FMS-UL(Flexible Mirror System)

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2台のFMSを使用した感想

岡山の「やまと」と申します。市立の天文台をボランティアで管理・運営をやっ ています。このたび、FMSを2台導入させていただきました。また、この2台 とも、松本さんにこちらの要望を聞いていただき、改良を加えていただいた物です。

写真4が、2台のFMSを望遠鏡に装着した所です。最初の予定は、同架してあ る20cmのマックと10cmの屈折に装着する予定でしたが、今は、40cm と10cm屈折に装着しています。

最初にFMSの導入を考えたのは、主力の40cmにはワンダーアイが取り付け てあるので、見学者に合わせて接眼部を動かすことができるのですが、同架して いる20cmマックと10cm屈折は接眼部を動かす事ができなくて、アイピー スをのぞくのが難しいことが多かったことからです。 同架してある2台を使用する時には階段を使うのですが、ストレートでのぞいて も、天頂ミラーを使っても、なかなか上手く目の位置に接眼部を合わせることが できませんでした。また、大人は天頂ミラーがないとのぞきにくい、子どもは天 頂ミラーがあると背が足りなくてのぞけない、という状態もおこっていました。 天頂ミラーを付けたり外したりすることは、見学者が待っている状態では現実的 ではありません。この問題を解決するためには、接眼部を動かす事ができるよう にするしかない、ということからFMSの導入を決め松本さんに相談にのっていた だきました。

まずは1台ということで、FMSを作成していただき、望遠鏡に装着したところ、 大型のアイピースを使用したときや、接眼部にカメラを接続したときには、可動 部を止めるネジが1本では少し強度不足に感じました。しっかりと締め込めば何 とかなるのですが、少しでも緩いと接眼部が動いてしまいます。そこで、止めネ ジを2本にするように改良していただきました。これで、大きなアイピースも安 心して取り付けることができるようになりました。 実際に使ってみると、接眼部が動かせるのは想像以上に便利です。個人で使うと きには、あれば便利、という程度と思いますが、次々に背の高さの違う人が見る 公開天文台では必需品という気がします。一般観望者のために、FMSが普及す ることを願っています。

1台目でFMSの効果が十分分かりましたので、ボランティアの皆さんと相談し たところ、是非もう1台ということになりました(金額的にも2台が限度でした が)。

2台目は、1台目を使ってみて、可動部がもっと丈夫になれば、少し大きなデジ 眼も安心して取り付けられるし、すり割りで締め付けるようにできればテンショ ンも自由に調整できるのでは、ということからすり割り式にできないか松本さんに 相談したところ、「新規の開発になり開発費もかかるがやってみましょう」とい うありがたいお返事をいただき、作成していただきました。

主力の40cmにはワンダーアイとプリズムを組み合わせて正立像で利用してい ましたので、FMSを使うつもりは無かったのですが、松本さんと話をしていると、 FMSは角度によって像が変わる、正立になるところもあるというような話を聞 かせていただき、それはそうか、まず40cmでも試して見ようということで、 2台目のFMSを40cmに装着してみました。そして、実際に使ってみると、 その便利さから取り外すことができなくなってしまいました。

写真1がFMSを装着した所です。背の高い人が見るときには写真2のようにな ります。同じ接眼部の状態で、背の低い人が見るときには、写真3のようになり、 FMSの回転のみで対応が可能です。身長の差で3~40cmぐらいの差ならば このFMSで対応可能のようです。また、写真3のような使い方ができるように なったので、今までは踏み台を利用する必要があった子ども達が、踏み台なしで も見えるようにもなりました。

このようにFMSは大変便利に使えることがわかり、今では必需品になっていま す。 また、副産物として、デジ眼を接続したときに自重でズームレンズが勝手に伸び たりすることがあったのですが、FMSによって接眼部を自由に動かせることか ら、接眼部を水平にすることにより、これを防止することができるようになりま した。個人で写真を撮られる方は、ズームレンズを接続して写真を撮ることはな いと思いますが、子ども達に、月を自由に拡大して自分の思うような写真を簡単 に撮ってもらうためにはズームレンズはどうしても必要でした。何か工夫をしな いとこのままではダメだな、と思っていた懸案をFMSで解決することができま した。

先にも書きましたが、FMS、公開天文台では積極的に採用して欲しいものです ね。望遠鏡に人間が合わせるのではなく、人間に望遠鏡が合わせるようになれば、 天文ももっと普及するのでは無いでしょうか。天文に多くの人が親しんでもらえ るようFMSの普及を願っています。        やまと

9月14日追記:

FMS、快適に使わせていただいています。しかし、使ってみると、もう少し・ ・・という部分が出てきました。

使用しているアイピースが重すぎて、1点での留めネジでは強度不足とは言わな いまでも、もう少し強力に留めたい、という欲求が出てきました。早速松本さんに

相談したところ、「他のパーツも含めて送ってください」とのありがたいお返事 をいただき、早速改良していただきました。

写真7のAのネジは元の留めネジです。これにBと(写真では裏側で見えませんが) Cの留めネジを追加していただきました。これで、なんの不安もなく使用するこ とができるようになりました。また、光路長の関係で延長筒を使用していますが、 この留めネジも①の1本留めから、②を追加していただき2本留めになり、十分 な強度を持たせることができました。不安無く安心して使えることは、精神衛生 上大変良いですね。

このように、要望に合わせて細かな改良をしていただけることは、何にもまして 助かります。ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

Comment by Matsumoto / 管理者のコメント

やまとさんがFMSを2台ご使用になった感想を投稿してくださいました。 単体のEMSの使用 リポートは、なぜか今までにほとんど集まらなかったので、大変嬉しいご投稿でした。

市販の天頂ミラー(1回反射)を屈折望遠鏡の接眼部に対空型にセットして地上風景を上から覗いて 見ますと、左右だけが逆になった直立像が見えます。このままアイピースを天頂ミラーごと反時計回りに90度倒して 横から覗きますと、像は同じ量だけ同方向に回転し、今度は天地だけが逆の裏像となります。

FMSの仰角と像の向きの関係をご説明しましょう。 FMSも天頂ミラー同様側視も可能で、覗き方はほとんど 無限にあるので、ここでは、目標に体が正対して観察する場合に限定します。

まず、仰角0度(直視)では、お察しの通り、望遠鏡の像の向きをそのまま見せてくれます。 つまり、 使用する望遠鏡の像が元々正立像なら正立像、倒立像であれば倒立像がそのまま観察されます。

EMSの構成ユニットが(双眼望遠鏡用で考えた時の)右目勝手の接続の場合、仰角を0度→90度に 移行させて行きますと、倒立像は反時計回りに180度回転します。 ただし、これは単純に2倍角で 回転するのではなく、仰角設定と像の向きの関係は線形ではありません。

EMSの仰角は90度を越えて最大120度までセッティング出来ますが、この間の像の回転量をご説明すれば、先述のことが理解していただけるでしょう。 何と、(右目勝手で)仰角90度→仰角120度(写真1)までのわずか30度の 仰角変化の間に、像は先ほどと同じ方向(反時計回り)に180度回転するのです。
(念のためにご説明しますが、FMSは自由に左右勝手を往復できる機構なので、 最初から右目勝手仕様とか、左目勝手仕様という区別はありません。(9/1追記))

もう一度整理しますと、
* 仰角:  0度 →   90度   →120度 の間に;
 像:  倒立像 →  正立像 → 倒立像  と、同方向に連続して回転するわけです。 左目勝手の接続では、回転方向がこれと鏡 対称になります。(この特徴がEMS-BINOの像回転の調整に功を奏すのです。)

(*注: 上の『仰角』とは、EMSの最終的な折り曲げ角度のことです。観察姿勢のことではありません。 また、上記例は、望遠鏡自体が倒立像の場合です。)

このことが示唆することの重大性は、今まで折に触れてご指摘して来た通りです。 (使用する望遠鏡の正立、倒立に関係なく利用価値があるのもその効果の一つです。)

EMSは元々、単体の対空視手段として開発しました。 しかし、大方のマニアや専門家の長年の固定観念( 2回反射は像劣化をもたらすはず・・^^;)を払拭するのはそう簡単ではないようで、単体のEMSの存在意義や真価が 十分に理解、認知されないまま、先に双眼望遠鏡用の手段として有名になってしまった、というのが、製作者 当人の正直な歴史認識です。^^;
ただ、こうして、”やまと”さんのような方が極めてたまにでも現れてくださると、またEMSを作り続ける勇気を いただいた気がいたします。

9月14日追記:

やまとさんより、追加リポートをいただきました。

FMSの場合は、EMSユニットの回転部の接続の他に、FMSと望遠鏡、FMSとアイピーススリーブ、 さらにスリーブとアイピースと、接続箇所が多いので、それぞれに配慮が必要になります。

通常より重い物を接続する場合には、それなりの対策が必要になるようです。  全ての接続箇所をすり割りクランプ式にすれば理想ですし、接続径を単純に太くするのも、大きな 接続強度のアップが期待できます。

今回いただいたリポートは、マイナーな追加加工の結果報告でしたが、私としましては、 やまとさんが2台のFMSを継続的に、しかも極めて有効に活用してくださっていることの意義を読み取っていただけたら幸いです。 やまとさんは、FMSを臨時的な対空手段ではなく、望遠鏡に常設 してご使用になっていますが、それは製作者の意図とも合致しています。

残念なことに今日に 至るまで、「天体望遠鏡は直視で見るのが基本であり、天頂ミラー等は天頂付近を見る時に 仕方なく使用する臨時手段である。」という固定観念が望遠鏡業界にもマニア界にも非常に 根強く浸透しています。

私が”汎用ミラーシステム”という名称で仰角可変タイプの EMSを初めて世に送り出してから20年が経過しているにもかかわらず、EMS全体に占める 仰角可変タイプの要望が未だに極めて少ないことには、改めて驚きを禁じ得ません。

