Borg100 achromatic-BINO(self made) / 自作

昨年11月末にBorgの100mmアクロマートレンズ(F6.4、セルのみ)の中古品が廉価(1万円強/枚)で2枚同時に出ていることに気づき、いけないいけないと迷ったあげく、買ってしまいました。ひと月ほど紙に包んだままほったらかしにしていましたが、ついに年末からbinoにするべく部品の調達に取りかかりました。今回もひとつを除いてすべて市販の良さそうなパーツを組み合わせる、自作ならぬ「編集」です。最近完成しましたので(写真1)以下、パーツを選ぶ際に考慮したことと、それらのパーツを選んだ決め手に絞ってレポートいたします。それぞれの部品を選ぶ際にはGoogleのの画像検索に大いに助けられました。つたない内容ですが、どこかのどなたかの参考になることがあれば幸いです。

鏡筒固定部の選定

手に入れたのはレンズセル部分だけだったので、まず鏡筒を完成させたくなりました。しかし他のパーツ、特に鏡筒固定部の径が合わないと後々苦労しそうなので先に鏡筒固定部を決めることにしました。精度がよさそうな軽量な鏡筒バンドとして三基光学館さんのものとK-ASTECさんのものが候補にあがりました。鏡筒単体ならどちらもよさそうです。しかし2本の鏡筒の光軸維持のためには後者を選びました。それはアリガタ(DP45-125)に段差があり光軸に対して直角に鏡筒バンドが固定できるようになっているからです。この有効性は黒木様が71FLのケースで報告されています。ただ、このアリガタのバンド固定用の穴にはネジが切ってあります。段差にバンドを押し当てて直角を出すには、ここはバカ穴になっているほうがよいのでは?と思います。

鏡筒の選定

DP45-125にはBorgの115φと80φの鏡筒に適合するバンドがありますので、手軽なBorgの鏡筒を使うことにしました。調べてみると鏡筒は太いほうがいいようなのですが、115φはすでに生産中止です。10cmアクロマートの標準鏡筒が80φだし、なぜ太いといいのかという理屈が分かっていないレベルなのだし、ということで80φ鏡筒を選びました(バンドはTB-80)。レンズセルと80φ鏡筒の接続には「メタルラッパ」と「アルミ延長筒」が必要です。「アルミ延長筒」はすでに生産中止で情報はほぼなく、Borgさんにどこかに在庫ががないかと尋ねてみると、「倉庫にB品でも厳しいものがあるので、お譲りします」とのこと。メタルラッパとアルミ延長筒はなんと無料で入手できました(中川さん、ありがとうございました)。

フォーカサーの選定

フォーカサーの光路長がわからないと鏡筒の長さを決められません。80φ鏡筒ならばEMSはULでいいでしょうとのことで、入手しやすい笠井トレーディングさんのBorg用2インチマイクロフォーカス接眼部を選びました。松本さんのHPにあるアイピースの焦点位置の情報によれば、標準的なアイピースでの繰り出し量が20mm程度以上あれば、たいていのアイピースで合焦しそうです。当初は鏡筒間間隔154mmと考えて鏡筒などの選定を始めました。この辺りで鏡筒間間隔やEMSの光路長などについて計算が合っているか松本さんに確認していただきました。すると「計算は合っていますが考え方が間違っています」とのこと。つまり計算上ぴったり、ではだめで、不測の事態に備えるために余裕をもって設計を、との助言をいただきました(後述のように、早速不測の事態は起こりました)。そのことを念頭に置きつつ、鏡筒は135mmと50mmをつなげばよさそうです。図面上は一番奥まで繰り入れても口径がけられることはなさそうで、これに決定しました。

