松本の光学講座 2024;超重要光学常識/ Crucially important Optical Commonsense

レーザーコリメーターを図のようにセットして、スクリーン治具のセンターをビームが貫いています。
 さて、これから何が言えるか?
まず、逆の場合から考えます。
1.図に反して、ビームがスクリーン治具のセンターから外れていた。
   この場合は、「光軸が狂っている。」という判断で正しいです。
2. 図のように、ビームがスクリーン治具の中心を貫いていた。
     →は、残念ながら、光軸が完璧とは限らないのです。ミラー面の高さと角度が、青い線のように都合よく狂っていれば、やはりスクリーンのセンターをビームが貫くことがあるからです。
 つまり、このテストで合格することは、完璧な光軸への必要条件であって、十分条件ではない、ということです。

次に、スクリーン治具をミラー治具に交換してみます。
ビームが完璧にレーザーコリメーターの射出穴に戻って来た!
 さて、これも、光軸が完璧と断言できるのか?
  これも、答はノーです。 なぜなら、青い線で示したようなケースが含まれているからです。
   これも、完璧な光軸への必要条件であって、十分条件ではない、ということです。  
 結論を言いますと、上下2種類のテストの両方で合格して、初めて光軸が完璧だと言えるわけです。

 それから、さらに重要なことは、レーザーコリメーターをチェック、管理できる能力をユーザーが持っているか?ということです。これについては、何度も警鐘を鳴らして来ました。

松本の光学講座 2024;復習4/Basic theory-1/ 超基礎からの復習-1

 上の図は、絵本レベルの光学書や 小、中学校で教わる結像公式を図で示したものです。
負数の概念も、数直線も知らない段階の公式で、物点距離 a も像点距離 b常に>0として扱います。
 下の図は、虚像の時の光路図ですが、a,b>0を前提にした、1/a + 1/b = 1/f が成り立たず、別の公式を立ち上げないといけません。1/a – 1/b = 1/f
 負数や数直線さえ理解できれば、光軸をx軸、レンズ位置を原点として物点、像点の座標を決めると約束すれば、1/b – 1/a =1/f ( 1/s’ – 1/s = 1/f ) という一般式が、全ての結像ケースで成り立つことが分かります。(結像ケースごとに、違う公式を使わなくても良い。)

 それから、一見、a と b という距離同士の関係式に見える結像公式ですが、その裏にある角度関係を見落としてはいけません。
 図の最初に出て来る、α+α’ = γ が始まりだということです。これは三角形の基本定理なので、中学生でも知っていますね。 これも、先ほどの a, b 同様、正負の概念を加えて、上の方の図の α’>0 , α<0 と定義しておけば、一般的に
α’ – α = γ —–① と書けるわけです。
近軸域の極限値では、
γ = h/f となることが分かっていて、1/f = Φ(レンズのパワー)なので、
α’ = α + hΦ と書けるわけです。また、屈折の前後で h は変化しないので、
h’ = h となるわけです。 これらの2つの式を行列で表記したのが、

                        です!

*近軸領域では、α = h/a , α’ = h/b
  これも極めて重要な点ですが、言い換えますと、屈折光線の曲がり角度 γ は、α や α’ とは無関係で、h とレンズのパワーだけで決まる、ということです。現実にはそうならないことが多いですが、それが理想結像であり、それに近付けるために、光学設計者が腐心するわけです。 因みに、近軸追跡で扱う屈折の角度とは、実際の光線の角度のことではなく、tan α として定義された特別な角度です。
 また、α’ = α + hΦ について、h の初期値に何を代入してもかまわない理由は、
α’ = h/a , α = h/b を上式に代入していただけばご納得いただけるはずです。
h/a = h/b +  となり、h が α、α’ の中に隠れているため、h が任意に決められるわけです。(hはもともと両辺に均等に掛けたもの!)

