TOA130-BINO in the sliding roof shelter

 古くなった納屋の建て替えに合わせ、屋根裏に念願の観測室を設置しました。

 TOA130BINOは、高い光学性能、持ち出し可能、シンプルで堅固、操作性に富んで、しかも美しい、これ以上求めるところが見あたりません。朝、観測室に運び込みました。松本さんのロゴ第一号の意味が納得です。夕方、電気工事がが完了したので、写真を撮りました。一部送ります。とても満足しています・・・・・・・・。

 続報 1 2010年9月16日

 BINOを設置した後、月をTOAで見ましたが、イーソス8mm125倍100度の視野は、月全体をとらえることができ、その表面の詳細まで見せてくれました。暑い夏の夜の空気のゆらぎが気になる中でしたが、感動を味わいました。不思議なのは、視界いっぱいの月であっても日周運動によるその動きが気にならないで観察できることです 。自動ガイドの必要性は当面感じません。時々ハンドルを動かすだけで十分でした。どうしてでしょうか。

 また、8月26日にはハワイ島のマウナケア山頂4000m超でスバル天文台を横に見ながら雲海に沈む夕日と、東の空に赤く四角形につぶれた顔を出し始めた満月を同時に見る機会をもつことができました。高山病予防のため、星はオニヅカ・ビジター・センターのある2800m付近まで降りてから観察しましたが、月明かりで、手に届く ような星々を見るまでには至りませんでした。このときは持参したNikon7倍50mm双眼鏡が活躍しました。日本よりさらに南側が観測できるさそり座・南斗六星付近の銀河中心部の数々の星団を流しました。ガイドさんによるグリーンレーザーポインター(星まで光が届いているのではないかと思えるほど強力なもの)で指しながらの 星座の説明も楽しみました。

 9月9日台風の後の好条件で、TOA130BINO+イーソスと12cmF5BINO+EWV32を対比しながら短時間でしたが観望しました。それぞれが特長を生かした接眼レンズとの組み合わせで、観望を楽しむことができました。12cmF5で天の川を流し、木星、M13、M59を確認しました。18倍程度の倍率で、見え方は小さいがF5の明るさが特徴的 なことを再確認できました。M13、M59は、その存在がやっとわかる程度の見え方です。

 TOA 125倍では、木星は衛星まで含めて約1/3の視野に収まっています。木星の縞模様がはっきりと確認できました。M13では、無数の星つぶを立体的にとらえていました。環状星雲M57は、リング状のはっきりとした輪が確認できました。12cmF5に比べ、星以外の宇宙ががどこまでも暗く、暗黒の空間を感じました。

 翌日の明け方3時頃、目を覚ましたついでに、冬見られる星々を確認しました。TOAで見るオリオンは見事でした。12cmF5では分離できない台形4個のトラペジウムがはっきりと分かれ、視野いっぱいの立体的なガス星雲の広がりが見事でした。次にアンドロメダ銀河も確認しました。昨年12cmF5を携えて富士山5合目まで行った とき、月を余裕でとらえることができる75倍100度の視野からは、アンドロメダ銀河の全体像があふれてしまっていた事に驚かされたことを思い出しました。(自宅での観望では小さくしかその存在が確認できません) 我が家からはTOA130 BINOの125倍の視野からあふれるアンドロメダ銀河までは確認できませんでした。条件が良 ければ、力を発揮できるでしょう。両極端な2台のBINOですが、それぞれの特長を生かしながら、時に遠征まで含めてディープスカイを求めつつ観望を続けていきたいと思います。 とりあえず短時間の観察のご報告まで 。

水車

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 納期がずれ込んでしまった、水車さんのTOA130-BINOでしたが、観測所の完成と非常に 良いタイミングで、7月24日に当方でお引渡し出来ました。

 完成された観測室に初めてTOA130-BINOを設置された第一報をいただきましたので、まとまったリポートをいただく前に、水車さんにお願いして写真と第一報の一足先の掲載をお許しいただきました。
 観測室には、奥の12cmBINOと手前のTOA130-BINOが仲良く並び、製作者としても嬉しい限りです。

 追記 2010年9月16日

 水車さんより、早速続報をいただきました。  マウナケア天文台にも行かれた由、羨ましい限りです。 標高2,800もあると、満月近くの月があっても下界では見られないような素晴らしい星空を堪能されたことと察します。
 2台のBINOの特徴を活かしながら、どちらも愛用してくださって、嬉しい限りです。 トラペジウム は12cmF5でも分解するはずですので、倍率等を変えて再度チェックしてみてください。

 高倍率時でもTOA130-BINOの中軸架台がうまく機能してくれているようで、嬉しく思います。 中軸架台も、5台以上作り、1台ごとに改良を重ねて、成果が出たように思います。 スラストベアリングの採用が最も功を奏したわけですが、ラジアル方向の円滑さでは、グリスの粘度が重要だと分かりました。 剛性を気にする余りに、初期にはグリスの粘度を高くし過ぎていたことが、水車さんの BINOの頃までに判明し、最近ではグリスの粘度をずっと低くして、より快適な水平回転を達成しています。 初期の製品をご使用の方で、水平回転がやや渋いとお感じになる場合には、水平回転軸部分を分解して、そこに市販のグリススプレーを適量吹きかけて(混合して)調整してください。

 水車さんには、海外遠征のお疲れが取れる間もなく、タイムリーに続報をいただき、 誠にありがとうございました。 これから、秋から冬の天体をじっくりと観察されましたら、ぜひ”続報2”を お願いいたします。 楽しみにしております。

PRONTO-BINO(7cmF7),Mr.Kato (2010,5/29)

photo 1
photo 2
photo 3
photo 4 (before)
photo 5 (after adjust)
photo 6 (mirror)

テレビュー製のプロントEMS-BINO(7cm F7)が納入されたのが2005/2ですから ちょうど5年強が経過しました。 この間の利用状況、印象などをご報告します。

 テレビュー社では「最もよい望遠鏡とは、最もよく使う望遠鏡」のコンセプトで 何種類もの魅力的な望遠鏡をラインナップしていますが、その初期のものが プロントだと思います。 もちろん大型機にはそれぞれの魅力があるのですが「まずは使ってこそ」 と言う考え方には非常に共感します。

 プロントEMS-BINO導入してから5年の間に体調を崩し、入退院・手術を繰り返して 最終的には人工透析(週3~4回 7時間/1回 帰宅は24時頃)を受けることになりました。 このため星を見ることができる時間が大幅に制限されましたが、 プロントEMS-BINOはその扱いやすさから重宝しています。

【運用】(写真1) 通常は自宅2階の書斎に置いてあり、ベランダ観望に用いています。 EMS-BINOとしてはかなりの小型機ですが、その分、

・軽量・コンパクトなため簡単に準備ができる(文字通り数秒)
・対物レンズなど光学系の温度順応が早い
・鏡筒が短いため狭いベランダでも使いやすい
・光学系全体の優秀さゆえ星像が美しく、かなりの高倍率まで耐える(架台の限界はあります) ことから稼働率は高く、晴れ間があれば直ぐに使えます。
(透析日の就寝時間は午前1時頃ですが、就寝前に見ることもあります)

 ベランダ(南向き)のため視界は限られますが 月、惑星はおおむね見ることができます。(西に低くなると隣家の屋根にかかり見えない) またEMSにより視線が下寄りに向くため、街灯の影響を受けにくいのもメリットです。

【使用アイピースと星像】

 EMS-Lを選択したため2インチアイピースが使えます。 現在、主力アイピースはツァィスの12.5mm(見かけ視界90度)で 笠井トレーディングの2インチマルチショートバローのレンズ部のみを取り付けて 約60倍で使用しています。
このアイピースは合焦位置がかなり対物レンズ寄りなのでバロー(約1.5倍)を 合焦用のエクステンダーとして利用しています。

 このアイピースはナグラー・イーソスなどと比較すると 「シャープさを持ちながらも、やわらかめの像質」の印象です。
周辺まで比較的良像を結び、特にFの短い鏡筒との相性が良いように感じます。

 周辺部を注視すると星が流れているのは判るのですが、 中央付近に視線を置くと周辺部の流れが余り気になりません。 眼の構造のためか、何か特別な設計ノウハウがあるのかは判りません。

 地上を見た際の像の湾曲が少ないのも特徴です。(イーソスは盛大に曲がります) また軽量なのも長所でしょう。

・アイレリーフが短い
・合焦位置がかなり対物レンズ寄りで望遠鏡によっては合焦しない(エクステンダーで回避可能)
・月を見ると若干黄色系の着色がある(もともと地上用の光学系として設計されている為らしい)
なことが難点でしょうか。

 この組み合わせでも、星像は十分満足行くものになります。 イーソス10mmを使う場合もありますが、この組み合わせだと 最早文句を言うところが見当たりません。

他にシュバルツ150SEMS-BINO、Ninja320を現在所有しており 過去には

 高橋:MT200、ミューロン250、FC76、FC100N
笠井:アルター(15cmルマック型マクストフカセ)、スーパービノ15倍110mm双眼鏡
ミード:20cmシュミカセ、40cmドブ
宮内:10cm 45度対空双眼鏡
などを使用してきましたが 星像の気持ちよさではダントツで最高だと思います。

対物・EMS・接眼レンズの優秀さもありますが、 EMS-BINOの特徴である

(1)双眼視
(2)90度対空型による観望時の姿勢の安定
(3)眼・脳へのストレスの少なさ
が寄与しているものと思います。

他に32mmアイピース(笠井見掛視界70度)を使って15倍70mmという中型双眼鏡なみの スペックで使用することもあります。 天の川を流すと楽しいですし、 UHCフィルター等を併用すると、普段と違う宇宙を楽しむことができます。

【構造】 (写真2:フードを収納した状態、写真3:スライド機構・フード延長状態)
・写真をご覧いただければ判りますが「極めてコンパクト」です。  重量こそ単体プロント鏡筒の3倍強の11kg(2インチアイピース・5cmファインダー含む)で、横方向にも大きくなっていますが  「よく使う望遠鏡」の美質は失っていません。

