのアドバイスやご協力が無けれ ば完成まではいたらなかったと思います。 もちろん松本さんのEMSが存在したからこそ実現できたシステムであります。この場をか りまして厚く御礼申し上げます。
 最期に素晴らしい星空双眼視の世界を我々アマチュアにもたらしてくださった松本さんに再度感謝したいと思います。
by Mr. Kuroki Yoshifumi

Comment by Matsumoto / 管理者のコメント;
 この度、黒木さんよりNP127-BINOご自作のリポートをいただき、まずはこのBINOの美しい外観にしばし見入りました。  鏡筒からfocuser、EMS、バランサーシステム、架台、ポールと、見事にコーディネイトされています。  『機能的に優れたメカは見た目も美しい。』というのが私の信念ですが、このBINOはまさにそれを主張 しているようです。
 バックフォーカスを稼ぐためのフェザータッチフォーカサーの使用は、Tsujiさんのsky90-BINOと同じ方法 ですが、これは、鏡筒のorijinalの状態をキープできる良い方法だと思います。 純粋に特定のブランドで統一 することに拘る方もあるでしょうが、各部で優れたパーツを集結させれば、結果として新たな統一感が出て来るものだと 思います。
 イーソス13mmの使用で、このBINOシステムの完成度の高さをさらに駄目押ししています。 さらりと実視界を書いておられますが、 これが今話題の見かけ視界100度のアイピースですね。先日のサミットでも、数名の方が単体の同アイピースをチェックしながら 驚嘆の声を上げていました。「100度は無駄に広い視野じゃない!」と異口同音に言っておられたのが印象に残っています。(残念ながら 私は隣の方で150LD-BINOでのDEEP-SKYに酔っていましたので、このアイピースを覗くチャンスを逃しました。)
 一昔前とは、自作の方法も変わって来たと思います。ゼロから製作することに拘る方も未だにおられるかも 分かりませんが、優れたパーツが以前よりも買いやすくなって来たことを考えると、パーツは極力市販の優秀な物から選ぶのが 賢い方法だと思います。 自作の楽しみが無くなったのではなく、優れた完成パーツの選択肢が増えたわけで、わざわざ そられのパーツ自体を自作するメリットがなくなったということです。市販パーツをうまく利用しながら、ここぞという 部分で自前加工をすれば良いのです。
 タカハシの片持ちフォークを2個使用したフォークは、その発想はもとより、機能的にも素晴らしい物であることが 分かります。 現在の所、当方では架台の製作までは手が回らず、VIXENのHF経緯台をほぼそのまま使用していますが、黒木 さん製作の架台を見ると、それが恥ずかしくなります。
 また、わずかに天頂を諦められたのも賢い trade-off だったと思います。  先日のサミットでもそうでしたが、EMSユーザーの方々の工夫に、私自身も大いに刺激を受け、新たな開発のエネルギーを いただいています。その意味で、私こそこの度の黒木さんのリポートにお礼申し上げます。  

「スノー」さんの ホームズ彗星観測記 (2007年11月6日)

 10月下旬になり、彗星急増光の情報が飛び込んできました。そうですホームズ彗星です。自宅では、台風一過の日の 夜半過ぎに初めて確認できました。15cmBINOで見ると、2重の丸い光芒に包まれた見たことのない光景が広がって いました。双眼による立体感も手伝って、何かの原生生物を見ているような姿でした。

 その後、晴れれば、自宅にて毎夜観望を継続しておりましたが、少しずつ大きく薄くなっていく彗星の姿に、早く遠征観望したい と言う気持ちが強くなって行きました。そして、昨晩、やっと月の影響を逃れられる週末と言うことで、奥日光まで、BINO を連れて遠征に行きました。体調が不良のため、現地滞在時間は2時間未満でしたが、彗星を堪能するには十分でした。

 BINOを設置して、早速、EWV32mmを装着して彗星を覗くと・・・驚きました。明るく丸い広がりの外に更に薄く、 寒色系の大きな広がりが見られます。自宅では、明るい中心部を濃淡のある2重の光芒が包んでいるように見えましたが、実際は 第3の光芒と言うか薄いガスのような広がりがあります。濃い光芒が白色から薄い黄色イメージに対して、 外郭の薄い光芒は淡い 青緑の色が印象的です。

