松本の光学講座 2024;Take a Break!/Proposal of the Innovative Binoscope ! / ちょっと休憩 / 常識破りの 巨大BINO の提案!

 逆視のニュートン反射双眼が一般的なので、屈折式で逆視がいけないという法律はありません。^^;
屈折式の場合、2回反射で図の構成が実現し、裏像になりません。 また、倒立像でも、左右の眼が交代しているので、立体視も破綻しません。(遠近が逆にならない。)
 観察者が観察用ゴンドラに乗るか、フロアが水平回転軸と連動して回転するターンテーブルになっているか、そうした超巨大なシステムに適した方法かと思います。
 鏡筒の真下に広い空間がないと窮屈ですが、据え付け架台ならどうにでもなりますね。
 予算がふんだんに使える巨大BINOプランであれば、巨大なEMSを用意すれば済むことですが、この方法は、既存のパーツや技術が利用できる利点があります。
 一つ残念なのは、ミラーシステムの回転による目幅調整が出来ませんけどね。これは光学の原理の問題なので仕方ありません。

 2枚鏡システムをロンボイドプリズム(菱形プリズム)風に構成して直視で見る方法が一般的ですが、巨大なシステムでそれをやると、仰角の変化による見口の高さの変化が著しいのと、遠近感が逆転するのが致命的ですね。巨大BINOの圧倒的な利点ですからね、立体感は。
 180度俯視(逆視)の場合は、人間工学的に、見口の高さの変化に対応しやすいですからね。


松本の光学講座 2024;Your face in the 3-kinds of mirrors/ 3 種類の鏡で見たあなたの顔

右眼が効き目だと想定した図です。
逆に、効き目をミラーの合わせ線(稜線)が貫くため、効き目のチェックにもなります。
 左が、普段ご使用の通常の鏡です。
中央が直角2枚鏡、右がコーナーキューブです。
1回反射の左の鏡と、右の3回反射のコーナーキューブは、鏡全体を回転させてもあなたの顔は回転しません。中央の鏡(2回反射)は、鏡を視線の回りに回転させると、その2倍角であなたの顔が同方向に回転します。

松本の光学講座 2024;Amazing Mirror System/ Corner Cube/ 格好の教材、コーナーキューブ

x-y-z 座標の3平面を全部ミラーにしたらどうなるか?
入射光線ベクトル (a, b, c) は (-a, -b, -c)となって、180度元来た方向に折り返します。
 これの巨大なのを月面に据えて、地球から強力なレーザーを照射すれば、往復時間から距離が測れます。盾に使えば、レーザー攻撃を相手に返せます。
 立方体の角を切り取った構成になるので、これを”コーナーキューブ”と言います。

 まだ実例はないけど、双眼望遠鏡に適用できることを随分前にも提案しました。
2枚鏡(book型)の場合、自分の顔を写してミラーシステム全体を視線の回りに回転させると、像は2倍角で回転しますが、コーナーキューブは、全系を回転させても像は全く回転しません。奇数回(3回)反射なので裏像になりますが、逆にそれが功を奏すのです。

 2+3 がコーナーキューブになるわけですが、天頂ミラー+EMS(もしくはAMICIプリズム)で代用できるわけです。上の図では、3つ目の素子で2回反射するので、合計4回反射になります。
 反射回数は増えます(と言っても、通常の双眼鏡と同じですが)が、目幅シフトを稼ぎやすく、光路長が変化しない、回転による目幅調整が可能になるため、より巨大なシステムに適しています。
 EMSやAMICIのような光学的にデリケートな素子は小さく、眼の直近に配置でき、対物寄りのミラーは、通常の45度入射の一般的なミラーが転用できるため、コスト的に非常に有利になります。
 さらに、重いアイピースによる重心のアップが、90度対空型での懸念材料になっていましたが、このシステムはアイピースによる重心移動を緩和もしくはキャンセルする効果もあります。

