Correcting mirror unit / EMSユニットの応用例

EMSユニットの無限の応用例の中のほんの一例です。LUNT35-BINO(10/15,2013)を発表した段階で、この応用に気付いておられた方も少なくないはずです。時間がないのに墓穴を掘っているようですが、BINOのリピーターの方のご依頼なので、断れません。^^;(Squeaky wheel gets the grease.^^;)

繰り返しになりますが、念のためにご説明します。 補正ミラーユニットを含めて2回反射なので、どのアングルでも裏像にはなりません。 この組み合わせでは、LUNTの時と同様120度対空の角度設定で正立像になります。 そして、仰角に応じて回転像となり、仰角0で完全倒立像となります。(カメラ側と同焦点にするには、カメラ側にもヘリコイドを噛ます必要がありますね。)

1/28追記: さっそく依頼者の方より写真が届きました。(大成功だそうです。一番下の写真)

55FL-BINO(自作)

Borg-55FL双眼をひとまず組み立てましたので、ご報告いたします。

Borg55FL→DZ-2(7517)→2インチホルダーSSII(7501)を介してEMSに接続し、アルカスイス互換のプレート(Sumwayphoto, DPG-2416)とクイックリリースクランプ(DDB-53)、 パンニングクランプ(DDH-02)を使ってビデオ雲台に載せています。

【製作まで】

金属加工などはできないが、組み立てるプロセスは楽しみたいという思いから、以下のような方針をたてて既存のパーツ を組み合わせて自作(というより編集作業)することにしました。

【方針】

製作するにあたり、剛性を優先し、シンプルな構成にすることを心がけました。松本さんとのやりとりのなかで、左右鏡筒の光軸の精度 が高いに越したことはないが、これにはさほど気を使うことはない、むしろ剛性が重要なのだが、素人の自作だとそこが弱いかもしれない、 と伺いました。そこである程度の精度を保ちつつ、がたつきの原因となる要素はできるだけ排除するという方針を立てました。Hyperion 36mm を使う予定だとお伝えしたところ、それならEMS-ULのほうがベターであると教えていただきましたが、相談の結果、やはりコンパクトな方がよい だろうということで、より小さいUMのボディで、ただし大きめのミラーを内蔵したものを作っていただくことにし、EMS部分の光路長はデフォルト での2インチスリーブ上端までで136mmとのことでした。
このシステムで最初に決めたのは、実は鏡筒と架台をつなぐ部分のパーツでした。BorgのDZ-2というパーツは、mini-Borg鏡筒の延長筒に台座 がついており、非公認ながらアルカスイス互換のクランプに取り付けられる「こともある」というものです。これを使えば架台に直接鏡筒を固定 できるので、鏡筒バンドを使うよりも剛性が増すだろうと考えました。事前にこのマウンティングの方法(クイックリリースクランプ)で大丈夫 そうか伺ったところ、「使えると思います」とのご回答でしたので、このやり方に決めました。

【実際に使用してみて】

1) 剛性と精度のバランス
口径が55mmと小さいこともあってか、このマウント方法でがたつきはいっさいありません。軽い鏡筒であれば70mmくらいまでは大丈夫かな、 と思います。また、精度も問題なく、Xネジの回転角度は松本さんが警告されている45度以内には十分におさまっています。前述のDZ-2は、 並行して購入していたSunwayfotoのクランプにしっかり固定するにはやや台座の幅が足りませんでしたが、台座とクランプの間に0.5mm厚のプラ板 をかませることでどうにか固定できています。アリガタ/アリミゾの噛み合わせが浅めなので、DZ-2を同じメーカーのプレートにネジ2本で固定した うえでクランプに取り付けるほうがより安心かとも思いますが、間にプレートを挟むことでネジ穴の遊びの範囲内で左右に鏡筒が振れるため、 左右鏡筒の光軸合わせがむしろ面倒になりそうです。直角なものに直角なものをかませるのだから鏡筒は嫌でも平行になる、調整機構は必要ないと楽観的に考え、 実際にXノブの調整は十分に小さな範囲で収まっているので、このまま使っています。