 更に倍率を上げてナグラー16mmを装着すると、薄い光芒が視野一杯に広がりますので、1.5度程度の広がりはありそうです。 自宅では、BINOや20cm反射等で観望してきましたが、このような広がりは確認できませんでした。ちなみに、奥日光でも 小型の双眼鏡では確認できませんでした。実際、この外の広がりは相当薄く、BINOの片側だけで見ると(単眼では)、見落とし そうな淡さです。また、16mm装着時は更に淡くなり、色は感じなくなりました。

 さて、濃い光芒の部分は、もっと倍率を上げられそうですので、ミードUW8.8mm、4.7mmと使用し、倍率を約85~16 0倍まで使って観察して見ました。核周辺の光芒で、核の後ろの濃淡や、第2の光芒の上部の噴出す雰囲気が微かに認められます。 この詳細な感じは、数日前に大口径ドブで見せて頂いた光景と良く似ています。恐らく、一度明瞭に観察させて頂いたおかげで、 昨晩は微かに見えたのだと思います。もちろん、暗く透明度の高い空に恵まれ、BINOの高コントラストに助けられたことは間 違いないでしょう。そして全体的な球状の姿は、双眼による立体感で、まるで彗星帝国が地球に向かってくるような光景です (歳がバレル・・・)。

 昨晩は、短時間でしたので、ホームズ彗星を中心に、合間にメジャーな星雲星団を流す形の観望となりました。この時期は、 透明度の高い空の下で、網状等の夏の対象から、オリオン大星雲と言った冬の天体まで楽しめます。特に空が澄んでいるだけに、 BINOによる天の川流しには最高のシーズンです。そこに、これまでの彗星と様相が異なるホームズ彗星が輝いています。日々、 その姿も変化している上に、暗い空で初めて見えてくるものがあります。これからも可能な限り暗い空にBINOを持ち出し、 ホームズ彗星観望を継続したいですね。もちろん、明るい自宅でも。。。(スノー)

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;
 久しぶりにスノーさんより観測リポートをいただきました。 初期の12cmF5-BINO以来、ずっとmotivationを失われる ことなくEMS-BINOを活用してくださって、大変嬉しく思います。 私の方はまだ同彗星を見ていませんが、BINOの納期を 待ってくださっている方々のことを思いますと、それどころではございません。^^; 

Stray cat / 迷い猫

今日は家族が一人増えた日なので、記録しておかないといけない。

午後3時半頃、昨日からこちらに滞在していた姪とその叔母(私の義兄の妹)を鳥取駅に送る時、(両親の)自宅玄関を開けた 駐車場に、まだ子猫と言うべき若い(満1歳未満か?)猫が迷い込んでいて、妙に人懐っこく甘えて来た。 家内を残して駅で来客を見送って帰宅 したら、なんと家内が店の中でその猫に鰹節(削り節)をやっていた。首輪も付けておらず、痩せこけてはいないものの随分と 食べていないようで、なんとも凄い食欲。

「駐車場から店まで付いて来たけど、店のシャッターを開ける音に驚いて逃げるだろうと思っていた。  ところが、シャッターが少し開くと、猫はスルっと店内に入ってしまった。」との家内の証言。  そうこうしている内に高3の娘も帰宅。 普段なら、心を鬼にして追い払うところながら、今回は不思議な縁で、家族全員満場一致でそ の子を受け入れることになった。 先月には両親を連れて因幡霊場で催された犬猫の合同慰霊祭(クーの一周忌)に参加して来たところでもあり、両親の心の 空洞を埋めるために機は熟したと言ったところのようだ。

諸条件から、両親の家で飼い、私たちもアシストすることにした。慌てて家内と一緒にホームショップに行ってトイレを 含む猫グッズを購入。 トイレのしつけの心配をしていたら、トイレに紙製の猫砂を入れるやいなや、彼(オス猫)は 待っていたように率先してご使用になった。まさに完璧な『猫』。 いずれ画像でご紹介します。(10/12 画像追加)

