60度転向のプリズム/ミラーを2つ接続して、所定のアングルだけねじると、90度対空の正立ミラーになる、というのがEMSの原理であることは、すでによくご存じと思いますが、その内の1つのプリズムを90度プリズム(直角プリズム)(P2)に交換しても、別の正立解があるのです。
まず、P2をX軸の回りにθ回転させてみます。→ V2’→
すると、V1→とV2’→が直交するときが正立解なので、直交条件の内積=0 から、回転させるべきθが求まります。(cosθ=1/√3)
次に、求まったθ(cosθとsinθ)から、P2 回転後の (CD)’→が求まるので、(CD)’→とBA→の内積を求めれば、その角度が求まります。(CD)’→とBA→の角度=αとすると、cosα=1/2となり、α=60°、従って、対空角度は180-60=120°、ということが分かります。これは、90度対空よりもさらに30°下を覗き込む角度になります。
(※ V1→、V2→は、反射点、B,Cに於けるそれぞれの法線単位ベクトル。図示したその他のベクトルも全て単位ベクトルとする。)
NHKのトリセツショー「楽なメガネ」の大嘘、”騙されちゃいけん!”
昨夕放送のNHKのトリセツショー”楽に見えるメガネ”を、家内に促されて見たが、
酷いものだった。
この手の番組で、眼の構造や生理を正しく紹介したものは未だかつて見たことがなく、
落胆させられるのが分かっていたので、私はまず視ないのだけど、今回も、やっぱりか!という印象しかなかった。
思い出すだけで腹が立つので、早く切り上げたい。
まずは、毛様体は水晶体を直接抱き込んでいるのではない。
番組の立体モデルでは、毛様体が水晶体を周囲から懸命に絞りこんで膨らませている様子が描かれ、
誤解を助長していた。
毛様体筋が水晶体を絞り込んで力ずくで膨らませているイメージは、99%の方が持っている誤ったイメージで、昨夕のNHKによる説明は、その誤解をさらに定着させるもので、許しがたい。
毛様体筋は、図のように輪ゴム状の筋肉で、肛門の括約筋と同じだ。リラックスした状態では、輪ゴム(毛様体筋)の直径は大きくなり、結果として、水晶体を周囲から引っ張るので、水晶体は薄くなる。
緊張すると、輪ゴム(毛様体筋)の直径が小さくなるので、水晶体はチン氏帯を介して毛様体に引っぱられていた張力から解放されることで、自らの元の厚い形状を弾力的に取り戻す。水晶体自体は意識の無い器官であり、チン氏帯で引っ張られることでその時の形状(厚み)が決まっているに過ぎない。
もう一度まとめておくと、水晶体は決して頑張って脹れているのではなく、元来、膨らんでいる本来の形状を周囲の毛様体のリラックス度に応じてチン氏帯に引っぱられて一定の厚さを保っているということです。
水晶体が加齢で変質し、弾力性を失って来ると、毛様体筋の努力が徒労に終わって、希望値ほどには膨らんでくれなくなるのが、いわゆる老視(老眼)の状態なのです。 従って、毛様体筋に活力を与えて老視(老眼)の症状を改善させると謳っている目薬なんかは、前提から間違っていて、限りなく”詐欺”に近いものだと言えるわけです。
番組では、「現代人は、遠く(5m以上)よりも近くを見ている時間が圧倒的に長いから、無限遠設定よりも、近めに焦点を合わせたメガネの方が楽ですよ。」という趣旨でしたが、果たして、そうなのか?