一度権威を帯びてしまった固定観念を払拭するのは並大抵なことではありませんが、 少数ながらも、やまとさんのような理解者がおられる限り、諦めるわけには行きません。

 

TOA130-BINO in the sliding roof shelter

 古くなった納屋の建て替えに合わせ、屋根裏に念願の観測室を設置しました。

 TOA130BINOは、高い光学性能、持ち出し可能、シンプルで堅固、操作性に富んで、しかも美しい、これ以上求めるところが見あたりません。朝、観測室に運び込みました。松本さんのロゴ第一号の意味が納得です。夕方、電気工事がが完了したので、写真を撮りました。一部送ります。とても満足しています・・・・・・・・。

 続報 1 2010年9月16日

 BINOを設置した後、月をTOAで見ましたが、イーソス8mm125倍100度の視野は、月全体をとらえることができ、その表面の詳細まで見せてくれました。暑い夏の夜の空気のゆらぎが気になる中でしたが、感動を味わいました。不思議なのは、視界いっぱいの月であっても日周運動によるその動きが気にならないで観察できることです 。自動ガイドの必要性は当面感じません。時々ハンドルを動かすだけで十分でした。どうしてでしょうか。

 また、8月26日にはハワイ島のマウナケア山頂4000m超でスバル天文台を横に見ながら雲海に沈む夕日と、東の空に赤く四角形につぶれた顔を出し始めた満月を同時に見る機会をもつことができました。高山病予防のため、星はオニヅカ・ビジター・センターのある2800m付近まで降りてから観察しましたが、月明かりで、手に届く ような星々を見るまでには至りませんでした。このときは持参したNikon7倍50mm双眼鏡が活躍しました。日本よりさらに南側が観測できるさそり座・南斗六星付近の銀河中心部の数々の星団を流しました。ガイドさんによるグリーンレーザーポインター(星まで光が届いているのではないかと思えるほど強力なもの)で指しながらの 星座の説明も楽しみました。

 9月9日台風の後の好条件で、TOA130BINO+イーソスと12cmF5BINO+EWV32を対比しながら短時間でしたが観望しました。それぞれが特長を生かした接眼レンズとの組み合わせで、観望を楽しむことができました。12cmF5で天の川を流し、木星、M13、M59を確認しました。18倍程度の倍率で、見え方は小さいがF5の明るさが特徴的 なことを再確認できました。M13、M59は、その存在がやっとわかる程度の見え方です。

 TOA 125倍では、木星は衛星まで含めて約1/3の視野に収まっています。木星の縞模様がはっきりと確認できました。M13では、無数の星つぶを立体的にとらえていました。環状星雲M57は、リング状のはっきりとした輪が確認できました。12cmF5に比べ、星以外の宇宙ががどこまでも暗く、暗黒の空間を感じました。

 翌日の明け方3時頃、目を覚ましたついでに、冬見られる星々を確認しました。TOAで見るオリオンは見事でした。12cmF5では分離できない台形4個のトラペジウムがはっきりと分かれ、視野いっぱいの立体的なガス星雲の広がりが見事でした。次にアンドロメダ銀河も確認しました。昨年12cmF5を携えて富士山5合目まで行った とき、月を余裕でとらえることができる75倍100度の視野からは、アンドロメダ銀河の全体像があふれてしまっていた事に驚かされたことを思い出しました。(自宅での観望では小さくしかその存在が確認できません) 我が家からはTOA130 BINOの125倍の視野からあふれるアンドロメダ銀河までは確認できませんでした。条件が良 ければ、力を発揮できるでしょう。両極端な2台のBINOですが、それぞれの特長を生かしながら、時に遠征まで含めてディープスカイを求めつつ観望を続けていきたいと思います。 とりあえず短時間の観察のご報告まで 。

水車

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 納期がずれ込んでしまった、水車さんのTOA130-BINOでしたが、観測所の完成と非常に 良いタイミングで、7月24日に当方でお引渡し出来ました。

 完成された観測室に初めてTOA130-BINOを設置された第一報をいただきましたので、まとまったリポートをいただく前に、水車さんにお願いして写真と第一報の一足先の掲載をお許しいただきました。
 観測室には、奥の12cmBINOと手前のTOA130-BINOが仲良く並び、製作者としても嬉しい限りです。

 追記 2010年9月16日

 水車さんより、早速続報をいただきました。  マウナケア天文台にも行かれた由、羨ましい限りです。 標高2,800もあると、満月近くの月があっても下界では見られないような素晴らしい星空を堪能されたことと察します。
 2台のBINOの特徴を活かしながら、どちらも愛用してくださって、嬉しい限りです。 トラペジウム は12cmF5でも分解するはずですので、倍率等を変えて再度チェックしてみてください。

 高倍率時でもTOA130-BINOの中軸架台がうまく機能してくれているようで、嬉しく思います。 中軸架台も、5台以上作り、1台ごとに改良を重ねて、成果が出たように思います。 スラストベアリングの採用が最も功を奏したわけですが、ラジアル方向の円滑さでは、グリスの粘度が重要だと分かりました。 剛性を気にする余りに、初期にはグリスの粘度を高くし過ぎていたことが、水車さんの BINOの頃までに判明し、最近ではグリスの粘度をずっと低くして、より快適な水平回転を達成しています。 初期の製品をご使用の方で、水平回転がやや渋いとお感じになる場合には、水平回転軸部分を分解して、そこに市販のグリススプレーを適量吹きかけて(混合して)調整してください。

 水車さんには、海外遠征のお疲れが取れる間もなく、タイムリーに続報をいただき、 誠にありがとうございました。 これから、秋から冬の天体をじっくりと観察されましたら、ぜひ”続報2”を お願いいたします。 楽しみにしております。

Test carving of the first LOGO / 最初のロゴの試し彫り

Above is the test carving of the first LOGO that I have turned over for a few months. Each of the outline represents “M” of Matsumoto and in total, that represents a Binoscope.

I have done the careful kernings on the first logo.

数ヶ月間考え抜いた、最初のロゴです。^^;

カーニングをして文字列を整えました。 (右端の写真は試しに塗料を入れたところ。実際には、黒アルマイトに 地金の白が浮かび上がる計算です。)

SCHWARZ150S-BINO Reform / SCHWARZ150S-BINOの改修とドームで使用しての印象

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シュバルツ150S-BINO(第四世代型)の改修とドームで使用しての印象

シュバルツ150S-BINOも約5年使用したことになります。 この間に松本さんとのmailのやり取りやHPを拝見して、EMS-BINOが 大きく進歩しているのが判りましたので、今回下記4点の改修を実施しました。

(1)XYチルト機構の原点復帰調整と原点シール貼り付け。(写真1)
(2)HF経緯台の耳軸真鍮化
(3)耳軸ブランケットへのスペーサ(15mm)挿入によるバランス改善
(写真2 真鍮耳軸とスペーサ[パイプ状のもの])
(4)カウンターバランスウエイトの追加

尚、今回は見送りましたが
「EMSの銀ミラー化」「接眼部のクレイフォード化」「HFスライド機構の改良」についても時期を見て実施しようと考えています。

 またシュバルツ150SクラスのEMS-BINOをドームで運用している方は少ないと思いますので、今回の改修点と合わせてドームでの運用経験についてもレポートします。

【1.今回の改修結果】

(1)XYチルト機構の修正と原点シール貼り付け
EMSの特徴の一つにユーザーサイドでの調整余地が大きいことが上げられます。 また松本さんとしてもユーザーの調整を推奨しているとの事です。 (調整することでユーザーのEMSへの理解が深まることを期待しているとのこと)
但しXYチルト機構が原点にある状態で調整を始めないと迷宮に入りかねません。
この意味でこの「原点シール」は非常に重要・有効なものです。

 もちろんレーザーコリメータ等を使って原点を出すことも可能ですが、 まずレーザーコリメータ自体の光軸を正確に出すなど入念な事前準備が必要です、 (松本さんによると旋盤にレーザーコリメータを咥えて回転させるとレーザー光が円を描くような製品も多いようです)

 EMSの旧モデルには原点シールがありませんが、
ぜひEMSの調整を兼ねて原点シールの貼り付けを行うことをお勧めします。

(2)耳軸ブランケット延長・バランスウエイト追加・耳軸真鍮化の効果

・改装前は鏡筒を水平にした状態で前後方法のバランスを取っていても 天頂方向に向けると、上向き方向の力が働き(アイピース側が下がる力が働く)上下クランプをきつく締める必要がありました。(写真3,4. before)
・改修後は上下動がフリーストップになり操作性が向上しました。 写真の状態でクランプフリーでバランスしています。(写真5.after)

・更に使用アイピースの重量差 (イーソス17mmは1個725g、Or7mmは変換アダプター込み1個170g)を  キャンセルするためにバランスウエイト(約540g)を追加しました。 これで簡単にアイピース交換に伴うバランス変動に対応できるようになりました。 写真ではウエイトを前下方に出していますが、鏡筒を前寄りに固定してウエイトを 後方に出すこともできます。配置は使いながら考えていきます。
・HF経緯台の耳軸を真鍮に変更したことで高倍率時のスムーズさが向上しました。

【2.ドームでの運用】

(1)自宅屋上に2.5mドーム(ニッシンドーム製)を設置しています。 独立基礎は無く、建物の鉄骨を通常の約2倍使用し、特に梁を強化して防振対策しています。 観測室は防湿庫などの備品を置くため約50cm東西方向に延長してあります。

(2)夏場は観測室内・望遠鏡とも高温になりますが、南北2箇所のドアで 通風を促しています。(写真6) これにより短時間で観測室内の排熱、望遠鏡の冷却ができます。

(3)ドーム設置時に換気扇を付けましたが、排熱・通風効果が殆ど無く、 逆に雨が吹き込むなどのマイナス面が目立ちます。 また屋外フードにアシナガ蜂が巣を作るなど、問題を起こしてくれます。