「このメガネ、皺(しわ)が見えます!」

中年期を過ぎて、それまで潜伏していた遠視が顕在化し始めた方は本当に扱いにくい。もともと視力には人一倍自信を持って 来た方ばかりなので、こちらに来店されるまでに相当痩せ我慢を続けられ、耐え切れなくなって、大嫌いなメガネ屋に来られたは ずなのに、皆さん、極めて往生際が悪い^^;。

正視の人が老眼になったのであれば、「近業時のみ、仕方なく嫌いなメガネを掛ける。」という選択も アリなのだが、遠視は残念ながら、そうは行かない。遠方視の際にも、近業用メガネ(老眼鏡)よりも少しプラス度数の弱いメガネ を装用しないといけない。 もちろん、それを装用しないと警察に捕まるわけでもなく、当人が納得しないなら放っておくしかない。
ただ、はっきりと言えるのは、掛けないとたちまち世界がボケて見えてしまう近視は、メガネを掛けなくても眼の調節機能には 全く負担をかけないが、掛けなくても遠方は結構見えてしまう遠視は、放置しておくと、生理的な負担が大きく、眼や体を蝕むと いうことだ。このパラドックスがなかなか理解してもらえない。

第一、主婦であれば、ある程度の遠視を放置したまま台所に立つことは、家族にとって不衛生極まりないということを自覚すべきなのだ。 また、いつまでも美しくありたいと思うのなら、まずは自らをはっきりと見つめないといけない。

頑固な遠視の初老のご婦人をやっとの思いで説得して、メガネを仕上げても、まだ全てのハードルを越えたわけではない。
仕上がった遠視のメガネを受け取りに見えた時がまた問題なのだ。メガネを掛けて店内の鏡を見たご婦人が悲鳴と共に、こう叫ばれる ことがあるからだ。

「キャーッ!! このメガネだめです。シワが見えます~!!!」

私はそれに対していつも手厳しく答える。

「気にしないでください。人には始めから見えています。ご自分が見えるだけです。」

だから、当店の本業はいつまでも発展しないのか??
(でも後でフォローもしますよ。「お友達のシワも見えるから、自信を持てますよ。」)

BORG 76/101ED-BINO

 「松本さんの双眼天体望遠鏡」と言えば充分聞き及んではいましたが、初めてそれを見たのは東京「あきる野市」にある スタークラウド宮野さんのショールーム(William Optics代理店)でした。雨模様のせいか2階からの景色はいまいちで したが、何よりびっくりしたのはZenithstar 80 EDの左側の鏡筒が何んとスルスルと嘘のように軽く左右に移動できること でした!
 これはただものではない、と直感しました。是非入手したいと考え、松本さんのHPで値段を調べると、とても2本の鏡筒 込みの値段とは思えないreasonableなものでした;しかし待てよ、うちには屈折が5本もある!これ以上新規に入手したら 部屋で座る場所もなくなるではないか?何とか手持ちの鏡筒を活かしたい。

 Scope Lifeの遊馬さんに相談したら、幸いにもボーグの77 EDと101 EDの「訳あり品」が1本づつ格安に入手できました。 Borgはレンズ交換式なので、これなら手持ちの鏡筒とあわせて二種類の双眼天体望遠鏡が一挙にできるかも知れない! 松本式のミラーは十数年前に買った手持ちがあります。メールで松本さんにお尋ねしたところ、問題なくそれを活かしてEMS セットとして頂けるとのこと・・・これで一応自作材料は揃ったようです。 勿論、松本さんの「クラフツマンシップ」に頼る方が無難なのですが、なぜか「作りたい」という衝動がおさえられません。

 はじめ無謀にも鏡筒スライド方式を考えましたが、素人がそんなムリをするより、EMSに目幅調節用のヘリコイドをつけてもら えば済むではないか、と考え直しました(ただし、焦点合わせを簡単にするためには本当はスライド方式の方が分があるように も思えますが・・?)。
 松本さんからはメールで懇切な指導が得られました! 鏡筒間隔は156ミリ程度が良いとのことで、早速近くのドイトに行って 材料を買い漁りました;まさに「クラフツマンシップ」ならぬ、「ドイトマンシップ」で作ったのが写真1の鏡筒台座です。 木板も3ミリのアルミアングルで補強するとかなりの強度が得られます。予め眼鏡に定規をあてがい鏡で眼幅の見当をつけて いたので、あとはEMSに内臓されているXY調節機能の助けを借りて意外に容易に「双眼視」が実現(!)しました。片目で見る のとは全く違う!