番組では、年齢のことを全く言わず、一律に上記の診断を下しているところがおかしい。
番組の主旨を言い換えると、「年齢に関係なく、メガネは無限遠に合わせるよりも、適当な有限距離に合わせた方が楽ですよ。」
と言っていることになる。 これは、無限遠に合わせたメガネに対して、若干の+度数(凸レンズ)を装用した方が生活が楽になりますよ。と言っているのと同値である。
それを仮に2mとすると+0.50D, 1mなら +1.0D ということになる。 これは、実は私が常日頃から、これから白内障の手術を予定している方に推奨している、眼内レンズの度数と被る。その意味では、私と同意見のようにも思えるが、これから白内障の手術を受ける予定の70歳以上の老人と、十代、二十代の若者とに同じ処方が適用できるわけがない。白内障手術で濁った水晶体の代わりに挿入する眼内レンズは生の水晶体のように伸縮せず、固定しているために、明視距離に対する配慮が特別に必要になるわけだ。
調節力が十分に旺盛な若者に対して、わざわざ調節を介助してやる必要はないどころか、有害でしかない。
私たちの眼は距離に応じて調節すると同時に、連動して自律的に目標に輻輳するようになっている。
調節だけ解放して、輻輳は今まで通りにやりなさい、という信号を出さないといけない脳は疲れる。
若い正視の人(メガネ不装用の人)に、「あなたは近くを見ることが多いので、常にS+0.5Dくらいの凸レンズのメガネを装用しなさい。」と言っているのと同じで、これは、足腰に全く問題のない若者に対して、筋力アシストの装具を着せて、「どう?いつもより楽でしょう?」と言っているのと、何ら変わらない。
松本の光学講座 2024;Roundup-5 / 総まとめ-9/ What is “Astigmatism”? / 乱視とは?
”乱視”も、眼について一般に誤解されているものの代表のようです。
まず、文字面(漢字)のイメージが良くないですね。だから、「あなたには乱視がある!」と指摘されると、大抵、ショックを受けられるようです。
レンズで矯正できる(正規)乱視は、上の図が示すように、眼の経線によって屈折度が異なる眼です。上図では、きっちり垂直断面だけが近視の眼(直乱視)ですが、角度は様々で、検者から見て、右を基点の 0 °~180°まであります。本例は、水平断面が正視の例ですが、水平断面が少し弱い近視だったり、あるいは遠視だったりするわけです。(厳密に測ると、乱視が皆無な人は滅多にいません。)
本例の矯正には、図のような円柱状のレンズを用います。分かり易く、文字通り円柱面形状で図示していますが、実際には、メニスカス状に湾曲した、見かけは通常のメガネレンズになります。度がない方向(図では水平方向)を軸と言い、必ず直交した方向が度数最強で、それを強主経線と言います。
本例では、乱視の度数を C-4.00(Cは Cylindrical 円柱の略)としていますが、仮に同じレンズをもう一枚用意して軸を直交させて重ねると、通常のS – 4.00( S はSpherical の略)のレンズと同値になります。
ここで、メガネレンズ表記の約束をご紹介します。
水平方向の度数が -3.00Dで、垂直方向の度数が-4.00Dの眼は、S-3.00 : C-1.00 AX. 180° と表すのが一般的です。理論的には、もう2つの表現方法があります。(AXはAxis, 軸です。)
S-4.00 : C+1.00 AX.90° と、 C-3.00 AX 90°:C-4.00 AX180° です。 どれも理論的には間違いではありません。不慣れな間はピンと来ないかも分かりませんが、少し練習すれば、理解できます。
松本の光学講座 2024;Roundup-5 / 総まとめ-8/ Range of clear vision of the reading glass / 近用メガネの明視域
近業用メガネ(老眼鏡)の”明視域”というものを理解していただくために、単純なモデルをご用意しました。眼の調節力(水晶体が膨らむ程度)は、年齢や個人差によって異なりますが、一律に調節力=+2.0Dと想定しています。調節力=+2.0Dとは、水晶体が目一杯に膨らんだ時に、+2.0Dのレンズ相当の水晶体の度数アップを行えますよ、という意味です。目一杯ですから、それを長時間キープするのは疲れるということも、お留め置きください。調節力は個人差が著しいので一概には言えませんが、+2.0Dとは、大雑把に言うと、50~60歳の調節力でしょうか。
調節力が3.0Dくらいになると、33㎝を見る時に全力を使うわけですから、長時間の近業が厳しくなって来ます。これが、大体やせ我慢の限界で、40歳代の後半になってメガネ店に駆け込むタイミングになることが多いようです。
上の図からご説明します。
調節力=+2.0Dの人に+1.0Dの凸レンズを装用させると、無調節の時に1m先まで明視することが出来ます。110cmになれば直ちにボケるか?と言われれば、そうでもないので、狭い部屋であれば、この段階では、遠くがぼけて困る、という印象はあまりないでしょう。で、今度は近くですが、調節力を目一杯に発揮すると、レンズの+1.0Dと調節分の+2.0Dを加えて+3.0Dになるので、瞬発力では33㎝まで見えることになりますが、これも長時間の作業は厳しいでしょう。40㎝くらいで作業するように習慣付ければ、このレンズでも実用になることになります。
2番目の図は、レンズの度数を2倍の+2.0Dにしたものです。近業距離がより余裕で見られるようになります。ただし、明視域が随分狭く(浅く)なりました。これは、固定したレンズで眼の調節力を加勢してやってるわけですから、より遠くが見たければ、都度、レンズを除去するしかありません。
3番眼の図は、レンズの度をさらに2倍の+4.0Dにしたものです。
この辺になると、明視域はさらに浅くなります。「もっと近くをよりよく見たい!」というお客さんの要望に安易に乗ると、「前のメガネの方が良く見えた!」と言われかねません。
一般の方は、”明視域”という概念がほぼなく、度数を上げればさらに良く見えるだろいう!という考えなので、注意が必要です。
Nostalgic Letter / 懐かしい手紙
I recently found an old letter from a gap in the bookshelf.
