For those who are allergic to the Matrix/ 行列アレルギーの方へ!

 上の連立一次方程式、今は中学2年で習うようです。
下は、それを行列表記したもの。 同じ物なので、毛嫌いしないでくださいね。
 松本の光学講座でも、これ以上難しいことは何も言ってないつもりなんですがね。
 2x = 4 を解く時、両辺に x の係数の2の逆数 1/2 を掛けて、x=2 を求めますよね?
  行列も同様に、両辺に
2  1
1  1 の逆行列、
1  -1
-1  2  を掛けてやれば、( x, y ) が同時に求まるわけです。

 アクロマートレンズを設計する際は、色分散が少ない(アッベ数が大きい)凸レンズと色分散が大きい(アッベ数が小さい)凹レンズを、色消し条件を満たしながら組み合わせ、かつ、合成度数が目的値になるように両レンズの度数配分をしないといけませんが、これも連立一次方程式(中2レベル)で解けます。

 レンズ系のシステムマトリックスは、逆行列を知らなくても求まりますから、これよりも簡単です。 実数なら、エクセルが計算してくれますしね。


Calculation of the Principal Points / 主点位置の計算方法

 理解しやすくするために、両主点位置をレンズ系の外に作図しました。たとえば、H1が実際にはレンズ系第一面より右側に存在する場合は、t>0 となり、同様にH2がレンズ系最終面よりも左側にあれば、t’ <0 となるだけです。
 また、移行マトリックスは左→右向きの距離を正(+)と定義します。
 まとめますと、レンズ系のシステムマトリックスを
A D
B C 、とし、
 物側主点の位置は、レンズ系の第一面を基点として定義 ( t ) することとし、像側主点は、レンズ系最終面を基点として定義 ( t’ )することとします。
 従って、tが第一面から物側主点までの距離、t’が最終面から像側主点までの距離で、符号は上図と解説に従います。

解説 ↑;
H1 – H2  の 横倍率=+1の 物像マトリックス を計算します。
結果は何と!
1  D
0  1 、
 という、超シンプルな行列になりました。(右上の要素のDは常にレンズ系のパワー)
 両主面は、横倍率=+1の共役面ですから、左上と右下の要素は常に1,物像関係なので、左下の要素は常に0。(計算不要)
最終的に整理する直前の行列と比較し、
A + Dt = 1, C – Dt’ = 1, から、
t = (1-A)/D ,
t’ = (C-1)/D, となるわけです。
 マトリックスの方法が、いかに近軸解析に奏功するか! ご理解いただけましたでしょうか?

補足;
一般に、物像マトリックスは、
1/M   D
0    M 、 (Mは横倍率)
で、物と像が両主面の場合は、M= +1  となる訳です。

 5/25の記事のモデル(システムマトリックス)に、今日ご紹介した公式 ( t = (1-A)/D ; t’ = (C-1)/D )を当てはめてみて、結果に矛盾がないことをご確認ください。
 シンプルな公式を機械的に当てはめるだけですから、分かる?分からない?の話ではありません。まずは、やり方を真似てみて、 ”これは凄い!” とお気付きいただけば、→ 何故だろう?と、次に進むモチベーションになるはずだと確信しています。九九を覚えるのに、一々理屈を考えたでしょうか? まずは、公式を疑わずに、実際に試していただきたいと切に思っています。

What is the Principal Point?/ 主点とは何か?

再三の総”無視”にもめげずに、投稿しています。
 今回は数式には踏み込まずに、概念的な話に限定します。
 分かる?分からない?ではなく、受け入れるか?受け入れないか?です。
 上の図は、薄いレンズによる結像の光路図です。1/s’ – 1/s = 1/f という結像公式が確立しています。
 下の図は、複数のレンズで構成されたレンズ系の光路図です。(合成焦点距離は同じとします。)
 光学黎明期の人たちは、光学台による実験から、複数レンズ系も、薄い単レンズ系と同じような物と像の結像関係があることにすぐに気付いたはずで、当初はブラックボックスのレンズ系に於いて、外側にある物点と像点は別として、物点距離(s)と像点(s’)距離を決定する基点がどこなのか、戸惑ったに違いありません。
 断言はしませんが、当初は帰納的に、「下図のような、1対の倍率=+1の共役面(のちの物側主面と像側主面)がもし存在すれば、薄い単レンズの公式がそのまま使える!」と考えたのではないでしょうか?
 それを帰納的に検証するのには、そう時間はかからなかったはずです。
 で、実際はどうなのか? ですが、レンズ系が何枚構成であっても、2つの共役な主面が存在することが分かっています。