 一応、製作に先立つコンセプトとしては;
[1] レンズ交換式(77EDと101ED)にする場合、両者のレンズハウスの重量差を考慮すると運搬用の取っ手は前後にスライドお よび固定できることが好ましい(ドイトでは充分に長い金属取っ手は売っていないので)。
[2] その取っ手は観望中には不要だから、着脱式としてファインダーと交換できると面白い。
[3] ファインダーは「対空用」としては90度の正立ミラー(松本さんの31.7mm用の小型ミラーも所有していましたので)を使 用し、一方「地上用」としては普通の45度正立プリズムを付けたものをそれぞれ製作する。
[4] 見る対象によっては微動の利くTA経緯台の方が良い場合もあり得るので、HF経緯台との間で簡単に兼用可能とする。

 製作の手順としては;
A]アルミアングル材で補強した木板をHF汎用プレートに取り付け、その下から自作の木製アリガタでプレートをサンドイッチ 式にはさんで頑丈に固定。これで写真1のようなHF/TA兼用の鏡筒台ができました。なお、中央の長いアルミ材は「運搬用の 取っ手」または「ファインダー」をスライドさせるためのレールです。
B]このレールには写真2のAの「取っ手」およびBの「対空直角ファインダー(松本氏の小型ミラー装着)」のいずれかを 取り付けられます。なお、Cは45度プリズム付きの地上用ファインダーです(いずれも鏡筒部分は自作)。
C]あとは鏡筒バンドを取り付けて鏡筒をしっかり固定し、76EDまたは101EDのレンズハウスをねじ込むだけです。(とは言 え、光軸を物差しレベルで±0.1mm程度の精度で調整する必要があるのは勿論です。一旦調節すれば、あとは鏡筒バンドをゆ るめない限り、対物レンズを交換しても全く問題ありません)
D]一先ず完成です。写真3は76EDを付けたところ(運搬用取っ手が付いたままです)で、写真4は101EDに対空ファインダー をつけたところ、また写真5はHF経緯台からTA経緯台に移して地上用のファインダーを装着したところです。

 結構多目的に使えそうですが、まだ実は木星と月しか見ていません。アイピースは松本さんにお願いしてEWV 32mmを購入しま した。 反省点としては、台座が何分にも木製であるため、10cmクラスなら何ら問題ないのですが、15cmクラスではこの方法では強度 的に不安と思われます。また夜露に頻繁に晒される使用法の場合には耐久性も問題かと思われます。

 外観のスマートさから言っても松本製には遠く及びません。しかし何といっても「自作」は楽しいものです。家から車で5分 のところにドイトがあったので、助かりました。一日に何度もドイトに通ったのが楽しい思い出です。これからも「ドイトマ ン」として頑張ってみたいと思っています。
 何よりも矢張り、自分の考えで設計(?)し作ったものは大袈裟に言えば我が子のように可愛いものです。それにしても松本 さんのEMSと数々のアドバイスがなければ到底できなかったことです。同氏に深く感謝申し上げます。 これからもいろいろとご指導お願い致します。 

立川 四郎
Shiro Tachikawa
E-Mail
HP:ベランダで星空散歩

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 立川さん、BINOの完成、おめでとうございます。
  立川さんとは、BINOのご計画段階で何度もメールを交換させていただいたのですが、EMSをお送りした後は、スムーズに組み立てを 完了され、初期調整方法についても特にご質問はなかったように記憶します。もともと単体EMSのユーザーでいらっしゃったのも、ご理解が 早かった理由かも分かりませんね。

