EMS used on Newtonians / EMSのニュートン反射への応用

仰角切り換え型 ニュートン反射式双眼望遠鏡

EMSは、そのフレキシブルな像回転と仰角調整の機能により、シーフを含むあらゆる光学系の正立系となり得ますが、 今回は、ニュートン式の反射望遠鏡への応用例の一つを発表させていただきます。

側面図のように、EMSをバズーカ砲のように折り返して使うと、目標に対して対面視で正立像が得られます。(上図は、双眼にした時、対面視での右眼鏡筒、 あるいは逆視での左眼鏡筒を示しています。鏡対称で図を複製して補えば双眼鏡筒になります。)
これは4回(偶数回)反射の正対面視なので、主鏡の光軸の回りに全系あるいは筒先系を回転させても像が回転しません。 つまり、この使用法では、鏡筒接眼部(EMSなしの時の光束の出口;以下説明略)の位置角が自由なので、 まず、EMSの第1ユニットを反射する主光線Bが垂直面内に属すように鏡筒の接眼部の位置角を設定します。 この時、水平位置に対しての鏡筒接眼部の下向き勾配が√2:1となります。

次に、この状態からEMSの第2ユニット(アイピースと一緒に)を主光線Bを軸として 180度回転させると、第2ユニットからの主光線Cは、主光線Aにシフトします。
正面図でこの状態を示しました。
A位置は、逆視用の位置とも言えますが、 120度対空の位置でもあり、像はCの状態から第2ユニットの射出面を基準にして180度回転しますが、観察者も180度向きを変えて観察します ので、これも正立像であることが分かります。
逆視系で背後を観察する事は、対空型の望遠鏡で天頂オーバーを観察することであり、正立像の望遠鏡を天頂 オーバーに向ければ、私たちが反り返って天頂より後ろを見ているのと同じで、像が一見逆さまに見えるのが正常なのです。

一方、EMSをそのままの形で180度逆視(目標に背を向ける)用に取り付けると、4回(偶数回)反射の逆視なので、 全系あるいは筒先系の主鏡の光軸の回りの回転によって像は回転角の2倍の角度で回転します。 これで双眼視が可能になるのは、 左右の鏡筒の接眼部が同軸で対面するように鏡筒を固定した時のみで、望遠鏡の規模が大きく なるほど、天頂付近の観察姿勢に無理が生じます。
さらに、その時の像は一見正立像に見えますが、 前記の対面視での正立像のような正常な立体視は得られず、立体感が遠近逆になってしまいます。これは、逆視をすることで左右の眼と左右の鏡筒が 入れ替わっているからで、また、視点を変えて敢えて天頂を越えて対面視で観察しますと、逆視で正立像だと信じていた像が、実際には 倒立像であったことが理解できます。この状態で、望遠鏡をパンすると、像が逆向きに逃げるので、その事からも、逆視では見かけ上の正立像が実は倒立像 であることが分かります。

つまり、上図のようなC,Aの仰角切り換えタイプでは、どちらのポジションでどの方向に望遠鏡をパンしても 像の動きが矛盾しない正立像と正常な立体視が得られることになります。対象の高度角の45度付近を境として、対面視と 逆視(または120度対空視)を選ぶことで、常に快適な観察姿勢を得ることが出来ます。

(屈折式と逆に、仰角が増すにつれて接眼部の位置が高く なるので、Cのポジションでも高度角60度くらいまでは楽に観察できることが予想されます。)

補足事項:

2枚の小さい方形のミラーを用意し、ブック型に保持し、その角度を直角から少しずつ鋭角にして自分の眼の 2回、3回、4回反射の逆視像を作り、ミラーの全系を視線の回りに回転させた時の像の回転の様子を観察してみることをお勧めします。
奇数回反射では裏像になっていることの他、逆視の奇数回反射では像が回転しないこと、偶数回はその逆であることが ご理解いただけるはずです。正対面視の場合は、全くその逆で、市販の手持ちの双眼鏡の折り畳み式の眼幅調整の根拠になっています。


あとがき

EMSの応用性の広さについては、未だに十分にご理解いただいていない 印象が強く、この度、試作品の製作を待たずにその一例を発表させていただくことにいたしました。
上記は、ほとんど無限の可能性を秘めたEMSの応用のほんの一例に過ぎず、その変形タイプまで含めるとEMSにはまだまだ優れた応用が山ほどあり、試作をする時間が無いことが歯痒くてなりません。
(図は慌てて描いたもので、無駄な補助線の消し忘れがあり、お見苦しい点があることをお詫びします。)
(2002年9月30日)