Swarovski X95 EMS-BINO

最近のスポッティングスコープの高性能化はめざましいものがあります。これらのスコープの対物レンズ系の高性能化も すごいけれど、アイピース、特にズームアイピースの進歩は本当に凄いものです。なかでもライカのズームレンズはジックリ 使わせていただきましたが、まぁこれなら単焦点アイピースは要らないかもと思わせる像質でした。これほどの高性能のズーム アイピースが出現したらそれに一本化され、さらには接眼部にズームアイピースを組み込むメーカーが出てきても不思議では ありませんでした。それが、Swarovski X シリーズだと思っています。

先日その Swarovski ATX95 で友人と一緒にと昼の景色を見たり、星を見たりしていたのですが、そのよく見えること、 M81/82についてはそのコントラストも含めて驚きました。しかも、このXシリーズの対物ユニットにはフォーカサーも組み込まれ ており、とても軽量にできています。そして松本さんに連絡、相談、そして完成したのが Swarovski X95 双眼望遠鏡です。

コンセプトは「心と体の贅肉をそぎ落とした小型軽量お手軽双眼望遠鏡、ついつい使用頻度が高くなる双眼望遠鏡」でした。 双眼化において対物ユニットとEMSの接続アダプターが一番の難所でした。バヨネットマウントの攻略は難物でしたが、 このマウントを逆手にとってEMS取付角度の再現性が担保されたアダプターが完成しました。詳細は 松本さんのHPを 参照して下さい。これは画期的なアイディアです。

小さくて軽い10cm 級双眼望遠鏡ですが、今一歩の点もあります。まずは光学性能。スポッティングスコープとしての純正 接眼部仕様の場合、焦点内外像はほぼ対称です。しかし純正のプリズムを使用しない場合、焦点内外像は非対称になります。 明らかに負修正、つまりプリズム光路による補正も考慮した設計をしていると言うことでしょう。
問題は球面収差がある程度残った 状態を許容できるのか・・・ということです。私の場合、少なくともこの双眼望遠鏡の限界倍率である158倍は許容範囲と思います。 この倍率で土星を見ると本体の縞やカッシーニの間隙もしっかりとしたコントラストで見えます。これは人それぞれですが、 ハイランダー・プロミナーやミヤウチのフローライト/EDシリーズその他の双眼鏡では高倍率はなかなか得られないし、得られ たとしても左右の光軸の問題があります。SwarovskiX95 双眼では球面収差のわずかな残存はありますが、倍率の自由度は高い し光軸の問題は事実上ありません。私はこの望遠鏡の光学性能は十分及第点をあげられると思っています。なんと言ってもF5.8 ですから。

アイピースの選択。どのようなアイピースでも使えるわけではありません。推奨はテレビュ ーのアイピースになります。しかも視野環の位置が「6mm OUT」のものです。ただし、ナグラーズ ームはダメ。首から下が長すぎる。手持ちのアイピースで比較すると、デロスの像質が一番良いよ うです。でも、いかんせんデカイです・・・。倍率の色収差を考えると今のところナグラー type5: 16mmが私のデフォルトアイピースです。2インチアイピースも使用可能です。上手くいけ ば4.5度程度の実視界が取れます。専用アダプターで無限遠のピントが確保できるアイピースは 確認している中ではEWV32mm、テレビュー・パンオプテック27mm、ライカズーム8.9-17.8mmです。

Swarovski X95 EMS-BINO を星空の下で使ってみました。いつもの南会津のフィールドです。

設営は2,3分。Pelican 1550 caseから本体を出して、Gitzo 2380に載せるだけ。取っ手に等倍ファイン ダーを付ければ、後はキャップを外してアイピースを挿入すればOKです。しかも軽いので、この状態で 一式担いでウロウロできます。
写真三脚はスリックのプロフェッショナルデザインIIを使っています。 これのよいところは重さとエレベーター。エレベーターを調整することで、天球上のどの対象もほぼ同じ 姿勢で見ることができます。本体の全長が短く軽いし、倍率も高いわけではないので、何ら問題はあり ません。
傍らにはK&Mのマイクスタンドに載せたiPad2 があります。これはファインディングチャート用の 星図ソフトを表示させています。これは星仲間のKさんのやり方をマネさせていただきました。ただし、 望遠鏡と星図ソフトのWi-Fi接続はしていません。星をたどって導入する古式ゆかしき方法ですが、 この導入過程が意外に面白いのです。望遠鏡の実視界は2度以上あるので、M天体をはじめとするメジャー どころは瞬時に視野の中に導入することができます。多分光害まみれの空だと無理でしょうね。 これも十分美しい星空と広視界アイピースのおかげです。

組み合わせるアイピースは前述のごとく視野環の位置が「6mm OUT」のテレビュー製が中心です 。星空の下ではいろいろ試してみましたが、Nagler Type5: 16mm (x35@2.4°)がデフォルトでときおり Nagler Type6: 9mm (x61@1.4°)に差し替えるくらいでした。双眼なので惑星もNagler Type6: 7mm (x79@1°)くらいで十分楽しめます。最高倍率は経緯台の操作性も考慮するとNagler Type6: 5mm (x110@0.7°)だと思います。
上記アイピースのいずれをSwarovski X95 EMS- BINOと組み合わせても視野 周辺まで星は「点」です。これは非常に気持ちがいい。もちろん中心像も満足。見つめても、眺めても 楽しめます。「あのアイピースなら星の色がもう少しよくわかるかも・・・」などとも思いますが、 システムとして考えると、この組合せが最適解かもしれません。
今回は2インチを試していませんが、 ライカズーム8.9-17.8mmの場合はx31@2°とx62@1.3°になります(最低倍率と最高倍率しか使いません)。 もしかしたらこれが最小のセットかもしれません。

Swarovski X95 EMS-BINO の実際の見え味はどうであったか?バカバカしいくらいによく見えました。 視野一杯の星像も美しいし、抜けもいいし、これといった欠点が見つかりません。

M13、M3、M22、M11はザラザラではなくツブツブです。コントラストが高く星像が小さいので本当に 美しい。

M8、M20は圧感でした。特にM8は立体感のある微光星の集簇を取り巻くように星間ガスの存在が認識され ます。高コントラストと双眼視がなせる技なのでしょう。まるでKトレーディングの宣伝文句のようですが、 そうなんです。

M27は「亜鈴」ではなく「ラグビーボールです」出っ張った部分の濃淡がよくわかります。

M81、M82もいい感じ。M82の複雑な濃淡がおもしろい。M51は伴星雲に腕が伸びているのがわかります。

そしてはくちょう座の網状星雲。フィルターなしでハッキリと認識される。特に東側の星雲はまさに 「横顔」です。これには驚きました。

実際の星空を覗いた感想ですが、このBINOの特徴は抜けと高コントラストかもしれません。Swarovski の レンズコーティングとEMS ミラーの銀コーティングとの相乗効果でしょう。この美しい視野の星々を眺めて いると多少の球面収差や色収差の残存はもうどうでもいいことだと再認識しました。