・接眼部はプロント標準の2インチです。
・EMS-Lに長めにアイピースを使用しますので、接眼部が目立ちます。
・相対的にEMS-L部分が重いため、鏡筒前方にカウンターウエイトが付いています。
・左右鏡筒の焦点距離がセンチ単位で違っていたようですが、倍率の違いは認識できません。
・鏡筒は数センチ切断しています。
・架台は標準のHF経緯台です。
・スライド機構はリニアブッシュ式で5年使用しましたが全く不具合ありません。
・鏡筒がコンパクトで軽量なため、この構造で不具合を感じたことはありません。
 (鏡筒の重いシュバルツ150SEMS-BINOでは若干不具合を感じる部分がありますが、 現在の製品では改善されています)

【トラブル経験】

 導入初期の頃ですが 観望中に突然、左右の像に(少しずつ)ズレが生じ始めました。 XYチルト機構で修正したのですがズレが止まらないので明らかな異常と判断し 室内の照明を点けて確認すると 「右側の鏡筒バンドが緩み、鏡筒が少し回転しながらずり落ちていた」ことが 判りました。

 鏡筒をセットしなおして、XYチルト機構での修正分を(見当で)元に戻しました。 レーザーコリメーターでのチェックはしていませんので、どこまで原点復帰できたか は多少不安ではあります。
(BINO MAKING Progress Reportの2010年5月24日説明のような状態になっている可能性あり)

最近の製品はXYチルト機構の原点復帰マークがありますので心配ないと思います。 これ以外には特にトラブル経験はありません。

【調整】

 長期間使用していると鏡筒バンドの緩み等で左右のEMSのスケアリングがずれたり 像の倒れが発生することがあります。 星を見ているだけでは、かなりの誤差になっても、意外と気づかないものですが (眼が修正してしまう) ときどき昼間に調整します。

(1)左右の接眼スリーブが平行になっているか? 高さがあっているか?メジャー等をあてて目視でチェックします。

(2)像の倒れの修正  直定規を対物レンズの前に置いて修正しています。(写真 修正前・修正後)
両目で見ると調整中に眼が修正してしまうので、片目で見るか、デジカメで撮影しながら追い込むようにしています。 (BINO MAKING Progress Reportの2009年12月9日説明を参照下さい)

(3)EMSミラーの清掃

 「EMSには保護フィルターが装着されています。星像への影響をほとんど感じないので 観望中も装着したままにしています。(気になる方は観望時に外すことも可能)

 フィルターのおかげでミラーは5年経過後も新品同様です。 それでもどこからか僅かな埃は侵入するのでダスターで飛ばしています。(写真6 ミラー面 フィルターを外して撮影 小さな埃は付着してますが綺麗です)
私はミラー面を無水アルコールで洗浄した経験はありません。 (詳細手順はホームページのEMSミラーのメンテナンス を参照してください)

【遠征】

 病気の制約であまり遠征には行きませんが、Ninja320とともに遠征したことが数回 あります。(自宅から15分程度で着ける直ぐ近くの場所です)

32cmニュートンと7cmでは比較するのが無茶ですが

・星像が美しい(特に視野の均一性) [但し短Fニュートンでもパラコアを使えばコマ収差はほぼ減殺できます]
・淡い星雲などの識別性能が高い
・実視界が広い
・現地に到着して直ぐに使える(温度順応が早い)
ことでプロントBINOにも大きなメリットがあります。

 流石にNinja320の主鏡が温度順応し、パラコアを併用してコマ収差を減殺すると 天体の細部構造の見え味では勝負になりません。 ただ実視界には大きな差がありますし、大口径機が能力を発揮できる気流の夜は限られますので プロントEMS-BINOの存在価値は消えません。

【5年間使用しての感想】

 プロントEMS-BINOのような小口径のBINOは、コスト面でなかなか採用に踏み切るのは 難しいかもしれません(鏡筒自体がシュバルツ150Sよりかなり高価ですし)。 ただ上記のとおり、小型EMS-BINOであるがゆえのメリットは大きく 十分に存在意義はあると感じています。

ナグラーの言う「良く使う望遠鏡」としての良さを維持しつつ EMS-BONOにより「人間が両眼で、楽な姿勢で見るための光学系」としての長所を追加した 本機は天体望遠鏡の一つの到達点だと思います。

加藤 仁
Hitoshi Katoh

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

PRONTO-BINOとSCHWARZ150S-BINOのユーザーでいらっしゃる加藤さんより、 3回目のリポートをいただきました。

 ファーストライト直後の新鮮な感動をリポートいただくのも、もちろん嬉しいのですが、こうして5年間 に渡って愛用されたご感想をいただくのは、また格別の重みがあり、非常に価値あるものです。  体調の管理をされながら、渾身のリポートを作成してくださいました。

 当時の定番だった、リニアブッシュ(リニアベアリング)を使用したスライドマウントは、数年前に卒業した形式ですが、 当時の加工手段の範囲で最大限に知恵を搾った結果のデザインで、懐かしく再会させていただきました。 クランプを緩めると左鏡筒が台座ごと自由にスライドし、好みの位置でクランプするという形式でした。 現行モデルでは、クレイフォード(フリクションドライブ)式により微動送り機構を備えています。

 直定規を利用した像の倒れ調整について、よく理解され、見事に調整しておられます。 当方のサイトでは、手元にあった金属製の定規を置いていますが、加藤さんのように、透明の定規を 使われると、大変見やすいですね。 さすがです。 直定規を水平中心に置くのが難しい 場合は、紙箱の角等を利用した直角アングルを作って水平にしたBINOの筒先に置くと便利かも分かりません。 また、左右の見口より定規の直線性をチェックする際、片眼で交互に(素早く)見る ことも大事なポイントでした。

 ミラーのメンテについて、この場を借りて少しご注意申し上げます。 アルミ増反射コートにつきましては、すでに20年以上の実績があり、当方にある20年以上前のミラーも新品同様の輝きを保っております。 しかし、耐久性を加速実験にて確認したとは言え、増反射銀コートミラーにつきましては、まだ十年、二十年もの経年検証が済んでいません。 従いまして、銀ミラー仕様については、防塵フィルターは付け忘れを防ぐ意味でも、外さずに常時装着してご使用になることをお勧めします。 当方にあります銀ミラーサンプルは、すでに3年を経過して初期の反射率を維持していますが、空調が完備していない、吹きさらしに近い スライドルーフやドーム内での長期保管はお避けいただき、EMSだけは人間の快適生活空間で保管されることをお勧めします。(ただし、ご環境やご都合により、EMSの移動保管が現実的でない場合は、自己責任 にて保管してください。)

 忙しさに紛れて、当方のサイトでは唐突な掲載しか出来ていませんが、リポートの形で加藤さんより、改めて好適な保存版の教材をまとめていただいたようで、大変ありがたく思います。

  加藤さん、これからもお体を大事にされ、時々はこうしてリポートをいただけましたら、大変 ありがたく思います。 この度はまた渾身のリポートをいただき、本当にありがとうございました。

Pinkish Orion Nebular by silvered 20cm-EMS-BINO/ ピンク色のオリオン大星雲 by 20cm-EMS-BINO

Mr.OKAMOTO in Toyama Pref.

      2009年11月14日

【銀ミラーの効果】

 一昨日11時半ころから1時ころ 快晴の空の下、銀コートで武装 した20センチF7屈折EMSツインでM42付近を散策してみました。 EWV32 84度のアイピースからこぼれそうなくらいの星空 (自宅なのでバックは明るいですが)を見ながらふっていくと  おやっ?いつもの見なれたM42と違う、  おおっ!淡く ピンク 色に見える。 眼の錯覚ではないか? 先日月明かりの下で見た 時もやや色がついて見え、もしかしたら とはとは思っていたのですが。 もう一度裸眼で夜空を見上げ、校正をかける。 そして覗く、  やっぱりピンクだ!今までは 明るい緑色やや赤銅色の南の翼 しか確認 できなかったのですが。

 頭、ベールのようなやわらかい北の翼、しっかりとした南の翼、が濃淡 のあるピンク色に発光し トラペジウムの近くは黒く抜け、(ガスを消費した結果なのか輝星の 眩惑なのかさだかではありませんが)、そしてさらに周りはモクモクとした グリーンのガスが取り巻き、一部はやや青みがかってさえ見えます。

 写真は作られた色調であり、本当の姿ではありません。 今見ているそれこそが ”30光年まで近づいた宇宙船からの光景”か、 と思うと感慨深いものがあります。  かつて40センチ反射ツインを作った目的も ”オリオン星雲をカラーで見たい” が目的の一つでした。

 そしておそらく最も早く、両眼視でオリオンカラーを視認できた仲間 の一人になれたことを感謝します。 さらに暗い空に下で検証してみたい と思います。                    とりあえず報告まで

ps

残念ながら燃える木もやっとで、とても馬頭は無理でした クロマコールは片方だけ入れると彩度が上がりました 。両方 ではあまり変化ないような感じです。 もうALミラーには戻れません。(単眼に戻れないのと同じくらい) もう一つ、 言ってみたいですね。 ”もうアクロマートには戻れないなんて”

 最高の贅沢を有難うございました。 でも一人で覗いたのでやっぱり夢ではないか?信じられません 今度フィルターも試してみようと思います。

 もし公開されるのでしたら、もう少し待っていただけませんか。 間違っていてご迷惑をかけてはいけないので、誰かと 見てみないと。 あまりにセンセーショナルなので自分でも 信じられないのです 。夢だったのかも? 当日はカラーの観測像が眼に焼きついて いましたが今は写真のイメージと同化してしまいました。

 今後 干潟星雲や 三裂星雲 それらが実際の色 ピンクや 青が見えることが予想されます。 

      2010年4月18日

【やはり本物でした】

 さて去年メールしました、銀ミラーの色再現性についてですが やはり 間違いないようです。

2月に20センチ屈折ツイン銀ミラー仕様をもって愛知県の元気村に遠征 、 このときはある方はこのようにコメントされました。

( 20cm屈折双眼でのM42を見て) あんなに明瞭に星雲の色を感じたのは初めてとのこと 眼視にはこんな世界もあるのかとびっくりされた方もいましたが、 いや色が着いてるとは言えないという方も。どうも個人差はあるようです。

