理想の90°対空正立ミラー / The ultimate erecting mirror
EMS(Erecting Mirror System)は、私(松本龍郎)が開発した天体望遠鏡アタッチメントです。
EMSは、 2回のみのミラー反射 で、 像質劣化なく正立像 が得られる、理想的な90°対空オプションです。
1989年にEMSを開発、1994年に特許を取得し、その後様々な改良を繰返しながら、現在の完成形に至っています。(現在は特許開放済み)
I released the first EMS, Erecting Mirror System, in 1989, and it was patented in Japan in 1994.
EMS is the innovative two-reflections’ erecting system that offers non-reversed upright image at the right angle viewing position
, with no unwelcome deterioration of the image. Since then, EMS has evolved into the current products.
従来、90°対空の眼視を実現するには、
天頂ミラーによる裏像
プリズムによる像質劣化
このいずれか2択しか選択肢が無く、裏像を回避するにはプリズムによる像質劣化を妥協するしかありませんでした。
たとえば、一般的な市販の90度対空双眼鏡は、ペンタプリズムで光路を90度曲げてから、さらにポロプリズムで像の左右上下を反転させて正立像を得ています。後者の大型ポロプリズムは、主光線が非常に長いガラス中の光路を通りながら4回の反射を繰り返すものですが、90度対空の場合は、そのプリズムに入る以前に、主光線は大きなペンタプリズムの非常に長いガラス中の光路を通り、2回の反射を経ているのです。
しかもペンタプリズムでは、入射角の関係で全反射を利用できないため、内反射面にメッキ(蒸着)を施していますが、その辺でも光量のロスの可能性を秘めており、一般的に同じメーカーの同口径の直視タイプと90度対空型を比べれば、常に後者が性能的なハンディを負っているのが普通です。 つまり、市販の90度対空双眼鏡は、非常に長いガラス中の光路(吸収ロス)と、合計6回の 反射を経て正立像を得ているわけです。(90度対空型では、ペンタも含めて正立系を構成するのですが、メーカー、販売店では、この辺を開示せず、ポロプリズム部分の4回反射のみを表示していることが多いようです。)
一方、EMSでは、ガラス中の光路が全くなく、高精度銀ミラーによる2回だけの表面反射で90度対空の正立像を達成しているために、あらゆる光学的なノイズの発生原因自体が最小限となっています。 このことが、EMSがアクロ、アポ云々の次元を超えて圧倒的に抜けの良い像を提供している理由です。
また考え得る他の2回反射の光路偏向システムの中で、EMSが最も消費光路長が短い事も特筆すべき点です。
(鏡筒切断等、大規模な改造無しに利用出来る可能性が高い)
上の3枚の写真をじっくりと比較してみてください。右の正立像が最良であることは勿論ですが、絶対的な天地方向を規定できない宇宙空間では、左右(両端)の写真は基本的には同じ物であることが分かります。
つまり、倒立像までは何とか許せますが、真ん中の裏像は全くの別物であって、致命的に不都合な像であることが分かります。
BINO 双眼望遠鏡での利用
EMSは屈折望遠鏡でのBINO化(双眼化)を実現するための、最も有効なオプションでもあります。
天体望遠鏡は、対物レンズと接眼レンズの間に何も介在しないのが理想で、そのようなコアな光学系の圧倒的なヌケの良さは、プリズム等の正立光学系を一切排除した、直視倒像タイプの小型双眼鏡の自作例等で多方面で実証されています。
倒立像であることと、遠近感の逆転を気にしなければ、圧倒的なヌケの良さを提供する直結タイプ双眼鏡も、人間の眼幅の制約(平均約6.4cm)から、口径が5㎝を越えるようになると、何らかの方法で左右の対物レンズの光軸間を幅寄せしないといけません。
最小限の構成エレメントを特定の法則に基いて空間的に配置し、
プリズム不使用 の 2回反射 のままで、
① 正立像
② 光軸シフト(目幅対応)
③ 正常な立体視
④ 90度対空
の、少なくとも4つの条件を同時に満たしたのが、EMSという正立光学系です。