(4)ドーム内は住居内とは異なり、温度・湿度の変化がかなり激しいです。 アイピース、フィルター類はドーム内に設置した防湿庫に保管していますが、 望遠鏡本体はEMSも含めて、準屋外設置のような状態です。 このため架台の一部に錆が浮いたりしています。これは

・観測室の気密性が低いこと
・海から1.5km程度しか離れていないため潮風が来ること
・観望時の夜露はドームでかなり防げるが、100%完全ではないことが原因のようです。
・現在、横浜のY.K.さんのレポートを参考に連続運転できる除湿機の導入を検討中です。

(5)ドーム内の照明が当初は照度調整できる赤色灯だけで暗かったため、 機材の汚れに気づきにくいことがありました。 現在はメンテナンス用の蛍光灯を追加設置しています。

(6)ピラーはNIKONの10cm屈折用の部品などを使用した特注品で

・天頂観望時はあぐらを組んで床に座る。
・中高度(60度位)は座面の低い椅子に座る。(約20cm)
・低高度(45度以下)は座面の高さを変えられる椅子に座る。
ようにして眼の高さが合うようにしています。 これで観望姿勢を安定させる事ができます。 楽な姿勢で観望できるのもEMS-BONOのメリットです。

(7)望遠鏡はピラーに付けたキャスターで簡単に移動できます。 常用倍率が100倍以下なので振動はほぼ気になりません。

(8)望遠鏡を観測室の端に移動し、アウトドア用のリクライニングシートを置いて 眼視や双眼鏡で、のんびり星を見ることもできます。 これはなかなか気分の良いものです。

(9)ドームの中に座ると、街灯などの直接光をほぼ完全に遮断できるので瞳孔が開き、暗い天体を見やすくなります。 標高で100m程度上昇したのと同程度の効果はあるように感じます。

【5年間使用しての印象・メンテなど】

(1)シュバルツ150S-EMS-BINOはBINOとしては比較的大型機になるでしょうが ドーム設置であれば非常に気軽に使えます。 反射系(μ250等)と比較すると外気順応時間が大幅に短いのも良い点です。

(2)EMSの保護フィルターは光学性能への影響が感じられないので 常時取り付けたままです。 このためミラーの状態は5年経過した今でも問題ありません。 (保護フィルターは若干汚れるので定期的にクリーニングします)

(3)光害カット、UHC、O3、Hβ等のフィルターは EMSの48mm保護フィルターを外して替わりに取り付けるのが松本さん推奨との事です。アイピース側に付けると保護フィルターと干渉する場合があります。

フィルターは同じものを左右で使用するのが原則ですが 「片側にIDAS LPS-P2、反対側にUHC or O3」 「片側にUHC、反対側にO3」 で使う場合もあります。

M42のような明るい対象では左右で星雲の形状が違って見える事がありますが 惑星状星雲などでは割りと良い感じで見ることができます。 微光星を残しながら、星雲をコントラスト良く見ることができるのは BINOならではでしょう。

また両眼にIDAS LPS-P2とUHCを2枚重ねることもあります。 光害カットをあと一押しできる感じで北アメリカ星雲などが見やすく感じられます。

(4)焦点距離やF値などが異なり、直接比較は難しいですが、 全体としてEMS-BINOは2倍の口径の単眼望遠鏡と対抗できる性能を感じます。 Ninja320も使用していますが、どちらが良いかは決められない印象です。 (対象天体によって評価が変わります)

(5)EMS-BINOの操作で注意する点としては XYチルト機構を無理に廻し過ぎないようにすることでしょう。 逆に(第四世代型の場合)
 どうしても左右鏡筒のスケアリング(方向調整)が必要と思われる場合は
「右側鏡筒バンドの固定ネジを緩めて左右方向のスケアリング調整する」
「右側鏡筒バンドの下に紙を挟んで上下方向のスケアリング調整する」こともできます。 この際「絶対にXYチルト機構を触らない」のがポイントです。 (但しこれは通常はユーザが行う必要の無い作業です。)
 どちらにしても作業する前には松本さんと相談して、症状(状態)を確認し、 少し頭を冷やしてから取り掛かる事をお薦めします。 EMS-BINOは一品製作物なので部品・構造が少しずつ異なります。 事前に相談する事で、間違った手順での作業を防ぐ事が出来ます。 手順を間違うと(触ってはいけないネジに触れるなど)復旧が大変になります。

 私は上下調整を左鏡筒でやってしまい苦労しました。 また紙(薄いコート紙)を挟む時は前後どちらかのバンド下だけにします。 両方に同じ厚さを挟んだら鏡筒の上下方向は変わりません。

繰り返しになりますが原点復帰シールは非常に有効ですので、旧製品利用の方は取り付けをぜひ依頼された方が良いと思います。 また私が行っている調整方法については後日レポートしようと思います。

(6)調整方法をいろいろ書きましたが通常使用時には 「原点シールを基準にXYチルトを原点に戻す」 「XYチルトを90度以内で回転させて、像を一致させる」 だけで難しいことは何もありません。

【最後に】

 一昨年、昨年と数回に渡る手術のあと、自力で立ち上がることもできない状態で数ヶ月を病院のベットで過ごしました。気になったのは、家族のことと、もう二度と星を見れないかもしれない、ということでした。

 幸い自力で動き、仕事に就け、短距離なら遠征にも出かけられるところまで回復しました。 この折角のチャンスを活かす相棒としてシュバルツ150S-BINOとプロント-BINO、更に現在製作依頼中のBLANCA130EDT-BINOを活用したいと思っています。

加藤 仁
2010年6月20日

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

はじめに

 加藤さんより、ご体調が必ずしも万全ではないにもかかわらず、BINOの調整にまで踏み込んだ、非常に内容の濃いリポートをいただきました。 当時の製品は現行の物と比べると、未熟な点も多く、さらにマニュアルも今以上に完備していなかったため、光学的知識が豊富だった加藤さん故に、逆に大変苦労されて一つの境地に 達されたものと察します。 

 まず、「シュバルツ150S-BINO(第四世代型)」について、ピンと来ない方も多いと思いますので、簡単にご説明します。 2000年以前に、口径15cmF8の中国製のアクロマート鏡筒が、当時、十万円を切るという破格の値段で発売されました。 それは、アマチュアに手が届く屈折鏡筒の口径の上限を一挙に引き上げるという、特別な事件でした。 2001年に 続けて発売されたF5タイプも十分な低倍性能を示し、その後は途中で供給が中断した期間はあったり、 取り扱い業者が変わったりはしましたが、DEEP-SKY用のリーズナブルなBINOの素材鏡筒として、現在でもその存在意義を失っていません。

 SCHWARZ150S-BINOの初代仕様は、純正鏡筒のフォーカサーやフランジを加工して、なんとかぎりぎりバックフォーカスを 確保したモデルでした。

 目幅調整は第1~4世代仕様を通して、左の鏡筒を、鏡筒バンドの下に前後1対配置したリニアブッシュ(リニアベアリング)による、同じ自由スライド(&クランプ)方式を採用していました。(←この方式は数年前に中止し、 現在のスライド台座は、全てベアリングを使用した微動送り機構に移行しており、目下新型を設計中です。)

 製作者自身、SCHWARZ-BINOは、その後の目まぐるしい仕様変更のために、各世代仕様の逐一までは 記憶してませんが、簡単にご説明しますと、第1~第4世代仕様に至る変遷は、フォーカサーの改善とバックフォーカスの追加確保に尽きる、と言うことが出来ると思います。 第2もしくは第3仕様辺りから、純正のフォーカサーを外して、 少し径の太いフォーカサーと交換するようになり、第4世代仕様では、初めて、独自のフォーカサーを開発し、 フォーカサーのガタに起因するイメージシフトをほぼ完璧に排除できたのでした。また、これが初めて65φバレルを採用した機種でもありました。

 この鏡筒を使用したBINOの流れは、現在の15cmF5-BINOに至っているわけですが、強いて現行機種の「世代」を言いますと、 第6世代仕様で、鏡筒をメガネ型にしたバンドで結束固定して、左右の鏡筒を固定し、EMSの接続管を 伸縮式にして目幅調整をする方式に変更してから2世代目のモデルということになりますが、目下、第7世代仕様を開発中です。

 (SNOWさんのBINOが、同第5世代仕様の1号機でした。)

  それでは、以下より、本論に入ります

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(1)EMSのX-Y調整ノブの原点シール:
  これは、なぜ最初から付けていなかったか、と悔やまれますが、旧仕様のユーザーの方で、原点シール貼り付けを 希望される方は、EMSを左右ともお送りください。 光軸の再調整と原点シールの貼り付けをさせていただきます。 (無料、往復送料だけご負担ください。(送料着払いでご返送します。))

(2)真鍮耳軸:
  VIXEN純正のHF経緯台用CRADLEの耳軸は、アルミ合金の耳軸にナイロン?ブッシュを被せた仕様で、かなりの アンバランスでもフリクションを調整して望遠鏡を静止させられる構造になっていました。 数年前までこの方法を当方も 採用していたのですが、その後、バランスさえちゃんと合わせれば、真鍮耳軸があらゆる点で優ることが分かったため、現在は すべて真鍮耳軸に統一しています。(希望者の方には、1組¥6,300でご提供します。)

(3)耳軸ブラケットのスペーサー:
  第4世代仕様までの同BINOは、三脚使用を前提としていたことと、天頂オーバーまで鏡筒が向くことに こだわり過ぎていたため、耳軸を敢えて低め(鏡筒を水平にした時の低め、という意味;つまり、重心は高めになってしまう)に設定していたので、 天頂に向けた際のアンバランスはTRADE-OFFとして折り込み済みでした。 ただ、その後に、真鍮耳軸の採用と並行して、 フルストロークの完全バランスの重要性に気付いたため、その後はこの鏡筒天地方向のバランスに十分な配慮をしています。(最近は、耳軸を最低でも鏡筒中心、可能な限り、それより少し高い位置にセットするようにしています。)