 そして。なかなか星仲間と観望会を開ける機会がないまま4月中旬 となり、やっとある程度の経験者と合同で観望する機会にめぐまれました http://astrobinobicycle.at.webry.info/201004/article_3.html のとおりですが オリオンはやや傾いていたものの透明度がよく近くに3日月があり、色の校正が 自然にできていた事にも助けられたものと思います。

 見た方の第一声は いやー これ色着いてるやん 。やはりM42は基本 的に 淡いピンクの星雲であることを 認識できるものでありました 3時ころやや透明度が落ちたオメガ星雲、干潟 三裂星雲とも残念ながら 色は感じられませんでした。25センチなら可能かも知れません。

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 去年の双望会は天候に恵まれず、せっかくの20㎝BINO by銀ミラーを 見せていただくことが出来なかったのですが、実はその少し後の11月に、 上記の感動的なメールをいただいておりました。掲載を今日まで延ばした理由 も、上記文章より自明ですが、岡本さんの責任ある慎重なご姿勢がよく表れています。

 この度、岡本さんが満を持して発表してくださいましたが、多重反射実験での銀ミラーの 反射特性がそのまま実証された感じがいたします。長波長域で反射率が落ち込まないことの効果 には私たちの予想を超えるものがあるようです。

 岡本さん、今度は25cmの銀ミラー化が待っていますね。 当方の都合により、今回の銀ミラー蒸着の第3回ロットには 入れられませんでしたが、双望会までには間に合わせたいと思っています。 きっとまた銀ミラー仕様の 25cmED-EMS-BINOが未知の世界を 切り開いてくれることでしょう。

BLANCA115EDT-BINO

 1月の末、115EDT-BINOを受け取ってからずっと天候不順だったため、まったく星を見ることができませんでした。鳥取訪問から4週間近くたった先日、ようやく晴れた夜空にきれいな半月を見つけ、待ちに待ったファーストライトとなりました。 仕事から帰宅すると急いで2階にかけ上がり、自室に置いているBINOをベランダへと移動。月へと照準を合わせたのでした。

人生伴侶のテレスコープを松本式BINOに

 星に興味を持ち始めたのは小6の頃でしょうか。中学時代の星仲間は小型の望遠鏡を使っていましたが、私は藤井旭著「星雲星団ガイド」の中の、双眼鏡でもこれだけ見えるよ、という解説を参考にビクセン7×50の双眼鏡を買ってもらい、以後高校までそれを愛用していました。ところが、大学時代に購入した初望遠鏡のFC-76セットの見え味には、期待が大きかったせいか正直に言って満足できず、次第に星から興味が遠のいていったのでした。

 その後30年たち、目の衰えが気になりだしてから、もう一度宇宙の美しさをこの目で楽しみたいと思うようになりました。まずは手頃なBORG77EDを購入。星に地上に望遠レンズにとマルチに活躍してくれましたが、やはりよく見える望遠鏡が欲しくなり、次の機種の選考に入りました。さまざまな鏡筒や架台、それに双眼装置との組み合わせなども考えましたが、最終的に松本式BINOに決定したのは、始めに星を見る道具として双眼鏡を選んだ経験が強く影響していることは間違いありません。

鏡筒選定

観望場所は基本的に自宅のベランダです。自宅だと部屋からすぐ持ち出せるのは良いのですが、市街地に近いため、よく晴れた日でも3等星がやっとの悪条件です。対象はどうしても月惑星が多くなりそうです。よって選定条件として、収差が少なくシャープで、組み立てた状態で容易に持ち運びでき、価格もリーズナブルなこと、を重視しました。松本さんに10cm前後のEDアポを相談したところ、その頃発売されたBLANCA-115EDTは?、とすすめられ、私も実は気になっていたため、即これに決定することができました。ただし移動距離が長かったならば、より軽量な10cmEDアポか12cmF5を選んでいたのではないでしょうか。

取り扱い

 鳥取まで受け取りに行った際に、松本さんから本当に詳しく説明してもらいました。また、長年の地道な改良のお陰でしょう、全体の構成がシンプルで扱いやすく、昼間に何回か練習を行っていたため、EMSも含めて夜間でも操作に迷うことはありませんでした。

 組み上がったBINOは、3枚玉アポのしっかりした対物セルのために本体重量が17.8kgと、(予想していたとは言え)少し重くなってしまいました。そこで部屋での保管時にはEMSを外した状態にして、ベランダ設置時にアイピースの付いたEMSを取り付けることにしました。また付属のパランスウエイトは、やや重量不足だったため思いきってはずし、その代わり足首用のトレーニングウエイトを巻き付けて調節することにしまた。(写真の赤く見えるのがそれです)。それらの工夫で、移動時の本体重量を15kgまで減らすことができました。

 アイピースは必要最小限の構成にしたかったため、まずEWV-32mmと2倍ショートバローを、そして中高倍率用にイーソス6mmを購入、2インチサイズで揃えました。これらを組み合わせて25倍、44倍、133倍、233倍が得られます。

ファーストライト

 早速ベランダにBINOを設置して、いきなりイーソス6mm133倍で月を入れてみました。視野が広いためにスポットファインダーで十分です。目幅、ピント、EMS調整をすると・・・「これが月なのか!」・・・というのが第一感想です。当日はシンチレーションが悪く、それでもユラユラゆれる気流の向こう側に、これまで見たことのない月が浮かんでいます。次第に双眼視に慣れてくると、細かいクレーターや山脈、谷などが、まさに立体的な風景として目に飛び込んでくるのです。片目とはまったく別物、Google Moonの写真とも違う双眼視だけの「体験」です。当初6mmでは倍率が高すぎたかなと思っていましたが、広い視野いっぱいに色付きのない月面全体を眺めながら、ある一カ所に注意を集中すると驚く程細部まで地表の形態を「感じる」ことができます。1本で中倍率と高倍率を行き来できる、と言えばよいのでしょうか。コントラストも片目で見るよりは、ずっと強く感じます。

 月が沈んだ後気がついたのですが、その夜は2等星までしか見えておらず、どうも薄雲がかかっていたようです。そこでM42は確認程度にして、今度は昔よく見ていたシリウス下のM41を入れてみました。星々は暗めですが、双眼鏡では雲状に見えていた微恒星が無数の光の点として確認できます。さらに驚いたのが星の色です。M41内の比較的明るい星ならば赤や緑の色がはっきりわかります。特に赤がしっかり出ている印象で、星の色の違いを明確に感じることができます。赤色を正確に反射する銀ミラーの効果なのでしょう。星の色の差を認識できる、ということが、こんなに楽しいものとは知りませんでした。

 この日は月を妻や子供達にも見せました。家族にいきなり双眼視は難しいため、その時はEMSを逆はの字に回転させ、2連望遠鏡として使用しました。こんな変則的な使い方ができるのも松本式BINOならではですね。

それから数日後、気流のおだやかな、絶好の夜がやってきました。再び月を…、ゆらぎがないため前回よりはるかにすばらしい眺めです。コペルニクスは、そこから四方八方に広がる「猛烈な」起伏、詳細に見えるクレーターの淵や内部様子が本当に見事で、30分以上同じ所を眺めても全然見飽きません。もっと地形を勉強しなければ!。倍率は、バーローをつけた233倍よりは、133倍の方が月には合っている(少しまぶしいですが)、と私は感じました。何しろ全景と詳細が同時に見られるのですから。

 月明かりの中、次はM42です。トラペジウムを見るのは初めてでしたが、133倍ですぐにそれとわかりました。4つの明るい星のそばに5番目の星が微かに確認できます。事前に写真などで星の位置関係を知っていれば、6番目も見つけられたかもしれません。星像ににじみがないため、当初の予想以上にすっきりと気持ちよく対象を見ることができます。これで夜空の暗い場所で観望したなら、一体どんなふうに見えるのか…、当初の予定になかった欲望がわき起こります。

Life with BINO

 朝目覚めると、真っ先にBINOの姿が目に入ります。使わない時はコンパクトに部屋の隅にたたずみ、いざ星に向けるとすばらしい光景を見せてくれる。完成した115EDT-BINOは、これからの人生に無くてはならない存在になる、そう予感します。それに昔愛用していた双眼鏡が、姿形を変えて戻って来たかのような懐かしさもあるのです。今度の「双眼鏡」がどんなすばらしい世界を見せてくれるのか、これから末永く楽しんでいきたいと思います。松本さん、そして理解ある家族に感謝します。

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

藤原さんより、BLANCA115EDT-BINOの第1号機のリポートをいただきました。
 星見を7X50の双眼鏡からスタートされ、また本来の双眼に戻られた形とのことで、大変光栄に思います。  当1号機は、新たな部分が多く、随分とお待たせしてしまいましたが、寛大にお待ちくださり、また遠路を 車で引き取りにお見えくださいました。

  このサイズ規模のBINOが、鏡筒平行移動か、鏡筒固定で目幅クレイフォード方式かの分岐点ですが、今回は よりシンプルな構造を希望されたため、後者の方法を採用することになりました。 後者の方法は、小規模のBINOの場合、EMSの第1と第2のユニットの間隔が、目幅クレイフォードを挿入するのに十分確保できない場合が多く、毎回苦心するのですが、今回は新たな構造により、さらなるlow-profile化を達成しました。

 HF経緯台も、幅広改造をしない方向で進めました。 ただし、最終的にはどうしてもほんの少し(10mmほど)幅が足りなくなったため、大手術を施すことなく、特殊な形状のスペーサーを作ってうまく対処しました。

 ファーストライトでこのBINOの色の再現性の良さに気付かれたのは、さすがです。製作者である私自身は、実際にBINOで星を見る機会は少ないのですが、屋内の壁に掛けている赤い散光星雲の天体写真を、アルミ、銀、それぞれのミラー(1回反射)で反射させてみると、1回反射の段階ですでに区別できて、非常に興味深いものです。 自分の顔を映してみても歴然ですが、銀とアルミは、健康人と病人くらいの顔色の違いがあります。普段 見慣れている姿見の鏡も、実際の色を再現していないことが分かります。相対的に銀の方が赤味がさして見えるのですが、その 血色が忠実な再現なのであり、普通の鏡の色の方が嘘なのです。

 足首用のウェイトをうまく利用されました。 フードの伸縮も前後のバランス調整に有効ですが、フードを 常に伸ばして使われたい場合は、他の場所で調整しないといけませんね。  

 この度、藤原さんにはファーストライトのご感想をタイムリーにご報告いただき、本当にありがとうございました。 これから気候も良くなりますので、またじっくりと観察された段階での追加リポートをお待ちしております。

TOA130-BINO(Newest Version)

Mr.Takemori in Kanagawa Pref.