2) 2インチアイピース

平行・無調整で見ている限り、デフォルトの2インチホルダーのまま、Hyperion 36mmで、合焦機構なしで無限遠にピントが合います。 これは半ば偶然、半ば計算どおりでした。これで約7倍、実視野10度以上が得られ、たとえばオリオン座の三ツ星からリゲルあたりまでが同一視野に入ります。 Hyperion 36mmは2インチスリーブを外すとシュミカセメスネジが切られているので、EMSの2インチホルダーを外し、Borgの短い2インチホルダー~シュミカセ オスネジを経由してアイピースをねじ込めばスリーブ分の光路を短縮できます。こうしておけば対物レンズの後ろにヘリコイドを入れることもできそうでしたが、 なくてもピントが合いますし、大きなヘリコイドはコストがかかること、対物側にヘリコイドがあるデザインがあまり好きでなかったことから、このアイピース を使うときには結局合焦機構はつけていません。

3) 31.7mmアイピース

一方、複数所持している31.7mmアイピースはアイピース抜き差しでピントは出るのですが、倍率が高くなってくるともっと正確にピントを出したいと思うようになる だろうと考え、2インチ/36.4mmアダプタ(中古品を見つけましたが、形からするとひょっとしてEMSに付属していたものかも知れません)からBorgの接眼ヘリコイドS(4317)経由 で取り付けています。これでPhoton 25mm、Hyperion 21mm、WA 17mm、Nagler type6 11mmのいずれでもピントが出ます。PhotonのフォルムがEMSにマッチしてるようで気に入って います(Fig. 2)。ただし2インチ/36.4mmアダプタの取り付けネジの位置によってYノブを少し回さなければならないことがあり、できるだけ動かさないですむ位置を 見つけて使用しています。

4) X-Yノブ

はじめにご相談したときに、X-Yノブ付きのほうがよいかお尋ねしたところ、双眼で使用する場合には必須であるとご教示頂きました。実際に使用してみると、 その意味と便利さがわかりました。まず、このようなマウンティングの方法では上下・左右方向の光軸調整機構は一切ありません。かといって常に光軸が完璧であるわ けでもありません。X-Yノブの本来の目的はアイピース交換時に発生する光軸のずれの補正だとのことなので、ここに光軸の初期調整を補う働きをさせるのは本来の意図 とは違うことは理解しつつ、十分に小さな調整範囲ですんでいることからよしとしています。 双眼装置の光軸調整をすることがありますが、それは特定の軸方向への移動をネジで調節するような機構にはなっておらず、光軸が合ったと思ってもそれを固定するリン グを回転させるとまたずれてしまう、という使いづらさがあります。一方EMSにはこのような不便さは一切ありません。ただ、慣れないうちに暗闇でノブを回していると、 予想以上に大きく回してしまっていることがあり、リミッターと原点矢印表示は必須であると感じました。念のため、原点矢印の方向がわかるような触覚的な手掛り (エンボス加工のシールのような)を貼り付けようかと考えています。

5) 見え味

「星ってこんなにきれいだったっけ?」と驚いきました。いや、きれいなことは知っていたのですが、こんなにきれいだったのでしたっけ?小学生のころから望遠鏡を覗いていて、 大学卒業後20年ぶりくらいに星見に帰ってきたのですが、ヒアデスやプレセペ、オリオンの中心部などはもちろん、特に名所でもないところががこんなにきれいなものだった ことに、初めて気が付きました。ヒアデスはそれぞれの星の色の違いがよくわかりお祭りっぽいこと、プレセペは細かな光の点々がひっそりとしていて紫陽花っぽいこと、など、 恥ずかしながら知りませんでした。試しに片目を閉じてみてみると、これまで当たり前で 十分に綺麗だと思っていた、あの見え方でした。また、いま見ている円の中が切り取られた円ではなく、その円の外にも空が広がっていることが感じられるような気持 ちがします。これは正立であることも関係していそうです。地上からの連続的な風景の延長として空がある、というようなイメージです。メロッテの星団のリストのことなどいま まで考えたこともありませんでしたが、ああいう大きめの星団を鑑賞するという新しい楽しみ方を発見した気持ちです。寝る前に15分だけ、と思っても、1時間見てしまいます・・・。 秋のh-χが楽しみです。

