「古いメガネの方がよく見えます!」

今日は、久しぶりに、本業のメガネの話。
 タイトルの文句は、度数更新したお客様の口から絶対に出て来て欲しくない言葉の一つです。
だから、私は、お客様の(メガネの)度数変更には常に極めて慎重であり、検査段階で入念に各項目をチェックし、お互いに完全に納得した上で決定します。度数交換の効果が薄い場合は、メガネの製作自体をお断りすることも少なくありません。

 それだけ厳重にチェックしていても、ごくたまに、タイトルのケースが発生することがあります。
特に累進焦点メガネが要注意です。

 累進焦点レンズ(境目のない遠近両用レンズのこと)の明視域を言葉だけで説明するのは非常に難しい。
見る事に関しては、大方の皆さんは、理性的、論理的でなく、感覚的、感情的に理解しているからだと思う。
 そこで、今日は、累進レンズの明視域のイメージ図を描いてみた。
純白の領域が無限遠がよく見える領域(眼にとって、4m以上はほぼ無限遠と見なせる。)。
赤が濃くなるほど近距離に対応し、一番濃い所が近用加算度数のピークになる。
 累進レンズというのは、ただ境目が見えないようにしたレンズではなく、かなりの上下幅の間(累進帯)で、富士山のすそ野のように、度数勾配を持たせたレンズだということ。
赤い領域は濃淡に応じて有限距離に対応したレンズ(濃いほど近距離)となっているので、無限遠を重視した立場
から見ると、赤み掛かった領域は全て邪魔な領域だとも言える。実際に使い慣れてしまえば、そうしたネガティブな意識は毛頭持たないのだけど
使い慣れない者にとっては、端的に言ってしまえば、そういうことになる。

また、数年以上十分に使いこなし、遠視(老眼とは違う)が生じたり、遠視度がアップした際にも、
「古いメガネの方が快適だ!」とか、極端な例では、「古いメガネの方が(遠方が)よく見える!」といったクレームも出かねない。

そのイメージ図も下に描いてみた。

 遠視が発生、または増加したことによって、明視域が変化した状態のイメージ図です。↑
赤い部分(中、近距離対応)が薄くなり、さらに濃い部分がかなり下に下がって来ます。
結果として、中、近距離が見にくくなります。一方で、このダメになったはずの古いメガネは、本来の(度数が合った)遠近両用よりも、無限遠に対応する領域は広いのです。上の水色の部分は、近視の方で例えると、度が強すぎの領域を示しており、遠視の方で例えると、遠視の矯正不足の領域なんですが、少しでも調節力が残っていれば、無意識に調節する(疲れるが)ことで、水色の領域もぼけを感じていないことが多いものです。従って、中、近距離に不便を感じて来店されたはずであっても、遠近としては、異常に広い遠方明視域に慣れてしまった状態だったということです。
 それで、最上段のイメージ図のように、本来の累進レンズの明視域配置になると、遠方視野に違和感を覚えることがあるわけです。感情的になると、中、近距離の改善のことは一切忘れ、遠方視野が狭くなったことだけが突出することが多いわけです。