Swarovski X95 EMS-BINO は小型軽量による易運用性、十分な集光力、短焦点による広視野、そして美しい星像、 これらが高次元でバランスされたすばらしい双眼望遠鏡でした。おそらく10cm 級の双眼望遠鏡では最高傑作だと 思います。やっと「青い鳥」を見つけたのかもしれません。最後にこの双眼望遠鏡の具現化に多大なる御尽力を いただいた松本さんに深謝申し上げたいと思います。

黒木嘉典 (Kuroki Yoshifumi)
栃木県宇都宮市

管理者のコメント;

This binoscope is definetly the advent of the new concept of the EMS-BINOSCOPE in that it is an ideal combination of the Objective Unit of a Spotting Scope(SWAROVSKI X95) and the EMS.
I must give Mr.Kuroki, who had the foresight of the marvelous results and the courage to take it into practice, my biggest applaud.
You can see my processing reports in the link quoted below.
Binoscope Making Report,dated 4/27,28; 5/2,15,16,25,31; 6/2.

BINO製作情報速報で何度かご紹介しておりました、SWAROVSKI X95-BINO について、黒木さんよりさっそく詳細なユーザーリポートを いただきました。 今回までにご報告いただいている内容も含めた集大成とも言える、価値あるリポートです。  ご計画の動機から実際に使用されたご感想まで、非常に懇切におまとめいただきました。

筆者の今日までのEMS-BINOや広範なご自作経験を含めた各種光学機器とのかかわりの深さが、今回のリポートの説得力を高めています。   趣味の世界では、マニアは独自の一面的な 判断に陥り易いものですが、筆者は対極の選択肢も知り尽くした上で今回の選択をされたことが、本文からも、 また過去のリポートからも分かります。

スポッティングスコープは純粋に光学的に見れば、天体観望に特に適した光学系でないことは、黒木さんも本文でご指摘の通りですが、 その生産台数の桁違いの多さからか、工業製品としての成熟度は一般的に言って天体望遠鏡よりも格段に高いということが言えると思います。 その成熟度とは、軽量さ、コンパクトさ、また使い勝手、メカとして、また光学的な性能や外見の美観までを含めた総合的なものを指します。 そして、ごく最近になって SWAROVSKI とごく一部のメーカーがユニット分割構造のスポッティングスコープを生産し始め、EMS-BINOへの利用が 可能になったということです。

今回の黒木さんの革新的な挑戦の成功が、天体望遠鏡業界の今後の製品開発に何らかの好影響を与えることを願っています。 スポッティングスコープよりもシンプルな光学系の天体望遠鏡が、現行のスポッティングスコープのような 軽量化、コンパクト化、そしてモデュール化を達成できないはずはない、と私は考えます。 天体望遠鏡業界では 、唯一BORG(トミーテック)だけが、かなり以前より各部パーツのモデュール化や軽量化の先駆けを成してはいるものの、私に言わせれば、 まだまだ「天体望遠鏡」としてのステレオタイプの範疇からは脱却していず、今後の開発に期待したいと思います。

なぜスポッティングスコープはあんなに” Cool”、格好よいのか? 天体望遠鏡の生産台数では、あの流線型の鏡筒ラインはコスト的に 本当に無理なのか?等々、天体望遠鏡業界も真剣に考えるべき時期に来ているのではないでしょうか。
ステレオタイプや面子は合理的な思考を破綻させます。先端の客観データをいくら示されても、未だに銀蒸着へのアレルギーが治癒しないことや、 アイピースのピント位置の統一が出来ない天体望遠鏡業界の現状を見ると、悲観的になってしまいますが、早く目を開いて欲しいものです。

黒木さん、この度はまたタイムリーに素晴らしいリポートををご投稿くださり、本当にありがとうございました。 他の件も含めまして、追加リポートがございましたら、 またよろしくお願いいたします。

追記: ななつがたけ北天文台の”天文台日記”にもリポートを投稿されていますので、こちらもご参照ください。

2013年6月9日
2013年6月5日
2013年6月3日

追記2: SWAROVSKI-X95-BINOの製作記は、
当サイトのBINO製作情報速報の、 2013年、4月/27,28; 5月/2,15,16,25,31;
6月/2 に掲載しています。

TOA150-BINO completed!! / TOA150-BINO 完成!!

TOA150-BINO is completed. It will be the advent of the next stage of EMS-Binoscope making.

難産でしたが、やっと完成しました。 この度はいろんな面で良い勉強をさせていただきました。今後のBINO作りに役立てさせていただきたいと思っています。

今回は搭載重量の制限が厳しかったので、架台はほぼ無改造の方針で臨みました。 そのため、BINO本体は水平回転軸の真上ではなく、少しだけ右に寄っています。 左のウェイト軸ホルダーにスペーサーを噛ませているのは、そのためで、三脚とウェイトが干渉しないようにしたものです。これは当方での架台の動作チェックのためで、納品時にはスペーサーは撤去します。(納品先ではピラーになるので、スペーサーは不要)

架台のメンテ等で、鏡筒を下ろす必要が生じた場合は、鏡筒を1本ずつ抜き取ります。 もちろん、先にEMSや合焦機構、さらに鏡筒末端のフランジを撤去しておかないといけません。 バンドの内面にはテフロンテープを貼っていますので、コツさえ覚えれば、鏡筒の抜き取りも前後バランスの初期調整も比較的楽です。 フレームの精度剛性は十分なので、光軸の再現性は万全です。

 

(同日追記) 今回のセンターフォーカス・システムで、左右の視度に差がある場合にどう対処するかについて、どちらからもご質問がないので、先回りしてご説明します。^^; 結論から申しますと、目幅調整用のヘリコイドを用います。 通常の眼幅調整は、リンク画像のように、左右同時対称的にヘリコイドの転輪を回します。 次に、右眼の近視が強い(遠視が弱い)不同視の方は先ほどの作業に続けて、左右のヘリコイドを今度はそれぞれ反時計回り(同方向)に同量回します。(←同量回すことで、目幅の変化を相殺します。) 左の近視が強ければ、当然その逆に回します。

「そんなことをしたら左右のアイピースの高さがずれてしまいます。」・・と、おっしゃいますか? それでは、私からの質問です。 「市販の90度対空双眼鏡では、左右の視度をどう補っているでしょう?」お分かりでしょうか。 市販の双眼鏡も(直視、対空に限らず)、アイピースを前後(上下)させて合焦させています。 つまり、不同視(左右の屈折度が違う方のことで、視力の差は無関係です。)の方は程度の差こそあれ、左右のアイピースに段差が付いた状態で双眼鏡を覗きますが、眼鏡で補正出来る程度の不同視なら、全く問題なく覗けることはご承知の通りです。