 一昨日は 忙しい中 お相手していただきどうもありがとうございました。 (ようやくネットの使える環境に戻ってきました)

昨日(日曜日)は原村の山小屋に到着すると よく晴れていたので 早速 Bino を組み立てて操作のおさらいをしてみました。

 EWVで星を見ると最初から左右の像が一致しており、少しアイピースから 目を離してみても ほぼ一致しているようで、再現性の高さに驚きました。

 月の出る時刻になっていたので、9mmのアイピースで、主に月と二重星 を見ることにしました。γAnd を導入したところ 正に天上の宝石ともい うべき美しさで、これはいままで体験したことのないい感覚です。αGem、γLeo、 それに月面もクリアかつコントラスト、色彩ともすばらしいも ので、銀ミラー効果か、鏡2枚が介在している感じは全くありません でした。

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 7日に当方でTOA130-BINOをお引渡しした竹森様より、神速の第一報をいただきました、 まだ正式なリポートではないということでしたが、お願いして、いただいたメールの該当部分をその まま掲載させていただきました。 関東からこちらまで引き取りに見えるたのは、大変な労力だったかと思いますが、 お越しくださる方は、その努力に見合う収穫を持ってお帰りになると確信しています。  鏡筒単体着脱式のBINOを、最初から完璧に使いこなしてくださって、大変嬉しく思います。 この他、水平方向のバックラッシュが認められるとのご指摘をいただきましたので、急遽、ベアリングを 手配させていただいています。TOA鏡筒は、やはりトータルに組み立てた重量は半端でないため、水平回転軸にかかるアキシアル加重も 半端でなく、鏡筒径もピラー径も太く、天頂まで鏡筒を向けるために、重心のシフト量を大きくしたのが原因のようですが、改善の要素が 見付かる良いきっかけになりました。 (目下、新型中軸架台は一台ごとに改善を重ねております。) 架台の改善が終わり、本格的なファーストライトをされましたら、またぜひリポートをお願いします。  この度は、タイムリーなご報告をありがとうございました。

12cmF5-BINO

 さて、去る7月11日に、12cmF5BINOを受け取りにお店にお邪魔して以来、天候不順と月明かり のせいで、なかなかBINOをまともに振り回せず悶々としていました。 が、ようやく高気圧の張り出し域に スッポリと覆われて、先週8月15日に、自宅から比較的アクセスしやすい南房総の山中へ遠征してきま した。

 本当に待ちに待った日です。目的地への道中、お盆中でもあり帰省や行楽の渋滞も覚悟していまし たが、以外やスムースに流れました。夜行性の趣味にもメリットはあるようです。海ほたる方面の東京圏 の大光害域を背に南下してゆくと、右手にさそりのS字が傾きかけています。急がねば。しかし、後部シ ートには主役のBINOを寝かせているので、レーサー気分でつづら折れの山道を駆け上がるわけにはいきま せん。ここは、はやる気持ちを抑えて、粛々と歩を進めます。

 開放した車窓からは昼間の暑さは影を潜め、どこはかとなく秋の気配が忍び寄ります。到着するやいなや車から飛び出し空を見上げると、満天の星空 を天の川がサラサラと流れています。思わずこの地の山ノ神に手を合わせてお礼をつぶやきました。この 星見場は稜線づたいを通る林道の待避所的な平場で、昨年より時折足を運びます。
 首都圏の光害の影響はかなりありますが、 朝、晴れると浦賀水道、三浦半島越しに秀峰富士が拝め、地理的な開発の困難さが、 周囲の自然を色濃く残しています。また、江戸時代の南総里美八犬伝のゆかりの地でもあります。さらに 安房という名は、神武天皇の御世に四国阿波から派生したもので、古代史を紐解いてゆくと、宇宙の成り立 ちまで到るそうです。かの地、鳥取で産声をあげたBINOに、星空を案内してもらうのにふさわしい、氣の 良い土地です。

 わくわくしながらも、あっけなくBINOを組上げ、光軸と眼幅を微調整。鼻歌交じりで誰で もいたって簡単。眼幅調整のクレイフォードのつまみをゆっくりと廻し、左右の視野円が合致したその時、 単眼時代の観望スタイルは粉々に砕け散りました。
 もちろん、双眼鏡での星空散歩は好きでした。何とい いましょうか、倍率による迫力、視野全体の透明感、迫力は50ccの原付スクーターとナナハンぐらいの 違いがあります。透明感は、車を運転中、雨がフロントガラスを濡らし始めたときと、ワイパーでさっと 拭い去った直後ぐらいの違いがあります。一般的な7倍50mmなどのスペックを持つ双眼鏡でさえこの 差ですから、単眼の望遠鏡ではいわずもがなです。誇大広告と公正取引委員会から怒られそうですが、数字 には現われない体感のインパクトに偽りはありません。こうなると、空の何処に眼を向けても、大満足 です。

 かつて、マクルーハンという学者が 「Media is message] なる言葉をメディア界に投げかけまし た。これは、個々人が情報をどのように解釈するかは、その内容よりも伝えるメディアそのものに大きく 影響を受ける。というものだったと記憶します。BINOにはメディア進化の可能性が大いにありますよ。 今、林の輪郭にアンタレスとM4が沈みかけています。急ぎ向けてみます。ターゲットを導入する際の操作 性、安定感、全体のバランス、どれも申し分なしです。長く付き合う道具とは、かくありたいものです。

 WS30mm 20倍 4゜強、M4が中心近くまで星々に分離されています。妖光を放つアンタレスと同一視野で の光景は絶品です。ここから、銀河に沿ってゆっくりと散策してゆきましょう。ファインダーは要りま せん。ただ、行きたいほうへ向ければよいのです。大抵、一つや二つ小さい散開星団や散光星雲が視野に ちりばめられています。背景には微光星の海原が拡がります。時折、有名どころの星雲星団に立ち寄る 際、視野の端で捉えてから中心へといざなうこのひと時がたまらずスリリングです。静止像は勿論の事、 視線を流している最中の動きのある光景も魅力です。このような感覚、楽しみは単眼では気づきません でした。旅人が旅のプロセスにこそ重きを置くような感覚です。

 夢中で操作ハンドルを握り締め ていると、あっという間に時間は過ぎ、天頂付近を飛翔する白鳥付近が視野に入ってきました。 この位置でもBINOの見易さにかげりは一切ありません。夥しい数の星の海をかきわけて、網状レムナント のある辺りへと進行します。もう、何も言えましぇん。一度、他人の30cmドブソニアンにOⅢ フィルターを通してハの字の東側のアップを見せていただき、いたく感動したこともありました。
 今、眼前に広がる漆黒の背景には、ハの字の両方がその独特な形状と濃淡をあらわに鎮座しています。 ノーフィルターです。何故か深呼吸をせずにはいられません。 ...。夜も更け東の空には雲越しに 下弦の月が山肌を照らし始めています。足早に、ケフェウス、カシオペア、ペルセウスと天の川を辿ること にします。低空の層雲が空を覆ってきました。足元ではコオロギが遠慮気味に独唱しています。残念ながら お開きのようです。

 そうそう、ボーグの60EDで夏の散光星雲を撮る予定でしたが、それどころではあり ませんでした。
 松本さん、この上ない素敵な道具をこの世に生み出していただき、ありがとうございました。 良い道具には、優れたデザインや高い機能性、利便性などの土台に、製作者の高次の志が脈々と息づい ています。利益最優先の大量生産により日常生活に流布する、さまざまな工業製品や農産物等々にもこう した高い志の復権が欲しいものです。
 今後もご健勝でわれわれ星見人を刺激し続けてください。私も 微力ながら、一人でも多くの人にこのBINOで宇宙の美しさを紹介できたらと思い、ペンを 置きます。

              サルスベリの紅白の花が満開の頃      玉川

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 製作者冥利に尽きるリポートをいただきました。今までにいただいている数々の リポートもそれぞれに個性があって素晴らしいものばかりですが、久しぶりに感性にストレート に浸透するリポートに出会った気がいたします。

 単体の屈折式天体望遠鏡のランク表記に、(単レンズはもうあり得ませんね)アクロマート、 セミアポクロマート、2枚玉アポクロマート、3枚玉アポクロマートと、かなりのバリエーション があるわけですが、EMS-BINOの真価は、そういうランクの比較の次元の外にあるということを、 玉川さんが非常に分かりやすく説明してくださいました。

 もちろん、素材鏡筒を選べば、さらに素晴らしいことは事実ですが、決定的な部分はEMSが持つ 基本原理のシンプルさによる勝利に他ならないという事実が、昨今の鏡筒の高級指向の陰でかすんでしま うことに少々の危機感を持っておりましたので、この度は非常に良いタイミングで、私たちが原点を 見失わないように一喝いただいた気がするわけです。

 玉川さんの初対面の印象は、”天文マニア”のステレオタイプからはほど遠い、スポーツマン 的な立派な体躯の持ち主だったことですが、もっと忘れられないのが、『合理的な命や道具の裏には シンプルな数学の定理が隠されている。』という信念を深く共有する方だったことです。
 私の拙文である、『人類の至宝』もよくお読みくださっていて、玉川さんはその日、大変興味深い、 フィボナッチ数列(曲線)の話をしてくださり、一緒に大いに盛り上がりました。 5億年を生き抜いたオウム貝の巻き線等がこの曲線と合致するのだそうで、長年繁栄して来た合理的 な命や使い道具には、合理的でシンプルな数学の定理が隠されているということを再確認した思いでした。 EMSの種明かし

 ただ、数年前、箱型のEMS-Sユーザーの方が同新型を追加購入された際( その方はネットをしない方で新型の画像を見ていなかった)、「今度はサザエみないな奇妙な形だ・・・」 と不評だったことも印象に残っています。^^;この、サザエの形^^;を具現するために数百万円の投資をし た意義は、この方には理解できなかったわけです。
 ですから尚更、信念を心底共有できる方との出会いは貴重であり、何物にも替え難いわけです。