鏡筒購入

白鏡筒は品薄とのことで黒鏡筒を選択。メタルラッパとEMS-ULの白がアクセントとなるモノトーンになりました。メタルラッパはスプレーで再塗装、アルミ延長筒は確かに傷などがひどかったので、イーノックスさんのカッティングシート(ブラックマット)を貼り、新品同様になりました。ここは色見本用のサンプルを無料で送って頂けるので、色を選ぶ際に重宝します(HP上出見える色とはかなり違った印象でした)。ちなみにカッティングシート貼りの作業は学生時代に看板屋でアルバイトをしていたときに教えて頂いたことが役にたちました(中性洗剤のごく薄い水溶液を接着剤面に塗って貼り付けると空気が入らず、貼り直しができるのでやりやすい)。世の中なにがどこで役立つかわからないものです。鏡筒内部には絞り環はなく、植毛紙貼付ですませています。フォーカサー到着後、早速鏡筒に接続して確認、と思ったところで問題発覚。HPには”80φ鏡筒にそのまま装着可能”と書かれてあるのですが、実際には変換リングを一つ噛ませないと接続できませんでした。。。変換リングを追加購入し、無事装着。変換リング分のバックフォーカスが短くなってしまいましたが、結果として標準的なアイピースの場合約25mm程度の繰り出し量で合焦しましたので、たいていのアイピースが使えると思われます。これで鏡筒ができあがりました。次はこれをのせるマウントを選ばなければなりません。

架台の選定

シンプルで軽い仕様にしたかったので、ヘリコイドによる目幅調整式としました。ユーザーリポートを拝見すると、ほとんどの方がHF経緯台を使われているようです。しかし今回は汎用プレートの横幅が足りません。そこで笠井トレーディングさんのBino Forca経緯台を選びました。この架台にどうやって鏡筒をマウントするか、が次の課題です。ここについては特注の台座を準備するつもりで、アリミゾを横並びに置く方式と垂直に立てて置く方式を検討しました。

アリミゾの選定

台座の寸法を出すためには、まず使えそうなアリミゾを選ぶ必要があります。アリミゾは1)精度のよい、2)面押しタイプのもので、3)円形ではなく、4)側面に突起物がでていないものを探しました。しかしブロックで押すタイプのものはともかく、面押しタイプのアリミゾは意外に見つかりませんでした。ひとつ見つけたのですが、これは加工精度が均一でなく(寸法に1mm単位での個体差があった。これがどこのどの商品だったかについては差し控えます)、単独で使用するならまだしも、binoでの使用には耐えないと思い返品。星見屋さんにGEOPTIKのものの黒色仕様を紹介いただきました。ただこれを横並びに配置した場合、適切な鏡筒間間隔を維持しつつクレードルの幅内に2本の鏡筒を収めることができませんでした。これはノブのネジ部分が必要以上に長いことにもよります。ここは短いものに交換すればよいと思っていましたが、ネジ先端の加工が必要のようで、私の手に負えませんので横並びの配置はあきらめ、縦に配置することにしました。

凸型台座の製作

今回のbinoの一番の特徴がCOSMO工房さんに作っていただいた凸型台座かと思います。これをクレードル部に取り付け、その左右をアリミゾで挟めばシンプルかつ水平・垂直・平行が勝手に出てしまうマウントができると考えました。垂直に置くことでアリミゾのノブもアクセスしやすいところに来ます。念のために接眼側の垂直面にはリムを設け、ここにアリミゾを押しつけるようにしました。この構造では、凸部の最薄部の厚さによって鏡筒間間隔が決まります。当初の予定の154mmではこの部分の厚さは計算上3mmになってしまいます。さすがにこれでは剛性不足でしょうから、たわまない程度でできるだけ薄く、左右のアリミゾのノブが干渉しないぎりぎりの幅で、鏡筒間間隔をできるだけ短く、といういくつかの要因が折り合うのは大体7mmかなと思い、計算上の鏡筒間間隔は158mmとなりました。しかしこの薄さでは両側からアリミゾを台座にネジ止めすることはできず、ボルトとナットで両側から台座を挟みこまなければなりません。通常のナット径はアリミゾの座繰り穴径よりも大きく、また高さは座繰りの深さよりも高いので、COSMO工房さんにナットの径と高さを削っていただいて座繰り部分に収めることができました。今回の成功はこの台座によるところが大きいと思います。COSMO工房さん、無理なお願いに対応いただき、ありがとうございました。到着後、台座をM6ネジ5本でクレードルに取り付け、早速確認です。EMSのXY調整のノブの矢印を接眼側に向け、両鏡筒を取り付けると、左右方向では調整ノブの微調整は不要。ただ、やはり垂直方向の光軸はシビアなようで、最初の段階では右鏡筒がわずかに下を向いていました(あとで気づいたのですが、これは台座の加工精度というよりも私の鏡筒バンドの取り付け方が歪んでいたことによるものらしいです)。そこでこの台座の右側のアリミゾと台座の垂直リムの隙間に厚さ0.2mm程度の紙片をはさみ、右側鏡筒をわずかに上向きに傾けました。するとほぼ調整ノブの原点位置で像が重なりました。と同時にこれほど微妙なものだったのかと驚きました。台座の剛性はこれで充分でしたが、アリミゾのノブは間隔が狭くて少し締めにくいです。ともあれこれで主要部分は完成しました。鏡筒着脱による光軸のズレもほぼありません。