しかも、(ここからが極めて重要なところ^^;)EMSの場合は、目幅ヘリコイドの軸(つまり第1反射光線)がアイピースの光軸と60度の角度を持つため、同量の不同視で生じる 左右のアイピースの段差は、同軸のヘリコイドで補正する市販の双眼鏡の1/2にしかなりません。(cos60°=1/2)(つまり、不同視補正時のアイピースの段差は通常の双眼鏡の1/2しか生じないということです。)

この方法は、左右の視度差を先に補正してしまい、最後は双眼視のままピントを追い込むというものですが、どうしても片眼をつぶりながらダイレクトに合焦操作をしないと気が済まない方もおられるかも分かりません。 しかし、それは単なる習慣であり、むしろ、単眼視での合焦操作は、眼の調節が入りやすく、どうしても近視寄りのピントになり勝ちです。 実際、検眼(屈折度測定(視力検査ではありません))に於いても、最後には両眼開放で行った方が調節の介入が起こりにくいことが分かっています。

CAPRI 102ED-BINO completed ! / CAPRI 102ED-BINO 完成

The difficult project is completed. Please note that 10cm-F7 binoscope is successfully loaded on the Nexstar SE Mount of the limited fork length for the zenith viewing. IPD adjustment is a bit hard but it is a trade-off for the simple structure.

CAPRI 102ED-BINOがようやく完成しました。 最近のCAPRI102ED鏡筒はバックフォーカスが長くなっている(BINOの素材としては歓迎すべき傾向)ことは承知していましたが、予想以上にフォーカスが余り、天頂時のフォークアームのクリアランスがさらに厳しくなりました。 どたんばで慌てましたが、急遽製作したカウンターウェイトシステムが功を奏しました。(ウェイトシステムは、鏡筒前後のバランス調整の他、BINO本体がフォークアームを時計回りにねじろうとするモーメントを多少キャンセルする効果も期待できます。(地上風景観察時及びHF経緯台に搭載時には、BINOを手前に引くことができるため、ウェイトシステムは不要です。))

多少心配していた、初めての”スタビライザーシャフト”は全く問題ないどころか、初期調整に極めて有効な機構だと分かり、今後も軽量化の手段として採用する予定です。

片持ちであることと、メガネプレートをバランス調整のために敢えて全体の重心から外したこと、また、10cm鏡筒の重量の予想以上のインパクトにより、目幅調整が渋くなりましたが、Nexstar架台に10cm-BINOを載せるためのTrade-Off、ということでご理解いただけましたら幸いです。

初作ですので、課題はいろいろと見付かるとは思いますが、本来ならNexstar マウントの搭載限度を越えるBINOを何とか搭載するための、一つの解をお示しできたのではないかと思っています。 BINO本体底部にもアリガタがセットできますので、HF経緯台やビデオ三脚等と、その日の使用目的に応じて架台の使い分けをしていただくのも良いかと思います。

CT152-BINO

Canadian Telescopes – 152mm F5.9 Air Spaced Achromat Refractor を使った双眼望遠鏡を製作しましたのでレポートします。

【経緯】

今年2月Megrez90-binoを製作していただきました。使ってみるとEMSの調整が煩わしいもので無いことが分かり、もっと大きな口径で双眼で見てみたいと強く思いました。そんな折り海外のショップのサイトを見ていると150LDに似た15cmのアクロマート鏡筒が1本10万以下で購入できることが分かり、思い切って2本カナダより輸入してみました。(中国United OpticsのOEM製品)到着後、土星を見たところXL7mm(129倍)で色収差も気にならず、シャープに見えたのと鏡筒の造りもいいので、これならEMSを投資する価値がありそうなので早速松本さんに発注しました。

架台は中軸架台が合理的でいいなと思っていましたが、依頼時はエンコーダ内蔵の新型の中軸架台を開発中ということだったので、待ちきれずオーソドックスなフォーク式架台を別途架台メーカーに製作していただきました。

【BINOの仕様】

・ 15cmのアクロマート(D=152mm、f=900mm、F=5.9)

・ EMSはEMS-UXL目幅ヘリコイド仕様

・ 鏡筒左右分割式でアリガタ、アリミゾ固定方式(1本ずつ運搬可能なこと)

・ 当初は鏡筒間隔220mm(フード外形200mm)でアイフォーカサーで進める計画でしたが、鏡筒を松本さんへ送付したところオリジナルの3インチデュアルフォカサーを生かすことに方針変更し、鏡筒間隔204mmということで各部の改造をすることにしました。(フォーク架台台座の鏡筒間隔204mmへの改造の他、鏡筒の平行調整機構の追加改造も松本さんにお願いしました。)

・ 操作ハンドルはMegrez90- bino同様のバランスウェイト付きのもの

・ フォーク架台はAPM152-binoのものを参考にしました。ユーハン工業のT-MOUNTの可動部を流用し微動付きにしようかとも考えましたが横幅がさらに大きくなってしまうのでシンプルなフリーストップ式としました。高度軸は左右ダブルクランプとして組立時のアンバランスな時も強力にロックできるようにしました。また水平出しは重要なので水準器をフォーク架台に内蔵としました。(架台の設計においても松本さんに数々のアドバイスをいただきました。)

【製作結果】

・ 架台の方が先に完成しました。専業メーカーだけあって素晴らしい仕上がりです。最初は自分の設計が悪くフルレンジでフリーストップになりませんでしたが、耳軸の高さを可変式にして設定をやり直したところ水平から天頂までフリーストップを実現しました。但しフォーク幅60cmで架台重量が13kgあり、架台を三脚に乗せるときは中軸架台がよかったかなと思ってしまいます。もっとも中軸にすると鏡筒間隔が広くなるのでフォーカサーを生かすには鏡筒切断が必要となるので一長一短だと理解しています。

・ 鳥取より戻った鏡筒を見ますと見事に接眼部が短縮され、鏡筒間隔も204mmにセットできるように鏡筒バンドが加工されていました。またフォーカスの操作ハンドル、ファインダー台座も左右対称にセットされていました。(長年のbino製作経験のノウハウを投入していただきました。)またフォーカサーも再調整していただき快適です。(天頂に向けてもずれません。)

鏡筒間隔短縮により心配した鏡筒のセットですが、さほど注意しなくてもフィールドでセットできました。
・ 心配していた左右の鏡筒の初期平行調整は松本さんにX-Y調整機構をアリミゾに細工していただいたので鏡筒をセットしたまま簡単にできました。また鏡筒着脱による光軸の再現性も問題ないようです。