松本の光学講座 2024;復習8 How to estimate the principal points /主点位置の推定方法

 主点の意味を理解したり、その位置を推定するのには、平行平板の振る舞いを見るのが有効です。
一番上が平行平板を通る光線です。前面と後面が全て平行なので、入射光線は食い違いながらも平行に射出します。赤い点が物側主点、青い点が像側主点になるのは、全て共通です。
 次に平凸(凸平)レンズを考えてみます。前面の頂点の接平面と後面は平行なので、上の平行平板と同様に考察できます。
 最後に、メニスカスレンズを考えてみます。
  どこかに平行平板が隠れていないか?ということです。1-C1 と 2-C2が平行になるような光線が必ずあるはずで、それを図示したのが、一番下の図です。(C1,C2はそれぞれ、前面、後面の球心です。)1-C1 と 2-C2が平行ということは、1と2の接平面同士も平行ということになり、平行平板と全く同じように光線が振舞うことが明らかです。


 赤い線と青い線は、それぞれ、物側主面と像側主面であり、物側主面に高さhに向けて入射する光線は、像側主面の同じ高さhから射出することが分かっています。
 この2面のことを、「横倍率=+1 の共役面」と言います。倍率というと、どうしても、実際の物と像の結像を類推してしまうと思いますが、単凸レンズによる物と像が同じ大きさになる場合は、倍率=1ではなく、-1(倒立)になり、横倍率=+1 倍になる主面同士の関係とは異なります。
 厳密には、図は節点(角倍率=+1となる共役点)の説明なのですが、空気中のレンズでは、主点と節点が同じになるので、節点でご説明した次第です。




松本の光学講座 2024;復習7/Basic theory-7/ 超基礎からの復習- 7/ Which is the “angle of incidence” ? /入射角ってどれ?

「さっぱり分からん!」という言葉に潜む傲慢さに気付いて欲しい。
それが、分かろうと努力する動機につながるのであれば、傲慢とは逆なんだけど、その裏には、「自分は長年この分野にかかわって来たから、最低限のことは理解しているが、説明がまずいから理解できない。」とか、「そんなことは知らなくても、何の不利益もない。知る必要もない。」と思っている方が結構おられる気がする。
 ”焦点”とか、”F値”とか、”入射角”とか、もはや空気のようになっている基礎的部分で誤解しているから先に進めない!ということに早く気付く方は幸いだ。しかし、業者さんや、古参マニアになるほど、基礎的な用語への信念は頑なで、決して疑問に思われることがない。
 「大きなお世話だ!」とお怒りの言葉が聞こえる気がするけど、この仕事を35年続けて来て、引退を数年後に控えた今、何としてもそこに一石を投じたくて仕方がなくなったわけです。それは、社会貢献というよりも、価値観を共有できる人を少しでも増やしたいという、自分の欲求が優っているかも知れませんが。

 今日は、基礎光学の前提とも言うべき、”入射角”について取り上げました。
誤解している方があまりにも多いからです。


松本の光学講座 2024;Anatomy of the Rays in the EMS-3-follow-up/ Open-Book Mirrors/ EMS内光路 の 可視化-3

図の 1-2, 2-3, 3-4 は、全て同じ長さです。
 1-2-3-4 の光路は、水色の立方体を3個連ねた四角柱の角の 1 から、上の面の対角の 4 に至ります。
 その経路は、他の3面を最短路で辿っています。(3面を展開すると直線になる。)

これをコの字状に折り曲げれば、上の斜視図の状態になります。

 皆さんに宿題があります。
上の方の図をプリントアウトしていただき、右眼仕様の光線を違う色で追記してみてください。
 また、各反射点に於ける面法線も追記してみてください。それが出来たら、EMS内の光路が大分理解できたことになります。