(4)外付けのカウンターウェイトシステムは、我ながら傑作だと思っています。^^;   15cmF5鏡筒は極端に鏡筒長が短いため、写真ではシャフトが随分長く見えますが、実際には、リンク画像のように、 コンパクトな作りです。(希望者の方には、このウェイトシステムを¥9,800でご提供します。)

【1.今回の改修結果】のところで、”松本さんとしてもユーザーの調整を推奨している・・・”とお書きになった部分に つき、加藤さんの方から、読者の誤解を招かないか?とご心配くださいましたので、少し補足させていただきます。

 私が日頃から申し上げたいのは、EMS-BINOは、現状では市販の天体望遠鏡をそのまま使用しているので、剛体としての精度を保証する物ではありませんし、また実際、それを確保する必要もないのです。その辺のニュアンスは、むしろ初心者の方の方が伝わりやすく、マニアになるほど、なかなか理解してもらえない印象があります。

 観望会等で、初心者の方に望遠鏡を覗かせると、精密な光学器械を壊してはいけないと思うのか、合焦ノブを恐る恐る、極めてスローにしかよう動かさないので、ピントの山が全く掴めませんが、BINOの調整に難航する方のパターンも、それと全く同じに見えます。 まずは、どう見えるようにしたいのか、それに対して現状がどうなっているのかをしっかり把握し、後はどこをどう動かしたら像が移動するかを冷静に考えれば良いのです。

 そして、正解点を確実に決めるには、理想に対してアンダーとオーバーの領域をスムーズに素早く往復出来ることが 必須で、その傾向さえ掴めれば、全てが解決したのも同然なのです。 ですから、「初心者と合焦ノブの関係」から早く卒業 していただき、必要があれば気軽に鏡筒を振ったり、EMSのユニットの接続角を調整して見てください、という意味に於いて、加藤さんのコメントを支持したいと思います。 ただし、くどいようですが、その時にEMSのX-Y調整でそれ(初期調整)をやってはいけない、ということが鉄則なのです。
(X,Yノブの操作限度ですが、リポート本文では±90度以内と 書いておられますが、細かく申しますと、Yノブについては、±45度、Xノブは近距離の観察時を考慮して、+45度~-90度 の範囲で納めて欲しいと思います。 +は時計回り、-は反時計回りです。)

 調整に難航する方は、絶対に触ってはいけない部分をいじりまくり、しっかり調整して欲しい部分については、自分で勝手に タブー視して、よう触らない、という傾向があります。 具体的には、鏡筒を外そうが、EMSの接続を解除して像を数十度も 回転させようが、再現時の解は一つしかありませんので、簡単に復元可能なのです。 逆に一番回しやすい、X-Yノブの方が、 悪用の弊害が一番大きいのです。 例えば、ノブをどんどん緩めて行きますと、ノブは組み込みネジを兼ねているので、いずれは脱落しますし、逆に限度を越えて締め込むと、中心の支点のネジの先端をアルミ製のミラー台座に微妙に食い込ませる ことで、せっかくのノブの矢印が本来の原点位置からずれてしまいます。

 何だか冗長になった割に、かえって混乱を招くのでは?と心配になりますが、要するに、EMS-BINOは剛体としての精度の概念の 外にあり、機構上、理想位置が常に調整域に包含されているため、正しく使いさえすれば、観察者の眼位や観察距離に対して、常に理想的な光軸状態で使用できるということです。
(市販の双眼鏡は、光軸は常に固定されており、眼位の 個性や観察距離には全く対応していません。 フォーカシングに例えれば、まさに固定焦点ということです。 EMS-BINOはユーザーの技量次第で常に完璧な光軸状態がキープできるシステムなのです。)

【5年間使用しての印象・メンテなど】の(5)でコメントいただいた、 鏡筒の方向調整についてですが、これは、加藤さんもご指摘のように、ユーザーさんには通常は不要なメンテです。初期納品時に輸送中のアクシデントや、鏡筒バンドを開いて鏡筒を動かしてしまった場合等、不幸にして 鏡筒の方向が微妙に狂ってしまった場合の原点復帰方法としてご理解ください。このような 作業が日常的に必要だということではありません。

 20年以上に渡ってEMS-BINOを作って来た経験から、調整箇所を最小限にするのがベストであることを痛感しています。 初期のBINO(確か同BINOの第3世代仕様くらいまで)では、右の鏡筒の手前下に、丁度赤道儀の極軸の方向調整のような シンプルな調整機構を設けていたのですが、悪用^^;するユーザーの方が絶えないことと、その後の経験から、 現実の初期調整での鏡筒の横振りの必要範囲が実際には極めて狭く、通常の鏡筒バンドのベース固定用のボルトのバカ穴のガタ(わずか0.2㎜程度)で十分であることが実証され、それ以降は前記水平調整機構を廃止して、成果を収めています。(調整機構は、光軸ずれを生じる原因ともなり得る、調整機構が無ければ、大きく狂う原因も無い。)

 言い換えますと、第4世代仕様のような平置きタイプの鏡筒スライド方式では、左右の鏡筒は上下方向にはほとんど 光軸が狂う要素がありませんし、水平方向も最悪狂ったとしても、先述の固定ネジのガタの範囲を超えることはないのです。

 ですから、万一不幸にして同タイプのBINOの光軸が狂ってしまった場合は、右の鏡筒のバンドの下のボルト(前後の バンドそれぞれ)を緩めて、左右に少し振りながら、正しい位置で固定すれば復元可能なわけです。(正しい位置の見極めにはそれなりの技量は要りますが、一番重要なのは、そのメカが適性位置を挟んでアンダーからオーバーにまたがって調整可能であることなのです。) (製造現場では、このBINOの垂直方向の初期調整は、左鏡筒のバンドの下のスペーサーを、旋盤で薄紙を 剥がすように削って行っていました。
もしユーザーサイドで鏡筒の上下方向の調整が必要に なった場合は、旋盤等が使用できる方を除き、写真8のネジを緩めるのではなく、左鏡筒には触らずに、シムの 挿入も右鏡筒のバンド底に入れる方が作業は楽でしょう。(写真8のネジを緩めると、せっかく右の鏡筒で横調整したのがご破算になります。)

(←上下方向の調整機構が無いのが、上下には狂わない理由:以前に 某代理店さんが分解された際に、前後のスペーサーを取り違えて組み立てられ、重大な光軸ずれが 生じて困られた例がありました。^^;不用意な分解はNGです。)

 メガネ型バンド結束タイプ(鏡筒固定方式)では、さらに簡単です。上記鏡筒スライド方式とは全く逆で、この方式では、 鏡筒は決して左右方向には狂わないので、万一上下方向に狂った場合は、鏡筒バンドのクランプネジを4個とも少しだけ緩め、強めの力でBINO全体を捻れば、鏡筒の平行を簡単に復元出来ます。 この調整は、ただやってみれば簡単に理解でき、 数秒で終わる作業なので、マスターすれば笑いが止まらないはずです。^^

 加藤さん、この度はまた、渾身のリポートをいただき、誠にありがとうございました。 EMS-BINOユーザーの方には、非常に良い参考 になったのではないでしょうか。 リフォーム直後の新鮮なご感想に感謝しますが、またリフレッシュされたBINOをじっくりと観察されてから、また追加の情報等ありましたら、よろしくお願いいたします。

最後に

 このリポートをお読みになって、「ああ、やっぱりEMS-BINOはこんなに面倒臭いものなのか?・・・」と思われた方は、 読まれたことを、ひとまずは全てお忘れください。 その代わりに、当方で完成したBINOをお受け取りになれば、理屈抜きで 何らの障害もなく使いこなされるでしょう。 そして一定期間BINOをご使用になった後で、またこのリポートを お読みになれば、「うん、うん、」とご納得いただけることを請合います。

PRONTO-BINO(7cmF7),Mr.Kato (2010,5/29)

photo 1
photo 2
photo 3
photo 4 (before)
photo 5 (after adjust)
photo 6 (mirror)

テレビュー製のプロントEMS-BINO(7cm F7)が納入されたのが2005/2ですから ちょうど5年強が経過しました。 この間の利用状況、印象などをご報告します。

 テレビュー社では「最もよい望遠鏡とは、最もよく使う望遠鏡」のコンセプトで 何種類もの魅力的な望遠鏡をラインナップしていますが、その初期のものが プロントだと思います。 もちろん大型機にはそれぞれの魅力があるのですが「まずは使ってこそ」 と言う考え方には非常に共感します。

 プロントEMS-BINO導入してから5年の間に体調を崩し、入退院・手術を繰り返して 最終的には人工透析(週3~4回 7時間/1回 帰宅は24時頃)を受けることになりました。 このため星を見ることができる時間が大幅に制限されましたが、 プロントEMS-BINOはその扱いやすさから重宝しています。

【運用】(写真1) 通常は自宅2階の書斎に置いてあり、ベランダ観望に用いています。 EMS-BINOとしてはかなりの小型機ですが、その分、

・軽量・コンパクトなため簡単に準備ができる(文字通り数秒)
・対物レンズなど光学系の温度順応が早い
・鏡筒が短いため狭いベランダでも使いやすい
・光学系全体の優秀さゆえ星像が美しく、かなりの高倍率まで耐える(架台の限界はあります) ことから稼働率は高く、晴れ間があれば直ぐに使えます。
(透析日の就寝時間は午前1時頃ですが、就寝前に見ることもあります)

