メガネのマツモト製EMSで軽量・コンパクトな20cmシュミカセ双眼を製作
「軽量・コンパクトな双眼望遠鏡が欲しい。しかもできるだけ大口径で・・・・」 大変ムシのよいコンセプトです。
軽量・コンパクトで大口径と言えばやはりシュミカセ。しかも筒外焦点距離も長く取 れるからEMSをつければ正立対空90°も実現できる。もうこれしかないでしょう、 ということで20cmシュミカセを2本使って製作を開始しました。しかし・・・
眼幅調整を鏡筒平行移動式としたため箱形の左右連結部分その他の重量がかさみ、一 式重量が20kgを軽く越えてしまい、重い! またEMS部分も自作のため光路長が 長く、焦点引き出し量が多くなってバッフル先端で口径が18cmくらいにケラれる、損 だ! これでも一応星は見えたのですが、何か違う・・・軽量・コンパクトな20cm 双眼望遠鏡を作るはずだったのに。何とかしなければ。
そこで、まず鏡筒の平行移動をやめ、余分な重量物は全部取っ払って左右の鏡筒を ガッチリとビス止めしました。これで大分軽量化し、左右鏡筒のインターバルも最小 となりました。しかし、こうするとEMSの第一・第二ミラー間の距離を変えること で眼幅調整を行わなければならなくなります。
よし、ヘリコイドを入れたEMSを作るぜ! と思いましたがミラーにニュートン式の 斜鏡を流用している限りどうやってもハウジング部分が大きくなって左右鏡筒のイン ターバル内に納めることができません。おまけに使うつもりだったボーグのヘリコイ ドTが製造中止になってるじゃないですか。 この時点で私の「軽量・コンパクトな20cmシュミカセ双眼」という目的を達成できる 選択枝が一つしかないのがハッキリしました。そう、「メガネのマツモト製EMS」で す。即、発注。
「メガネのマツモト製EMS」は多種ありますが、私が松本さんに製作依頼したものは
1 2インチ仕様 2 ヘリコイドで眼幅調整 3 左右像合わせチルト機構 4 防塵フィルター 5 左右鏡筒のインターバル指定
というカスタマイズのものです。
ほぼ即納された「メガネのマツモト製EMS」は自作のモグリEMSばかり作ってきた私に は本当にすばらしい物に見えました(一瞬、使わずに床の間に飾っておきたい衝動に も駆られましたが、もちろんそんなことをしても何にもなりません)。
まず、ミラーが細長い! 私たちがEMSを自作するときは、長径:短径=√2:1のニュートン式の斜鏡を流用 するのが一般的なんですが、これだと短径が大すぎて干渉するからハウジングが大き くなってしまうんです。しかし「メガネのマツモト製EMS」では斜鏡を流用してある のは同じなんですが、長径:短径=2:1ぐらいに細長く削りこんであるんですね。 これによって最小のサイズで最大のイメージサークルが得られる、と。当然ハウジン グもコンンパクト化できます。
チルト機構の操作性が素晴らしい! 双眼仕様のEMSは右側の第一ミラーハウジングに「左右像合わせチルト機構」が設 けられています。これは左右の像が微妙に狂った時、二本のツマミをXYに操作して 瞬時に合致させるという優れものです。双眼鏡と双眼望遠鏡の違いのひとつは左右像 の合致をユーザーに調節させるか否かだと思いますが、その考え方の根幹をなす機構 と言えましょう。また私のようにシュミカセで双眼望遠鏡を作った場合、ピント合わ せのミラーシフトで左右像がズレますのでその修正に必須です。
眼幅調整のヘリコイド(ペンタックスのやつ)が同じ向きに回せる! 眼幅調整のヘリコイドをそのまま取り付けると、眼幅を狭める、広げる、どちらの動 きでも左右逆向きに回さないといけないので操作性が悪くなります。「メガネのマツ モト製EMS」では左右ヘリコイドが上下逆転して取り付けられているので同じに向き に回せばいい。これはやりやすいです。
このEMSを取り付けて完成した20cmシュミカセ双眼の鏡筒部(耳軸、2インチアイ ピース含む)ですがなんと総重量12.4kg! 20cmの双眼望遠鏡としてはひょっとして日本一軽いのではないでしょうか? なんて 思ってしまいます。。「メガネのマツモト製EMS」のおかげでしょう。しかしEMSは決 して安価なものではありません。今回の私の20cm双眼でも総制作費の半額以上がEMS のコストになってます。
松本さんのHP上で言うのも何なんですが、EMSの原理を応用した正立ミラーユ ニットの自作は可能です。私も実際に何回か作ってみました。今はウェブ上でいろい ろな情報が得られますのでそんなに難しい物ではないと思います。ひょっとしたら自 作はEMSの構造や調整方法を知るのに一番いい方法なのかも知れません。それになん と言っても安くできるし、製作機材によっては十分実用性のある物が作れると思いま す。
しかし、今回の私のようにギリギリの条件でやろうとした場合、まず自作は無理で しょう。技術と製作機材環境に恵まれた人が時間やコストを度外視して取り組めば別 だとは思いますが、それだと「メガネのマツモト製EMS」を買った方が安いはずで す。さて、皆さんはどうお考えになりますか?