操作ハンドル

ストアポリゴンズさんというカメラ用品のwebショップで15φのカーボンロッドクランプを見つけ、操作ハンドルを作りました。右側のロッドは長く、クレードル末端を超えて対物側まで伸びています。ここにバランスウェイトを取り付けるためで、これは松本さんのbinoのウェイト兼操作ハンドルの受け売りです。グリップ部分にはホームセンターでスポンジカバーというのを見つけて取り付けました。

フード

アルミ延長筒(鏡筒径が太くなっている黒い部分)は一見フードに見えますが、実はレンズセルは接眼側から最も遠いところにねじ込む方式になっていて、それより先にさらにフードをつける必要がありました。このパーツを探していたときにはすべての円柱がフードに見えるという病気にかかりましたが、「ハイパック容器」というプラスチックケースがみつかりました。これの底を抜き、内側に植毛紙を貼れば、立派なフードの完成です。元々容器ですので、ねじ込み式の対物キャップもついています。しかもわずかにテーパーがかかっていましたので、運搬時にはフードを短縮させ、使用時に引っ張りだせば植毛紙の摩擦で丁度いいところで固定されます。ただこのテーパーのせいでカッティングシートの展開図を作るのが難しく、スプレー塗装ですませました。このため鏡筒の黒と色目が微妙に異なっているところが不格好です。

ウェイト

長焦点の重いアイピースを使った場合、鏡筒バンドの最も接眼側をアリミゾに取り付けてもまだ接眼側がやや重いため、対物側にウェイトが必要でした。これはスカイメモS用に作られたステンレスウェイトをネットオークションで見つけました。ただし穴の径を勘違いしていたようで、金属加工屋さん(中途半端ネットさん)に頼んで15mmφまで穴を広げていただきました。これで大体のアイピースで垂直回転軸のクランプは緩く締めるだけでバランスするようになりました。

これでだいたい完成、先日志摩方面への家族旅行に車で持参し、2時間程度ですが初めて夜空に向けました。やはり口径100mm、55FLに比べるとだんぜん明るく倍率も上げられます。月は周辺に色がつきあまり快適ではありませんがこれは他の鏡筒にまかせるか、フィルタも有効かもしれません。ハイペリオン36mmでは実視界4度弱で、M46 & 47が印象的でした。55FLと比較すると、プレセペはこちらに軍配が上がります。一方ヒアデスは視野の広い55FLのほうが有利で、55FLのよさも改めて実感しました。今回は大小色々なメーカー、ショップの色々なパーツがそれぞれの特徴を発揮したオールスターチームのようなbinoになりました。これらのパーツを製作いただいた方々、レポートなどで有益な情報を提供いただいた方々に感謝いたします。

京都 畑

管理者のコメント:

畑さん、素敵なBINOのご完成おめでとうございます。 非常に懇切、詳細にご報告いただき、これからBINOを計画される方には、大いに参考になることでしょう。

「自作というよりも”編集”」と謙虚に書いておられますが、非常に上手に多くのパーツをコーディネートしておられるので、胸を張って「自作した・・」とおっしゃってください。 それにしても、優秀なパーツが入手しやすい、良い時代になりました。 そろそろ私もEMSの製作に専念できそうですね。^^