 ベランダ(南向き)のため視界は限られますが 月、惑星はおおむね見ることができます。(西に低くなると隣家の屋根にかかり見えない) またEMSにより視線が下寄りに向くため、街灯の影響を受けにくいのもメリットです。

【使用アイピースと星像】

 EMS-Lを選択したため2インチアイピースが使えます。 現在、主力アイピースはツァィスの12.5mm(見かけ視界90度)で 笠井トレーディングの2インチマルチショートバローのレンズ部のみを取り付けて 約60倍で使用しています。
このアイピースは合焦位置がかなり対物レンズ寄りなのでバロー(約1.5倍)を 合焦用のエクステンダーとして利用しています。

 このアイピースはナグラー・イーソスなどと比較すると 「シャープさを持ちながらも、やわらかめの像質」の印象です。
周辺まで比較的良像を結び、特にFの短い鏡筒との相性が良いように感じます。

 周辺部を注視すると星が流れているのは判るのですが、 中央付近に視線を置くと周辺部の流れが余り気になりません。 眼の構造のためか、何か特別な設計ノウハウがあるのかは判りません。

 地上を見た際の像の湾曲が少ないのも特徴です。(イーソスは盛大に曲がります) また軽量なのも長所でしょう。

・アイレリーフが短い
・合焦位置がかなり対物レンズ寄りで望遠鏡によっては合焦しない(エクステンダーで回避可能)
・月を見ると若干黄色系の着色がある(もともと地上用の光学系として設計されている為らしい)
なことが難点でしょうか。

 この組み合わせでも、星像は十分満足行くものになります。 イーソス10mmを使う場合もありますが、この組み合わせだと 最早文句を言うところが見当たりません。

他にシュバルツ150SEMS-BINO、Ninja320を現在所有しており 過去には

 高橋:MT200、ミューロン250、FC76、FC100N
笠井:アルター(15cmルマック型マクストフカセ)、スーパービノ15倍110mm双眼鏡
ミード:20cmシュミカセ、40cmドブ
宮内:10cm 45度対空双眼鏡
などを使用してきましたが 星像の気持ちよさではダントツで最高だと思います。

対物・EMS・接眼レンズの優秀さもありますが、 EMS-BINOの特徴である

(1)双眼視
(2)90度対空型による観望時の姿勢の安定
(3)眼・脳へのストレスの少なさ
が寄与しているものと思います。

他に32mmアイピース(笠井見掛視界70度)を使って15倍70mmという中型双眼鏡なみの スペックで使用することもあります。 天の川を流すと楽しいですし、 UHCフィルター等を併用すると、普段と違う宇宙を楽しむことができます。

【構造】 (写真2:フードを収納した状態、写真3:スライド機構・フード延長状態)
・写真をご覧いただければ判りますが「極めてコンパクト」です。  重量こそ単体プロント鏡筒の3倍強の11kg(2インチアイピース・5cmファインダー含む)で、横方向にも大きくなっていますが  「よく使う望遠鏡」の美質は失っていません。

・接眼部はプロント標準の2インチです。
・EMS-Lに長めにアイピースを使用しますので、接眼部が目立ちます。
・相対的にEMS-L部分が重いため、鏡筒前方にカウンターウエイトが付いています。
・左右鏡筒の焦点距離がセンチ単位で違っていたようですが、倍率の違いは認識できません。
・鏡筒は数センチ切断しています。
・架台は標準のHF経緯台です。
・スライド機構はリニアブッシュ式で5年使用しましたが全く不具合ありません。
・鏡筒がコンパクトで軽量なため、この構造で不具合を感じたことはありません。
 (鏡筒の重いシュバルツ150SEMS-BINOでは若干不具合を感じる部分がありますが、 現在の製品では改善されています)

【トラブル経験】

 導入初期の頃ですが 観望中に突然、左右の像に(少しずつ)ズレが生じ始めました。 XYチルト機構で修正したのですがズレが止まらないので明らかな異常と判断し 室内の照明を点けて確認すると 「右側の鏡筒バンドが緩み、鏡筒が少し回転しながらずり落ちていた」ことが 判りました。

 鏡筒をセットしなおして、XYチルト機構での修正分を(見当で)元に戻しました。 レーザーコリメーターでのチェックはしていませんので、どこまで原点復帰できたか は多少不安ではあります。
(BINO MAKING Progress Reportの2010年5月24日説明のような状態になっている可能性あり)

最近の製品はXYチルト機構の原点復帰マークがありますので心配ないと思います。 これ以外には特にトラブル経験はありません。

【調整】

 長期間使用していると鏡筒バンドの緩み等で左右のEMSのスケアリングがずれたり 像の倒れが発生することがあります。 星を見ているだけでは、かなりの誤差になっても、意外と気づかないものですが (眼が修正してしまう) ときどき昼間に調整します。

(1)左右の接眼スリーブが平行になっているか? 高さがあっているか?メジャー等をあてて目視でチェックします。

(2)像の倒れの修正  直定規を対物レンズの前に置いて修正しています。(写真 修正前・修正後)
両目で見ると調整中に眼が修正してしまうので、片目で見るか、デジカメで撮影しながら追い込むようにしています。 (BINO MAKING Progress Reportの2009年12月9日説明を参照下さい)

(3)EMSミラーの清掃

 「EMSには保護フィルターが装着されています。星像への影響をほとんど感じないので 観望中も装着したままにしています。(気になる方は観望時に外すことも可能)

 フィルターのおかげでミラーは5年経過後も新品同様です。 それでもどこからか僅かな埃は侵入するのでダスターで飛ばしています。(写真6 ミラー面 フィルターを外して撮影 小さな埃は付着してますが綺麗です)
私はミラー面を無水アルコールで洗浄した経験はありません。 (詳細手順はホームページのEMSミラーのメンテナンス を参照してください)

【遠征】

 病気の制約であまり遠征には行きませんが、Ninja320とともに遠征したことが数回 あります。(自宅から15分程度で着ける直ぐ近くの場所です)

32cmニュートンと7cmでは比較するのが無茶ですが

・星像が美しい(特に視野の均一性) [但し短Fニュートンでもパラコアを使えばコマ収差はほぼ減殺できます]
・淡い星雲などの識別性能が高い
・実視界が広い
・現地に到着して直ぐに使える(温度順応が早い)
ことでプロントBINOにも大きなメリットがあります。

 流石にNinja320の主鏡が温度順応し、パラコアを併用してコマ収差を減殺すると 天体の細部構造の見え味では勝負になりません。 ただ実視界には大きな差がありますし、大口径機が能力を発揮できる気流の夜は限られますので プロントEMS-BINOの存在価値は消えません。

【5年間使用しての感想】

 プロントEMS-BINOのような小口径のBINOは、コスト面でなかなか採用に踏み切るのは 難しいかもしれません(鏡筒自体がシュバルツ150Sよりかなり高価ですし)。 ただ上記のとおり、小型EMS-BINOであるがゆえのメリットは大きく 十分に存在意義はあると感じています。

ナグラーの言う「良く使う望遠鏡」としての良さを維持しつつ EMS-BONOにより「人間が両眼で、楽な姿勢で見るための光学系」としての長所を追加した 本機は天体望遠鏡の一つの到達点だと思います。

加藤 仁
Hitoshi Katoh

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

PRONTO-BINOとSCHWARZ150S-BINOのユーザーでいらっしゃる加藤さんより、 3回目のリポートをいただきました。

 ファーストライト直後の新鮮な感動をリポートいただくのも、もちろん嬉しいのですが、こうして5年間 に渡って愛用されたご感想をいただくのは、また格別の重みがあり、非常に価値あるものです。  体調の管理をされながら、渾身のリポートを作成してくださいました。

 当時の定番だった、リニアブッシュ(リニアベアリング)を使用したスライドマウントは、数年前に卒業した形式ですが、 当時の加工手段の範囲で最大限に知恵を搾った結果のデザインで、懐かしく再会させていただきました。 クランプを緩めると左鏡筒が台座ごと自由にスライドし、好みの位置でクランプするという形式でした。 現行モデルでは、クレイフォード(フリクションドライブ)式により微動送り機構を備えています。

 直定規を利用した像の倒れ調整について、よく理解され、見事に調整しておられます。 当方のサイトでは、手元にあった金属製の定規を置いていますが、加藤さんのように、透明の定規を 使われると、大変見やすいですね。 さすがです。 直定規を水平中心に置くのが難しい 場合は、紙箱の角等を利用した直角アングルを作って水平にしたBINOの筒先に置くと便利かも分かりません。 また、左右の見口より定規の直線性をチェックする際、片眼で交互に(素早く)見る ことも大事なポイントでした。

 ミラーのメンテについて、この場を借りて少しご注意申し上げます。 アルミ増反射コートにつきましては、すでに20年以上の実績があり、当方にある20年以上前のミラーも新品同様の輝きを保っております。 しかし、耐久性を加速実験にて確認したとは言え、増反射銀コートミラーにつきましては、まだ十年、二十年もの経年検証が済んでいません。 従いまして、銀ミラー仕様については、防塵フィルターは付け忘れを防ぐ意味でも、外さずに常時装着してご使用になることをお勧めします。 当方にあります銀ミラーサンプルは、すでに3年を経過して初期の反射率を維持していますが、空調が完備していない、吹きさらしに近い スライドルーフやドーム内での長期保管はお避けいただき、EMSだけは人間の快適生活空間で保管されることをお勧めします。(ただし、ご環境やご都合により、EMSの移動保管が現実的でない場合は、自己責任 にて保管してください。)

 忙しさに紛れて、当方のサイトでは唐突な掲載しか出来ていませんが、リポートの形で加藤さんより、改めて好適な保存版の教材をまとめていただいたようで、大変ありがたく思います。

  加藤さん、これからもお体を大事にされ、時々はこうしてリポートをいただけましたら、大変 ありがたく思います。 この度はまた渾身のリポートをいただき、本当にありがとうございました。

Pinkish Orion Nebular by silvered 20cm-EMS-BINO/ ピンク色のオリオン大星雲 by 20cm-EMS-BINO

Mr.OKAMOTO in Toyama Pref.