 蛇足を重ねて、せっかくの素晴らしいリポートを spoil してはなりませんので、ここらで締めくくります。

 また、追加リポートを楽しみにしております。

TMB130-BINO

 マツモトさんに製作を依頼したTMB130-Bino(シグニチャーシリーズ口径130mm/F7アポクロマート 鏡筒)が 7月に完成し、やっと星空を見る機会に恵まれました。 そこで、導入の経緯と観望しての印象について、報告させていただきます。

1 導入の経緯

 仲間が持っていたSky90-BINOで見せてもらったのが、Binoとの最初の出会いです。そのときに 見せてもらったM31が、はるか遠くにあるはずなのに、手前に浮き上がっているように見え、その不 思議な光景がずっと頭から離れませんでした。そこで、どうしてもBinoが欲しくなり4年前にマツ モトさんから12cmBinoを購入しました。

 Binoで星空を見ていると、時を忘れてしまいます。 仲間に見せると、だれもがじっと見入ってしまいます。そして、Binoを見て感動した仲間が、次々 とBinoを購入しました。FS102・CAPRI-102ED・ZS110と気がつくと購入した人はみなアポ鏡筒でし た。低倍率で見る限り12cmBinoで見る星空は決して10cmクラスのアポBinoに負けていません。 それどころか、淡い星雲は12cmの方がよく見えました。しかし、アポBinoで見る星像はシャープで すし、月や惑星の周りには全く色がつきません。もう少し大きい口径のアポで見たら、どんなにすばら しいかと思うとアポBinoが欲しくなり、その気持ちを抑えることができなくなってしまいました。

 アポ鏡筒をBinoにするために、まず考えたことは口径と重さでした。口径は12cmよりも大きく、 重さは21kgを超えないことが条件でした。TOA130Sを所有しておりましたので、これでBinoを作って もらおうかとも思いましたが、片方だけで10.5kgもあり、完成すれば21kgを超えることが予想されます。 また、150LD-Binoを使っておられる方々のレポートを読ませてもらうと、とても大きくて私には無理だ と思いました。TOAをBinoにすることはあきらめました。

 そんなある日、TMBシグニチャーシリーズ口径130mm/F7アポクロマート鏡筒が中古で出ているのを見て、 大きさといい、重さといい、Binoにするにはもってこいだと思い、すぐに購入しました。しかし、 もう一本同じものがなければBinoはできません。そこで、私が所有している機材をすべて手放して 新品をもう一本買うことにしました。当然、TOA130も手放すつもりでしたが、仲間から思い留まるよう に言われ、この鏡筒だけは手元に置いておくことにしました。30cmドブも28cmシュミカセも惜しいとは 思いましたが、両目で見る宇宙の魅力には勝てませんでした。

 さて、国際光器さんにもう一本注文してから3か月が経ち、やっと2本揃いました。そして、最初の TMBを購入してから待つこと4ヶ月。やっと待望のTMB13cmBinoが手に入りました。

2 観望の印象  Binoの取り扱いは慣れているつもりでも、今回のBinoは12cmのときとはその構造が違うた め、マツモトさんに直接お会いして、調整の仕方を教えていただくことにしました。

  マツモトさんには丁寧で分かりやすく説明していただき、そのおかげでファーストライトの折は何 も心配することなく、扱うことができました。ただ、どのBinoでもそうですが、アイピースを交換 するたびに、EMS調整ノブで光軸を補正しなくてはいけないのがちょっと面倒ではあります。

 今年の夏は、天候に恵まれず、せっかく出来上がったのに覗く機会が無くてイライラしていまし た。先月の終わりに一か八かでいつも行くG村へ行ってみました。
 すると、上弦の月が雲間から見えてい ました。逸る心を抑えつつ、筒を月に向けました。月の周りには全く色がついていません。クレーター のエッジも立っています。ときどき、月の前を雲が流れていくのですが、これがまたすばらしい眺めで した。明らかに12cmBinoとは違います。TOAに双眼装置を付けて見たのとも違います。明るさと いい、シャープさといい“アポクロマート双眼望遠鏡”で見る月はすばらしかったです。
 次に、上って たばかりの木星を見てみました。笠井のバローレンズ(2インチマルチショートバロー2X;マツモト短 縮改造1.75×)を取り付けイーソス8mmで約200倍で見ました。12cmとは1cmしか口径が違わな のに、とても眩しいのには驚きました。そして、模様が濃いのにも感動しました。色はニュートン反 射(15cmF9・鏡は足立製で38年前に自作)で見たのと同じで、とても綺麗でした。ピントを合 わせるときは振動がありますが、それもすぐに収まり、見かけ視界100度の中でじっくりと見ること ができました。これなら、赤道儀でなくても十分観望することができます。その他に雲間からM13を 見ました。これも12cmよりもはっきりと見ることができ、端まで星が分離して見えました。

 その後もG村へ持っては行くのですが、いつも曇りでなかなか見られませんでした。しかし、16日の 夜は運よく一時間程度見ることができました。 我慢強く晴れるのを待っておりますと、願いが叶ったの か、東の空から晴れ始めてきました。さっそく、M31、M33、hχ、M15といった秋のメジャーどころを観 しました。M31は何度見てもすばらしい眺めです。腕がどこまで伸びているのか、残念ながらコンディシ ョンが悪く確認はできませんでしたが、視野いっぱいに広がるその姿は圧巻です。また、hχも息を呑む 美しさでしばし見とれてしまいました。
 そのうちに、雲がとれはじめ夏の星も見えてきましたので、 M13、M57、M27とたてつづけに見ることができました。ただ、すぐにまた雲が出てきて、しばし休戦。 再び、雲がきれてきたところでもう一度、秋の空を流していると、今度は濃い霧が立ち込めてきて、 全く辺りが見えなくなってしまいました。さすがに、今度はいつ晴れるか分からないので、帰宅する ことになりました。まだ消化不良ですが、とりあえずご報告させていただきました。

 最後に、今、国際光器さんの松本さんにビクセンのジュラポール三脚(ニューアトラクス赤道儀 2000PC用)にHF経緯台を取り付けるアダプターを作っていただいております。これが完成す ると、もっと安定して見ることができるのではないかと期待しております。

                    星好き先生

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

”星好き先生”は、今回も奥さまとご一緒に、出来上がったBINOとの対面に わざわざ遠路をお越しくださいました。

 前回、12cmF5-BINOにご対面いただいてから早4年とは、月日の早さに驚かされます。 前回は奥さまが、闘病中だった犬のクーに優しく声をかけてくださったのが印象に残っています。 星好き先生には、12cmF5-BINOをしっかりと稼動させてくださり、多くの方にEMS-BINO入門の きっかけを与えていただき、さらにまたこの度、ハイエンドのBINOを作らせていただいたことに、深く 感謝しております。

 このTMB(Signature)130と、すでに販売中止になっている150LD鏡筒辺りが、1体構造のBINO の重量的な限界ラインに位置するようです。 星好き先生より今回のBINO製作の依頼をお受けした 時点では、大型の中軸式の架台のアイデアがまだ煮詰まっておらず、無難なHFフォーク式でお作りしました。

 リポート本文中で、「木星の色が過去に見たニュートン反射の色・・・」と 肯定的にご評価くださり、大変光栄です。
 それは一つには、色収差が非常に少ないTMB鏡筒と プリズムを通さないEMSとのコラボレーションの結果でもあるのですが、望遠鏡やEMSを通して 見える”色”について、最近衝撃的な体験をし、EMSのさらなる向上に着手しているところでございます。

TOA130-BINO

Dear Tatsuro –

I am sending you photos of my completed binoscope. All is perfect.

I am enjoying the views very much. My self-made mount functions very well in all respects. I even find no need to add any friction adjustment capability, because the adjustable stainless steel weights allow perfect quick adjustment for fine balance with any eyepiece pair to perfectly hold any altitude. Of course, this idea was given to me from the photograph of the TOA-130 binoscope on your web site. It was a very good idea and I thank you for it.

Perhaps the only disadvantage of the TOA-130 is the heavy weight, which requires more careful setup and take down, especially the take down in the dark. But of course the big advantage is the optical near perfection.

I am not exactly happy with these photos, because it is hard to see detail of the black mount when the sky background it so bright. I hope to take some better photos on a cloudy day to send you some better photo.

Best regards,
John Pierce
e-mail

 Here comes his quick response!

Tatsuro,

Thank you for the link. Now, yes, I would like to add to my report these comments:———————————–

Tatsuro, I want to thank you very much for your EMS backs that I purchased from Joe Castoro. Your EMS backs are very fine craftsmanship, and your design is very elegant. The system is easy to collimate and merging views is always easy. And I really appreciate the views that are oriented correctly up/down and left/right. The various adjustments have become easy to accomplish now with very little thought. This is all made possible by your great EMS invention.

Thank you for suggesting that I should use your Extra Large 65mm EMS backs. These TOA-130 are rather large diameter, and the Extra Large backs allow the tubes to be spaced a wider distance apart. I think assembly of the system would be less convenient with the 50mm EMS backs requiring closer spacing of the telescopes. Plus I am happy to know that there is never any vignetting with this system.

My eyesight is not perfect. My left eye has a little astigmatism, and my right eye has more astigmatism. The merging of two eye views results in an image quality that helps very much to overcome the defects of my eyesight, without wearing glasses. Thank you for making this possible.

I would also like to thank Joe Castoro for his advice and assistance in helped me to make a successful binoscope. Joe is a good partner for you in the USA.

管理者のコメント;

Dear John,
Congratulations on your completion of the fine “TOA130-BINO”! I am much proud of you on the splendid job. It is very interesting and exciting to see various approach that is different from mine, but as efficient as mine. I also note of your special talent of planning, too. I am also looking forward to your next plan and am always ready to assist you. Thank you for your generosity to allow me to put your name and e-mail link on this file, too. I am always welcome of your further contribution to this corner. Your friend, Tatsuro mustn’t forget to thank Mr.Joe Castoro who had kindly assisted him through his project, too. 

