Answer and Tutorial of the yesterday’s question / 昨日の光学問題の解答と解説—2

 図の中に、A 例B 例のレンズの結像方程式と、解答を示しました。
左上の角が座標系の原点で、上の右向きの横線が S 軸、左の下向きの縦線が D 軸です。S 軸の目盛り単位=m(メートル)で、D軸の目盛り単位=ディオプトリー( 1/ 焦点距離(m))です。当然ですが、エクステンダーは凹レンズなので、度数には-が付きます。
 2つの曲線の交点に相当する点から、問題の条件を満たす、S と D が求まるわけです。
 問題の条件を満たす エクステンダー(A 例) に投射される虚物点(望遠鏡対物レンズの焦点)の 物点距離=30mm 、エクステンダーの度数= – 16.666・・D、(焦点距離= – 60mm)ということになります。
 ややこしいですが、3xの拡大率が得られる物点距離 S とDの再現は、グラフではなく、座標軸を – s 方向に 0.01 移動することで得られます。
 このエクステンダーは、物点距離=30mm で2倍、40mm まで繰り入れると、3倍のバローとして機能するということです。

Answer and Tutorial of the yesterday’s question / 昨日の光学問題の解答と解説—1

 解説(&解答)は、2~3回に分けて段階的に詰めて行きますので、途中で閃いた方は、すぐにお知らせいただけると幸いです。
 まず、超前提を誤解していては、全く先に進めません。
以前に、「鏡筒を3cm切ったら、対物レンズの焦点距離も3㎝短くなりますか?」というご質問があったことをご紹介しましたが、繰り出し装置を伸縮させても、対物レンズの焦点位置は微動だにしないこと!理解していましたか? そうでなかった方は、上記の初心者さんの噴飯ものの質問を笑えませんよ! ズボンの裾を3㎝切っても、あなたの脚は、3㎝短くなりませんから! 今回の問題で、まずはそこが一番重要な前提です。 前回、”レンズ系の非破壊検査”の方法について、ご紹介しましたが、今回の問題に数式すら組めなかった方は、非破壊検査の記事も曖昧なままスルーしておられた方です。
 対物レンズの焦点位置は動かないこと、まずは、それがこの問題の最初にして重要な前提です。望遠鏡のスペックが分からない、というのも、望遠鏡のスペックはこの問題に全く関与しないということです。
 この問題の主役は、”エクステンダーユニット”であり、他は全て脇役なのです。
 エクステンダーの虚物点であり、動かない点である、対物レンズの焦点に対して、2倍の拡大率を確認したエクステンダーを10mmだけ対物側に移動させたら、拡大率が3倍になりましたよ! という問題です。
 1/s’ – 1/s = D (1/f) に未知数を代入し、A 例と B 例で2つの方程式が組めれば、この問題は解けたも同じです。
 ここで、問題になるのは、A 例 だけでも、公式の形のまま、未知数をS, S’ ,D としてしまうと、方程式が2つあっても、未知数が3つになるので、計算に難航し、挫折してしまうでしょう。
 問題の条件に、拡大率=2倍、3倍、とあるので、A 例では、S’ = 2S なので、そのまま代入します。3つの未知数が2つに減り、問題解決の道が開けます。
 B 例は、S,S’ とも、A 例とは、異なります。それを T,T’ とすると、1/T’ – 1/T = D (1/f) となりますが、A 例と同じ未知数を使用しないと、問題は解けません。問題の条件から、T=S+0.01, で、T’ = 3T =3(S+0.01) として結像公式に代入すれば、A 例と同じ未知数 を使用した、もう一つの方程式が組める訳です。
 2つの方程式さえ組めれば、以下の連立一次方程式と大差ない問題になります。
x + y = 5
2x + y= 6

Example of the effect of the imaging formula / 結像公式の応用例(求値問題)

「基礎光学の知識が何の役に立つのか?さっぱり分からん!」とか、友人から言われ続け、初心者の方に分かりやすい説明を模索して来ましたが、レベルを単に下げるよりも、多少難しくても、”役に立つ!”ということを分かってもらえる練習問題も良いかな?と、この問題を作りました。