つまり、私たちの目幅に(一定以上の口径の)左右の対物レンズからの光を投入するためだけに、 最低でも2回反射が必要なのですが、EMSでは、さらに正立化と90度対空化を達成するための追加の 反射を一切要求しないために、ほぼ直視(介入物なし)に近い透過性能が期待できるわけです。
この事実は、アルミ鏡時代より、EMSユーザーの方々の間では十分にご認識いただいて来たわけですが、2009年の銀ミラー化以降は、さらに圧倒的なものとなっています。
2回のみの反射で構成されていることは、光学性能が高いばかりではなく、初期、または使用中の光軸調整が非常に単純になるというメリットもあります。
光軸調整機構
BINO(双眼望遠鏡)用EMSには、右側EMSに光軸調整機構X-Yノブが備わっています。極めて軽量、シンプルに左右の鏡筒の光軸の微調整が可能で、400倍オーバー!の高倍率でも常に完璧な光軸が維持されます。
両目の像が中心に重なるようX-Yを調整します。X(銀色)はヨコ、Y(金色)はタテに像が動きます。
X-Y knobs and the image shift / XYノブの回転と像の移動方向の関係
さらにタテ軸、横軸だけでなく、極めてシンプルな方法で、回転方向の光軸補正も平行調整とは全く独立的に行えることが、EMSの特筆すべき特長です。
増反射銀ミラー”EMS-U”
2009年9月10日を以って、 アルミ蒸着ミラーを使用たEMSシリーズは、全面的に増反射銀ミラーを使用したEMS-U シリーズ に移行いたしました。
驚異的な反射率と、半永久的な耐久性を同時に達成しています。可視域平均で従来品に対し、約8%の光量アップと、700nm付近(赤い光)は約17%の光量アップを達成しています。
銀ミラーの効果について
8%の最終反射率のアップの効果は絶大です。よく口径換算でその差を過小評価される例が見られますが、 反射率のアップは単位瞳面積当たりの光量のアップを意味しますので、瞳径を増大させてしまう 口径アップ(思考実験)では補填できるものではありません。また、単なる明るさの向上のみならず、 カラーバランスがほぼ完璧にフラット(ニュートラル)になることのメリットも計り知れません。 (アルミ系の2回反射だと長波長側の落ち込みが著しいことが判明しました。)
詳しくは下記を御覧ください。
EMS-ULTIMA from Aluminum to Silver | 銀ミラー EMS-ULTIMAシリーズ
Movie サイエンスチャンネル
2001年 夢をつむぐ人々(65)常識への挑戦!双眼天体望遠鏡の発明者
サイエンスチャンネルの”夢をつむぐ人々”という30分番組に私が紹介されました。(2002年8月28日)「サイエンスチャンネル」は、”青少年を中心とした多くの人々が科学技術に関心を持ち、身近なものとして親しんでもらおう” という目的のもとに放送される、科学技術振興事業団による理解増進事業の一環です。
放送時間が限られていることと、中学生にも理解できる内容を求められたため、 EMSの核心にまでは触れられませんでしたが、私がどういう経緯や環境でBINOやEMSを製作して来たかを見ていただけるものと思います。
EMS補足説明
光路長短縮の工夫や、応用性の高い、かぶせタイプのアイピース用スリーブ(図には描いていない)、着脱交換可能な48mm防塵フィルター(multi-coated)等、上図より読みとっていただけるはずです。
接眼部アダプター類は、全てフィルター取り付け部のテーパー状のフランジ形部品(フィルターリング)に被せて、止めネジで固定する方式です。(真鍮バンド締め付け方式)
31.7&36.4ADは36.4ネジで分割でき、アメリカンサイズ・アイピースの使用はもちろん、31.7部をBORGのヘリコイドS等と交換することが出来ます。(EMSの工夫のほんの一例です。その他、汎用性のための配慮が各所に盛り込んであります。)
EMS-UL、ULS、UXLには、50.8ADと50.8→31.7ADが標準付属。
EMS-UL用の2インチスリーブ(アダプター)セットは、追加光路長=わずか2㎜の31.7ADを含んでいます。2インチスリーブだけをご希望の場合は、5,000円(消費税別)です。両端とも、真鍮バンド式です。
別売もしています。
31.7&36.4AD=7,000円(税別)
50.8AD+31.7ADセット=8,500円(税別)
防塵フィルターは、EMS-USを除く、全てのEMSシリーズに附属します。(市販の48mm 2インチネビュラ・フィルターに置換可能)不慮の事故防止と、ミラーの保護の観点より、EMS-USでも、OPTIONの防塵フィルター1,800円(税別)を装着されることをお勧めしています。