 EMSセットと鏡筒用65φスリーブのみをご提供し、後は自作されました。(自ら設計して外注 されたパーツも含む) いつも思うのですが、言語の壁を越えて、EMS接眼部のみを取り寄せてBINOを自作される外国の方には、深い 敬意を禁じ得ません。BINO本体の製作には、BIG-BINOの服部さんの作品も参考にされたそうです。最初のメールをUPさせていただいたら、ジョンは直ぐに追加のコメントをくれました。 まさに以心伝心。近所に住んでいてもコミュニケーションが取り難い友人もいますが、地球の裏側に 住んでいても痒い所に手が届く友もいる。スリリングな時代に生きて良かった。^^

TMB: APM APO 130/F6-BINO

経緯

 1992年にMeade LX-200 20cmF10を購入しましたが、家の前の空きスペースで観望するためには、階段を10段少々 降りなければならず、また、住宅環境や転勤、多忙生活のため、自然と望遠鏡の稼働率は低くなってしまいました。 Al Nagler の名言 「望遠鏡は、使わない時間が長い。」

 時は流れ、2005年に家の建て替え計画が持ち上がりました。当然、“屋上にドーム”も頭をよぎりましたが、 2~3種類の望遠鏡を使い分けたかった事、予算が無かった事で見送りました。ただし、将来、簡易型ドームなどを 設置できるように、しっかり屋上にスペースは確保しておきました。紆余曲折あり、2007年2月に完成。膨大な音楽 関係の資料等の片付けに1年近くかかりましたが、一段落してくると、屋上が気になってきました。幸い、ペントハ ウスを望遠鏡収納スペースとして占領する事に成功し、以前の観望の煩雑さの反動から、Kowa High Lander Prominar を購入しました。屋上に出して2分後には観望できる簡便さ、10cm程度の優秀な屈折望遠鏡を無用としてしまう程 の恐ろしく優秀な光学系、アイピースを交換して21×(実視界3°)~96×(実視界0.8°:Meade UW 4.7mmを使用) まで対応できる応用力、アイピースまで純正トランクに収納できて総重量が11kgですから、非の打ち所がありません。
 その後、第1回双望会に参加する事ができ、天候には恵まれませんでしたが、圧感!の望遠鏡群を見る事ができま した。

 EMSを使用した2インチ・アイピースの双眼の世界は流石でした。双眼鏡もそうですが、一度広い見掛け視界に 慣れてしまうと(しかも、あっという間)、狭い視界は、随分と窮屈に感じてしまいます。また、ちょうどその 頃、仕事で大変お世話になった同世代の方が亡くなり、EMS双眼をやらずして死ねるか、という強い思いと、松本 さんと親交を持つに至り、ついにEMS双眼望遠鏡を発注する事となりました。

双眼の魅(威)力

 今は無き、Atom横浜店のA氏から同社の双眼装置を紹介され、Meade LX-200 20cmF10にPentax XL 21mmで使用し ていました。私の双眼装置は今も健在で、球状星団や惑星など、見事に見せてくれます。 我が家から700m離れた所に高圧線の鉄塔があり、屋上では、ちょうど手を伸ばした親指の先位の大きさに見えます。 私は、いつもこれで光学系のチェックをしています。この鉄塔のガイシを大きく視野に導く事も可能ですが、 近傍のパラボラ・アンテナの文字がはっきり見えるのは、Nagler 5mmでもTMB Super Monocentric 5mmでもなく、 双眼装置+ Pentax XL 21mmです。しかも見やすさは圧倒的です。これが双眼の魅力・威力でしょう。

鏡筒選びは楽しくもあり、悩ましくもあり

鏡筒を選ぶのは実に楽しいですが、明確なコンセプトがあったので、選択肢はあまり多くありませんでした。1. 優秀な屈折。
2. 低倍率指向(嗜好)。EWV 32mmで実視界3°確保。
3. EMS双眼望遠鏡を丸ごと移動可能(総重量20 kg、できれば18 kg以下)。
4. 生涯を共にするEMS双眼望遠鏡(only oneを目指す)。

 優秀な屈折というと、真っ先にTOA-130が候補に挙がります。今まで覗いた中で最高の1本でしたが、鏡筒重量が10.5 kgなので、これでは重くて移動できません。いくら高性能でも、観望する度に組み立てるのは、私の場合、結果的 に疎遠になってしまうのは体験済みなので、ここは諦めざるを得ません。また、TOA双眼はいくつか報告もあり、 追従では面白みに欠けます。
 ASTRO-PHYSICSは全ての点で条件を満たしていますが、納期に何年かかるか見当もつ きません。TECは140mmですが、F7で重さが8.6 kgという事で却下。BORG 125SDは重さがわずか3.5 kg、しかも焦点 距離は750mmですから、EMS双眼にうってつけです。実際に覗いてみると、ヌケが良いクリアーな像ですが、色収差 の点で、TOAに一歩譲ります。
 そこで登場したのが、TMB:APM APO 130/780 LW でした。780mmという焦点距離も、 7.4 kgという重量も申し分ありません。有り余るバックフォーカスも魅力です。解像度もTOA並み、という事でし たが、いかんせん予算がかなりオーヴァーしてしまいます。同シリーズには、3.5”フォーカサーのCNC-LW IIと いう、実に美しく眩しい鏡筒がありますが、重量は8.3 kgで、価格もさらに高くなってしまいます。松本さんに、 「2.5”のフォーカサーと3.5”のフォーカサーがあるのですが、どちらが良いでしょう?」と聞いたら、 「断然3.5”のフォーカサーの方が良い」との事。随分悩みましたが、ああ、もうこうなったらやるしかない!  円高も手伝って、一目惚れしたCNC-LW IIを注文する事となりました。焦点距離を1%以内で揃える、というリクエ ストも快諾していただきました。

鏡筒が到着。しかし…

 鏡筒を注文したのが2008年11月初旬で、1月末に出来上がるとの事。3ヶ月ありますから、その間に、まず架台の 準備をしました。ピラー脚にキャスターを付け、ペントハウスからゴロゴロと移動する事に決めていたので、ピラー 脚はVixen(85cm)を採用。足のネジは12mmφなので、東海キャスター F100N12Sがぴったり入ります。デザイン上、 グレイ色と100mm径を選択しました。

 我が家に鏡筒が届いたのは2月中旬ですから、ほぼ予定通りで、焦点距離も1%以内に収まっていました。何と 美しく魅力的な望遠鏡でしょう。フードを短縮すると、信じられない位短くなり、2本並べると、潜水ボンベが2本 並んでいるようです。名付けて “ツイン・タンク”。3.5”のフォーカサーも頼もしく、この鏡筒にして本当に 良かった!と思いました。
 ところが、メーカーが鏡筒出荷の段階で鏡筒バンドが品切れである事に気づき、これか ら製作するので1ヶ月待ってくれ、という連絡が入ってきました。その上、レンズには恐ろしい程のホコリが入って おり、へなへなと腰が抜けてしまいました。レンズ・セルを外してみると、幸いホコリはレンズ後面のものだった ので、きれいにクリーニング。さっそく覗いてみると、色収差の無い素晴らしい解像度の鏡筒でした。不思議なの は、TOAは、あっさりしたクリアな像ですが、TMB/APMは、PLフィルターを通して見たような濃い色で、ずいぶん 見え方が違っていた事でした。しかし、この“濃い色”が、きっと+の方向に働いてくれるに違いありません。 EMS双眼望遠鏡の大成功を予感し、鏡筒は松本さんの所へ旅立って行ったのでした。

EMS双眼望遠鏡の製作

 鏡筒バンドが届く間、フレーム以外の部分の製作開始です。製作は、松本さんに全て一任しました。たまたま注 文が少ない時だったので、あっという間に心臓部のEMS-LSが完成。ドロー・チューブの末端の所に接続するEMS専用 のアダプターを製作していただきましたが、この美しい鏡筒のデザインにマッチする、素晴らしい仕上げのアダプ ターでした。フレームは、鏡筒バンドを利用したシンプルなものとし、耳軸の連結部等はアルマイト加工を希望し ました。もっとも、私があれこれリクエストしなくても松本さんは全て把握していて、今回ほど以心伝心という 言葉を感じた事はありません。

 結局、鏡筒バンドは、到着まで1ヵ月半かかりました。もう3月中旬を過ぎています。この間、ジリジリとした 思いで待ちましたが、不安と夢は膨らむばかりでした。別な鏡筒バンドが届いたらどうしよう… 早くしないと トラペジウムが沈んでしまう! 春のメシエ・マラソンには間に合うのか?

 鏡筒バンドを松本さんの所へ送ってから完成までは、まさに電光石火。2日後にはフレームが出来上がり、 1週間後には完成してしまいました。何とシンプルで機能美あふれるフレームなのでしょう! HF経緯台の延長も 見事な仕上がりです。長年の松本さんの経験とエッセンスが凝縮されているのを感じ、すっかり感動してしまいま した。 

鳥取訪問

 遂に4月初旬の週末、“恋人”を引き取りに、鳥取へ行く事になりました。強風のため、飛行機が着陸できず、 空中旋回しています。フライト・アテンダントに聞いたら、「冬などは、よく名古屋か大阪に着陸する」との事。 夜に名古屋で下ろされたら、どうやって鳥取まで行けばよいのでしょう。フライト・アテンダントの答え 「私共 は、その後については分かりかねます」。また先週は、風の影響で成田で飛行機が落ちています。「半年も待って、 覗かずに死んでたまるか!!」 幸い30分程旋回したところで天候が回復し、無事鳥取へ着いたのでした。

 ワクワク・ドキドキ。半年の思いが脳裏を駆け巡ります。ああ、ついにこの瞬間が… 何と美しい佇まいなので しょう。さっそくBINOを覗いてみると、闇夜の水銀灯が高解像度で迫ってきます。色収差は全くわかりません。
 少し頭を冷やした所で、“鏡筒をねじる光軸調整”等を教わりました。夜も更けてきたところで空を見上げたら、天 候が回復し、月が見えてきました。少しモヤがかかっていますがBINOを外へ出し、観望する事になりました。EWV 32mmに続いてEthosへ。おおっ、何というシャープな像でしょう! Nagler 6 5mmでは、宇宙船の窓から顔を出し て、すぐ近くの月面を見ているようです。エラストテネスなどは、今、隕石が衝突してできたばかりのように見 えています。月齢8.9ですが表情豊かです。見慣れているクレーターなのに、BINOから目を離す事ができません。 さらにNagler Zoomでぐんぐん倍率を上げてみましたが、2mm 390倍でも像は崩れませんでした。感無量…

