かねてより計画中であった松本式EMSを使用した屈折双眼望遠鏡が完成したのでご報告いたします。
最初の始まりは松本式NP101双眼望遠鏡でした。この機種で完全に屈折双眼望遠鏡の素晴らしい魅力にとりつかれ、 無謀にも大口径化へと進んでしまいました。
まずは鏡筒選択です。中・低倍率で広視野を楽しむことを重点に鏡筒を選びました。結果、鏡筒はNP127 (660mm口径比5.2) に決定です。TOA130や現在単眼で使用しているTEC140などと随分悩みましたが、小さく軽いこと(1本7Kg弱)と焦点距離が決め手 でした。31.7mmサイズのアイピース(パンオプティック24mm)でさえ33倍2.3度の視野が取れます。
鏡筒は固定式として目幅調整は松本式EMSヘリコイド式を使用、また筒外焦点距離の調整のために接眼部をフェザータッチ フォカッサーに変更しています。ヘリコイド式EMSの使用がこれほどよいとは思いませんでした(以前のNP101双眼は鏡筒平行移動 式でした)。ヘリコイドの質感は最高ではありませんが、現在望み得る一番良いシステムではないでしょうか。松本式EMSの発明で 私のようなアマチュアに双眼望遠鏡の道が開けたのだと思います。
架台はフォーク式経緯台でTG-Lのフォークアームを2本と水平回転軸を流用し手元にあったビクセンのピラー脚使用にしまし た。ノブスターを利用し工具無しで簡単に組み立てができます。架台は鏡筒が小型(通常の10cmより少し大きい程度)であるため にフォークアームの間隔も狭く作製することができて十分な剛性を確保することもできました。とにかく小さいことは重要な性能 の一つだと思います。
仰角はおよそ85度です。ベースプレートの一部を切り込んで鏡筒との干渉を避けています。フォークアームを寝かせればよい のですが、その工作精度に自信がなかったこととベースプレートとフォークアームの固定ネジの強化をしていないので垂直で妥協し た結果です。もともと経緯台では天頂が特異点になるのでそれほど気にはなりません。
バランスシステムはハンドルを利用してロスマンディーのバランスシステムを流用しています。これは垂直方向のバランスも 取れるのでなかなかよいシステムです。本当はハンドルをもっと長くして鏡筒の保護にも利用したかったのですが、工作機械の大き さの制限があり予定より短くなっています。架台の塗装はマークエックスブルーにするつもりでしたが、実際に見せてもらったペン タックスMS-3Nのグリーンに心を奪われ、外注でペンタックスグリーンに塗っていただきました。鏡筒と組み上がった姿はかなりフ ォトジェニックです。
ファインダーはテレビューのスタービームと宮内の5cm正立ファインダーを使用しています。たまたま持っていただけで特に 選択の理由はありません。 自動導入は必要ありませんが惑星をじっくり観る場合に自動追尾が欲しくなります。完全なるフリーストップと自動追尾の両立 を可能とするシステムが理想・・・ですが、これについてはまだ具体的にアイディアがまとまりません。実現はまだまだ先になり そうです。私自身は30分も追尾してもらえば十分なのですが・・・。
アイピースについてはまだ決定していません。
通常は1.25インチサイズアイピースのテレビュー パンオプティック/24mm(27.5倍2.3度@瞳径4.6mm)、ナグラータイプ5/16mm( 41.3倍1.9度@瞳径3.1mm)の使用頻度が高いようですが、最近はテレビュー イーソス13mm(50.8倍1.9度@瞳径2.5mm)がデフォ ルトになっています。さらに広視野を望む場合はパンオプティック27mm(22.4倍2.6度@瞳径5.2mm)を使うことが多いようです。 アイピースとの組み合わせでは4度弱も視野も可能ですが、星像の美しさや視野のコントラストを考慮すると上記のようになりまし た。中・高倍率は経緯台なので必然的に広視野が得られるアイピースになります。高倍率は双眼効果?で132倍程度でかなり満足し ています。