 入手できるパーツと工作手段をうまく活用して製作されたと思います。自分の工作手段と入手可能な材料に従って設計を決める、という 点では、私が物作りをする時の方針と何ら変わりません。 鏡筒をBORGにされたのは、口径76mmと101mmの互換のメリットの他に、この鏡筒の徹底したmodule化による汎用性の高さ、応用性の 豊富さから、自作向きの鏡筒だったという点で正解だったと思います。ヘリコイドは眼視用のメインのfocuserとしては必ずしも操作性は 良くありませんが、これも他のlow-profileのcrayford式等と交換することも可能ですね。

  材料を、金属に限定されずに、利用できる工作手段を考慮されて、木材とアルミ材を組み合わされたのも正しいご選択だったと思います。  自作は、立川さんも書いておられるように、単に予算の節約ではなく、それによってしか得られないものが多くあると 思います。

  自分で作る事の喜びや、作った物への愛着があるのはもちろんですが、私は、『作ることで理解が深まる』という点が自作の最大の 意義だと思います。たとえば、望遠鏡業界には売るだけの立場の方も多いですが、そういう方には、どうしても到達できない 理解の壁のような物があると思います。 
 私は、売るだけの立場と、作る立場の両方を体験して来られた方を知っていますが、その方が、 昔を振り返られ、「あの頃は何も分かっていなかった。下請さんにも随分と無理を言っていた。赤面の至りだ。」というような 意味の事を述懐しておられたのが印象に残っています。私自身も、今でも物を作りながら、ほぼ毎日が新たな発見や反省の連続です。

 鏡筒の選択、材料の選択と、適切な判断をされましたが、眼幅調整の方式をヘリコイド式にされたことも、設計を簡素にする意味で 正解だったと思います。 私が今までに海外に供給した双眼用のEMSセットのほとんどはヘリコイド眼幅調整方式なのも同じ理由です。  ただ、リニアベアリング等の入手先をご存知であれば、自作でも平行移動方式はさほど難しいことはありませんが。

  完成した写真を見せていただきますと、ファインダーも絶妙な位置に配置され、全体も格好良く仕上がっています。確かに機能は 外観に表れると言った感じですね。木材と薄手のアルミアングルを組み合わせる方法は、強度と軽量を両立させる意味では優れた 方法かも分かりません。 そう言えば、”零戦”もアルミ合金材と木材が巧みに組み合わせてあったと聞いたことがあります。 これが、立川さんの初作のEMS-BINOですから、今後のさらなる進化を期待しております。また、観測リポートの方もお待ちしています。
 立川さん、詳細な自作リポートをありがとうございました。

タイムラグ(Time Lag)を考える

 タイムラグという言葉は、もはや日本語になっているが、a time lag というのは和製英語でなく、 れっきとした英語だ。”lag”は、lag behind~として使われることが多く、Genius英和辞典の例文には、 ~behind the rest of the nation in economic reforms. とある。 意味は、文字通り、“時間の遅れ”のことであるが、やはり“タイムラグ”の方がよりピンと来る。

 タイムラグというのは、どんな場合でももどかしいものであるが、人間が絡むと特に歯痒く、深刻になる。悪意は瞬時で伝 わるのだろうが、善意はなかなか伝わらないか、逆に誤解さえされ得るし、一旦誤解されたら、その誤解を解くには時には何十年 もかかるか、一生解けない。

 科学的な成果にしても、その時代の水準を超えて画期的な物であればあるほど、認められるのは後世を待つことになり、 数百年後にやっと認められるようなケースが希でないことを科学史が証明している。

 タイムラグということを、今の自分にからめて言うと、たとえば、1.新製品の構想と、2.その実験、試作、検証と、 3.Webでの公開と、4.一般への認知、までにはそれぞれの段階でタイムラグがあり、そのもどかしさはいつまでも埋まることは ない。

  ただただ、新たな成長の節目の到来の予感に、一人武者震いするしかない今日この頃…。   自分が常に進化しているということを主張し続けて、じっと時が来るのを待つしかないようだ。