架台と合体

 BINOが横浜に無事届き、さっそく架台と合体です。耳軸高は137cmなので天頂付近を見るのには良いのですが、 BINOを持ち上げるのは大変です。翌日、近所の鉄工所でポールを12cmカットしてもらいました。これですと、 BINOを持ち上げて設置する時、両方の耳軸受けを見ながら載せられるので、安全です。

横浜でファースト・ライト

 さっそく我が家の屋上で観望開始です。鳥取で見た月面はどうでしょう。モヤが無い分、コントラストがくっきり しています。少しグリーンが入った月面の色がきれいで、月の砂の感触が伝わってくるような感じは初体験で した。これは、やはり“色が濃く見える”特色が+に働いているためだろうと思います。最初のねらい通り、 温度順応も迅速です。
 続いて、すぐ近傍の土星へ。表面の帯のみならず、輪の影など、恐ろしくシャープです。 シーイングの影響で、クックッと像が変化していきますが、時々見せる素晴らしい像には言葉もありません。
 「ご飯よ~」に応答が無いので、次女が様子を見に来ました。Nagler Zoom 2.5mmで土星を見せたら、「この前 の土星とぜんぜん違う~!」と目が離れません。この前の土星とは、ORIONドブ300mmF4.5(高精度+増反射マル チコート)+Baader V+2”GPC+Ethos 8mm だったのですが(都会では大口径が生かせず、オフ・アキシス・シャ ドウ・マスクを使用しても小口径/High Landerに負けてしまう事も度々です)。

 宇宙を100億分の1に縮小すると、いろいろな事が見えてきます。100億分の1の宇宙では、太陽は14cm、地球は 15m離れた所の1.3mmの粒です。シャトルは地球の表面0.03mmを飛んでいます。ちなみに、光速は毎秒3cm。我々は、 1.3mmの地球から、128m程離れた所の1.2cmの大きさの土星を見ています。望遠鏡って、凄いと思いませんか?

使い勝手

 操作ハンドルで空をスイープしていると機銃掃射みたいで、私などはラット・パトロール(1960年代の戦争アク ションTV)を思い出してしまいます。ファインダーは無くても導入には不自由しない程、全てが自然に動いてく れます。正面に見えている対象物を正像のままどんどん拡大して両目で見れる、という事が、どれ程人の生理に 適っているか、改めて実感します。

 ハンドルの下にはバランサーが付いていて、このハンドルをトロンボーンのようにスライドさせる事で、様々な 重さのアイピースに対応できるようになっています。しかも、このカウンター・ウエイトは、アイピースと対側 の低い位置にあるので、重量級アイピースでBINOが高仰角になった時の安定作用もあります。何という絶妙なアイ ディアなのでしょう。鏡筒が短いので、ハンドルを固定したままでもバランスは大きく崩れる事はありません。
 よく話題に上る“光軸調整”ですが、フォーカシングの時間よりも短いですし、幸いEWV32mm~Ethos 17-8mm間で は、わずかの補正で済んでいます。私の場合は、悩む間も無く、すぐに馴染んでしまいました。

 EMS調整ノブに付いた原点復帰 “←” マークの効果は絶大です。まず、この←2つ(水平用・垂直用)を手前に一 直線になるように向け、この時点で大きく光軸がずれていたら、鏡筒をねじって光軸を補正すれば良いのです。 ですから、安心して鏡筒を脱着できますし、移動の際、光軸がずれたとしても、冷静にすぐに復帰する事がで きます。EMS調整ノブを回しすぎて、迷路に迷う事もありません。この“鏡筒をねじる光軸補正”ですが、 実際に教わらないと理解は難しいかもしれません。鳥取までは遠いのですが、訪問の価値は計り知れませんで した。

 優れた製品・工芸品を使う、という事は、設計者・製作者の意匠を感じ対話をする、という事でもあります。 時に生き甲斐すら与えてくれる事もあります。生涯を供に過ごせるBINOを持つことができて、私は本当に幸せです。
  導入

 いつも、SkyScoutを使用しています。実視界3°あれば、ほとんど視野に導入してくれるので、大変重宝してい ます。基準星で設定する必要が無く、いきなり導入してくれるので、条件の悪い都会の空にもピッタリです。 しかし、経緯台でブンブン振り回して気ままに観望し、その上、導入や天体の確認ができるSky Tourは大変便利 でしたので、今回は奮発してスーパー・ナビゲーターを取り付けました。

 High Landerには、VixenのXYスポット・ファインダーを取り付けています。これをそのままBINOに取り付る事が 可能ですが、今回は、国際光器の正立ファインダーを取り付ける予定です(納入待ち)。“正立像”で統一です。 前述した通り、実際にはファインダーが無くても導入に不自由しない程、使い勝手は良いです。

都会の空も捨てたものではない

 都会の空は明るいです。私の住んでいる保土ヶ谷は、横浜駅から1駅なので、かなり明るいです。こんな所で星 なんか見えるの?と思う方も多いと思います。しかし、夜も10時を過ぎると、天頂付近は、条件が良ければス カッと見えます。夏はM57なども良く見えます。また、イザとなれば、1時間半少々で富士山・新五合目まで行 けますので、便利な都会かもしれません。ただ、最近は静かに観望を楽しんでいる脇で、我が物顔で発電機を ブリブリ回して撮影をする人が増えてきて、大変迷惑しています。もしお知り合いにこのような行為で写真を 撮って喜んでいる人がいたら、厳しくモラルを問いただし、即刻やめさせていただきたいと思います。 

腰痛対策

 BINOの総重量は、3.5”フォーカサーを採用した事で、22kgになってしまいました。鏡筒は8.3kgですが、 鏡筒バンドが1個1kgありますから、これだけで20.6kgになってしまいます。ですから、総重量が22kgで抑え られた、というのは驚異的です。

 とはいうものの、腰痛に悩まされないようにするには、BINOを持ち上げて移動する時間をできるだけ短くし なければなりません。幸い、ペントハウスから出して架台に載せた後は、キャスターでガラガラ移動すれば良 いだけですが、BINOの保管も考え、カンガルー・リフター:KGL-25を導入しました。
 普段は、地震が来ても大 丈夫なようにテーブルを低めにしておき、BINO設置の時は数回ペダルを踏めば、BINOの取手が1m位まで高く なります。床から持ち上げる時に一番腰に負担がかかりますから、これで腰痛対策は万全です。
 リフターは各社から様々な機種が出ていますが、カンガルー・リフターが、最も少ないペダル回数でテーブル をトップまで上昇できる機種でした。 

最後に

 写真歴は36年でカメラも大好きですが、徹底した眼視派で、天体写真を撮ることはありません。また、夜の仕事 をしている訳ではありませんが、1年の1/3は帰宅が遅く、星を見るチャンスは多くはありません。一つ一つの 機会を大切にしたいと願って、このBINOを注文しました。まだ満月なので、これからディープ・スカイへ旅立 つのを心底楽しみにしています。

 小学生の時は、ボール紙で作った屈折望遠鏡、某社の廉価版屈折望遠鏡で、すっかり屈折(挫折)してしまい ました。高校の頃は、木辺成麿さんの「反射望遠鏡の作り方」を幾度も幾度も読みましたが、資金が足りず計画 のみで終わってしまいました。友人は、20cmを作る、と意気込んでいましたが、そんな大きな物を作ってどうす るの?と真剣にアドヴァイスしたのを覚えています。35年前は20cmの反射は相当重く、据付方法を本気で考え なければならなかったのです。今のシュミカセやドブソニアン、見かけ視界100°のアイピースを考えると、 まさに隔世の感があります。

 EMSとの出会いは割と古く、1994年に松本さんにいろいろ問い合わせて沢山FAXを送っていただいた事があ ります。この時は、自作に自信が無く見送りましたが、それから15年。やっと実現に至りました。EMS双眼は、 鏡筒2本分の価格+αがかかりますが、効果は√2倍ではなく、2乗以上ではないか、と思います。鏡筒のクオリ ティが上がると、これまた2乗で効いてくるように感じます。

 今回のEMS双眼望遠鏡を通じて多くの事を学び、そして、心温まる交流が何よりも財産として残りました。 また、このBINOの製作にあたり、多くの方々から貴重なアドヴァイスをいただきました。国際光器の小山さん にも大変お世話になりました。この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。そして何よりも松本さん、心より 感謝申し上げます。どうもありがとうございました!