星空の下での報告です。アイピースの選択はイーソス13mm(50.8倍1.9度@瞳径2.5mm)です。この組み合わせでは視野のほと んど端まで星が「点」です。歪曲収差は非常に少なく、フリーストップで視野を動かしても違和感がありません。中心部のコントラ ストも十分高いようです。超広視野と双眼効果でそのまま肉眼で見ているような錯覚に捉えられます。アイレリーフは15mmでアイポ イントがややシビアですが、双眼なので目の位置はほぼ固定されるためか(しかも星空の背景は黒い)ブラックアウトもそれほど気 にならず、何ら問題はありません。ただ、どうしてもアイレンズと眼球の距離が短くなるのでアイレンズが曇りやすくなります (興奮しているためでもあります)。架台の強度も十分でしかも非常にスムース、おかげで余計なことに気を回さず星空に浸るこ とが出来ます。
M31では伴星雲が浮遊している感じがします。この浮遊感は初めての経験でした。M42ではトラペジウムがあれだけはっきり 離れて見えるのに視野内に小三つ星が入っています。プレアデスも星がゴチャッとではなく離れた感じで全部視野内に入ります。 二重星団も十分離れているのに同一視野です。しかも中心部では擬似立体感を味わうことが出来ます。M13は背景?の星野に周辺が 星に十分に分離した状態で浮かんでいます。M57も然り。これらは初めての経験でした。
なにぶん高価な機材であり、またほとんど工作経験のない状態での制作でした。架台のアイディアを頂いた井上さんをはじめ として鏡筒の入手に尽力していただいた吉田さん、奈良部さんや三野輪さん、服部さん、野木さんらのアドバイスやご協力が無けれ ば完成まではいたらなかったと思います。 もちろん松本さんのEMSが存在したからこそ実現できたシステムであります。この場をか りまして厚く御礼申し上げます。
最期に素晴らしい星空双眼視の世界を我々アマチュアにもたらしてくださった松本さんに再度感謝したいと思います。
by Mr. Kuroki Yoshifumi
Comment by Matsumoto / 管理者のコメント;
この度、黒木さんよりNP127-BINOご自作のリポートをいただき、まずはこのBINOの美しい外観にしばし見入りました。 鏡筒からfocuser、EMS、バランサーシステム、架台、ポールと、見事にコーディネイトされています。 『機能的に優れたメカは見た目も美しい。』というのが私の信念ですが、このBINOはまさにそれを主張 しているようです。
バックフォーカスを稼ぐためのフェザータッチフォーカサーの使用は、Tsujiさんのsky90-BINOと同じ方法 ですが、これは、鏡筒のorijinalの状態をキープできる良い方法だと思います。 純粋に特定のブランドで統一 することに拘る方もあるでしょうが、各部で優れたパーツを集結させれば、結果として新たな統一感が出て来るものだと 思います。
イーソス13mmの使用で、このBINOシステムの完成度の高さをさらに駄目押ししています。 さらりと実視界を書いておられますが、 これが今話題の見かけ視界100度のアイピースですね。先日のサミットでも、数名の方が単体の同アイピースをチェックしながら 驚嘆の声を上げていました。「100度は無駄に広い視野じゃない!」と異口同音に言っておられたのが印象に残っています。(残念ながら 私は隣の方で150LD-BINOでのDEEP-SKYに酔っていましたので、このアイピースを覗くチャンスを逃しました。)
一昔前とは、自作の方法も変わって来たと思います。ゼロから製作することに拘る方も未だにおられるかも 分かりませんが、優れたパーツが以前よりも買いやすくなって来たことを考えると、パーツは極力市販の優秀な物から選ぶのが 賢い方法だと思います。 自作の楽しみが無くなったのではなく、優れた完成パーツの選択肢が増えたわけで、わざわざ そられのパーツ自体を自作するメリットがなくなったということです。市販パーツをうまく利用しながら、ここぞという 部分で自前加工をすれば良いのです。
タカハシの片持ちフォークを2個使用したフォークは、その発想はもとより、機能的にも素晴らしい物であることが 分かります。 現在の所、当方では架台の製作までは手が回らず、VIXENのHF経緯台をほぼそのまま使用していますが、黒木 さん製作の架台を見ると、それが恥ずかしくなります。
また、わずかに天頂を諦められたのも賢い trade-off だったと思います。 先日のサミットでもそうでしたが、EMSユーザーの方々の工夫に、私自身も大いに刺激を受け、新たな開発のエネルギーを いただいています。その意味で、私こそこの度の黒木さんのリポートにお礼申し上げます。