光学講座の当初に提示していました、三角形の角度関係の重要な定理です。
近軸理論では、これが頻出します。



松本の光学講座 2024;復習2/Review/移行マトリックス

移行マトリックスを図示しました。↑

 行列方式の利点は、屈折マトリックスと移行マトリックスを無制限に連結、掛け合わせることが出来ることです。一般的な結像公式は、1/s’ を求めても、次のレンズによる1/s” を求めるには、一旦逆数の s’ を求めた後、さらに面間隔を差し引いてから新たな s を設定しないといけないので、連続して運用するのにかかる手間が著しいのです。

松本の光学講座 2024;復習1/Review

一般的な結像公式(1/s’ – 1/s = 1/f)と行列方式(屈折マトリックス)の表記の関係がよく分かるように、図中でご説明しました。
 一般的な結像公式では、物点と像点を基点としているのに対し、行列方式では、入射点(屈折点)の光軸からの高さhと、その点での光線の方向 α を基準にしています。
 行列方式は、都度、s, s’ がダイレクトには求まりませんが、複数エレメントの光学系では最後に計算すれば良いわけです。

松本の光学講座 2024;応用編-6/ Interesting Drill/ 面白い課題

これは凸レンズ???(課題1)
 前面と後面が全く同じ曲率半径(面パワーの絶対値が同じく、符合が反対)なので、薄レンズだと、度数は0(ゼロ)になるはず!

前面が+10Dで後面が-10Dなので、ほぼ度数はゼロになるはず。問題は、厚みの12mmがどう効くのか?
 実際に近軸追跡をしてみた。↑
 +0.8Dなので、近似的にも 度数 0 とは言えなかった。初めて掛ける弱度の老眼鏡のレンズ度数に近い。

同心球で囲まれた、こんなレンズはどうなる?(課題2)
厚さが均等なので、度数=0 ??

近軸追跡の結果、-5.0Dと出ました。これは、近視用レンズとしては、強度近視の仲間にもうすぐ入りそうな、結構な度数の凹レンズです。物側、像側主点が球心に合致しています。
 高さ10mmの平行光線を実際に光線追跡してみました。かなりの球面収差が出ています。


松本の光学講座 2024;応用編-5/Distortion and the Iris/ 絞りの位置と歪曲

 この問題も結構奥が深いですが、逆に、視覚的、直感的に理解しやすいかも分かりません。
同じレンズ系でも、絞の位置で歪曲の傾向が逆転することがあります。上図のような単レンズですと、絞を物側のレンズ前に置くと樽型歪曲、像側に置くと、糸巻き型歪曲になります。
 グレードの低い虫メガネを見ると③の糸巻き型に歪曲して見えるのは、自分の眼の瞳孔が図の該当位置の絞りになるからです。
 単レンズの場合、図の①の位置に絞りを置くことは出来ないのですが、敢えて置いてシミュレーションすると、歪曲から解放されることが分かります。ほとんどのカメラレンズが、絞を中央にしてシンメトリックなレンズ構成になっている所以の一端について、ご納得いただけたと思います。
 余談ですが、歪曲と像面湾曲が頭の中でごちゃごちゃになっている方が多いように見受けます。
今回取り扱ったのは、“歪曲”であり、像面自体の湾曲とは関係ありません。ですから、作図も敢えて像面が平坦だと相当して描いています。
 絞りの中心を通る光線が、光学系入射前と射出後で平行に出て行けば(つまり角倍率=+1)、歪曲はなくなります。


松本の光学講座 2024;応用編-4/Spherical Aberration/experiment/ 球面収差の補正(実験)

 球面レンズに球面収差があることは、皆さんもよくご存じのはずで、3/11に、球面の球面収差を可視化した図をお示ししました。また、3/14にも、+10Dの平凸レンズの実際の球面収差も図示しました。
 今回は、3/14の+10Dの平凸レンズの後ろに、上図のように-5Dの凹平レンズを配置したらどうなるか?について検証してみました。
 F 点が近軸焦点(下の図も同じ)で、赤い点で示しました。下の、等価の平凸レンズに比べて、高さ30mmの平行光線の焦点位置がずっと近軸焦点に接近したことが分かります。

 システムマトリックスから、合成パワー=6Dと出ましたので、比較をフェアにするため、元の10Dではなく、6Dの平凸レンズについて、下に近軸と高さ30mmのそれぞれの焦点を図示しました。

+10Dと-5Dのレンズを密着させると+5Dのレンズになりますが、図の間隔に配置した結果、+6Dの合成パワーになりました。
 収差補正の考え方ですが、+(凸)レンズの収差を、逆の収差を持つ ー(凹)レンズの収差でキャンセルしようというものです。一番分かりやすい例としては、
+10のレンズにー10のレンズを重ねれば、球面収差を初めとするほとんどの収差がキャンセルされますね。同時にレンズとしてのパワーもゼロになりますがね。
 収差はキャンセルしながら、凸レンズのパワーを残す方法はないのか?という話です。
同じ凸レンズの度数でも、形状や配置で収差量が変化する実例を、昨日お見せしました。
球面収差が小さくなるように形状を配慮した凸レンズと、敢えて球面収差が大きくなる形状の凹レンズを組み合わせれば、凸レンズ成分を残しながら、球面収差を軽減、キャンセルできるのではないか?という話です。