・ 操作ハンドルは鏡筒の重量の割には剛性不足を感じますがバランスが合っていれば問題なく、バランスウェイトの操作性も良いです。

・ 鏡筒は1本約10.3kgファインダーアイピースをセットして総重量は50kgとなりました。
(GMT-128ステンレス三脚+ハーフピラー使用時)
寸胴な鏡筒ですがbinoにするとなかなかの外観に仕上がりました。

【使用アイピース・ファインダーについて】

アイピース  見かけ視界    倍率    実視界  射出瞳径
EWV32mm   85度    28倍    3.0度   5.4mm
Nagler22mm  82度    41倍    2.0度   3.7mm
XW10mm    70度    90倍    0.78度   1.7mm
XL7mm     65度    129倍    0.51度   1.2mm
ファインダーはとりあえずクィックファインダーと補助に笠井正立直角ファインダー併用しています。

【観望インプレッション】

栃木県の八方ヶ原と群馬県の赤城山へ遠征してきました。(Megrez90- binoも同伴)
両日共白鳥付近の天の川、2重星団はなんとか見える透明度。

観望したのは
M1,M2,M13,M92,M11,M27,M57,M15,M31,M32,M33,M110,M39,M29,
M34,M35,M36,M37,M38,M41,M50,M42,M43,M78,M79,M52,
NGC253&NGC288,NGC7789,M81&82,M46&M47,M97&108、
網状,2重星団,ET星団,らせん,北アメリカ, すばる、ばら、
X’masツリー、プレセペ、ハーゲンローザー彗星など

印象に残ったのは、一般的ですが、

M31:視野いっぱいに広がり同視野にM32,M110が入り絶景。(41x)
網状星雲:いの字がはっきり明るく見えました。光量があるので背景の恒星も見えます。(28x OⅢ使用)
M42:ガスの様子がノーフィルターでもコントラストよく見えました。(90x)
らせん星雲:光量があるので濃かったです。(28x OⅢ使用)
M81&82:星野の中に銀河がぽっかり浮かんで絶景(41x)
NGC253&NGC288:南の低空の銀河と球状星団のペアですがはっきり見えました。(41x)

以上のように散光星雲、銀河は口径がものをいいMegrezでは見られない光景でした。
散開星団に関しては15cmは星数は増えますが星像のシャープ感でMegrezの方が好みです。
光害のある自宅では月、木星を見たところ短焦点アクロマートなので当然ですが青ハロが気になりました。2重星観望に於いても主星が明るいと星像が大きくなって美しくありません。こっちの方は口径が小さいですがアポクロマートのMegrezの方が色収差が無く星像も小さいので棲み分けできそうです。

【最後に】

10年位前月天巻末の笠井トレーディングの広告に載っていた頃から憧れていた15cmbinoをようやく所有することができました。費用、重量の点から自分では所有するものでないと考えていましたが安価なアクロマート鏡筒を左右分割セット式にしたことにより今回実現できました。(自分が知らなかっただけですが・・・)

最近みなさんアポ鏡筒で製作されるようですがリッチフィールドで散光星雲、銀河を楽しむなら安価な大口径アクロマートで十分かと思います。ただ1台ということなら8~9cmのアポが自宅での気軽な星見と遠征でのDSO 観望といつでも気軽に楽しめると思います。

製作に当たり数々のアイデアを投入してリスクのある難加工をしていただいた松本さんに感謝いたします。また架台を製作していただいた京都のユーハン工業、アリミゾを供給していただいた福島のコスモ工房、部品追加加工をお願いした埼玉の遊馬製作所に感謝いたします。

埼玉県 Y

管理者のコメント;

Yさん、Megrez90-BINO、BORG76ED-BINOに続けてCT152-BINOのご成功、おめでとうございます。

経験を活かされて、個人輸入を含め、各パーツを上手に入手、コーディネートされ、立派な15cmBINOを実現されました。
この鏡筒は国内で販売されていた時には、セミアポと紹介されていましたが、どうやらセミアポという概念は日本独自のようで、国際的にはアクロマートとアポクロマートだけの区分けが一般的のようです。(間違っていたらご指摘ください。) 一般的な2枚玉の短焦点アクロマートよりも性能が良いという意味で、国内的な表現ではセミアポと紹介されたのだと思いますが、OEM元のWEB広告には、アクロマートの分類となっています。 この鏡筒は、対物セルから伸縮フード、またフォーカサーも重厚で、鏡筒径も太いために 一般的な意味ではBINOの素材としては、扱いにくい部類に属します。 しかし、鏡筒を単体で管理運用する前提ですと、さほど運搬困難というわけではありません。
鏡筒径が太いということは、重量が重くなることもありますが、鏡筒間隔が大きくなることが、BINOの素材として の懸念材料となります。 しかし、鏡筒バンドを極限までトリミングすることで、鏡筒間隔を204㎜まで詰めることが 出来ました。 今回は当方の都合もあって、EMSのみをご提供する予定でしたので、BINOの構成については、 最初はほとんどアドバイスを差し上げられず、Yさんを大回りさせてしまい、申し訳なかったと思っています。

架台のバランスについて当初苦労されたようですが、ご指摘のように、(鏡筒を水平にした時の)天地方向の バランスが極めて重要だということです。 具体的には、耳軸の高さですが、安易に鏡筒の中心高にセット するのではなく、BINOの規模に応じていくらか高くセットする必要があります。 この耳軸のシフト量は、BINOの 規模が大きいほど少量で足り、このクラスであれば、10mm以下で間に合ったはずです。 想定される重量級 のアイピースや、ファインダー類のモーメントを相殺すれば良いわけです。 BINOの規模が大きいほど、慣性も 大きいので、フルストロークの完全バランスはよりた易く達成できます。 (この点を全く逆に誤解しておられる方が多いです。)

本文でも指摘しておられますが、DeepSkyの観望でしたら、アクロマートであることのデメリットは全くないと 言っても過言ではありません。 「最高級品を持つ喜び」というのも分かりますが、BINOは星を観る道具ですから、 “Best or Nothing” ではなく、アクロマートのBINOにつきましても、もう一度目を向けていただきたいものだと思います。 私に言わせれば、このCT152鏡筒でさえDeepSky用BINOには過剰なくらいで、2枚玉の15cmF5のアクロマートでも十分だと思っています。 鏡筒単体管理であれば、18cmクラスのBINOでも運用に苦労することはないはずで、 うまく分割すれば、20cm超でも常用できると考えています。 去年の双望会では、BIG-BINO(25cm)の組み立てに 立会いましたが、大口径ドブの組み立てと大差ないと感じたものです。  アクロマート大口径BINOに再び光が当たりますように・・・^^。

最後に、短期間に3台のBINOを作り上げられたYさんの情熱と技量に敬意を表します。
当BINO関連の製作記は、製作情報速報の 2012年8月23日、28日、9月26日-2 に掲載しています。