The sender was Dr. Shotaro Yoshida who was the pioneer of the lens design before and in the midst of WW-2.
Though he was 9 years older than my Father, he never lost the purity and curiosity about Optics through his life.
He passed away at the age of 102, in 2015, which was 2 years after my father passed away.
吉田正太郎先生の手紙が本棚の隙間から出て来たのでご紹介します。
吉田先生は、父より9歳年上でしたが、事、光学関係については、生涯少年の心を失われませんでした。
好奇心も旺盛で、私のような者の話も、興味深く聞いてくださり、時にプリズム関係では、「・・・理解できない」と言われたことを逆にご説明するという、おこがましいこともさせていただきました。
年代的な宿命から、レンズ設計では、日本軍に協力する運命にありました。しかし、先生はレンズの研究がしたかったのであり、戦局には全く興味はありませんでした。
それでも、東条英機名の辞令を大切に保管しておられ、コピーをいただいたことがありました。確か、”特殊カメラ” の研究で、今思えば、”シュミットカメラ”のことでした。
偵察用の航空機カメラでしょうね。
The Bamboo Shoot, the seasonal food of Japan/ 旬の”筍”
“Takenko”(Bamboo Shoot) is one of the seasonal food of Japan.
But I know it was not regarded as food along with the algae by Western People.
The episode of Japanese lieutenant accused by the WW-2 prisoner at Tokyo trial of the abuse of feeding him with the Bamboo-Roots eloquently show how the Bamboo Shoot was regarded by the Western people.
Nowadays, there may be more western people who know the ethnic Japanese foods such as “TAKENOKO”.
筍を頂いた。引き抜いたままの物ではなく、すでに茹でてあく抜きまでしてくださっていた。
山椒の葉は、家内が庭で栽培していたもの。旬の味と香りを堪能させていただいた。
欧米では、筍は、海藻と並んで、食べ物とは見なしていなかった食物なんだけど、最近の日本食ブームで事情は少しは変わったのかな? 第二次大戦中に、捕虜に筍を食わせたことで、戦犯告訴された例が有名ですよね。^^;
松本の光学講座 2024;Roundup-5 / 総まとめ-8/ Your real field of the best view/ あなたの眼の本当の視野?
ちゃんと見えているのは視野のごく中心(網膜の黄斑部中心窩付近)のみ!
今日は、皆さんをがっかりさせるために記事を書いています。^^;
視力が1.0以上あるのは、せいぜい、腕を伸ばして立てた親指の爪の面積!
信じられますか?
