松本の光学講座 2024;Anatomy of the Rays in the EMS-3-follow-up/ Open-Book Mirrors/ EMS内光路 の 可視化-3

図の 1-2, 2-3, 3-4 は、全て同じ長さです。
 1-2-3-4 の光路は、水色の立方体を3個連ねた四角柱の角の 1 から、上の面の対角の 4 に至ります。
 その経路は、他の3面を最短路で辿っています。(3面を展開すると直線になる。)

これをコの字状に折り曲げれば、上の斜視図の状態になります。

 皆さんに宿題があります。
上の方の図をプリントアウトしていただき、右眼仕様の光線を違う色で追記してみてください。
 また、各反射点に於ける面法線も追記してみてください。それが出来たら、EMS内の光路が大分理解できたことになります。

松本の光学講座 2024;Anatomy of the Rays in the EMS-3/ image direction/ 像の向きの考察

 過去2回に渡って、像の向きの反転の様子を視覚的にご説明しましたが、今回は数学的に検証する方法をお示しします。
 まず、目標 AB と2枚鏡(説明略)を上の図のように配置します。座標軸 x-y-z をご確認ください。
AB→ の2枚鏡による像が下の図の A’B’→ のようになっていれば、物の向きが完全反転(上下左右反転)していることになります。90度対空なので、観察者はy軸の正の方向から負の方向を覗くことになります。偶数回反射なので、裏像にはならないため、天地方向の反転を示せば、上下左右の反転を証明したことになります。
 2回反射後の像が本当に A’B’→ のようになっているかどうかを、検証してみましょう。
上の図の座標軸のままですと、計算が複雑になるので、座標軸を都合の良い位置に回転させます。最終的に、下の図の x’-y’-z’ のように座標軸を回転させると、(新座標軸での)AB→ の成分 (a, b, c) が、2回反射後に (-a, -b, c) のように、x座標とy座標だけが符合を反転するだけになります。
 具体的には、まず x 軸の回りに-45度(時計回り)座標軸(全体)を回転させ、次にz軸の回りに+45度(反時計回り)座標軸を回転させると、下の図の x’-y’-z’ となります。この作業は、x’z’平面が第1ミラー、y’z’平面が第2ミラーと一致するためのものです。
 反転作業が終わったら、座標軸を元にもどすと、元の座標系での A’B’→ が求まるわけです。
 座標軸は動かしても、物は元の位置のままであることをご認識ください。お宅の南向きの窓から見た鉄塔が左斜め45度にあったのが、西向きの窓から見たら右斜め45度に見えた、というのと同じことです。物差しの当て方を変えるだけで、測定が極めて楽になるという話です。

 次回以降に、実際の行列計算を辿ってみることにします。

 矢継ぎ早になりますが、実際に計算を辿ってみましょう。
まず、座標軸の回転について、高校時代にやられたのを復習しましょう。
x-y 座標で原点の回りに、x 軸を y 軸の方向にθ 回転させる変換行列は、

cos θ  sin θ
-sinθ  cos θ

ですが、x-y-z 座標で表しますと、z 座標は元のままなので、

cos θ  sin θ  0
-sinθ   cos θ  0
0    0    1

となります。x 軸、y 軸の回りに回転させる時も、同様のやり方になります。

これが、上の図の座標軸 x-y-z を、x’- y’- z’ に変換する行列になります。
新しい座標軸 x’- y’- z’ では、AB→の元の方向ベクトル (0,2,0) が (1,1,√2) になります。

これが、図の2回反射後には、新しい座標軸で (-1,-1√2) になるわけです。

これが、x’-y’-z’ 座標での2回反射による変換行列です。

(-1,-1√2)が元の座標軸でどうなっているか、座標軸を元に戻して見ましょう。
座標軸を元に戻す行列は、前回の操作の逆をたどることになります。
回転の順序が極めて重要で、順番を間違うと全く違う結果になってしまいます。

この行列を使って、さきほど求めたAB→の2回反射後のA’B’→のx’- y’- z’ 座標での(-1,-1√2) が元の座標ではどうなるか、見てみましょう。

どうでしょう? ちゃんと予想した通りになりましたね。
因みに、x-y-z を、x’- y’- z’ に変換した行列と、それを元に戻した行列は互いに逆行列になっています。
試しに、両者を掛けてみてください。単位行列になることが分かります。




Dimension of the EMS

 何を今さら?? の感が強いですが、未だに浸透していないようなので、くどいようですが、再度公開します。
 業者さんすら把握できていないのは、苦言を呈したいところです。特に、代理店さん等には猛省を促したいと思います。EMSを前提にスライド台座を製造、販売しながら、上記数値に対応しないのは論外です。(最近知りました。)


松本の光学講座 2024;Anatomy of the Rays in the EMS-2-follow-up/ Open-Book Mirrors/ EMS内光路 の 可視化-2

 これならご理解いただけるでしょうか?
本を90度開いた形の2枚鏡です。昨日お見せした光路図、突き詰めると、これとほぼ同じなんです。
信じられますか?
 観察者の向きが180度変わったりしますが、観察者が2枚鏡の裏側に回り、上半身を前屈して股覗き風に見れば、正立像が見られます。180度対空型のEMSですね。
 注目いただきたいのは、①と②が、Open-Bookの谷の同じ深さで反射していること。そして、反対側のミラーでも、同じ深さで反射することです。この現象、昨日のモデルで全く同じなんです。
 それと、光路長が全て同じということ。Open-Bookの谷の奥深くでターンする光線は、代わりに横シフトが小さく、また、谷の浅い位置でターンする光線は横シフトが大きいため、それらが完璧に相殺されて、全て同じ光路長になるのです。