 実際の物体面と実像面が互いに共役面であることにはご異存はないと思います。物と像は交換できます。上の図で言うと、物体面と像面が、倍率=(-1 )倍の共役面となっています。
 で、実際の物と像の結像関係とは別系列で、倍率=+1倍の共役面が存在すれば、上の図の光路をレンズの所で2分割して、主点間距離を離しただけですから、元の薄レンズの公式がそのまま使えるわけです。
 物側主面が虚物面で、像側主面が虚像面なので、光線は実際にはP,P’,H1,H2,Q,Q’は通りませんが、物側主面上のある点に向かう入射光線は、全て、像側主面上の同じ高さの点から最終レンズ面を抜けて行く、ということです。
(物側、像側主面は、上図のように行儀よくレンズ系の内部に収まっているとは限らず、順番が交差していたり、レンズ系のずっと外にあったりしますが、原理的には同じことです。)
 
 

The effect of the Stop before the focus / 焦点前絞りの効果(超短焦点対物レンズ用)

 友人とのやり取りから、最近、貴重な発見をしまして、長年の天文マニアの多くが、光路図の視覚的な意味すら理解していない、あるいは誤解したまま放置していることに気付きました。
 光線を線で表現するのは、解析のため。この、横から見た線は、当然ながら接眼部の観察者には見えません。観察者に見えるのは、焦点面(あるいは参照面)に投影された無数の光線がその面を貫く無数の点の集合、いわばスポットダイアグラムです。収差がある(無収差はあり得ない)光学系の焦点は、一定の面積を持つ錯乱円なわけですが、その錯乱円が小さいほど像がシャープになるということに異存はないでしょうか? 食い下がって質問する方はどんどん賢くなり、曖昧にスルーする方は、ずっと誤解を引きずります。
 上下の図を比較して、「両方共結構シャープに結像してるじゃん!」なんて言ってはいけません。先ほども申しましたように、横から見た光線の絵は、観察者には見えません。視野中心でピント合わせをした前提だと、あなたに見える★像は、図のfocal-plane(焦点面)で光束を切った断面であり、それにアイピースの収差が加算されたものです。
 友人からのもう一つの質問は、この複数の線は、全て一つの星からの光線なのか? というのがありました。これも極めて重要なことで、全ての線は、無限遠の一つの点光源から入射した平行光線だということです。 上から数えて、1本目がベガの光線で、3本目がデネブからの光線なんていうことはありません。
 この辺の約束を今一度確認いただいた上で、上の図を見ていただけば、最大視野付近だけの光束を絞りで少しトリミングしてやることで、視野周辺の星像が劇的に改善されることがお分かりになると思います。当然、視野の周辺減光は伴いますが、もともと破綻している視野周辺像であれば、それは意義あるトレードオフと言えますし、また、私たちの眼の生理的特徴から、視野周辺ほど光感度が飛躍的に高いために、周辺減光は眼視に関する限り、そう気になるものではいとも言えます。
 図は、ファインダークラスのF3~F4の対物をモデルとして、入射角度=6度(実視野12度)を想定しているので、実視野8度くらい以下は、この絞りは影響しません。


 この手の適当な位置と内径の絞りであれば、視野の中心付近では絞りの影響が皆無であることが上図から明らかです。
 アイピースの視野周辺の像の崩れは、一般的には、大半がアイピース自体の責任なのですが、対物が極端に短焦点な場合は、対物の像面湾曲、コマ収差等もそれに拍車をかけます。まずは、対物起因の要素を改善して、アイピースにバトンを渡せば、嬉しい結果が待っていると信じます。
 フラットナーの研究をしている中で、適当な絞りだけでも結構奏功するのでは?と気付いた次第です。
 ただ、鏡筒内の構造で、すでに結果として絞り効果を利用してしまっている場合は、いくら追加で絞りを入れても無駄ですが。


 

Two pairs of EMS-UL sets in the making

I am terribly sorry for the delay of the back-orders from June to March of this year.
I am taking a short holiday from the hospital now, and having the hectic days to make the EMS as much as possible. But I have to return to the Hospital to take the third period of the anti-cancer treatment on the June-6th, and above will be the limit of making before 6/5.