話は20cmシュミカセ双眼に戻ります。 常用アイピースはWS30mm、67倍です。 鏡筒の平行調整に手間取っていたのでまだあまり稼働していませんが、さすが、20cm だけあってそれまで使っていた10cmの屈折双眼とは全然集光力が違います。銀河の構 造なんかがわかりやすいです。瞳径も小さめなのでバックも黒く引き締まって好みで す。しかし、地上の風景なんかで見るとコントラストは明らかに屈折に負けますね。 風景は視野も広い10cm屈折のほうが楽しめます。
でもまあ、何と言っても20cm双眼にしちゃ軽いので、持ち出すのが苦にならなくてい いですね。これが一番です。以上です。
天気は悪いですが、晴れ間をねらってちょくちょくC8双眼も稼働しています。 今までは等倍のクイックファインダーのみで導入していましたが、やはり暗い星が見 えないのでやりづらいものでした。そこで、5cm14倍・実視界5°(アイピースは ボーグSWK22mm70°)の正立ファインダーを自作して取り付けました。「実視界5 °」は僕が常用している「フィールド版スカイアトラス」の拡大星図部分(直径5° の円や長円で表示されている場合が多い)を意識したものです。ファインダーで見え る星野が拡大星図のイメージに近いので大分導入しやすくなりました。明るい対象だ とファインダーで直接確認できるのも○です。ただ総重量13.2kgと少し重量増にはな りました。
ハンドルは、前のセパレートタイプが少し剛性がなかったので、左右一体のものに 付け替えました。ただこれだと頭の左右に両手を持ってくる形になって少し面倒です ね。ハンドルはシュワルツ双眼のようにアイピースの下にT字型にあるのがベストだ と思います。
今後の最大の課題は、EMSと鏡筒接眼部との接続の強化です。 20cmともなるとEMSの第一ミラーと第二ミラーの距離(オフセット量)も結構なもの となります。EMSは2インチバレル&スリーブで三方向からネジで締め付けることに よってシュミカセ接眼部に固定されているのですが、モーメントの先端に2インチア イピースという重量物がついていることもあって、ちょっとした衝撃でほんの少し回 転してしまうんですね。すると、てきめん像の回転方向ズレとなって現れてきます。 何とか固定したいのですが、EMS部分に傷を付けずにできる方法がまだ思いつきませ ん。今後の懸案事項でしょうか。
あと、焦点をかなり引き出しているのですが、厳密な合成焦点距離はよくわかりま せん。とりあえず、ノーマルの20cmF10と考えると、常用アイピースWS30mmで67 倍、瞳径3mmということになります。この瞳径は結構、眼の位置に敏感になり双眼望 遠鏡では眼幅の調節がシビアになる、と言った形であらわれます。具体的には「片目 ブラックアウト(?)現象」が発生しやすいですね。眼幅が合ってないことによる 「片目ブラックアウト」は、慣れてない人に双眼望遠鏡を見てもらうときにすごく心 配な部分です。
もちろん慣れている人でも瞳径が大きい方がルーズに見られて楽なのでもっと長焦 点のアイピースも導入したいところです。しかし、2インチスリーブの制約上、見か け視界80°を越え、なおかつ30mm以上の長焦点アイピースは実現が難しいでしょう。 市販品の例では40mmだと60°、50mmだと50°ぐらいの見かけ視界になってしまうで しょうか。僕の場合、見かけ視界が広いことが最優先なので、これらのスペックでは あまり食指が動かないところです(いや、しかし、一応そろえておいた方がいいかな ・・・・)。
