人類の至宝(補足2)

もう少し、逃げないでお付き合いください。 私は数学が理解できなくて悶絶し、一時は絶望した経験の持ち主です。 ただ、 それは自分に数学の適性が無かったからでも、馬鹿だったからでもないことに、ずっと後になって気付きました。  早い段階で気付いていれば、自分の人生はまた変わったものになっただろうと思っています。  私は、理解できない感覚を肌で知っているので、分からない方に理解させることへの確信を持っているのです。

過去2回のご説明は、やや性急で、準備運動が足りずに、筋を痛めてしまった方もあるやも知れません。 今日は、より基礎的な部分のおさらいをさせていただこうと思います。

2の2乗は4ですね。 指数を覚え始めの中学生に、「それでは3の2乗は何?」と尋ねると、大抵、 「3の2乗=6です。」と答えますが、3の2乗=3×3=9 が正解です。  初めての人にとっては、このように、累乗の意味を理解するだけでも、ちょっとしたハードルがあるのです。

それでは、(2の2乗)と(2の3乗)を掛け合わせたらどうなるでしょう?  (2×2)×(2×2×2)=2×2×2×2×2=2の5乗(32)になるのです。
これより、2^2 * 2^3=2^(2+3)=2^5 ( ^ は乗、* は× のこと)のように計算方法を定義することが出来るのです。

同様に、(2の5乗)÷(2の2乗)を考えてみましょう。
(2×2×2×2×2)÷(2×2)=(2×2×2×2×2)/(2×2)=2×2×2 より、
今度は 2^5 ÷ 2^2 = 2^(5-2)=2^3 ということで、 指数の計算の約束がどう決められるかが分かると思います。

この約束に従って、(2の2乗)÷(2の2乗)を計算してみましょう。 同じ数を同じ数で割るのですから、当然答えは1ですが、 ここでは、忠実にさきほどの指数計算の手順を踏んでみましょう。
2^2÷2^2=2^(2-2)=2^0=1 となるわけです。 これより、任意の実数 a の0乗が常に1になることが納得いただけた と思います。
これでも納得しない方があるかも知れないので、ダメ押しにもう一つ例を挙げます。
(2の3乗)に(2の0乗)を掛けると、2の(3+0)乗=(2の3乗)になります。(2の0乗)が1以外では、この計算方法の 約束が成り立ちませんね。

前置きが随分長くなりましたが、以上が e^iθに、θ=0を代入すると、e^iθ=e^0=1となる理由です。(i×0=0)

また、任意の複素数が、2つの実数、a,b と虚数 i を用いて、x軸を実軸、y軸を虚数軸として、ベクトル同様に、 a + bi と複素平面上に表すことができることは、各自でおさらいしていただく必要があります。(昔の教科書や、関連Webサイトを ご参照ください。)

メガネの度数(2)

快適なメガネの度数の決定に腐心する理由の主なものは、私たちの眼が二つあることです。  このことを説明するのに格好のお客さん(Aさん:20歳代)が今日見えたので、実例に即してお話してみます。

Aさんの裸眼視力は、右が0.15で、左が0.05、一般の方が見ると、かなり眼が悪い方だと思われるでしょう。  しかし、中等度以上の近視(普通の近視)であれば、裸眼視力は0.1以下が普通であり、特に珍しい眼ではなく、 また近視自体は病気ではなく、ある意味、身長のばらつきのように、標準の屈折状態から少し外れた眼だと理解しても 良いと思います。

問題は、この方の左右の矯正度数がどうなるかです。裸眼視力に左右差があっても、実際の眼の度数(屈折異常度) は大差がない場合もあります。

検査結果は、右=-2.00Dで、左=-4.25D (これに加えて少量の乱視もあった。)で、矯正視力は、左右共1.0くらい出ていました。(矯正視力 は個人差がある。)

このままの度数でメガネを作るとどうなるか。5分も掛ければ頭が痛くなり、眼も開けていられなくなるのが普通です。  レンズの歓迎されない副作用として、像の大きさが変わってしまうのです。近視用の凹レンズの場合は、度が強いほど 物が小さく見えるという副作用があるので、左眼の方が相対的に小さい像を見ていることになるのです。 脳は大きさの違 う左右の像をコンポジットして一つの画像として処理しないといけないのですが、重ねる像の大きさが違うと、脳は非常 なストレスを感じることになるわけです。