 1月からのバックオーダーが停滞してしまい、本当に申し訳ございません。
現在、一連の抗癌剤治療を受けておりまして、1クールが1か月の入院で、短い(数日)休憩を挟んで全部で6クール予定されている内の2クールを何とか消化して、1週間の一時帰宅をしているところでございます。(5/30退院)
 6/6には、3クール目の治療のために再入院いたします。従いまして、今回は写真の2件を仕上げるのが限界のようです。 申し訳ございません。

Quantitative evaluation of the simple flattener / 別のソフトで定量的に評価してみました。(シンプルなフラットナー)

 シンプルなフラットナーを、別のレンズ設計ソフトで評価してみた。対物レンズは、ファインダー用の安物の貼合タイプの短焦点アクロマートを想定。倍率一桁なら、遜色ない中心解像度があることは検証済み。
 レンズカーブも今回は最適化してみました。パワーは -3.0D メガネレンズで言うと、中等度近視用。カーブはメガネレンズより少し深い。

 左がフラットナー装着前、右がフラットナー装着後の非点収差図。実線がメリディオナル (meridional) 面の像面湾曲を表し、点線がサジッタル(sagittal)面のそれを表します。実線と点線の乖離分が非点収差。

 3度斜め入射のスポットダイアグラム。 左がフラットナーなしで、右が装着後。効果が歴然ですね。実視界で言うと、6度の実視野の最周辺ですから、十分な性能かと。

Playing with the Optical Ray Tracer-2 (Flattener)/ フラットナーのシミュレーション

 F3 クラスの短焦点凸レンズ(1群)の像面湾曲の様子を見てみよう。これが、光軸上の焦点。左のごちゃごちゃした平面鏡のセットは、斜入射の光線を作るために、私が道具立てしたもの。何と、このソフト、入射光線の角度を指定することが出来なかった!
(5/29追記) ビームの角度はソフト上で自由に設定できることが分かりました。
ただし、光源側の射出面が画面上では動かせない(数値入力すれば可)ようで、やはり、追加でセットした2枚組平面鏡は光束の高さを自由に変えられるので、便利です。

3度傾斜した入射光線に対する焦点。Meridional 面だけの考察になりますが、大雑把にこんな感じ。

 凸レンズと同じ度数の凹レンズを図の位置に突っ込んでみたところ。他のレンズ設計ソフトで確認したが、焦点に近いため、このような単レンズでも、近軸性能への悪影響はほとんど無かった。
 この着眼の根拠は、ペッツバール和 (Petzval sum);
D1,D2,D3,・・・で構成されたレンズ系で、D1/N1+D2/N2+D3/N3+・・・=0なら像面はフラットになる、という極めてシンプルな定理! 実際は、そう一筋縄では行かないことは知っていたが、まずは手を動かしてみよう!

 実際には、サジッタル面 (sagittal plane) も考慮する必要があり、返って非点収差が増して、スポットダイアグラムで比べると改悪になるケースもあるので、これだけで諸手を挙げて喜べないけど、このようなフラットナーでも効果がありそうなことが分かった。実は当方、本業がメガネ屋で、メガネ用のガラス凹レンズの死蔵品が山ほどあるのだ。いずれ実験してみたい。(昔はメガネレンズはガラスレンズだけだったが、50年ほど前からプラスチックレンズが急速に普及した。)
 フラットナーの凹レンズの湾曲の向きは、近軸では影響が最小に、周辺では凹レンズの収差を最大限に活かそうとすると、こうなる。逆だと効果なし。

 現在市販されているフラットナーは複数枚構成になっているものが多いですが、最もシンプルな物は、上のような厚肉メニスカスレンズ。前面と後面がほぼ同じカーブで、度数もほぼ0,だから、球面収差、色収差への影響も心配ない。ただ、かなり分厚くなる。
 EMSで使用するなら、レンズを長いハウジングから取り出し、48mmフィルター枠(それも特別な厚肉仕様)にセットしないといけない。

The simple example of the effect of the Matrix on the Ray-tracing/ 行列が近軸光線追跡に奏功する実例!

