BORG60N-BINO

「トラベルBINOユーザーレポート」

 出張や家族旅行に持って行けるBINOが欲しくて、「トラベルBINO」を作りました。 マツモト式EMS-M+BORG60nを利用しました。最大の特徴は軽量コンパクトです。 フルセット重量(三脚やアイピースを含む)はわずか6kg、片手で楽々持てます。 架台セットで収納した縦横サイズはA4以下、アタッシュケースの中に納まります。 飛行機の中にも持ち込み可能です。

 自作にあたりEMS-LとMどちらにするか迷いましたが、バックフォーカスと小型化 に有利なMを選択しました。EMS-M でも2インチアイピース(30mm, 70°クラス)が 使用可能です。

 架台は色々と検討した結果、西田氏のアルミ経緯台がジャストフィットでした。 軽量かつフリーストップの操作感は抜群です。

 先日北海道出張があり、仕事道具と一緒にトラベルBINOを持っていきました。 仕事の後、ホテル近くの公園に持っていってセットアップ。旅の後で調整は必要 ですが、EMSのおかげで調整はすぐに終わりました。マツモト式EMSのX-Y調整機 構は素晴らしいできばえです。これ無しに快適な双眼望遠鏡は考えられません。

 北海道ではすでに紅葉が始まっていました。風に揺れる紅葉は美しく、見ていて あきませんでした。トラベルBINOは地上風景にも予想以上の性能を発揮してくれ ました。

 常用アイピースはWilliam Opitcs UWAN16(見かけ視界82°、倍率×20)、相性は バッチリです。アイカップをカメラ用に交換したおかげで、顔に吸い付くような 快適さです。まるで裸眼をそのまま20倍ズームアップしたような感覚でした。

 そのまま公園に置いておいて、夜いよいよファーストライト。 すばるがすっぽり視野におさまります。おそらく実視野は3°弱でしょう。h-χ など秋から冬の散開星団をひととおり流しているうちに、あっというまに一時間 が過ぎました。ストレス無しに長時間眺めることができるのはBINOの最大の強み ですね。

 一方、正直言って 6cmの限界も感じました。ギャラクシーには力不足です。 トラベルBINOの用途は、天の川を流しながらM35やM42などメジャーな星団星雲を 楽しむことですね。小型軽量ならではの使い方が楽しみです。仕事がら地方出張 が多いので、これからも出張先に持っていこうと思っています。登山に持ってい って、アルプス山頂からの星も楽しみです。

 これからアイピースやフィルターを増やすのが楽しみです。なお目幅調整機構が まだなので、近いうちにLMガイドで完成させる予定です。

自作に当たってアドバイス頂きました松本さんほか皆様、本当にありがとうご ざいました。

Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;

 杉本さんは、EMS-Mを利用されて、総重量わずか6kgの超コンパクトBINOを実現されました。   西田さん作の架台も見事です。

  EMSのX-Y調整機構についてコメントしてくださいましたが、自作のキャリアがある方ならではの 着眼だと思いました。EMSの双眼セットとしての機能として、このX-Y調整機構は欠く事のできないものです。

 単体用のEMS-SやMを2個調達すれば、あるいは自作されれば、素材コストは随分と安くつくわけですが、BINOとして 満たすべき機能を自作で補完するためには、余分に相当な努力と投資を強いられるわけで、トータルのコストと仕上がりに関して、 どちらが有利なのかは簡単には評価できません。  杉本さんは、これらの点を良く理解してBINO用に特化したEMSセットをご利用くださったものと思います。

 EMS-MによるBINOの作例は、今日まで意外に少なく、私の記憶が明確なのは、今回の杉本さんの他には、 YamauchiさんとSakamotoさんだけですが、今後はコンパクトなBINOへの要求と共に使用例が 増えてくるかも分かりません。

 1989年に初めて天文誌に紹介されたEMSは、正立ミラーシステムという名称で、一体ケース構造でした。 当時は36.4mmのネジ込み式が一般的には最大のアイピースで、2インチアイピースはまだ広く 普及していませんでした。そのような当時の背景から、最初のEMSは、36.4ネジ込みのエルフレ32㎜(60度)クラスが ケラレなく使用できることを前提に設計していました。その当初のEMSの役割(キャパ)を後継した現行のEMS-Mの構成ミラーは、その初期型EMSよりも一回り大きく、 杉本さんも指摘しておられるように、2インチの32㎜クラスの広角アイピース(EWV32でもケラレはさほど気になりません)まで 使用できるわけです。(ただし、optionの2インチスリーブは必要) 

 光路長については、ミラーサイズで決まると思っておられる方が多いのですが、それはミラー同士の干渉の回避等で二次的に 関係するだけであり、実際には、ミラーケースのサイズと構成ユニットのジョイントの長さ、それとアイピースを 挿入するスリーブの長さで決まりす。 従って、EMS-MとEMS-Sは、同一のケースで同構成ですので、光路長は 全く同じです。EMS-Lとの光路長の差も、ケースは同一ですので、ジョイントパイプの長さとアイピーススリーブの長さ の差に過ぎません。 たとえば、EMS-LにEMS-M用の31.7ADを装着すれば、その光路長の差は14㎜しかありません。

 場所を借りて、EMSのことに少し触れさせていただきました。 杉本さん、トラベルBINOのご成功、おめでとう ございます。さっそくのリポート、ありがとうございました。

EMSと特許

 EMSと特許との関係について、一部に誤解があるようなのでご説明しておきます。

 私が平成元年に出願し、平成6年に許可された特許の「発明の名称」は、“正立ミラー”でも“EMS”でもありません。  その名称は『正立プリズム』であり、正立ミラーは、その反射面をミラーで代用した応用例に過ぎません。

 識者?の一部の方がEMSの特許に否定的な理由は、「アミチプリズムという既存のプリズムがまず存在し、 単にその反射面をミラーで代用したのがEMSである」、という認識からだと思います。その理解の出発点で誤解がある わけです。

 「アミチプリズムの光路を解析すれば、必然的にたどり付く方法」という意見は、まさに「後出しジャンケン」 の卑怯な論法であります。その時点で“公知”だったかどうか、ということは、常に特許関係の論争で問題になる点 ですが、その時点でEMSのような製品が公知と言えるほど普及していなかったことは元より、その原理を具体的に広く 公開していた実例はありませんでした。

 少なくとも、特許庁は、公知でなかったと判断し、さらに一定の公開期間に、根拠ある異議申し立てもなかった ために、実際に特許として認定されたわけです。

 私の『正立プリズム』は、唯一の反射面を持つ2つの光学素子で構成された90度対空用の正立系であり、入射角 を規定することで、既存のポロプリズム等との違いも明瞭にしています。まして、一つだけの光学素子で構成される アミチプリズムについては、特許庁の審査での比較対象(拒絶理由)にすら上りませんでした。

 つまり、私は全く新規な「正立プリズム」を発明したのであって、そのプリズムのミラー代用系がEMSであると いうことです。

 「特許請求の範囲」では、構成ミラーをまとめて一つのケースに収納したものと、独立したケースに収納して連 結した物を区別しておらず、つまり、初期のワンボックスタイプのEMSも包含された形で特許となったわけです。

 特許庁の電子図書館の検索メニューで、→「特許・実用新案検索」→「公報テキスト検索」を開き、上の公報種 別の「特許公報」にチェックし、出願人の名前に「松本龍郎」を入れて検索されれば、私の特許「正立プリズム」の詳細が 参照できます。(「初心者向け検索」では、平成5年出願以降しか出て来ないようです。)