Bino Checker 2

 以前、Bino Checkerを入手しましたが、何かと活躍しています。調整の時、原点に復帰できる、という安心感は絶大です。この度、もう一つ、別なアプローチで双眼望遠鏡の光軸をチェックできる、Bino Checker 2を入手したので、ご報告します。

原理は、アメリカン・サイズのバレルの一端を双眼装置に入れ、もう一端を双眼望遠鏡に入れて2”側から覗き、光軸が合っているかどうか、一発で判明する、というもの。コロンブスの卵ですね!。

  APM-BinoとEMS超広角対空双眼鏡で実際に覗いてチェックしてみました。そのまま覗くよりは、ルーペで拡大した方が見え易いです。私が持っているルーペで丁度良かったのは、NEAFでゲットした景品(フルネル型)でした。

 光軸調整ノブをいじると像がダブって見え、光軸が合うと、像はピタリと一致し、スカッと見えます。その瞬間は、快感ですね。一目瞭然で光軸がチェックできますから、とても便利です。
横浜市 Y.K.
Y.K.さんのサイト

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 YKさん、PST-BINOのダブルスタック用アダプターに引き続き、 またタイムリーなリポートをいただき、誠にありがとうございました。 今回も非常に分かりやすく ご紹介くださり、付け加えることがないくらいです。

 先に発売いたしました、BINO-CHECKERは 、単体で機能する物ですが、今回は、双眼装置に取り付けて、 双眼装置自体をBINOチェッカーとして使用するためのアダプターです。

 光軸が狂っていない双眼装置を所有しているのが前提になりますが、このアダプターを使用しますと、 左右の像をタイムラグなしに同時に観察できますので、天体のように、動いている対象に対しても実行 することが出来ます。 ただ、像は覗き口の奥の眼にかなり近い距離(20㎝程度?;アイピースを代用するには遠すぎ)に結像しますので、像を観察するには、ごく若い方を除くと、ルーペや度の強い老眼鏡等を用いる必要があります。( 比較的強度の近視の方は、メガネを外すという奥の手があります。)

 目下、このアダプターの発売に向けて準備を進めておりますので、整い次第にこのサイトでご報告いたします。

 このアダプターの製作記は、製作情報速報の9月25日に掲載しています。

P.S.T.ダブル・スタック双眼用アダプター / “Double stacked PST-BINO “ 

 P.S.T.を双眼化して楽しんでいましたが、この度、松本さんにアダプターを製作してもらい、ダブル・スタックでの双眼化に成功したのでご報告します。

 詳細は、私のsiteのここをご覧いただきたいのですが、ダブル・スタックにすると、太陽表面のコントラストが一段とアップし、Hα像の別な一面が覗けますので、チャレンジした訳です。ただ、ダブル・スタックにすると、太陽表面のコントラストがアップする反面、プロミネンスは見えにくくなってきます。ですから、シングルよりダブルが上、という事ではなく、何を見るか、でどちらを選ぶか、だと思います。
  ダブル・スタック・ユニットの直径は73mmなので、このままでは双眼にはなりません。そこで、鏡筒に延長筒・アタッチメントを装着してダブル・スタック・ユニットを段違いにし、双眼を可能にした訳です。

 松本さんの凄いところは、こういったアイディアがポン、と出るだけでなく、左側の鏡筒にも短いアタッチメントを装着して、きちんとクリアランスを取り、眼幅60mmですら双眼可能になっている事、そして、ネジ込みの回転位置まで考慮して干渉を避けている事、内径はきちんと42mm確保されている事、鏡筒へのねじ込み、ダブル・スタック・アタッチメントのねじ込みの工作制度のすばらしさ(本来のオリジナルは、もっと粗雑)です。つまり、これ以外に無い、という正解が、そのまま製品になっている点が驚きです。

 アタッチメントを装着する事で、鏡筒の対物レンズとダブル・スタック・ユニットの距離が離れてしまいますが、その影響は無く、ダーク・フィラメントが浮き出て見え、また、太陽表面のウズの表情は豊かです。ただ、シングル・スタックだとプロミネンスが派手に飛び散っているのがわかるので、まずはシングルで見て、次にダブルで見るのが良いようです。

 太陽は、日々変化し、本当に面白いです。松本さんのお陰で、また別のHα像を双眼で楽しめるようになり、こんな嬉しい事はありません。どうもありがとうございました。
横浜市 Y.K.
Y.K.さんのサイト

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 いつもながら、YKさんが神速のレポートをくださいました。 YKさんは、機材その物に対する思い入れも 強くお持ちなのと同時に、その機材をしっかりと活かされるので、製作者にとっては非常に やり甲斐のある依頼者さんです。

  ご自身のサイトにも書いておられますが、このアダプターの製作は2回目でしたので、新たに設計する 必要はなく、比較的速やかに加工できました。 ただ、長い方のアダプターは、糸巻きリール状の形状なので、加工はやや面倒な 部類に属します。 段差加工自体は、旋盤の真骨頂であり、何でもないことですが、下がって、また上がる加工があると、 バイトの向きを途中で交換(バイト自体も)しないといけず、右勝手仕上げと左勝手仕上げの境目で段差が付かないように配慮しないと いけません。 これは大した技術ではないのですが、単純な段差加工よりは神経を使うわけです。^^;
 短い方のアダプターは、万一噛み付いてしまった時に強くねじる必要がありますので、ローレット加工をしておきました。 このローレット加工も、実は結構時間がかかります。

 このアダプターの意義と効果は、YKさんが十分に代弁してくださっていますので、今回は加工の裏事情を書かせていただきました。 ご自身のサイトでは、左右の眼の視感度の違いにも言及しておられますが、これは単眼で観察している方はまず気付かない ことだと思います。 YKさんのサイトの記事も合わせてお読みいただくことをお勧めします。

 YKさん、今回も非常にタイムリーにご投稿くださいまして、誠にありがとうございました。

Please read my making report of “September 26th in 2012”, too.

“Most of the Solar Fan must have abandoned to make the PST-Binoscope to be double stacked, because of the IPD problem. I will show you the good solution now. Photos above will explain how I had solved the problem. Even my wife of 60mm IPD exclaimed with joy at the beautiful prominences and the details of the Sun, this morning.”