松本の光学講座 2024;Anatomy of the Rays in the EMS-3/ image direction/ 像の向きの考察

 過去2回に渡って、像の向きの反転の様子を視覚的にご説明しましたが、今回は数学的に検証する方法をお示しします。
 まず、目標 AB と2枚鏡(説明略)を上の図のように配置します。座標軸 x-y-z をご確認ください。
AB→ の2枚鏡による像が下の図の A’B’→ のようになっていれば、物の向きが完全反転(上下左右反転)していることになります。90度対空なので、観察者はy軸の正の方向から負の方向を覗くことになります。偶数回反射なので、裏像にはならないため、天地方向の反転を示せば、上下左右の反転を証明したことになります。
 2回反射後の像が本当に A’B’→ のようになっているかどうかを、検証してみましょう。
上の図の座標軸のままですと、計算が複雑になるので、座標軸を都合の良い位置に回転させます。最終的に、下の図の x’-y’-z’ のように座標軸を回転させると、(新座標軸での)AB→ の成分 (a, b, c) が、2回反射後に (-a, -b, c) のように、x座標とy座標だけが符合を反転するだけになります。
 具体的には、まず x 軸の回りに-45度(時計回り)座標軸(全体)を回転させ、次にz軸の回りに+45度(反時計回り)座標軸を回転させると、下の図の x’-y’-z’ となります。この作業は、x’z’平面が第1ミラー、y’z’平面が第2ミラーと一致するためのものです。
 反転作業が終わったら、座標軸を元にもどすと、元の座標系での A’B’→ が求まるわけです。
 座標軸は動かしても、物は元の位置のままであることをご認識ください。お宅の南向きの窓から見た鉄塔が左斜め45度にあったのが、西向きの窓から見たら右斜め45度に見えた、というのと同じことです。物差しの当て方を変えるだけで、測定が極めて楽になるという話です。

 次回以降に、実際の行列計算を辿ってみることにします。

 矢継ぎ早になりますが、実際に計算を辿ってみましょう。
まず、座標軸の回転について、高校時代にやられたのを復習しましょう。
x-y 座標で原点の回りに、x 軸を y 軸の方向にθ 回転させる変換行列は、

cos θ  sin θ
-sinθ  cos θ

ですが、x-y-z 座標で表しますと、z 座標は元のままなので、

cos θ  sin θ  0
-sinθ   cos θ  0
0    0    1

となります。x 軸、y 軸の回りに回転させる時も、同様のやり方になります。

これが、上の図の座標軸 x-y-z を、x’- y’- z’ に変換する行列になります。
新しい座標軸 x’- y’- z’ では、AB→の元の方向ベクトル (0,2,0) が (1,1,√2) になります。

これが、図の2回反射後には、新しい座標軸で (-1,-1√2) になるわけです。

これが、x’-y’-z’ 座標での2回反射による変換行列です。

(-1,-1√2)が元の座標軸でどうなっているか、座標軸を元に戻して見ましょう。
座標軸を元に戻す行列は、前回の操作の逆をたどることになります。
回転の順序が極めて重要で、順番を間違うと全く違う結果になってしまいます。

この行列を使って、さきほど求めたAB→の2回反射後のA’B’→のx’- y’- z’ 座標での(-1,-1√2) が元の座標ではどうなるか、見てみましょう。

どうでしょう? ちゃんと予想した通りになりましたね。
因みに、x-y-z を、x’- y’- z’ に変換した行列と、それを元に戻した行列は互いに逆行列になっています。
試しに、両者を掛けてみてください。単位行列になることが分かります。




Dimension of the EMS

 何を今さら?? の感が強いですが、未だに浸透していないようなので、くどいようですが、再度公開します。
 業者さんすら把握できていないのは、苦言を呈したいところです。特に、代理店さん等には猛省を促したいと思います。EMSを前提にスライド台座を製造、販売しながら、上記数値に対応しないのは論外です。(最近知りました。)


松本の光学講座 2024;Anatomy of the Rays in the EMS-2-follow-up/ Open-Book Mirrors/ EMS内光路 の 可視化-2

 これならご理解いただけるでしょうか?
本を90度開いた形の2枚鏡です。昨日お見せした光路図、突き詰めると、これとほぼ同じなんです。
信じられますか?
 観察者の向きが180度変わったりしますが、観察者が2枚鏡の裏側に回り、上半身を前屈して股覗き風に見れば、正立像が見られます。180度対空型のEMSですね。
 注目いただきたいのは、①と②が、Open-Bookの谷の同じ深さで反射していること。そして、反対側のミラーでも、同じ深さで反射することです。この現象、昨日のモデルで全く同じなんです。
 それと、光路長が全て同じということ。Open-Bookの谷の奥深くでターンする光線は、代わりに横シフトが小さく、また、谷の浅い位置でターンする光線は横シフトが大きいため、それらが完璧に相殺されて、全て同じ光路長になるのです。

 Open-Book型2枚鏡、このように使っても、上記とほぼ同じ振る舞いをします。
折れ線の光線は、互いに平行のまま折れ曲がり、交差したり、もつれたりせず、実に無駄のない規則に従って最短路を進んでいます。溜息が漏れます。