 今度は、シンプルな実例で解説します。
 L1 は、最初に掛ける老眼鏡くらいの度数(+1.0D)の凸レンズです。-Dは、レンズの度数の単位で、”1/焦点距離(m) ”つまり焦点距離の逆数です。
 L2 は、最初の老眼鏡が見辛くなって、2~3回目に更新する度数に近い、+2.0Dの凸レンズです。
(H1は物側主点、H2は像側主点です。両点は、光線の進行方向の並びのこともあれば、本例のように交差していることもあります。)
 図形的に見ても答が出そうな、シンプルな組み合わせですが、最初のサンプルとしては、好適な実例かと思います。
 L1とL2を上図のように配置した時に、2枚レンズ系システムの合成パワー(D)や、各主点の位置がどうなるか?という話です。
 中学校理科(高校物理?)辺りから出て来る、レンズの結像公式( 1/s’ – 1/s = 1/f )を駆使しても答は出ますが、行列(屈折マトリックスと移行マトリックス)を使うと、ずっと計算が楽になりますよ!という話です。

 下の 赤い四角 で囲ったのが、L1~L2 の2枚レンズ系の システム・マトリックス です。上の3つの行列を順に掛け合わせたものです。
 レンズの行列の、朱色の〇 で囲んだ要素が度数で、間隔の行列の水色の〇 が ”間隔×(-1)” です。そこに任意の度数や間隔を代入して掛け合わせれば、全系のシステムマトリックスが得られるわけです。
 レンズの行列は、右上の度数の対角要素は常に0で、他は全て 1 、間隔の行列は、左下の間隔×(-1)の対角要素は常に0で、他は全て 1 、両者とも、行列式の値=常に 1 です。システムマトリックスも同様。
 前回もご説明した通り、何枚のレンズ、間隔を掛け合わせても、得られるシステムマトリックスの右上の要素には必ず全系のパワー(度数 / D)が来ます。これから主点位置を算出することも出来ますが、今回は割愛しますので、興味がある方は、HPのサイト内検索をしていただくか、直接ご質問ください。
 一度システムマトリックスを求めれば、それが何十枚のレンズで構成されていようが、その後は、システムマトリックスが一枚のレンズと見なせ、想定した物点に対する像点が簡単に算出できるのです。従来の結像公式では、光軸上の位置しか分かりませんが、行列(マトリックス)の方法だと、光軸から任意の高さにある物点に対する像点の高さも同時に得られます。
 2行2列の行列の演算ですから、簡単かと思いますが、エクセルで計算した実例 ↑ をお示しします。MMULT という、行列の積の関数がエクセル内にあります(やり方はネットで検索してください。)ので、行列の演算を忘れた方は利用されると良いです。

( 行列の積は、結合法則は成り立ちます ((AB)C=A(BC)) が、交換法則は成り立たない (ABC≠ACB,CBA) のでご注意ください。また、左から右に掛けていく行列の約束から、行列の並びが光線とは逆の方向になっています。
 これについてご質問があったので、追記(5/27)します。 
実数の場合、”AにBを掛ける” は 普通 ”A×B ”と表記しますね。(実数の場合はB×A でも結果は同じで実害はないですが)
”行列 (A) に 行列 (B) を掛ける” は、必ず” (B)(A)”と表記し、計算も、 (B)→(A) と、左から右に掛ける約束があるのです。
つまり (A)(B) としてしまうと、結果が違ってしまいます。これが、行列の並び順が光の進行方向とは逆になりますよ!という意味です。)
 

The marvelous effect of the “Object-Image-Matrix”/ 物像マトリックスの驚異的な効用 !