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 YKさんは、4月4日から5日にかけて当方を訪問され、7日に後送したBINOを受け取られ、 12日の今日、神速のリポートをくださいました。 1994年にもFAXを交換させていただいているようですが、私が初めてYKさんとお会いしたのは、去年の双望会 でした。双望会からの帰路を豊橋駅までYKさんの車に便乗させていただいた時、少年時代より心酔して来られた 世界的に有名な某音楽家との劇的な出会いと、その方との現在に至るまでの濃密な交流の感動的な経緯を伺い、大いに 共感、感動し、「この方のBINOを、今までのノウハウを総動員して作ってみたい。」と、強く思ったのでした。 YKさんも”以心伝心”と書いてくださいましたが、お仕事はもとより、第二のライフワークであるはずの 音楽関係の活動を含めて、とりわけ多忙でいらっしゃるにもかかわらず、BINO作りの過程で送信させて いただいたメールのご返信は極めて迅速で、かつ当方の設計意図もよく理解してくださるので、非常に仕事がしやすかった印象があります。  また、ご訪問に先立って、ご指定の梱包材料を手配して当方に送ってくださり、こちらでのご滞在2日目に は BINOの梱包を手伝ってくださるという徹底ぶりでした。 私の製作技術はまだ発展途上と考えていますが、YKさんは製作者の意図を良く理解してくださり、まさしく 製作者をやる気にさせる依頼者でした。私は、自分自身を、褒められてばかりいないと仕事が出来ない人間だとは 思っていませんし、改善すべき点を指摘されれば、可能な限り対処する姿勢は持っているつもりですが、 YKさんの例のように、心の琴線に響く関係が構築されていますと、依頼者の方との相乗効果のようなものが 出来上がるBINOにも反映されるということを、この度、改めて痛感しました。 この度、YKさんの非凡な感性に響くBINOが製作できましたことが大変幸せで、誇りに思います。  また、YKさんの方で全て整えられたポール+キャスターがBINO本体と見事にコーディネートされ、その 美しさを高めていることにも、感心しました。 今回のリポートについて、YKさんは「長い文章になった・・・」と言われましたが、今までに交換させていただいた 情報の量からしますと、私は、非常に簡潔で短い文章だと思いました。 YKさん、数ヶ月後にぜひまた続報をお願いしたいと 思っています。
 また、このリポートによって、私自身もYKさん以上に感動をいただいたと思っています。

Handy EMS-BINO

チビBINO by 正立ミラーシステム<ご報告>
 先般いろいろとご相談させていただいておりましたEMS双眼鏡が、 ほぼ完成しましたので、ご報告させていただきます。このEMS双眼鏡 ですが、以降”チビ”と記載します。 このチビは手持ちできる事、対物レンズが交換できる事が特長です。 写真は70mmと50mmの対物レンズをつけたものです。 さすがに70mmとなると重たく長時間の手持ちはしんどいですが50mmだと 十分手持ち可能です。 これで長年の夢であった、キャンプ用のリクライニングチェアにもたれ てゆっくりと夜空を眺める。また、見たいときに即座に星を見るといった、 私のわがままが叶います。がんばって購入したアイピースの活用率が 上がるのも嬉しい限りです。
<製作のきっかけ> 
 これを作るに至った経緯ですが、以前より、手持ちできる90度または 45度の対空双眼鏡が欲しくて、いろいろ物色していました。 しかし、丁度良いものが見つかりませんでした。宮内光学さんの物も 検討しましたが、手持ちは無理かと思いあきらめてました。 それが数週間前、なんともラッキーな事に、ネットショップで旧型の EMSを、それも左右セットで購入する事ができ、一気に夢の実現 に向かった次第です。
<チビのスペック>
   チビのスペックについて以下にまとめさせていただきます。■対物有効径:50mm,70mm
■焦点距離:不明
 ※家にあったビクセンのフィールドスコープと、古い無名の   双眼鏡のレンズを利用のため。
■合焦機構:対物レンズ前方繰り出し式
■光軸調整:対物レンズ取付け部回転方式(取付け部は数ミリ偏芯)
■目幅調整:多少可(接眼部プレートの締め付けを緩めておこなう)
■接眼部規格:φ31.7mm差込式
■材質:  ・接眼部プレート:4mmアクリル板
 ・対物側プレート:5mmアルミ板(松本さん製作品。感謝!)
 ・鏡筒  :塩ビ(全て水道管パーツ)
 ・合焦機構:フェルト
■正立機構:【旧型】EMS
■その他:双眼鏡ホルダー取り付けネジ穴付き

<今後の展開> 実はこの70mmのレンズですが、像が悪くかつクモリがあり50mmの方が 良く見えるような気がするほどです。幸いチビは、どんなレンズでも 受け入れてくれるので、良いレンズを探すなど、これからシステムを レベルアップして行くつもりです。

<お願い> 最後に松本さんにお願いがあります。 この旧型のEMSですが、購入して初めて市販されていた事を知りま した。ユーザの方のホームページでEMSの開発の過程が少し記載さ れている記事を見させて頂いた事がありますが、正確な所でEMSの 開発史をお教えいただけないでしょうか?松本さんのホームページに EMS開発史のページを作っていただく事をイメージしています。 今回、新旧のEMSを所有し、改めて現行モデルのすばらしさを 実感しております。例えばその開発史の中で、旧型から現行に移行す る過程での松本さんの創意工夫点や苦労話しを明らかにしていただけ ますと、EMSのすばらしさを、私も含め所有者の方にさらにお分か りいただけると思います。お忙しいとは存じますがご検討いただければ幸いです。
 大阪市 赤澤

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

● 懐かしい物を見せていただきました。   これが、商品化した最初のEMSで、当時の名称は『正立ミラーシステム』でした。 入手してくださってありがと うございます。 きっとこのEMSも、相応しい方の手に届いて、喜んでいると思います。  それにしても、赤澤さんの工業デザイン的なセンスにはいつも舌を巻かされます。この方に本格的な工作手段を与え たら、どんな物が出来るかと、想像が膨らみます。

● 赤澤さんにきっかけをいただきましたので、ちょっと長くなりそうですが、EMSの開発の経緯をご説明したいと思 います。

● EMSの製作販売は、天ガの1989年12月号で紹介してもらってからのスタートです。(構想立案、自分用 の製作は、Sky&Telescope誌の1982年11月号(私の最初の自作BINO)からさらに数年前に遡ります。)(発売価格=@ ¥34,800)
  このEMS、『正立ミラーシステム』は、元来単体用であって、ほとんどは単体の右目仕様で供給していました。  その後数年間で、全部で200個くらいは作ったと思います。   ただ、双眼用のペアを作っていたのは最後頃(1992年頃か?)で、極めて少数のペアだと思います。 15組作った かどうか、はっきりとは記憶していません。 実は、6年ほど前に、当時のEMS仕様から現行仕様にリフォームしたお客 さんが、古いEMS(お送りいただいた写真と同じ物)を寄付してくださった物が当方にも1組あります。(下のリンク のテレビ番組に出てくるもの)

●  初期のEMS(正立ミラーシステム)は、その外観から一般にはダイカスト製だと思われていますが、実は鋳造品 ではないのです。^^;   2種類の厚手のアルミアングルと、側面の穴を塞ぐ薄いアルミ板を複雑に組み合わせて作っていました。全てネジ による接合で、ヤスリ等で継ぎ目が分からないようにし、さらにネジの頭はバテで封印してから焼付け塗装をして、 ごまかしていました。^^; 今から思えば、考えられないような手間をかけていました。 工作機械も、当時は旋盤 やフライスは持っておらず、粗末な家庭用ボール盤と卓上丸ノコと手ヤスリだけで仕上げていました。文字通り、命を 削って作っていました。^^;(ボール盤に治具を付けて、フライスの代用にしていましたが、結構危険で、たびた び悲鳴を上げながら使っていました。^^;)
 当時のEMSは、私のテレビ番組の中でも紹介しています。

 売り出し当時、あまりに作業が大変なので、当時親しくしていた某光学の営業の方(数年前に他界されました)に 話したら、本気で検討してくれたのですが、結果は、「全く同じ物を工業的に作るとしたら、原価コストだけで1個 10万円はかかる。」ということでした。そして、これなら量産可能ということで、代わりに作ってくれたサンプルは、 アルミ板金プレス製の粗末な物で、とても受け入れられませんでした。 結局、そのモデルは最後まで私の手作りで 対応しました。

(一部マニアの方が、あたかもマツモトが特許を傘に着て、不当に高い価格で市場を独占していたか のように中傷されることがありますが、現実は全くの逆なのです。私は現在まで一貫して天文マニアや自作マニアを 支援する姿勢を貫いて来たつもりです。)

● 1990年には、特注の三角パイプ (250kg(最小単位)を確保しましたが、さらにそれから数年で、より能率的 な鋳物に移行したので、結果的にはそのほとんどを無駄にしました。^^;) を使用した、2ユニットタイプの2イン チ用の物(汎用ミラーシステム)も並行して作り始めました。

● 1995年には、今とほとんど同じ形状の鋳物(木型)を開始すると同時に初期の1体型のEMS(正立ミラーシステム )と分割型の汎用ミラーシステムの製作を中止し、さらに2001年の秋には鋳物(木型)を中止してダイカストを採用し、今日に至っています。
  三角パイプを採用した段階で、加工の省力化は著しかったのですが、形状にこだわって角を落としたりすると、 三角パイプの側面の蓋のアルミ板の折り曲げや、組み立て、継ぎ目を隠す作業が結構煩雑に感じ、(だんだん贅沢 (横着)になって^^;) 鋳物屋さんに相談し、アルミ鋳物の採用に踏み切ったのです。

 しかし、それでも木型(つまりは砂型)によるアルミ鋳物は、形状が不正確なため、一皮大きく鋳込んでもらった ものを、やはり機械加工で仕上げるわけですから、アルミアングルの組み立て→三角パイプ→アルミ鋳物 と進めて 来た省力化も不十分に感じ、最終形状が最初から得られる究極な物としてのアルミダイカストの導入に踏み切った次 第です。

● ワンボックスタイプを早期に中止したのは、製作の手間がかかり過ぎることが主な理由ですが、BINO用を意識するようになって、 像の倒れの調整がほぼ不可能であることが分かり、また、ダイカストの型を検討する段階で、致命的に非能率な方法と 悟り、完全に見切りました。 つまり、一型数百万円のダイカストの型がたくさん要るのです。受け(ミラーをセット する側)とカバー(望遠鏡接続バレルとアイピーススリーブをセットする側)だけでも2種類ですし、カバーは左右用 で互換性がありませんから2種類の別の型が必要になります。 ご承知のように、現行のEMSの型は一つで右眼、左眼 用に互換可能です。

 アングルを利用する方法に気付いた時点では、合理的な方法と思ったのですが、工業的な方法を自ら学んで行く 過程で、はるかに合理的な方法が他にあることを悟ったわけです。自作マニアのサイトに、最近、今更のようにこの方法 を画期的なものとして提案されていますが、その認識には26年以上のタイムラグがあるわけです。(あと26年経てば 理解できるでしょう。^^;(EMSが単に市販の斜鏡を2枚無加工のまま貼り付けた物ではないことは、当サイトを 注意深く見てくだされば、理解できるはずですが・・・))

衒学者にご注意を
EMSと特許
タイムラグを考える
2007年を振り返って

昨年他界された須田さんのユーザーリポートには、当時の正立ミラーシステムの ロンキーテストの写真が掲載されています。

 いつもながら、くどい説明で失礼いたしました。   初期のEMSを購入してくださったこと、またそのことをご報告くださったことに、深く感謝したします。