乱視の場合は、度数に方向性がありますので、向きによって倍率が異なるわけですが、左右で乱視の軸方向が異なる 場合、たとえば、正方形を見たとき、微妙に菱形に見え、その変形方向が左右で異なるわけですから、これを重ねて コンポジットするために、脳はかなりのストレスを強いられるわけです。

さて、結論として、どうするかですが、違和感がほぼ無くなるまで、左右の度を歩み寄らせるのです。通常は弱い 方の度を強めるわけにはいかないので、大抵は、強い方の度を弱めることになります。

因みに、初めてメガネを掛けるAさんには、右=-2.00D、左=-2.50Dを掛けていただくことにしました。  一般的には、頑張れば左右の差が2.0Dくらいまでは慣れると言われていますが、成人した方が初めて掛けるメガ ネとしては、左右差1.50Dでも十分辛いもので、敏感な方の場合は、上記のレベルまで慎重にしないといけないこともあるの です。こういうケースでは、数年をかけて段階的に矯正して行くことになります。
この処置によって、度の強い方の眼はぼけて見えているはずですが、両眼開放した状態では、全く問題がない( 快適)のが普通です。(右=-2.00、左=-3.00くらいにしたい ところですが、欲張ると大抵失敗するものです。^^; )
It’s the last straw that breakes the camel’s back.

蛇足: 幼児(小児)の場合はこの例にあらず。 先日、某病院眼科の処方で、右=+1.0D 左=+6.0D (6歳)というのがありましたが、 この子はメガネを掛けた瞬間から、ニコニコして快適そのもの。 子供の順応性、恐るべし。

人類の至宝(補足)

「人類の至宝」の反響がなくて、ちょっとがっかりしていたところで、少なくとも2名の方から明確な 反応があった。

最初の方は、60歳代後半の、地元で会社を経営している方で、何と、該当文をプリントアウトして、「教えてくれ・・。」と訪ねて 来られた。この方は、体系的に数学を学習されてはいないが、好奇心と研究心の旺盛さにはいつも脱帽し、見習わせていただいている。 さすがに息子さんを東大に入れた(すでに卒業された)だけのことはあると、いつも納得。

ただ、複素数も三角関数も未経験の段階では、オイラーの公式を理解するのは無理なので、定性的な話をさせていただいた。

最初の方への回答の要約:

「 私たちが日常生活で直接接している数は、実数といって、直線上の1点に対応させることが出来ます。ゼロを中心にして、左側がマイナス、 右側がプラスです。実数だけを扱っても、いろんな仕事は出来ますが、上の数直線とゼロ点で直交するもう一つの軸(虚軸) を加えて、二次元平面上の1点で表すように定義した数を導入すると、一挙に世界が広がるのですが、この数のことを”複素数”というのです。
直線をよく理解するためには、自分が直線の世界に閉じこめられていたのではダメで、平面の世界に視点を置く必要があるのです。
また、平面の世界を理解するためには、自分の視点を3次元の世界に置く必要があります。 ですから、あり得ない虚の数をもて 遊ぶのではなく、実の世界をより良く理解するために、視点をより高い次元に置いて眺めることが極めて有効なのです。
オイラーの等式の凄いところは、e やπ や i が不可思議なのではなく、それらが1体となって、マイナス1という単純な数になる ところが驚異であり、美しいと言われる理由なのです。」・・・ますます混乱しました??^^;

2人目の方は、私の友人(東大卒^^;)でした。自分のブログに私のHPの「人類の至宝」のことを書いてくれ、「やはり理解できない、今度 鳥取に帰った時に教えてくれ・・」と 言うので、以下のように返信を入れておいた。(その返事はまだ来ていない。)