 Open-Book型2枚鏡、このように使っても、上記とほぼ同じ振る舞いをします。
折れ線の光線は、互いに平行のまま折れ曲がり、交差したり、もつれたりせず、実に無駄のない規則に従って最短路を進んでいます。溜息が漏れます。


松本の光学講座 2024;Anatomy of the Rays in the EMS/ EMS内光路 の 可視化

 長い解説は読んでいただけないと思うので、簡単にご説明します。
左眼用のEMSの光路の解剖図です。
この図面だけを1年間くらいじっと見ていただくだけでも、いろんなことをご理解いただけるはずです。示唆する物があまりにも多いです。
 立体的に傾斜した光路の画面への投影なので、光線同士が交差しているように見ますが、実際はどれも交差していません。それぞれの光線が最短路を進んでいることが分かります。
 左の Front-View と、右の Left Side-View は完全に分けた方が良かったかも分かりませんが、Front View の開口円(真円)を Left Side-View とで共用させていただきました。
 開口円の ①→①→①→① と、同、②→②→②→② が光路長が等しいことが図面上からも明らかです。
(他の番号も同様(一部空間長を配慮する必要あり))
 また、EMSの光線の入射角(面法線と光線の角度)=60度と、一般の天頂ミラー(入射角45度)よりもずっと反射面との角度が小さいため、開口径に対して非常に長いミラーを要求する点も、EMSの物作りとしてのハードルの高さを物語っています。ミラー同士の干渉を含めて、最大限のミラーを最小限のハウジングに収納するために如何に腐心を重ねた結果であるかをご理解いただけると幸いです。

 直感的に理解しにくい課題は、図を描いてみるのがまずお勧めです。また、図が描けるかどうかが、理解しているかどうかの試金石とも言えます。




松本の光学講座 2024;復習5/Basic theory-6/ 超基礎からの復習- 6/ 3次元座標/久しぶりのクイズ!


Q1:The length of OA?(OAの長さ?)
Q2 : The length of OB?(OBの長さ?)


角度関係も簡単に求まりますが、今回はここまで。

解答と解説(3/30追記)
解答
Q1 —– 5
Q2—— √41 (SQR41)

X-Y座標(x,y)では、原点からの距離=√(x^2+y^2) となります。
X-Y-Z座標(x,y,z)では、原点からの距離=√(x^2+y^2+z^2) となります。

X-Y-Z座標の A(ax, ay, az), B(bx, by, bz) 2点間の距離は、
 √{(ax-bx)^2 + (ay-by)^2+(az-bz)^2}  となります。

辺長の比が 3 : 4 : 5 の三角形が、斜辺を5とする直角三角形になることは有名です。
3^2 + 4^2 = 5^2 ですからね。^^(三平方(ピタゴラス)の定理

さらに、ベクトルの内積を見れば、2つのベクトル間の角度(cosθ)も分かります。


松本の光学講座 2024;復習5/Basic theory-5/ 超基礎からの復習- 5-反射の法則と屈折の法則の代数的検討

代数的考察には踏み込まない、と一旦申しましたが、シンプルな方法が閃いたので発表させていただきます。
 まずは、反射の法則から・・・。
 通常は、AB = √(x^2+1) , BC = √{(1-x)^2+1}から、f(x)=√(x^2+1)+√{(1-x)^2+1}を微分して法則を導き出すのですが、証明したい法則は θ = θ‘ なので、最初から三角関数を用いた方がシンプルになります。
AB + BC = 1/cosθ + 1/cosθ‘ —– f(θ)
  と、総光路長が非常にシンプルに表せられます。

θ で微分すると、上記のようになります。
dθ’/dθ が邪魔物ですね。
そこで、もう一つの関係式、tanθ + tanθ’ = 1 の両辺を微分してみます。

これで、最初の f'(θ) の式から、dθ’/dθ を消去できます。

 厳密には、これをさらに微分するのですが、今回は割愛して、0<x<1 の間に解が一つある前提で進めます。
f'(θ) = 0 のときに、f(θ) が最小値になるので、
     sinθ = sinθ’ 、すなわち、θ = θ’ が導けました。

屈折の法則も、同様の方法で導けます。

 反射の例との違いは、Y 軸の負領域と正領域で屈折率が違うということです。
上図では、Y 軸の正領域は空気中で屈折率1,負領域の屈折率をNとしています。
光の速度は屈折率に反比例するので、同じ距離でも、Y軸の負領域では、時間がN倍かかるわけです。
Y軸の正領域の速度がN倍、と考えても同じことです。
 従って、最小所要時間の経路を求めるには、Y軸の負領域の光線の長さを最初からN倍して考察することになります。
AB + BC = 1/cosθ + N/cosθ‘ —– f(θ)

先程と同様に、f'(θ) = 0 のときに、f(θ) が最小値になるので、
sinθ = Nsinθ’  が導けました。

 いかがでしょう? 反射と屈折で数式がほとんど同じですね。
以上から、反射面は光線の向きが反転することも考慮して、屈折率=”-1″の特殊な屈折面として、通常のレンズの追跡方法に一般化出来ることが分かりましたね。