【EMSシステム≠EMS本体】  さて、EMSを使いたいと考えた時に二の足を踏む要因のひとつに、「なんだか難しいのではないか」ということがあります。松本さんのHPには膨大な情報が含まれており、 それらを「反復精読」するように、「天文マニアでボール盤を持たないのは、一般家庭に包丁がないのと同じ(”過去の暴言”であるとのことで、安心しました^^;)」など、 いろいろと書かれているので、「自分のようなレベルのものが使わせてもらっていいのだろうか・・・」と不安になりさえします。

しかし、正立・双眼の魅力には抗いがたく、 おそるおそる順番に読んでみると、注意すべき点というのは実はそれほど多くなく、そこから派生する問題を含めて繰り返し述べられているのだということがだんだんとわかって きました(ノブを回しすぎない!もここから派生している)。つまり、操作する際には「光軸が物理的にあっているということと、心理的にあっているように見える(像が重なって 見える)ということとは全く別のことなので、自分に見えているものを信じないでください」、ということを主におっしゃっているのだと思いました。このことがなかなか理解され ずにご苦労されているのだということもわかりました。しかし私は仕事柄(基礎系の心理学の仕事をしています)、学生時代からむしろ「物理的な量と心理的な量はイコールではない」 ということを叩きこまれてきており、むしろこのことは、それこそ「家に包丁があるくらい当たり前のこと」としてすんなりと理解することができました。「輻輳」(左右の眼が互い に鼻側に向くこと、近い対象を見る時の状態)や「調節」(ピントをあわせるために水晶体の厚さを変化させること)について教えることもあり、松本さんの「寄り目」のご説明もすん なりと理解することができました。こんな事情もあり、機械部分の調整は松本さんを信頼して、あとは自分の目の癖、普段のものの見方を振り返って少し練習すれば大丈夫だ、と思える ようになったことで、購入を決意しました。

具体的な課題は、「平行法で立体写真をみられるようになること」でした。平行法は苦手でしたので、いつもは手っ取り早く飛び出すように、真ん中にはがきを立ててやっていまし たが、あれがいけなかったということに、まさか双眼望遠鏡を覗くときになって気がつくとは思いませんでした。少し練習すれば平行法もできるようになりました。また、酔っ払うと 平行・無調節が難しくなることもわかり、酒量もへり、おかげで体重まで落ちました。EMSはダイエットにもいいようです。

また「器械近視」という言葉も教えていただき、確かに自分がアイピースを覗くときにはそのような状態になっているということにも気づきました(言われないと普通 そんなことには気づきません・・)。そのうち、輻輳・調節をせずに覗くためには、20-30cm離れたところから、できるだけ「うつろな眼差し」でアイピースを覗き、左右2つ の視野円がひとつの円に重なるのを待ってから、その円の中にダイビングするような気持ちで徐々にアイピースに眼を近づけるとよいことがわかりました。このとき、その円が 投影されているレンズが水面だとすると、その水面を通り越して水の底を見るというつもりでダイビングしないと、寄り目になってしまうようです。これができるようになった結果、 「左見て右見て」法もできるようになってきたと思います(遠くのアンテナで光軸調整すると、Xノブを回したときに右鏡筒からの像がスーッと動き、やがて左鏡筒からの像にぴた っと重なる、ただし像が十分に接近してくるとおそらく眼が勝手に合像しようとしているのか、像がぴょんと飛んで急に重なるように見える。この最後のぴょん、を意識的にコン トロールできるようになるともっと正確に合わせられるのかなと考えています)。

先述のHyperion 36mmは合焦装置がなくともピントが合うと言いましたが、実は初めて覗いたときには もう少し対物側に寄せたいと思いました。しかしこれはおそらく「器械近視」の状態(「寄り目」で見ているので、それにともなって水晶体の厚さもより近くを見るときのように厚 くなっている状態)になっていたのかと思います。平行・無調節で見るように意識してしばらくするとピントが合い、その後アイピースから眼を離して肉眼で空を見ても違和感 はありませんでしたので、うまく見られていたのだと思います。というわけで、EMSのシステムというのはハード面(EMSの本体、架台、機構など)だけではなく、ソフト面 (松本さんのHPに掲載されているいろいろなアドバイスや双眼視するときのちょっとしたコツ)を含めたものであるというように理解しています。

以上のようことはまた新たなタイプの誤解なのかもしれず、「また新たなタイプのややこしい奴が出てきた・・」とがっかりされるかもしれませんが、もし誤解がありましたら教えて いただけますと、また新たな発見ができて大変参考になります。
松本さん、いろいろと知らなかったことを教えていただいて、本当にありがとうございました。今回は物以上の買い物をさせていただいたと思っています。