      2009年11月14日

【銀ミラーの効果】

 一昨日11時半ころから1時ころ 快晴の空の下、銀コートで武装 した20センチF7屈折EMSツインでM42付近を散策してみました。 EWV32 84度のアイピースからこぼれそうなくらいの星空 (自宅なのでバックは明るいですが)を見ながらふっていくと  おやっ?いつもの見なれたM42と違う、  おおっ!淡く ピンク 色に見える。 眼の錯覚ではないか? 先日月明かりの下で見た 時もやや色がついて見え、もしかしたら とはとは思っていたのですが。 もう一度裸眼で夜空を見上げ、校正をかける。 そして覗く、  やっぱりピンクだ!今までは 明るい緑色やや赤銅色の南の翼 しか確認 できなかったのですが。

 頭、ベールのようなやわらかい北の翼、しっかりとした南の翼、が濃淡 のあるピンク色に発光し トラペジウムの近くは黒く抜け、(ガスを消費した結果なのか輝星の 眩惑なのかさだかではありませんが)、そしてさらに周りはモクモクとした グリーンのガスが取り巻き、一部はやや青みがかってさえ見えます。

 写真は作られた色調であり、本当の姿ではありません。 今見ているそれこそが ”30光年まで近づいた宇宙船からの光景”か、 と思うと感慨深いものがあります。  かつて40センチ反射ツインを作った目的も ”オリオン星雲をカラーで見たい” が目的の一つでした。

 そしておそらく最も早く、両眼視でオリオンカラーを視認できた仲間 の一人になれたことを感謝します。 さらに暗い空に下で検証してみたい と思います。                    とりあえず報告まで

ps

残念ながら燃える木もやっとで、とても馬頭は無理でした クロマコールは片方だけ入れると彩度が上がりました 。両方 ではあまり変化ないような感じです。 もうALミラーには戻れません。(単眼に戻れないのと同じくらい) もう一つ、 言ってみたいですね。 ”もうアクロマートには戻れないなんて”

 最高の贅沢を有難うございました。 でも一人で覗いたのでやっぱり夢ではないか?信じられません 今度フィルターも試してみようと思います。

 もし公開されるのでしたら、もう少し待っていただけませんか。 間違っていてご迷惑をかけてはいけないので、誰かと 見てみないと。 あまりにセンセーショナルなので自分でも 信じられないのです 。夢だったのかも? 当日はカラーの観測像が眼に焼きついて いましたが今は写真のイメージと同化してしまいました。

 今後 干潟星雲や 三裂星雲 それらが実際の色 ピンクや 青が見えることが予想されます。 

      2010年4月18日

【やはり本物でした】

 さて去年メールしました、銀ミラーの色再現性についてですが やはり 間違いないようです。

2月に20センチ屈折ツイン銀ミラー仕様をもって愛知県の元気村に遠征 、 このときはある方はこのようにコメントされました。

( 20cm屈折双眼でのM42を見て) あんなに明瞭に星雲の色を感じたのは初めてとのこと 眼視にはこんな世界もあるのかとびっくりされた方もいましたが、 いや色が着いてるとは言えないという方も。どうも個人差はあるようです。

 そして。なかなか星仲間と観望会を開ける機会がないまま4月中旬 となり、やっとある程度の経験者と合同で観望する機会にめぐまれました http://astrobinobicycle.at.webry.info/201004/article_3.html のとおりですが オリオンはやや傾いていたものの透明度がよく近くに3日月があり、色の校正が 自然にできていた事にも助けられたものと思います。

 見た方の第一声は いやー これ色着いてるやん 。やはりM42は基本 的に 淡いピンクの星雲であることを 認識できるものでありました 3時ころやや透明度が落ちたオメガ星雲、干潟 三裂星雲とも残念ながら 色は感じられませんでした。25センチなら可能かも知れません。

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 去年の双望会は天候に恵まれず、せっかくの20㎝BINO by銀ミラーを 見せていただくことが出来なかったのですが、実はその少し後の11月に、 上記の感動的なメールをいただいておりました。掲載を今日まで延ばした理由 も、上記文章より自明ですが、岡本さんの責任ある慎重なご姿勢がよく表れています。

 この度、岡本さんが満を持して発表してくださいましたが、多重反射実験での銀ミラーの 反射特性がそのまま実証された感じがいたします。長波長域で反射率が落ち込まないことの効果 には私たちの予想を超えるものがあるようです。

 岡本さん、今度は25cmの銀ミラー化が待っていますね。 当方の都合により、今回の銀ミラー蒸着の第3回ロットには 入れられませんでしたが、双望会までには間に合わせたいと思っています。 きっとまた銀ミラー仕様の 25cmED-EMS-BINOが未知の世界を 切り開いてくれることでしょう。

BLANCA115EDT-BINO

 1月の末、115EDT-BINOを受け取ってからずっと天候不順だったため、まったく星を見ることができませんでした。鳥取訪問から4週間近くたった先日、ようやく晴れた夜空にきれいな半月を見つけ、待ちに待ったファーストライトとなりました。 仕事から帰宅すると急いで2階にかけ上がり、自室に置いているBINOをベランダへと移動。月へと照準を合わせたのでした。

人生伴侶のテレスコープを松本式BINOに

 星に興味を持ち始めたのは小6の頃でしょうか。中学時代の星仲間は小型の望遠鏡を使っていましたが、私は藤井旭著「星雲星団ガイド」の中の、双眼鏡でもこれだけ見えるよ、という解説を参考にビクセン7×50の双眼鏡を買ってもらい、以後高校までそれを愛用していました。ところが、大学時代に購入した初望遠鏡のFC-76セットの見え味には、期待が大きかったせいか正直に言って満足できず、次第に星から興味が遠のいていったのでした。

 その後30年たち、目の衰えが気になりだしてから、もう一度宇宙の美しさをこの目で楽しみたいと思うようになりました。まずは手頃なBORG77EDを購入。星に地上に望遠レンズにとマルチに活躍してくれましたが、やはりよく見える望遠鏡が欲しくなり、次の機種の選考に入りました。さまざまな鏡筒や架台、それに双眼装置との組み合わせなども考えましたが、最終的に松本式BINOに決定したのは、始めに星を見る道具として双眼鏡を選んだ経験が強く影響していることは間違いありません。

鏡筒選定

観望場所は基本的に自宅のベランダです。自宅だと部屋からすぐ持ち出せるのは良いのですが、市街地に近いため、よく晴れた日でも3等星がやっとの悪条件です。対象はどうしても月惑星が多くなりそうです。よって選定条件として、収差が少なくシャープで、組み立てた状態で容易に持ち運びでき、価格もリーズナブルなこと、を重視しました。松本さんに10cm前後のEDアポを相談したところ、その頃発売されたBLANCA-115EDTは?、とすすめられ、私も実は気になっていたため、即これに決定することができました。ただし移動距離が長かったならば、より軽量な10cmEDアポか12cmF5を選んでいたのではないでしょうか。

取り扱い

 鳥取まで受け取りに行った際に、松本さんから本当に詳しく説明してもらいました。また、長年の地道な改良のお陰でしょう、全体の構成がシンプルで扱いやすく、昼間に何回か練習を行っていたため、EMSも含めて夜間でも操作に迷うことはありませんでした。

 組み上がったBINOは、3枚玉アポのしっかりした対物セルのために本体重量が17.8kgと、(予想していたとは言え)少し重くなってしまいました。そこで部屋での保管時にはEMSを外した状態にして、ベランダ設置時にアイピースの付いたEMSを取り付けることにしました。また付属のパランスウエイトは、やや重量不足だったため思いきってはずし、その代わり足首用のトレーニングウエイトを巻き付けて調節することにしまた。(写真の赤く見えるのがそれです)。それらの工夫で、移動時の本体重量を15kgまで減らすことができました。

 アイピースは必要最小限の構成にしたかったため、まずEWV-32mmと2倍ショートバローを、そして中高倍率用にイーソス6mmを購入、2インチサイズで揃えました。これらを組み合わせて25倍、44倍、133倍、233倍が得られます。

ファーストライト

 早速ベランダにBINOを設置して、いきなりイーソス6mm133倍で月を入れてみました。視野が広いためにスポットファインダーで十分です。目幅、ピント、EMS調整をすると・・・「これが月なのか!」・・・というのが第一感想です。当日はシンチレーションが悪く、それでもユラユラゆれる気流の向こう側に、これまで見たことのない月が浮かんでいます。次第に双眼視に慣れてくると、細かいクレーターや山脈、谷などが、まさに立体的な風景として目に飛び込んでくるのです。片目とはまったく別物、Google Moonの写真とも違う双眼視だけの「体験」です。当初6mmでは倍率が高すぎたかなと思っていましたが、広い視野いっぱいに色付きのない月面全体を眺めながら、ある一カ所に注意を集中すると驚く程細部まで地表の形態を「感じる」ことができます。1本で中倍率と高倍率を行き来できる、と言えばよいのでしょうか。コントラストも片目で見るよりは、ずっと強く感じます。

 月が沈んだ後気がついたのですが、その夜は2等星までしか見えておらず、どうも薄雲がかかっていたようです。そこでM42は確認程度にして、今度は昔よく見ていたシリウス下のM41を入れてみました。星々は暗めですが、双眼鏡では雲状に見えていた微恒星が無数の光の点として確認できます。さらに驚いたのが星の色です。M41内の比較的明るい星ならば赤や緑の色がはっきりわかります。特に赤がしっかり出ている印象で、星の色の違いを明確に感じることができます。赤色を正確に反射する銀ミラーの効果なのでしょう。星の色の差を認識できる、ということが、こんなに楽しいものとは知りませんでした。