「 ***さんに小生が教えるなんて? おこがましくて・・・、 でもおだてに乗りやすい小生。・・・・・
e^iθ は直接手で触れて見ることが出来ません。透明人間が泳いでいるようなもの。 だから水しぶきを見るのです。
まず、θ=0のとき、e^0 = 1、これは良いですよね。
厳密なことは置いておいて、θにゼロ以外の数値を代入すると、e^iθ は複素平面上の1点を占めると予想できますよね。  残念ながら、e^iθ の値は直接求められないので、その点がθの変化につれてどう動くかを考えるわけです。
そこで、その点の速度を求めるために、e^iθ をθで微分すると、ie^iθ となり、これはe^iθに直角ですよね。 つまり、位置ベクトルに対して常に直角方向に動くわけです。
さらにθで微分すると加速度が求まるわけですが、これが何と、-e^iθ で、原点に向かっているではないですか。  これはまさしく円運動です。
それで、e^iθ =cosθ+ isinθ となるのです。θ=π を右辺に代入すると、マイナス1になりますね。  また、試しに右辺を微分すると、
-sinθ+icosθ = i(cosθ+ isinθ )で、元の式と直交していますよね。
さらに微分すると、-cosθ-isinθ=-(cosθ+ isinθ )ですから、元の式と逆向き(原点向き)ですよね。
・・・・くどい説明で失礼いたしました。」

実業高校しか出ていない私が東大出の友人に講義するとは、何ともおこがましい。 それにしても***君は謙虚な人だ。 夏にはまた 一献交わす魚が出来た。^^;

我ながら、私は本当にしつこい人間のようだ。 だから最近は娘にも敬遠されて、よっぽど困った時以外は私に質問しなくなった。^^; ;;
でも、感動したことについては、一人でも多くの人とその喜びを共有したいと思うのだ。^^;  分からない時も孤独、分かってしまっても孤独、 人間の宿命か。
Der Mensch ist ewig einsam. (←30年前、ドイツ語にかぶれていた頃のお気に入りの言葉。 間違っていたらご指摘ください。^^;)

人類の至宝

少し前に、高2の娘が学校の数学で”虚数”の単元に入ったと言ったので、教科書を見てみた。 ところが、複素数平面や極形式、ド・モアブル の定理等の記載が全くないので、Webで調べてみたら、何と、2003年からの新課程で高校数学から消えていたことを知り、
愕然とした。

ベクトルでも、内積を教えるのに外積を教えない。ベクトル、複素数、三角関数、指数関数等は密接にからみ合い、それらをセットで 学習してこそ、その醍醐味が味わえるのに、誠に残念なことである。

e^iπ = -1 は、人類の至宝と言われる、オイラーの等式だ。

これは、e(自然対数の底;2.71828・・・)の iπ乗( i は i^2=-1で定義される虚数、πは円周率)=-1ということだ。

つまり、(2.71828・・・)の(i x 3.141592・・・)乗がマイナス1になるということ。
何で??
e^iθ をマクローリン展開すれば簡単に導くことが出来るのだが、f(θ)=e^iθ のグラフを描いてみれば、視覚的に 一目瞭然となる。

まず、e^iθ には i が含まれているので、複素平面上の1点に対応するはず。そしてf(0)=1 である。 θで微分してみると、f'(θ)=ie^iθ となり、絶対値は元のままで方向が位置ベクトルと直交していることが分かる。つまり、速度は大きさが 一定で位置ベクトルに常に直交しているということだ。

さらにその速度f'(θ)=ie^iθをθで微分してみると、加速度f”(θ)=-e^iθ となり、大きさは元のままで、向きが原点に 向かっている。 すなわち、これは半径1の円を描くことになるのだ。

つまり、e^iθ = cosθ + i sinθ (オイラーの公式)となり、θ に π を代入すれば、マイナス1になるのだ。  このオイラーの公式から、ド・モアブルは元より、三角関数のあらゆる公式も簡単に導出することが出来る。

一例を示そう。
e^i(α+β)=e^iα * e^iβ を オイラーの公式によって計算してみてください。
sin cos の加法定理が一挙に導けて、笑いが止まらないはずです。

EMSは60度の偏角のミラー2個を適当なねじれ角で組み合わせたものですが、そのねじれ角θを解析してみたら、 何と、cosθ=1/3 という単純な数字で表されることが分かった。当人は仰天、感動したのであるが、今日までそれに関する コメントを誰からもいただけないのは、非常に残念なことだ。