※EMSユーザーの方のレポートは今回のbinoを自作(編集)する上で大変参考になりました。この場をお借りしてお礼申し上げます。今後binoを使われる方の参考になるような情報 を自分も提供できれば、皆様へのお礼のかわりになるかと思い、書かせていただきました。普通ユーザーレポートは器械部分の仕組みや見え味などを書くことが多いと思いますが、 binoの普及と、二の足を踏んでおられる潜在的なユーザーの方のお役に私が立てるとすれば、心理の専門家としての立場から感じたことを書くことかと思いましたので、 特に後半はこのような内容になりました。

Mr.T.H. in Kyoto

管理者のコメント;

BORGより最近リリースされたFL55対物レンズを使用したBINO自作のリポートをいただきました。 市販パーツのみをうまく組み合わせて実用的なBINOを実現しておられるところに意義がありますが、 それ以上に、光軸調整等のEMS-BINOの根幹の部分でEMSの製作者の気持ちを代弁してくださっているところに 新鮮な切り口があり、かなり溜飲が下がった気がいたします。^^(T.H.さんには、去年の12月にEMS-UMLのみを納品させていただいていました。)

EMS-BINOは、機械的な精度だけを追求してもうまく行きません。実は(マニアや業界の方々が大好きな言葉である^^;)”精度”という言葉 自体がそぐわないのですが、敢えて”精度”という言葉を踏襲すると、「機械的な精度と調整技量を含めた最終的な精度が重要だ。」ということになります。 誤解を招くといけないので、断っておきますが、「機械的精度はどうでも良い!」と言うつもりはありません。機械的な誤差は、合理的な調整機構の ストロークに十分吸収される量であれば残存していても問題はなく、機械的な剛性がその初期状態を常に保持できていれば良いわけで、そこが、精度よりも剛性が 優先される所以です。

”3) 31.7mmアイピース”の段落で書いておられる36.4ネジ→2インチアダプター(キャップ形状)は、ご推察のようにEMS-UM/US用の標準31.7ADの基部を構成する非常に 汎用性の高いパーツです。 本来であれば、今回もこのアダプターを付けて納品させていただくところでしたが、2インチスリーブセットのみを希望されたため、その組み合わせのみでお送りした次第です。
31.7用のヘリコイドですが、直進タイプでなく、敢えて回転タイプを選択されたのは、光路長のためでしょうか。

T.H.さんは、光学の専門家でも、望遠鏡工作のエキスパートでもないとのことですが、上記に書かせていただいた、EMS-BINOのツボのようなものを 非常に良く理解されたことが、今回の成功につながったのだと思います。 T.H.さん、今後もそうした”ツボ”の部分をより多くのマニアの方々に啓蒙していただけましたら 幸いです。 続報を期待しています。^^ ありがとうございました。

追記、ベースレールの中央にセットしておられるブラケット状のパーツは、ホームショップで調達されたそうで、運搬用取っ手兼、デザイン上のアクセントだそうです。^^(一番右の写真)

Hit on a great IDEA !! / 完璧な解決策(フランジ加工:15cmF5-BINO)

I have reached an optimum solution for replacing the original focuser for the larger commercial one.

まさに”窮すれば通ず”、理想的な解決策が閃きました。 フォーカサー外筒の末端リブの受けは平坦でないといけないという固定観念を捨てたところ、道が開けました。 鏡筒フランジ開口部の内径をフォーカサー外筒ぴったりに加工した後、フランジの中側から挿入すると、フォーカサー外筒のリブがフランジ内径の円錐面に当たって自動的に完璧な軸出しが出来ていることに気付きました。後はフランジの3方からセットビスで外筒末端のテーパ面を押すだけで完璧に固定できます。 もちろん、回転位置も自由に調整できます。(つまり、フォーカサー末端部の追加工が一切不要になった、ということです。^^)

長くお待たせしていますが、ほぼ即納を達成するための準備だったことをご理解いただけたでしょうか。 こうしてパーツを徹底してモデュール化すれば、BINOは作らずに構成できる^^;ようになるのです。^^(EMSと中軸架台だけでほぼBINOになる。)