EMS-BINOは日食観察にも圧倒的・・! / Overwhelming vantage of the EMS for observing eclipse

 先日の金環日食、当地は金環帯から外れておりましたので、長野県の 中部 野辺山高原に遠征してきました。

 EMSbinoとLX200経緯台の食観測に対する圧倒的な優位性は ここでも証明されました。 太陽は600mm程度の焦点距離で一眼レフで撮影するのはさして難しいことでは ありませんし、通常の三脚でも可能ですが、快適に、となると状況は 一変します。

 EMSbinoの片側をカメラ、もう一方を眼視としてアライメントセット済みの LX200で追尾した場合、それこそ撮影も観望も鼻歌交じりで出来るほど 簡単で、しかも右側EMSのミラーシフトノブは、微妙に差異がある左右鏡筒の 方向の違いを瞬時に調整でき、常にカメラの撮像面の中心に太陽を 捕らえながらかつ眼視アイピースの中心にも太陽が置くことが出来ました。

 この使い勝手のよさはおそらく小型ドイツ式赤道儀で、かつEMSが 無いシステムを使用されている方には実感が沸かないかもしれません 。勿論ドイツ式赤道儀は極軸を中心として回転するシンプルで堅牢 な機構故、長時間露光の写真撮影では優れた能力を発揮しますが、 楽な姿勢での観望と短時間露光の連続コマ撮影を臨機応変に同時進行 させることが必要な食観測では、EMSシステム+自動追尾式経緯台 に明らかな優位性があります。

 ただ、観望地は地面の土が軟らかく、カメラのシャッタを切るたびに同架したビ デオに微振動が伝わってしまったこと、また隣で動作させていたGOTOのマーク X ベースモデルの電源を入れるのを忘れて明後日の方向を向いていたことなど事前 調査不足と初歩的ミスもありました。
 またビデオ、スチールともに手元にあったレンズでは少し拡大率が 足らず、ベーリービーズがわずかしか写らなかったことや、 最初計画していた、大きく露出オーバーになることを覚悟の上で撮影して 欠け際でプロミネンスが写るかどうかの検証も結局はしなかったこと など、反省もあります。

 ただ、総じてEMS とLX200のお陰で、相当に楽な(その分観望と撮影に 集中できる) 観測をすることができました。

 出来はぱっとしませんが、撮影した写真、そして動画を掲載しました。 お時間の許す折、もしよろしければごらんください。
http://sky.geocities.jp/usagitohoshi/annular-eclipse2012/eclipse2012.htm

Osawa

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 このコーナーに今までに3度ご投稿いただいている大沢さんが、愛用のFC76-BINO on LX200で5月21日の金環日食を満喫されました。

 静止画も動画も大変素晴らしいですが、会心作ではない由、より高みを目指しておられると理解しました。 

 柔らかい土の上にセットされたとのことですが、動画を拝見し、LX200の追尾性能はなかなかのものだと思いました。 フォーク式の経緯台は、BINOの架台として、安定性、操作性とも、理想的なものですが、自動追尾(かつ導入)の機能が付けば、鬼に金棒で、今回のような日食や惑星 観測等、圧倒的な効果を発揮すると思います。

 フォークタイプではありませんが、同じミードから、LX80という、ドイツ式とタワー型経緯台兼用のGOTO架台が非常にリーズナブルな価格で発売され、徐々に評価の高いレビューが出始めていますが、私も今、この手の架台に注目しています。 2台のBINOを両サイドに搭載する等、構想を練っています。

 大沢さんの写真は、天体に限らず、非常に美しいので、サイトの方も参照してみられることをお勧めします。 

 大沢さん、今回も非常に価値の高いリポートをまとめてくださいまして、誠にありがとうございました。 6月6日の金星の太陽面通過も、観察できましたら、ぜひよろしくお願いいたします。

Osawaさんのサイト

大沢さんの過去のリポート
FC76-BINO on LX-200
日食観測
EMSbino120L

BORG76ED-BINO

 今年2月Megrez90-BINOを製作していただきました。それのEMSを兼用してより軽量なBINOを試作してみましたので紹介させていただきます。

【経緯】
2年前にシュミカセ(C11)を購入し、このファインダーとしてBORG100アクロ(EWV32 20倍4.1°)を同架していました。これだと導入したい対象がほとんど確認できてしまうので導入が非常に簡単になりました。そしてこのファインダーをいつかは対空双眼鏡に置き換えたいと常々思っていました。 Megrez90-BINO製作時はC11にEMS-bino同架することは考えていなかったのですが、黒木様のBORG71FL双眼望遠鏡 プロトタイプ(自作)のユーザレポートを読ませていただき、これならC11に同架できるかもしれないと直感し、松本様に相談しながら2本鏡筒を並べて試作してみました。

【BINOの仕様】
・ 重量5kg以下
・ 片持ちのL型プレートで保持
・ EMSはMegrez90のものを兼用(EMS-L目幅ヘリコイド仕様)
・ 鏡筒は10cm単眼の光量となるよう7cmクラスのアクロマート
・ 視野はファインダーの導入機能として4°程度、倍率は散開の鑑賞に最適な20倍程度 

【試作結果】
・ 鏡筒はSYNTA やBOSMAの安価な8cmアクロマートを検討したのですが、鏡筒の切断や接眼部の交換が必要でそれらを2本用意する費用を考えると手持ちのBORG76ED に1本新たに中古鏡筒を探して購入することにしました。(この入手が一番苦労した点です。)

・ 鏡筒の構成は76EDレンズ【7800】【7801】【7507】【7508】と最新の軽量のヘリコイドLⅡを採用しました。BORGはパーツを揃えると高めですが、軽量で鏡筒長がパーツで調整可能なのでbinoの素材としてはうってつけです。

・ 製作に関してはL型のアルミプレートを製作依頼しました。
・ 鏡筒の平行調整は遠くの鉄塔を見ながら行いました。
・ 組立したところ重量はアイピースを除いて4.8kgでMegrez90の約半分の重さで片手で楽に持てます。

・ 作動感は試しにポルタ経緯台に搭載したところちょっと水平回転が重い感じでした。C11を搭載しているT-Mount改ではバランスをとると水平15°位から天頂までフリーストップで動きます。また水平回転も左右の重量バランスがとれて軽快に動きます。

・ 視野はEWV32mmで16倍 5.4°瞳4.9mm、アメリカンサイズのSW24.5mmで20倍 3.3°瞳3.6mmとなりました。

【実視結果】
 先日2回目の遠征でようやく実視できました。場所はホームの赤城山です。 さそりが南中し夏の天の川がなんとか見える当地としてはまずまずのコンデション。 アンタレスでファインダーの光軸合わせをしながらbinoを見るとM4が見えたのでそのまま主砲C11でM4を確認。球状星団はやはりC11には敵いません。 先に沈みかけている春のディースカイをチェック。M81,82ペア、M51、M101、M3、M65,66ペアを確認。 その後南に戻りM6,M7を導入。散開はbinoでないと入りきりません。とてもシャープに見えます。 そして夏の銀座M8,M22,M17と射手座からM11方向へ散策。さらに上っていくとコートハンガーが入ってきました。binoでは余裕で入るのでかわいらしく見えます。 M8などはbinoで星野の中で見ても主砲で拡大してみてもきれいに見えました。 M57もこの倍率ですがbinoでなんとか確認できました。そしてM27も容易に確認できます。網状星雲は見つけられませんでした(フィルタ無では無理?)。見忘れたM5を見て後ろをみるとカシオペアが上がってきたのでET星団を見て最後に天頂にあって後回しにしていたM13を見て薄明を迎え本日終了。 導入対象の見え方に関しては比較している空のコンデションが違うのですが単眼の100mmアクロに比べて双眼の76mmアポは互角以上と思われます。 このbinoは計画通り導入及び散開星団の鑑賞と活躍してくれました。