問題の条件;
 上図のように、エクステンダーレンズユニットを繰り出し装置に固定、それに何らかのアジャスタブルな伸縮管を介して、撮像カメラをセットします。
 エクステンダーユニットは、焦点距離、パワー、主点位置、レンズ構成枚数 のどれも分からないブラックボックスとします。
 分かっているのは、
1. 短めの延長管で、丁度望遠鏡の直焦点に対して、2.0 倍の倍率が得られたこと。(A)
2. その状態から、きっちり10mm 、繰り出し装置を繰り入れたところ、延長管の延長により、ピントが合った時点の倍率=3.0 倍となることが分かった。(B)

・・・の上記2点のみ。
 望遠鏡のスペックも隠されていて、延長管の長さや延長量も分からないものとします。分かるのは、エクステンダーレンズユニットを10mm繰り入れたことと、2例の倍率だけ。

問題; このエクステンダーユニットのパワーと焦点距離を、上記2点の条件のみを使って求めよ。(小数点以下、3桁で切り捨て)
(結像公式:1/s’ – 1/s = D (1/f) が活用できるかどうかの問題。式を丸暗記しているだけではダメで、理解し、応用できないと役に立ちません。)
 図の赤いドットは対物レンズの主焦点で、繰り出し装置を動かしても動きません。濃紺のドットがエクステンダーとの合成焦点で、エクステンダーと対物主焦点との位置関係で大きく移動します。

S – S’ Imaging graph / 物点距離(s) と像点距離(s’)のグラフ

 焦点距離 f =1m(1D)の対物レンズの物点距離(s) と像点距離(s’)の関係式、1/s’ – 1/s = 1 (1/f) を可視化してみました。
 元来は、s と s’ は、レンズ中心が原点の x 軸上の数値 のため、s を x 軸に、s’ を y 軸に設定したので、不慣れな方は返って混乱されるかもわかりませんね。
 物点がレンズの左側にあって、光線は左から右に進む前提です。 第2象限の青い曲線が、”実物点 → 実像点のグラフです。(レンズを挟んで、左に物点、右に像点の典型的な実像結像の曲線です。)
 レンズから ±1m 以内の実物点は実像を結ばないこと、先日ご提供した薄レンズの結像図のテンプレートを練習いただいた方は、感覚的に体感されたはずですが、数学的に検証すると、こうなります。s = -1 と s’ = 1 が漸近線になりますね。

 天体望遠鏡は、鏡筒があるので、接眼側からあまり深くレンズに接近できませんが、対物レンズ単体で考えると、逆方向からの結像もあるので、逆追跡の結像グラフもお示ししました。
 どちらにしても、第2象限の s < -1m , s’ > 1m と、第1象限の s > 1m , s’ > 1m が 実物点が実像点を結べる範囲で、両サイドからの結像を考えても、レンズの前後の両サイド、≦ 焦点距離 には、実物点と実像点は共存できないことが分かります。s = ± 1 と、s’ = 1 が漸近線になりますね。

、実物点と実像点が

The example of using the Template / 光路図テンプレートの使用例

 光路図練習用のテンプレート、ほぼ反応がなかったので、使用例をお示しします。
 確認のためにもう1本の光線を加えても結構ですが、像点を決定するのには、2本で十分です。
 また、像モデルは矢印で良く、わざわざ蝋燭の絵を描く必要はありません。
 実際に作図してみることで、実像が出来ない範囲等、体感できると思ったんですがね。

Principal Points 6/21 / 主点=虚物点、虚像点と言えるのか?