 この日は月を妻や子供達にも見せました。家族にいきなり双眼視は難しいため、その時はEMSを逆はの字に回転させ、2連望遠鏡として使用しました。こんな変則的な使い方ができるのも松本式BINOならではですね。

それから数日後、気流のおだやかな、絶好の夜がやってきました。再び月を…、ゆらぎがないため前回よりはるかにすばらしい眺めです。コペルニクスは、そこから四方八方に広がる「猛烈な」起伏、詳細に見えるクレーターの淵や内部様子が本当に見事で、30分以上同じ所を眺めても全然見飽きません。もっと地形を勉強しなければ!。倍率は、バーローをつけた233倍よりは、133倍の方が月には合っている(少しまぶしいですが)、と私は感じました。何しろ全景と詳細が同時に見られるのですから。

 月明かりの中、次はM42です。トラペジウムを見るのは初めてでしたが、133倍ですぐにそれとわかりました。4つの明るい星のそばに5番目の星が微かに確認できます。事前に写真などで星の位置関係を知っていれば、6番目も見つけられたかもしれません。星像ににじみがないため、当初の予想以上にすっきりと気持ちよく対象を見ることができます。これで夜空の暗い場所で観望したなら、一体どんなふうに見えるのか…、当初の予定になかった欲望がわき起こります。

Life with BINO

 朝目覚めると、真っ先にBINOの姿が目に入ります。使わない時はコンパクトに部屋の隅にたたずみ、いざ星に向けるとすばらしい光景を見せてくれる。完成した115EDT-BINOは、これからの人生に無くてはならない存在になる、そう予感します。それに昔愛用していた双眼鏡が、姿形を変えて戻って来たかのような懐かしさもあるのです。今度の「双眼鏡」がどんなすばらしい世界を見せてくれるのか、これから末永く楽しんでいきたいと思います。松本さん、そして理解ある家族に感謝します。

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

藤原さんより、BLANCA115EDT-BINOの第1号機のリポートをいただきました。
 星見を7X50の双眼鏡からスタートされ、また本来の双眼に戻られた形とのことで、大変光栄に思います。  当1号機は、新たな部分が多く、随分とお待たせしてしまいましたが、寛大にお待ちくださり、また遠路を 車で引き取りにお見えくださいました。

  このサイズ規模のBINOが、鏡筒平行移動か、鏡筒固定で目幅クレイフォード方式かの分岐点ですが、今回は よりシンプルな構造を希望されたため、後者の方法を採用することになりました。 後者の方法は、小規模のBINOの場合、EMSの第1と第2のユニットの間隔が、目幅クレイフォードを挿入するのに十分確保できない場合が多く、毎回苦心するのですが、今回は新たな構造により、さらなるlow-profile化を達成しました。

 HF経緯台も、幅広改造をしない方向で進めました。 ただし、最終的にはどうしてもほんの少し(10mmほど)幅が足りなくなったため、大手術を施すことなく、特殊な形状のスペーサーを作ってうまく対処しました。

 ファーストライトでこのBINOの色の再現性の良さに気付かれたのは、さすがです。製作者である私自身は、実際にBINOで星を見る機会は少ないのですが、屋内の壁に掛けている赤い散光星雲の天体写真を、アルミ、銀、それぞれのミラー(1回反射)で反射させてみると、1回反射の段階ですでに区別できて、非常に興味深いものです。 自分の顔を映してみても歴然ですが、銀とアルミは、健康人と病人くらいの顔色の違いがあります。普段 見慣れている姿見の鏡も、実際の色を再現していないことが分かります。相対的に銀の方が赤味がさして見えるのですが、その 血色が忠実な再現なのであり、普通の鏡の色の方が嘘なのです。

 足首用のウェイトをうまく利用されました。 フードの伸縮も前後のバランス調整に有効ですが、フードを 常に伸ばして使われたい場合は、他の場所で調整しないといけませんね。  

 この度、藤原さんにはファーストライトのご感想をタイムリーにご報告いただき、本当にありがとうございました。 これから気候も良くなりますので、またじっくりと観察された段階での追加リポートをお待ちしております。

刻舟求剣 (Searching for a sword by marking the gunnel)

“Searching for a sword by marking the gunnel.” is the fable from the Chinese classics written more than two thousand years ago. The original story is for a stupid man who was optimistic when he dropped his sword out of his ship. He said marking the gunnel of moving ship that “There will be no problem. I can take the sword at the marking point of the gunnel at the next port.” I just remembered the fable after the series of exchange of Q and A with a novice binosocpe user. It is not only for the “Novice” but is the warning to all of us including myself at thinking of an appropriate strategy for collimating the binoscopes.

「舟を刻みて剣を求める・・」というのは、紀元前の中国の古典由来の言葉です。 昔、楚の国の人が、動いている舟の舟べりから剣を落としてしまいました。 でも、その人は少しも慌てずに 落とした所の舟べりに印を付け、「次の港で、この舟べりの傷の所で潜って取るから心配ない。」と 言ったとのことです。 古典の趣旨は、舟の動きを大きなスパンでの時間(時勢)の流れと捉え、より深い意味での訓話としている らしいのですが、もっと素直に文字通りに捉えても、直接的な教訓が読み取れると思います。 先日、20年前の(赤道儀用)回転装置が調整のために里帰りしたことを、製作情報速報でご紹介しました。 鏡筒を外して、回転装置のみを送って来られましたので、かなり酷い管理状況(20年間、注油等のメンテの形跡がなく、埃まみれというよりも土まみれの状態^^;で、目幅調整も動かない状態。)だった装置をオーバーホールし、返送しました。

ところが、ユーザーの方より、「左右の望遠鏡の高さが合わない。」というご指摘があり、メールもFAXも 使えない方だったため、問題が、「光軸が合わない。」という意味だったと分かるまでにかなりの日数を要しました。 鏡筒バンドの下に紙等のシムを挟むようにご指導したところ、また数日後に電話をかけて 来られ、「1cmの厚さの物を挟んでもほとんど改善しない・・・」とのことで、結局、今度はEMSを 一式送って来られました。 そのEMSも清掃して再調整し、返送しました。 一緒に、当サイトの光軸調整関連項目をどっさりとプリントアウトしたものも同梱しておきました。

それから1週間後の今日、初めてその方からお電話があり、万事解決されたかと思ったのですが、 やはり解決しないとのことで、よくよくお話を聞いてみたところ、シムを前後の鏡筒バンドの下に 均等に挟んでおられたことが判明しました。 これだと、何センチ挟んでも変化が無いわけです。^^;  ということで、やっと疑問が氷解し、今度こそ、解決されることでしょう。

数百メートル先の地上物であっても、手元での鏡筒の少しの平行移動は光軸調整には、何らの関与もしませんが、相手が天体なら尚のことです。我が家で見ている月の方向は、お隣の中村さんの家からも、向かいの鈴木さんの家から見ても同じ方向なのです。ところが、角度のずれは鋭敏に影響し、どんなに酷い光軸ずれであっても、大抵は片方の鏡筒バンドの底に厚紙1枚挿入するだけで状況が激変します。

角度が変化しないようなシムや変形をいかに駆使しても、調整にはならないのです。 4本の鏡筒バンドをメガネ型に結束したシンプルなBINOは、バンドを少し緩めてBINO全体をほんの少し捻り、光軸が 復元した段階でバンドを締め直すと、簡単に光軸が復元出来ますが、これについても、 なかなか理解できない方があり、頭を捻らされたことがあります。
最終的には理解していただきましたが、その方は、鏡筒を光軸を軸として回転(これも確かにねじりですね^^;) させておられました。^^; これも、ちゃんと出来た鏡筒の場合は、何の意味もありません。 これで調整が出来たとしたら、鏡筒自体の光軸のスケアリングが著しく狂っていることになります。

ただ、この”事件^^;”は決してこの方だけの問題ではなく、レベルに応じて私たちは簡単に間違いを犯してしまう、ということを自戒させられずにはいられません。 まずは、「20年問題なくBINOを使って来たのだから、基本的な 使い方は理解しているだろう。」というのが、私の最初の思い込みだったわけです。
(ただ、不幸中の幸いだったことは、20年前のEMSには、X-Y調整機構が無かったということです。これがもしあったら、この方はもっと迷宮の奥に入り込んで、二度と外に出られなくなっていたに違いありません。^^; また、まだネットがほとんど普及していなかった20年前、「FAXで視覚情報がやり取り出来ない方のご注文は 受けられません。」と言った私に熱心に製作を依頼された方だったことも、じわじわと思い出しました。)

冗長になってしまいましたが、基本からの調整マニュアルの作成の重要性を再認識させられた事件でした。 納期がずれ込んでいるバックオーダーとの二重苦ではありますが、何とか早くまとめたいものです。

楚人有渉江者。
其劍自舟中墜於水。
遽契其舟曰、是吾劍之所從墜也。
舟止。從其所契者、入水求之。
舟已行矣。而劍不行。
求劍若此、不亦惑乎。

 

MAINTENANCE OF THE EMS MIRRORS / EMSミラーのメンテナンス

From top…..;

0. You can use blower spray to blow the dusts off on the mirror. But be careful not to blow the liquid of the spray on the mirrors.

通常の清掃には、エアーダスターをご使用ください。ただし、スプレー缶内の液がミラーにかからないように ご注意ください。 使い始めのスプレーや、缶を斜めにしたりすると、液が出やすいのでご注意ください。 また細い先ノズルがエアーと一緒に抜けて吹き飛ぶことがありますので、事前にその部分はセロテープで補強しておいてください。

1. When you mistakingly blow the liquid on the mirror, or you find the mirrors dirty after long period of time; wipe the mirror with tissue paper soaked in absolute ethanol.