【課題】
・ ヘリコイドの作動ですがEMSと2“アイピースでは作動が重く、フロントで使わないと厳しいものがあります。まあ途中アイピースは交換しないのでよしとすることにします。

・ 構造がアルミプレートに鏡筒バンドをただ乗せただけなので光軸が自宅で調整した状態と少しずれたようなので保持方法を改善していきたいと思います。

【最後に】
 長年イメージしていたシュミカセ+対空双眼のシステムが具現化できとりあえず嬉しくて報告させていただきました。口径からするとC11が主砲ですが大きな対象に対しては広視界の76ED-binoが主砲となります。まだまだ気づいていない問題があると思いますが徐々に改善していきたいと思います。
 また76EDbino単体での軽量・分割性を生かして、海外遠征に持参し昼間は片側で日食の撮影と片側で観望、夜は双眼観望鏡として南天の観望などと夢を膨らませております。
 EMS歴3ヶ月の素人ですがEMSと市販品のパーツを組み合わせで高性能な双眼望遠鏡ができてしまうのですから、EMSをここまで進化させてきた松本さんに改めて感謝いたします。 またユーザーレポートを書いてくださった黒木様にも感謝いたします。

埼玉県 Y 

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 Yさん、Megrez90-BINOに続き、 BORG76ED-BINOのご成功、おめでとうございます。

 まずは、某業者さんによるTマウントの改造が見事ですね。  改造後の形式は、常に重心が水平回転軸上にあるので、力学的に有利で、経緯台として 高性能が期待できますね。 鏡筒の下に干渉物が無いことによる開放感も捨てがたいですね。
 片側にバランスウェイトでなく、BINOをセットされた点が良いですねえ。 実に無駄がありません。 (左右共BINOになるともっと良いのですが^^;。)
 ところで、こうしたセッティングでは、左右の光学系の 光軸が完璧に合致していると、楽しさも倍増し、そうでないと半減するのですが、Yさんに お聞きしたところ、垂直方向はアリ溝と架台の取り付けのバカ穴の範囲で、水平方向は BINO側の鏡筒バンドの取り付け部で調整されているそうで、さすがです。

 この手のT型架台で私が今非常に注目しているのが、やっと供給され始めたMEADEのLX80です。 自動導入のGOTO架台ですが、非常にしっかりしているようで、搭載可能重量が桁外れです。 4月28日~29日にニューヨークで開催された望遠鏡フェア(NEAF)では、米国の代理店さんが125SD-BINOを LX80に搭載して展示されました。 この段階では、まだ実際のフィールドではチェックできていませんが、近日中にこの架台の最終的な評価が得られる予定です。( 以下のYOUTUBEの後後半にちらっと登場します。)
NEAF10分間ツアー

2014年5月4日追記 掲載時とのタイムラグにより、LX80架台に対する評価が今では変わっていますので、責任上、 現状を追記させていただきます。
 まず、掲載時は極端な円高とあいまって、LX80架台の非常に高いコスト/パーフォーマンスに注目したのですが、現在では円安が固定して値上がりしたこと により、価格的な魅力は半減してしまいました。

 次に、電子系統が脆弱(過電圧に対する保護回路が不十分か?)のようで、端子の差し間違いで一瞬で回路がパンクする等の問題が確認 されています。こうした開発初期のトラブルは一般的に珍しくないのですが、メーカーの修理対応に月単位、年単位の時間がかかることの 方が問題で、現状ではお勧めできない状態になっています。 メーカーの製品自体の供給もストップしているようで、改善を模索しているのかも分かりません。  ということで、性能が完全に安定するまで、まだしばらくは様子を見た方が良さそうです。 以上、当リポートとは無関係ですが、 LX80架台の評価について、訂正いたしました。

Megrez90-BINO

メガネのマツモトさんに製作を依頼しましたMegrez90-BINOが2月に完成しました。過去のユーザーレポートは大変参考にさせていただきましたので自分も少しでも今後製作される方の参考になればと機材導入の経緯から、製作過程、ファーストインプレッションまでReportします。

【導入の経緯】

以前より対空双眼鏡とシュミカセ+双眼装置でディープスカイを楽しんでおりましたが、視野の広さやシャープさ、抜けの点でレベルアップを目指しEMSを使った双眼望遠鏡を製作することにしました。求めるビノのイメージとして「気軽に持ち出せて満天の星空から星雲星団を美しく切り取って魅せる機材」としました。具体的には
重量は12kg未満で一体で扱えてHF経緯台に乗せられる物 星空を美しく切り取るのに最適な実視野と瞳径を重視し、鏡筒とアイピース選定することにしました。
使用倍率:25倍(3°瞳径4mm位)、50倍(1.2°瞳径2mm位)
3°→すばる、北と南の二重星団が余裕で入る視野(三ツ星が入ります),コートハンガー
1.2°→M42、M81&M82銀河ペア、M65&66&NGC3628トリオ同視野
上記条件から計算すると鏡筒は10cmF6クラスで
笠井CAPRI102ED、WO Megrez 90(D90/f558)、ケンコー SE102(D102/f500)、SE120(D120/f600) を候補としました。
12cmのアクロマートにしようかと思いましたが、高倍率で惑星も見てみたかったのでアポ鏡筒の中から選択しました。口径は小さくなりますが既に1本所有しているMegrez90にもう1本買い足して今回の製作依頼となりました。

【BINOの仕様】

目幅調整はヘリコイド方式と鏡筒移動方式がありますが、TV85の製作事例でメガネバンド+ヘリコイド方式でシンプルで美しく見えたので、松本さんの薦めもありヘリコイド方式にしました。 またヘリコイド方式の場合鏡筒移動方式よりバックフォーカスを必要とするので鏡筒の切断が必要かもしれないとのことでフォーカサーを変更してバックフォーカスを確保。

【BINO完成・鳥取訪問】

松本さんの製作されるビノは常々美しいと思っておりました。今回もゴールドのアクセントカラーでホワイトが艶やかな鏡筒に黒アルマイトのメガネフレームがマッチした美しいビノに仕上がったと思います。