 高度な質問に先回りしてのご説明です。
前投稿で、「P’ が本当に P の虚像だと言えるのか?」という疑問を持たれた方も少なくないはずです。私も当初、そうでしたから。
 1本の光線だけで、虚物点だ、虚像点だと言われても、納得できませんよね?
 少なくとも、もう1本の光線が交わらないと信用できません。
 で、メインの 物と像を結ぶ光線 の中で、他に P,P’ を通るものがあるのか? ということですが、いくらでもあります。水色で塗りつぶしたエリアの光線がべったりと該当します。
 図から、P に向かって収斂する全ての光線は、P’ から射出する、ということ、ご納得いただけると思います。
 物側主面と像側主面は、列記とした物像関係であり、倍率=+1の共役面なのです。従って、両主面間の 物像マトリックス から、主点距離も容易に計算できるわけです。
 

Light pass drawing for the thick Lens-System/ 厚いレンズ系の結像図の描き方

 厚いレンズや複合レンズ系も、薄レンズとほぼ同じ手法で結像図が描けます。結像図が同じ方法で描けるということは、数式も共有できるということで、先人による”主点”の発見がいかに偉大なものだったかが分かるはずです。
 主点の意味も、最近の投稿と併せて上図をご覧になれば、よりご納得いただけると信じます。
 ついでに、各用語の説明をしておきますね。
 まず、薄レンズの中心 O に相当するのが、厚レンズの主点、H1, H2 です。
2 点になりましたが、薄レンズの O点と同様、H1に入射する光線の全てが、同じ角度でH2から射出します。
 また、物側主面上の点 P に入射する光線の全ては、同じ高さの像側主面上の点 P’ から射出します。 両主面自体が、倍率=+1倍の共役面になっています。
 いかがでしょう? 今日のご説明で主点の意味がより具体的に理解出来た方、ご連絡いただけると励みになります。

What is the Exit Pupil / 射出瞳って何?

 数十年のキャリアの天文マニアさん、自他が認める望遠鏡のオーソリティで、「今更聞けない、射出瞳の意味!」状態になっていませんか? スルーするより、分かった方がずっと幸せになりますよ!
 望遠鏡って凄いですね。燃料もバッテリーも食わずに、黙々と光年単位の時空を超えさせてくれる。しかも、超働き者で、直接頼んでいない仕事も、勝手にやってくれています。
 赤い線が、皆さんも常に意識しているはずの、望遠鏡のメインの仕事。対物レンズの焦点をアイピースが無限遠虚像にして、長時間楽に覗けるようにしています。
 で、アイピースには、もう一つの大きな役目があります。そのサブの仕事を、濃紺の線(時に黒く見えるかも?)で表しました。
 それは、対物レンズ(枠)の縮小実像をアイピースの手前に作ってくれることです。
口径と倍率さえ適正に選べば、あの大きな対物レンズを通過する光線を全て眼内に投入させることが出来ます。(ガリレオ式望遠鏡の致命的な弱点は、射出瞳が実像ではなく、常にアイレンズの向こう側の虚像だということです。)
 射出瞳は、アイピースの焦点距離が短いほど、かつ望遠鏡の焦点距離が長いほど、アイピースの眼側焦点近くに出来ますが、40mmとかの長焦点のアイピースを短焦点の望遠鏡に使用する際は、射出瞳位置とアイピースの眼側焦点の誤差が無視できないこと、上の光路図からご納得いただけると思います。対物の焦点距離が短いほど、アイレリーフが長くなるということです。
「それが何の役に立つのかさっぱり分からん!」と友人から言われ続けていますが、望遠鏡の基礎的なメカニズム、分かった方が百倍楽しくなりますよ!
 40mmのアイピースが1枚の薄レンズなら、アイレリーフは40mm期待できますが、実際は、諸収差の補正のために多数のレンズで構成されていて、主点位置の関係で、長焦点であってもアイレリーフを20mm以上確保するには、それなりの設計努力を要します。
 一方で、焦点距離が10mm以下でもアイレリーフを20mm以上確保しているアイピースがあります。これはいかに?
 それも、主点位置のマジックで、眼側主点がアイレンズ頂点よりも手前の空間に出せれば可能なわけです。このように、”主点”を理解することも、望遠鏡やカメラの基礎を理解するためには必須なんです。
 また、主点を結像(虚像ですが)してくれているのも、レンズ系の大きな仕事であり、これも、文句を言わずに陰でこなしてくれています。射出瞳は望遠鏡対物のアイピースによる実像。アイピースの両主点は、 ”等価な薄レンズの中心” に相当する ”虚” の点 のペアで、その点を含んで光軸に垂直な面が主面。第1主面が虚物点が存在する虚物面で、第2主面が第1主面の虚像面で、両虚像面同士の横倍率は常に+1の共役面です。(近軸光学で言う横とは、光軸に垂直な方向(つまり縦方向)のことで、縦の収差とか言う時の”縦”とは、光軸方法(横方向^^:)のことなので、光学初心者の方は、その点の注意は必要ですね。)
 今からでも遅くないので、「それを知らなくて困ったことは一度もない!」なんて言わずに、目を開いてみてはいかがでしょう?
 お友達にもいるでしょう?「スマホもPCも持たない主義だが、一度も困ったことはない!」と言う頑固者。 困るはずないよね! 知らない世界なんだから。新な事を学ぶために、自分のバイアスを否定したくない、という潜在的に不健康な思いがあるのだろうね。
 私はほぼ毎日、世界中の天文マニアからあらゆる質問を受けますが、中には、自分のバイアスの追認が欲しいのか? 真摯にバイアスを捨てて白紙になって話を聴く気があるのか?と思わせられることがある。
 最後に、射出瞳が対物レンズの実像であることを疑う人は、対物レンズの端にマスキングテープ等でマーキングして、最低倍率のアイピースをセットして、眼をアイピースから離して射出瞳を見てみてください。ちゃんと射出瞳の反対の端にマーキングが見え、対物レンズの倒立実像を見ていることに納得いただけるはずです。
(「天文マニアの全員が光路計算の達人になれ!」なんてことは、一言も言うつもりは当初からありません。ただ、概念的なことだけでも知っておく(”理解する”じゃない)、つまり受け入れていただけば、瞬時にハッピーになるのです。自分の引き出しのバイアスに自信がある方は、素直に受け入れられないようですね。
 近軸追跡に行列を導入したのは、私ではなく、ずっと優秀な先人です。ある(自称インテリ)方に、「それ(行列で表現できること)は、間違っていると思う!」と言われましたが、数十年以上前に確立した方法なんです。^^:
  私が行列の方法をまとめ直したのは、市井の専門書の角度や距離の符号の取り方が、著者の流儀によってバラバラで、望遠鏡マニアの読者は混乱するに違いないと思ったからです。望遠鏡マニアが違和感を持たないような符号(つまり角度や長さの正方向)の取り方を採用しています。だから、他の書物と比べて、公式が一見微妙に異なっているように見えると思いますが、そういう事情なのでご安心ください。)