スプレーの液を誤ってミラーにかけてしまった時や、長期間のご使用で、スプレーでは落ちない汚れが付着しましたら、 無水エタノールで浸したティッシュペーパーで拭いてください。無水エタノールは薬局で500mlが¥1,000少々で売っています。無水でないといけません。(素早く乾燥する必要があるため、エーテルを混合するとさらに良いが、エーテルは署名捺印が要り、注文となるでしょう。無水エタノールで十分です。)

2. Of course, you should take off the sleeve and the filter to access the second mirror.

当然ながら、第2ミラーにアクセスするために、まずはスリーブやフィルターを撤去してください。

3.and 4. If you don’t want to take the barrel off, you should at least unscrew off the entrance aperture. You need not a special tool to do it. You have only to hook your fingers to unscrew the aperture. When it is too tight to unscrew, you can use rubber sheet or something to protect your finger.

バレルの分解が億劫な方は、遮光環だけでも外してください。遮光環を外すのには特殊な工具は要りません。 ただ指をひっかけて矢印の方向(右ネジが緩む方向)に強くねじるだけです。 固くて緩まない場合は、ゴムシート等で 指を保護して行ってください。(必ず緩みます。)(左手にデジカメを持って撮影に苦労していたら、遮光環が裏返し になっていました。^^;)

5. Then soak the tisse paper in the absolute ethanol.

テッシュペーパーに無水エタノールを少し滲み込ませます。 別にこの容器を準備する必要はありません。

6. Don’t save on the paper. Never wipe more than one stroke. You should dispose the paper in each stroke. Of course, when you see any dust on the mirror, you should blow off the dust in advance of wiping.

But, you don’t have to be too nervous of hurting the mirror as long as the tissue paper is wet and new. The mirror surface has enough durability in wet-wiping because it is dielectlic over coated on the silver coatings.

この時、決してティッシュペーパーをケチらないこと。^^; 1ストローク拭いたら必ず捨てて、もう一回拭きたい場合は、新たなティッシュペーパーで同じことを繰り返してください。同じティッシュでの2度拭きは禁止です。

ただ、拭くこと(あくまで濡れ拭き)に関して、必要以上に神経質になる必要はありません。 EMSのミラーは、銀コートの上を誘電体膜で保護していますので、ここに書いたメンテくらいでミラー面が傷むことはありません。 むしろ、汚れを放置する方が有害であり、またせっかくの銀ミラーの性能が目一杯に発揮されません。

Alignment of EMS-BINO(EMS-BINOの光軸調整について)

EMS-BINOを開発して以来、性能の向上と納期の短縮に全力で努めて来たものの、全てを一人でこなして来たため、 使用マニュアルの作成等のソフト的な部分がどうしても二の次になって来ました。

自転車に乗れる者は、自分が乗れなかった頃の感覚を思い出すのは難しく、どうしても当たり前のことと考えてしまう 傾向があるようですが、最近、EMS-BINOのユーザー人口が増えるにつけ、自転車の補助輪に当たるような補助手段も、 ユーザーによっては用意しておくべきかな?と感じ始めました。

雪上スポーツ(移動手段?)に例えると、市販の双眼鏡は、乗りさえすれば誰でも斜面を滑り降りることが出来る、 舵付きのソリのような物です。 一方、EMS-BINOは、(誤解を恐れずに言うと)多少スキーに似たところがあるかも知れません。 初心者がいきなりリフト に乗って山頂に上がっても、下を見て怖くなって、結局はスキー板をかついで斜面を歩いて降りるハメになることもあるか も知れません。

スキーであれば、まずはボーゲンを覚えるだけでも、結構な関門があります。それから進んで、両脚を揃えて華麗にター ンが出来るようになるには、かなりの精進を要します。 ほとんどの人が、スキーに接する前に自転車を乗りこなしてお り、曲がる際に重心を遠心力と反対方向に傾ける自転車の習慣が、ほとんど本能的に身に付いています。スキーの曲がり 方は、それとは全く逆で、ターン時には常に谷足に重心を移動しないとけないので、最初はなかなか受け入れ難いものの ようです。

しかし、スキーと比べると、EMS-BINOの光軸調整のハードルは、桁違いに低いと言えます。本当は、“習得”という言 葉を使うこと自体が間違いなくらいで、むしろ“約束”と言うべき内容です。

EMS-BINOの光軸調整は、使用者の“勘”で調整するのではない、ということを、まず理解してください。
ポケットの中の2枚の百円硬貨をきちんと揃えることは、手探りでも可能です。見ながらやれば、さらに確実です。 2枚の百円硬化を重ねて、ずれていたら、どちらかの硬貨の縁が外(又は内)に出ます。完全に重なると、真上から見れ ば、1枚の硬貨のように見えます。 これが、完全に揃った状態です。約束さえ守れば、この2枚の硬貨を揃えることと同じレベルで、確実に正確に光軸を合わせることが可能です。

ただし、ただやみくもにBINOを覗いていては、上記の2枚の硬貨の例のようには、像の位置(ずれ)が明確に特定でき ません。 なぜなら、私たちの眼の旺盛な輻輳力が、内寄りの光軸ずれの検出を埋没させてしまうからです。
それが、ある見方をすることで、その輻輳の介入を完全に排除でき、上記の2枚の硬貨と全く同じように、“ずれ”を客 観的にしかも非常に正確に見極めることが出来るのです。

その方法は、当サイトで繰り返し説明しており、それをちゃんと読んでくださっている方や、完成したBINOを当方で受け 取ってくださった方は、すぐにマスターされます。 どうしても当サイトを斜め読みされる方のために、再度、その説明 を試みます。

眼をアイピースのアイポイントから、25cm以上離します。もちろん、目幅が合っていることが前提です。すると、射出 瞳が一つの円になって融像し、その中に目標の像の位置(ずれ)を正確に検出することが出来ます。光軸が完璧であれば、 目標も、融像した射出瞳の円内に一つの像として融像して見えます。(左右の像が、それぞれの射出瞳の中で同じ相対位 置を占めていないといけません。)

この方法は、決して“勘”で合わすのではない、ということをご理解いただけたでしょうか。 従って、EMS-BINOは、 この方法を習得したユーザーであれば、光軸は常に完璧であり、逆に、これを理解していないユーザーのBINOは、ほぼ常 に狂っている、というわけです。極論すると、EMS-BINOは光軸が完璧か、大幅に狂っているか、の2種類しかなく、中間 はない、ということです。

後者に属する不幸なBINOを少しでも減らしたい、出来たらゼロにしたいと強く願い、どうしても正しい調整方法を理解 されない一部のユーザーが、本来の方法をマスターされるまでの一時的な補助手段としての、自転車の補助輪のような物 を何とか用意しよう、と思っているこの頃です。

さきほどの説明に戻りますが、まずは、ずれを客観的に検出するのが、調整作業に入る前の段階で重要なことです。右 の像が左の像に対して、どっちの方向にどのくらいずれているのか、ということを確実に知ることが出来なければ、調整 が完璧に行えるわけがありません。ただ漫然と、なんだか光軸が狂っているみたい?と、EMSの調整ノブをいじくり回すの は、道に迷った人が地図上の自分の位置を知らずに歩き回るのと一緒です。

この技(というほどのものではないですが)を習得しているかどうかを、市販の双眼鏡で確認できます。まず目幅を正 確に合わせた双眼鏡を三脚に固定し、目標を視野中心に入れます。それから徐々に眼をアイポイントから離して行き、さ きほどのように、射出瞳の円が一つに見えた段階で、左右の像が円内で同じ相対位置を占めているかどうかを見るのです。  基準内の誤差であっても、微妙なずれが検出できるはずです。 また、それでずれが無ければ、このチェックで初めて、 その双眼鏡が完璧に調整されていることを知ることが出来ます。

繰り返しになりますが、これは“技(わざ)”と言うほどのものではなく、当方にお見えになれば、90%以上の方が十秒 ほどで理解される方法で、一度理解されたら、次からはどんな双眼鏡であっても、その残存の光軸ずれを明確に言い当てる ことが可能になります。

この手法を習得していれば、たまたま遭遇した他人のEMS-BINOの光軸が狂っていたとしても、EMSのX-Y調整ノブをほん の少し回せば、瞬時に完璧な光軸を取り戻せますし、光軸ずれの方向も指摘することが出来ます。それが出来ない方は、 その狂ったEMS-BINOやユーザーを笑う資格はありません。(その方も同じレベルです。^^;)

私の地元の友人は、有名メーカーの大型高級双眼鏡を光軸の再調整のために3度もメーカーに送りましたが、それでも完璧にはなり ませんでした。(プリズムの大きさに余裕がないのも問題のようでした。(光軸がましになると、プリズムが偏って微妙 なケラレが出た))

EMS-BINOには、固定した“光軸”の概念そのものが無いので、市販の高級双眼鏡の光軸精度と同次元で比較議論すること自体 がナンセンスで、それは、天体望遠鏡を知らない方が、固定した倍率の概念を持たない天体望遠鏡に対し、「これは何倍 の天体望遠鏡ですか?」とよく質問するのと同じことです。

天体望遠鏡は、カメラのフランジバックのように、フォーカシングが固定しておらず、高精度なフォーカサーによって フォーカスが調整できるように、EMS-BINOでは、常に完璧な光軸が維持できるようにアジャスタブルになっているわけ です。

従って、EMS-BINOの調整機構を悪用すれば問題が無いとも言えませんが、適正な重心移動を行わないと滑れないし、 危険性もあるスキーについても、「スキーは危険な乗り物だから使用禁止にしよう。」という動きがあり得ないように、 ユーザーアジャストのBINOの存在自体を否定することは間違っているわけです。

EMSの光軸または原理に関する過去の日記;

EMSの種明かし

斜位テスト

EMS-BINOの調整