光軸調整を直々に指導して欲しかったこととEMSビノを開発した松本様にお会いしてみたかったので雪の積もる中、鳥取へ出かけました。(飛行機は雪のため条件付きのフライトでした。) さっそくBINOを覗いてみると、水銀灯が雪越しに立体感を持って見えとても幻想的な景色を見せてくれました。心配していた光軸調整は文章を読むと難しく思いますが直に指導受けるとそう難しいことでなくほっとしました。

鳥取はすごく遠い所だと感じておりましたが、実際に来てみるとぐ~と近く感じられるようになりました。是非来られることをお勧めします。

【使用アイピース・ファインダーについて】

アイピース  見かけ視界    倍率    実視界  射出瞳径

EWV32mm    85度     17倍    4.9度   5.2mm
Nagler22mm   82度     25倍    3.2度   3.5mm
XW10mm     70度     55倍    1.2度   1.6mm
LWV5mm      65度    112倍    0.58度   0.8mm

NA22mmが重いので(実測2本1340g)、重量級のアイピースで揃えました。
デフォルトはこのアイピースの予定です。
ファインダーは通常はクィックファインダーのみで十分。
最初からLWV5で導入するときは笠井正立直角ファインダー併用。

【観望インプレッション】

観望地は冬場のためいつもの赤城山の駐車場が雪で閉鎖されているので山間部の平地の公園で行いました。透明度はまずまず(プレセペが目視で見える)でしたが、水銀灯と自動販売機の光がもろに接眼部に入るいまいちのコンデション。片手で覆いながらの観望。気温-2度、無風。
Nagler22(25倍、3.2度)とクイックファインダーをセットし沈むカシオペアからM52, ET星団, h-x, と秋の銀河でスタート。(M31は残念ながら山に隠れて見えません。)ペルセウスα星付近を流してM34,すばる 、ヒアデス。天頂付近でM1,M37,M36, M38, M35と流してから南に来てM42,M78,ばらの星団部分、X’ツリー星団、シリウスからM41, おおいぬ座145星(冬のアルビレオ:色の対比がきれい)、M46&47(絶景),M50と冬の銀河を散策。

次に上った北斗に来てM81&M82ペア,ふくろう星雲&M108ペア,M51(子持ち銀河),M101を存在確認。 アークツルースが上ってきたのでそれを目印にM3を見てプレセペ,M67 獅子の後ろ脚からM65&M66&NGC3628トリオ、獅子の腹にある銀河(M95,M96,M105?)を見てデネボラからかみのけに向けると銀河がいくつも入ってきました。 この方向にいままで向けたことがなかったのですがいくつも見えて感激! この間着いてから約1時間。 散開星団、秋、冬の銀河はこの倍率で流すと星団単体の迫力もあり最高です。 またこのビノは対象物に正対して操作ハンドル持って下を覗くスタイルが自然で最高です。

つぎにアイピースをXW10(55倍、1.2度)に変えて好きな天体を見直します。 M42,M81&M82ペア,ふくろう星雲&M108, M37,M36, M38, M35,M1,M65&M66&NGC3628トリオを再度導入しました。銀河のペア、トリオが同一視野でバックも締まり絶景。再度かみのけ~おとめ銀河団にも向けてみました。9cmでもいくつも銀河が確認できます。
東を見るとからす座が見えたのでスピカを目印にソンブレロ銀河を導入、なんとなく暗黒帯が見えるような感じ。最後に東にスピカと上って来た土星の輪を見て本日終了。時計を見るとここまでで2時間弱。今回クイックファインダーのみでしたが1.2度の視野でも鏡筒をちょっと振ると目的の天体が入ってきます。この視野に入ってくる感じがいいですね~。
9cmのビノながらコントラストの良さとリッチフィールドで短時間でこれだけ楽しめました。 機材が軽量(アイピースを除いてビノ重量9.1kgで)シンプルであることは設置、撤収が楽です。(写真はピラーですが、遠征時はHAL110三脚です。)

一方高倍率の方ですが、LVW5をセットして自宅から木星、火星、2重星を見ました。二重星観望ではγAnd(アルマク) 、おおいぬ座145星、βMon、リゲル、σOri等楽しみました。現状所有のアイピースでは最高112倍で火星には倍率不足ですが、これ以上倍率が高いと(不慣れなため)追尾もたいへんなのなのでこのシステムですすんで惑星を見ることはなさそうです。

【使い勝手】

①光軸調整ですが、アイピース交換の度に行う必要がありますがEMS調整ノブのおかげて数秒で終わります。双眼装置の場合はアイピースによっては試行錯誤でアイピースを回転させたり、左右入れ替えたすることもあるので調整機能が備わっていることは楽です。

②操作ハンドルの操作性はたいへんよく気持ちよく掃天できます。
これにより対象物を決めて導入するのでなく、当てもなく掃天し「星空散歩」をするような観望スタイルが合います。

③仰角変化とアイピース交換時の重量バランスについてですが、デフォルトのハンドルのウェイトでは仰角45度以上で調整が難しかたったのでアリガタにアリミゾに付けたウエイトで調整し、HF経緯台のフリクションねじをきつめに締めてフリーストップを実現しています。アイピースを外すときはフリクションねじをきつく締めても鏡筒が動いてしまうのでかならず1本ずつ交換します。

【最後に】

今回の観望でたった9cmのビノですが多くの観望対象を短時間で楽しませてくれることが実証されました。星空散歩のツールとしてよいものを製作していただいたと思います。今後は夏の天の川やEWV32mmによる4.9度の視界を楽しみたいと思います。
素晴らしいEMSビノを開発し、(高価ではありますが内容を考えれば)とてもリーズナブルな価格で製作していただいた松本さんに感謝いたします。今度のメンテナンス等でもよろしくご指導願います。 またユーザーレポートを書いて自分を導いていただいた先達様方にも感謝いたします。

埼玉県 Y

Comment by Matsumoto / 管理者のコメント;

埼玉県のYさんより、少し前にファーストライトのご報告のエキサイティングなメールをいただき、ホットな印象をそのままごここに紹介 させていただこうと思いましたが、再度文章をまとめてから改めてご報告いただくとのことで、今回、詳細なリポートをご投稿いただきました。  導入支援装置なしで短時間に多数の天体を満喫しておられ、Yさんが以前より、しっかりと天体を観察して来られたことが分かります。

完成時には遠路をはるばるご訪問いただき、仕上がったばかりのBINOとご対面いただきました。 当地のこの冬は異例に雪が多かったのですが、幸いなことに、雪はYさんのご訪問日を避けてくれました。(当日までハラハラしていましたが。)  Yさん、懇切なリポートをありがとうございました。 続報を楽しみにしています。
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YさんのMegrez90-BINOの製作記は、BINO製作情報速報の、 2012年1月18日、19日、21日、2月1日、4日、7日、8日に掲載しています。