さて、20cmの集光力は思っていたより結構なものでした。僕は散開星団のM35が好 きなんですが、10cmで見るM35と20cmで見るM71(M35よりだいぶ小さいやつ)が同 じくらいの感じに見える気がします。ぎょしゃ座の3つの散開星団を見るのが今から 楽しみです。球状星団では、M13などあんまり大きく明るく見えたので「何かの間違 いでは?」と思ったくらいですし、10cmでは無理だったちょっと小さめの球状星団も 楽々分離します。少々透明度の悪い日でもM8、M17などメジャーな対象はそれなりに 楽しめます。ずいぶん観望の幅が拡がりました。今、「フィールド版スカイアトラ ス」に載ってる対象を順番に見て行ってるのですが、それぞれの対象についているコ メント内容がよく実感できます。なかなか楽しいものですね。自分としては個人的に これ以上の大口径双眼は稼働不可能だと思いますので20cmの双眼望遠鏡でこれだけ見 えたのはうれしい誤算でした。
光学性能ですが、星像はそれほどシャープではないかも知れません。でも、これは 光軸を必死で追い込んでないからのような気がします。焦点内外像がパッと見た目で 同心円状に見える程度にはしてあるんですが、67倍で見てる限りではほとんど気に ならないので「これでよし」とし、一回合わせた後はいじってないです(面倒くさい ので)。あとF10、fl=2000mmだけあって、短焦点屈折と比べると視野はかなりフ ラットだと思います。最周辺はさすがに崩れますが。
横山 均 Hitoshi Yokoyama
Comment by Matsumoto/ 管理者のコメント;
横山さん、初めてのシュミカセ双眼のリポート、ありがとうございました。 シュミカセ等のカタディオプトリックタイプのBINOは、今まで10台以上手掛けて来たはずですが、 ずっと以前に北海道の方が天ガに投稿してくださったのを最後に、ほとんど公開されなかったように記憶します。
この度の横山さんのリポートは、シュミカセであるということだけではなく、シュミカセBINOの自作経験者ならではのコメントを いただいていることに、高い価値があると思います。
内蔵ミラーの形状とか、X-Y調整機構の意義についてのコメントは、自作に苦労された裏付けがあればこそでしょう。 極めてシンプルで合理的な作りになりました。グリップも90度対空として絶妙な位置に配置してあり、全体とのバランスも絶妙です。 去年の望遠鏡サミットでは、私のEMSを使用される前の段階でしたが、自力で仕上げられたユニークなシュミカセ双眼が参加者の 注目を集めていました。 この度さらに洗練されたシュミカセ双眼、今年の望遠鏡サミットで見せていただくのが楽しみです。
シュミカセは、主鏡を移動させる合焦機構により、いくらでも焦点を外に出せるのが好都合です。また、それによる収差量の変化も、理論家が心配するほどではなく、 EMSが要求する程度の引き出しであれば、実害もありません。 ただ、主鏡を移動させて焦点を引き出しますから、合成焦点距離は伸びます。恐らく、元のF10がF12近くにはなっているでしょう。 もっとも、20cmF12の双眼があのようなコンパクトさ、軽量さで実現すると考えれば、有利な特徴とも言えますが。
また、本来の合焦操作時のミラーシフトの心配もありますが、その代わりに接眼部が固定なので重量物の接続には有利で、並の繰り出し装置のガタと比較すれば、致命的な減点にはならないかも分かりません。 さらに、他の合焦機構を外付けする解決策もあります。 総合的に見て、双眼望遠鏡の素材としてのシュミカセのデメリットは低倍が得難いこと、メリットは大口径が非常に軽量コンパクト、 しかも安価に実現することでしょうか。 私は自分で製作しながら、シュミカセ双眼で実際に夜空を見たのは一度しかありませんが、球状星団のM15の凄さが印象に残っています。 また、地上風景には向かないようにおっしゃっていますが、口径が大きく、倍率も高いので、地表付近のシーイングの影響も考慮する 必要があると思います。 至近距離を見ると、意外なポテンシャルに驚かれるも分かりません。私の所から、数十メートル先の市役所の外壁のひび割れが非常にシャープ に見えたこと、また数百メートル先のネオンサインが綺麗だったことが印象に残っています。大地が冷えている早朝等、森の木々を見ても楽しいことでしょう。
横山さん、懇切なリポート、本当にありがとうございました。 今度はぜひ観測リポートを追加してくださいますよう、お願いいたします。