 一昨年~去年にかけて連載しました ”松本の光学講座” が不評で、かなりのトラウマを負いましたが、病室で時間がたっぷりあることから、再度の挑戦です。今度こそ、一人でも良いので、「目から鱗が落ちた!」と言わせたい。
 一般的な 薄レンズの近軸結像公式 の、”1/s’ – 1/s = φ (1/f) ” は良くご存じと思いますが、上図のように、多数のレンズが連なった光学系となると、レンズ1枚ごとに上の公式を当てはめて像点や主点を決定するのは大変な作業になり、現実的ではありません。
 そこで、光軸上の 物点S から 像点S’ を求める、一般的な上記公式ではなく、Meridioal面(光軸とy軸を含む面)の任意の点 P から指定面上の点 P’ が決まる;屈折マトリックスと移行マトリックスの利用 について、前回までの講座でご説明していました。今回は、HPで検索、復習していただきたいところですが、かいつまんで解説させていただきます。

↑ 屈折マトリックス。

 上が屈折マトリックスです。↑ P を二次元平面ベクトルのように、二元数で表します。ただし、h については x-y 平面の y 座標そのもの(尺度は別です)ですが、α については、x 座標でないことに注意が必要です。
 x座標の席には、α=tan α で定義された角度が入ります。
 屈折マトリックスでは、P と P’ の二次元平面的な位置が重なります。h = h’ で、α のみが変化するわけです。s’ は直接は求まりませんが、α ‘と h’ から、最後に計算すれば簡単に求まります。

これが移行マトリックスです。
 移行マトリックスは、さきほどの屈折マトリックスとは逆で、α は変化がなく(α’= α )、h のみ変化します。
 以上、屈折マトリックスと移行マトリックスについてご説明しましたが、どちらも行列式が”1”となることにご注目ください。これが、主点位置の決定他、ものすごい効力を発揮します。
 つまり、レンズを任意の間隔で何枚連ねようと、各行列を順に掛けて行って最後に得られる、光学系全体のマトリックスの行列式も”1”になるということです。

A D
B C は、S 面(物面)上の任意の点 P ~ S’ 面(像面)上の点 P’ までのシステムマトリックスで、多数の構成要素の行列を掛け合わせた結果として得られるものですが、これを物像マトリックスと言います。マトリックスでもかなりの計算量にはなりますが、上図の理由で、B = 常に0であり、C も常にこの結像系の横倍率であること、さらには、行列式=常に1であることを知れば、計算は大幅に省けるのです。
 ”∵h’=Ch “ は、物像関係だから言えることで、h’/h は横倍率なので、C は常に定数でないとおかしいのです。B に任意の数が発生するとそれが破綻しますから、B = 常に0なんです。
 それから、D=常に光学系の合成パワー(φ=1/f) となっていることも忘れてはいけません。どんなに長く要素を連ねた光学系であっても、システムマトリックスの右上の要素が常に合成系のパワーだなんて、興奮しませんか?

 D1~D5までの構成要素の行列を積算すると、この光学系全体のシステムマトリックスが算出できますが、それからさらに基点が S 面と S’ 面になるように両サイドに移行マトリックスを掛けると、SーS’ 面間のシステムマトリックスが求まり。S面上の任意(Meridional面限定)の点 P が S’ 面のどこに達するかが分かるわけです。
 恐らく、初心の方は、近軸前提の理論なのに、光軸からの高さを扱うのは矛盾していないか?と思われるはずです(私もそうでした。)が、高さは相対的な意義がある(図のスケールを真に受ける必要はなく、単位はmmだろうと、ミクロンだろうと関係ない)し、無収差の光学系と仮定すれば良いわけで、主点や結像点の位置のみならず、光学系の絞りの位置や口径を考察するのに、この二元数表記が奏功するわけです。 光学系の設計の最初のたたき台としての”骨格”を決定するための、極めて有効で利用価値の高いツールなのです。

 蛇足ですが、「厚みが無視できるレンズにしか役に立たない理論じゃないのか?」というご質問に先回りしてご説明します。 レンズの厚みが無視できない場合(普通はそうですよね!)は、レンズの前面と後面を限りなく薄く削いだ片平レンズと想定し、2枚の薄レンズの間に平行ガラス板を挟んだ物と想定すれば良いのです。中間の平行ガラス板の厚みは、1/N(屈折率)の距離の空気層と等価なので、換算距離を用いれば、理想の薄レンズの集合体と見なせるわけです。