 先日も申しましたが、今は優秀な無料の光線追跡ソフト(アプリ)が利用できる時代なので、こうした考察は無意味だとお考えでしょうか? 
 私はそうは思いません。そうした便利ツールを利用し始める前に、原理を体感しておくことは極めて重要なことだと思っています。

 蛇足になるかも知れませんが、上の要素行列についてご説明します。

 まず、光学面が4面で、間隔(厚みも含む)が3つで構成されたレンズ系になります。
 従って、厳密には、屈折マトリックスが4個と、移行マトリックスが3個の、合計7つの行列が連なるはずですが、上の要素は5つしか書いていません。

 凸平レンズの平面と、凹平レンズの平面です。それらの等価薄レンズとしての屈折マトリックス(両方が同じ)を書いてみると、
1  0
0  1
  となり、
 単位行列となることが分かります。(パワー=0 だから)
 つまり、挿入しても何の変化も及ぼさないので、省略したわけです。





松本の光学講座 2024;応用編-3/Spherical Aberration/Just Playing/ 球面収差の実感(お遊び)

 せっかく用意したモデルなので、同じレンズで球面収差のシミュレーションをしてみました。
上は、前回の厚肉レンズ(18.0D)で、下はそのレンズを中央で分割して凸面を対面させた物。
 上下とも、高さ20mmの光軸に平行な入射光線。凸面対面密着で配置すると合成パワーが 20.0Dと、上のモデルよりも1割強強くなります。収差量の評価は、厳密には同じ焦点距離で比較すべきところですが、傾向を掴むには、そのままで十分です。下の方が、劇的に球面収差が改善していることが分かりますね。( F は近軸焦点
 直感的な解釈としては、
1. 合成パワーはレンズ間隔が開くほど弱くなる。
2. 凸レンズの球面収差は、光軸から遠いほど度が強くなるわけだから、上に行くほどレンズ間隔を開けば緩和することになる。
  ・・・ということで、説明が付きますね。^^

松本の光学講座 2024;応用編-2/Testing the theory/ エレメントの厚み/実際に検証

 昨日の講座の具体例について、本当に厚肉レンズの表面を削ぎ取って、中の平行ガラスを除去し、さらに間隔を1/N で保持したら完璧に等価な薄レンズ2枚系となるのか?実際に光線追跡してみました。
 上図がその結果です。見事に一致しました。
 上は、実際に1面ごとに近軸追跡した結果です。
(参考までに、実際に光線追跡した結果を黒い線でお示ししました。球面収差がよく分かります。)
 下は、等価なはずの2枚レンズ系の追跡結果です。
 その、等価な薄レンズ2枚系のシステムマトリックスを以下にお示しします。

 システムマトリックスの右上の成分、18 が、2枚レンズ系の合成パワーです。焦点距離=1/18=0.0555・・ m =55.55・・mmです。
ガラスの屈折率=1.5で、上の両凸レンズの r =50mm です。
 仮に、上のレンズの厚み30mmの間隔を残したまま中央の平行ガラスだけを除去したらどうなるか?ですが、上のシステムマトリックスの計算例から、中央の移行マトリックスの左下の成分 -0.02を-0.03に変えて、各自で計算してみてください。 合成パワーが 17D になることが分かります。つまり、同じ間隔のまま、中の平行ガラスだけを除去すると、合成パワーが弱くなるのです。
 その他に興味深いこととして、主点位置があります。元の厚肉レンズと、下の等価薄肉レンズ系とで、光学端面からの主点距離が同じになっています。しかし、下の等価肉薄レンズ系の間隔が小さいため、物側主点と像側主点の位置が交差しています。
 システムマトリックスの左上と右下の成分が等しいので、両主点の位置が全系の中心に対して対称になることが分かります。実際に計算してみると、(0.8-1)18 =- 0.01111・・≒ – 11mmになることが分かります。レンズ間隔=20mmなので、2mmほど交差することが分かります。
 以上、厚肉レンズが、所定の間隔で保持された薄肉レンズ2枚系と等価になることの検証でした。