どうしてこうなるか? ですが、網膜で視力に関与している錐状体視細胞は、網膜の黄斑部の中心窩という、非常に狭い範囲だけに集中しているからです。角度にして1度程度でしょう。
視野周辺は、桿状体視細胞が多く、視力は非常に悪く色盲で、明るさの感度は錐状体視細胞よりもはるかに高く、望遠鏡で暗い星雲や彗星を見るときに、そらし目(Averted Vision)を使う理由です。
100度の視野の最周辺までの点像に拘った、超高級アイピースを完全に否定するわけではありませんけどね。同時に、こうした私たちの眼の特性も理解しておくと、財布を軽くしてまで、あるいは重すぎるアイピースでバランスの調整に苦慮してまでして、そうしたアイピースに拘る必要性について、また、違った判断も出てくるだろうね。
とかく天文マニアは重箱の隅をつつくのが好きなんだけどね。メーカーさんもそうしたマニアに媚びた製品開発をして、今の製品の現状に至っているようですね。
この人間の視野と視力の特性、嘘だと思ったら、腕時計(秒針付き)を2つくっつけてデスクトップに並べ、秒合わせをトライしてみてください。片方の文字盤を見ている時には、もう片方の文字盤は見えていませんから。
松本の光学講座 2024;Roundup-5 / 総まとめ-7/ Correction of the Eye / 眼の矯正原理
「眼は情報の入り口、ここを誤解すると、全てを誤解することになる。」
と広く一般に主張すると、ちょっと過激に響くと思うけど、では、カメラマニアとか、天文マニアとか、眼と密接にかかわる人に限定するとすれば、決して過激ではなく、真っ当な意見だと思いませんか?
真ん中の”正視”以外を、”屈折異常”と言うわけですが、前回もご説明したように、屈折異常とは、水晶体が無調節の時に、網膜の中心窩から出た光束が、前方の無限遠以外で結像する眼のことです。そこに、”視力”というものが介入する余地はありません。ピント位置の問題ですから、ピントが合った状態での視力がどうなのかは、全くの別問題です。
そして、そのピント位置をどうやって修正するかは、前回もご説明しましたが、今回はより分かり易いように、矯正レンズを追加しました。
上図から容易に推察できるように、近視矯正の凹レンズの場合は、レンズが角膜から遠ざかるほど、より強い凹レンズが必要になります。つまり、メガネのレンズが眼から離れるほど矯正効果が弱まるわけです。一方で、遠視矯正用の凸レンズの場合は、レンズが角膜から遠ざかるほど、より弱い凸レンズで間に合うことになります。つまり、レンズが離れるほど矯正効果が高まるわけです。
松本の光学講座 2024;Roundup-5 / 総まとめ-6/ Imaging Formula /結像公式-2種
物点から像点、もしくはその逆を特定する結像公式は、主に2種類あります。
1つめは一般的な、レンズの中心(もしくは主点)を基点にして物点、像点距離を指定するもので、上図の s, s’ に相当し、それぞれ赤と青の矢印で表しています。右向きの矢印が正の向きであり、左向きの矢印は負の向きになります。
もう一つの結像公式は、物点、像点距離を、両焦点を基点にして指定するもので、それぞれを赤、青の矢印で表し、正負の向きも先例と同様に矢印の向きに倣います。
①と➁については、2種類の方法で物点距離と像点距離の向きが同じですが、③の、虚物点結像の場合は、s’ と t’ の向きが逆転するので、注意が必要です。
より一般的な結像公式は、レンズを基点とした「 1/s’ – 1/s = 1/f 」ですが、天文マニアには、焦点を基点にした公式(ニュートンの公式)「 t ・ t’ = – f 2 」の方が用途が広いかも分かりません。距離の単位を焦点距離に取ると、t と t’ が互いに逆数関係になるので、計算が非常に楽になります。
たとえば、➁の例だと、t = -3f ; t’ =f/3 となって、積=-f^2 になることがすぐに分かります。
焦点距離=1000mm (1m) の望遠鏡で対物レンズから101m先の目標を見ると、ピント面が対物レンズの焦点位置より1cm 手前に来ることが分かります。より短焦点の望遠鏡では、数ミリしかピント位置が変わらないことになりますね。繰り出し装置を繰り出す感覚からは、うんと引き出すような気がしますがね。
松本の光学講座 2024;Roundup-5 / 総まとめ-5/ What is the Focus? /「 焦点」とは?
s と s’ が同じくらいの距離、つまり 物と像 が同じくらいの大きさの時は、物を左に移動させると、像も同じくらい左に移動します。そこから s をどんどん左に伸ばして行く(つまり物体をレンズから遠ざける)と、やはり像も左に移動するものの、急速に減速して行きます。
そして、ある程度以上物が遠くなると、像はほとんど移動しなくなり、ある点に収束することが経験的にも早い段階で分かっていました。物をうんと遠ざけて行くと、像がレンズ固有の位置に収束するわけで、その点のことを ”焦点” といい、その時の s’ を”焦点距離”と定義するわけです。