 

Calculation of the System-Matrix of the 2-Lens-System by the Excel / エクセルで2枚レンズ系のシステムマトリックスを計算する!

 エクセルには、=MMULT という、行列の積を求める関数が装備されていると申しましたが、一度に直接的に処理できるのは、2行列のみ。3行列を掛けたい場合は、普通はまず最初の2つを掛けて、その結果に左の残った行列を掛けるわけですが、表の組み立てをシンプルにするために、一挙に処理する方法はないか?と、調べたところ、数式を”入れ子”にすればよい事が分かりました。

本例だと、演算式は、
=MMULT(B2:C3,MMULT(E2:F3,H2:I3))
となります。
+2.0Dの薄レンズを0.1m(100mm)間隔でセットした2枚レンズ系のシステムマトリックスを求めるプログラムです。ついでに主点位置も出力できるようにしました。(H1=物側主点;H2=像側主点)
 一度組めば、例えば間隔の数値のみ、構成レンズの度数のみを入れ替えても、瞬時に再計算してくれて痛快ですよ。
 システムマトリックスの見方ですが、右上が合成度数(D)です。
A D
B C
 
と置くと、物側主点(H1)=(1-A)/D ;  像側主点(H2)=(C-1)/D となります。
 最後になりましたが、重要なことがありました。
 組んだ数式の結果を示すには、”Enter” ではダメで、” Ctrl + Shift + Enter” を同時に押します。次回からは、数値を入れ替えるだけで、自動的に再計算してくれます。(些細なことですが、当初、とまどいました。)