130EDT-BINO(中軸式架台仕様)

 こんにちは、昨年130EDT-BINO(中軸架台)及びファインダーBINOを作製頂きました 東京の奥田と申します。2012年秋のケアンズ皆既日食の報告をさせて頂いて以来、 すっかりご無沙汰しております。
 まだまだ残暑厳しい日々が続きますが如何お過ごしでしょうか。私は日頃の不摂生が 祟ってしまい、すっかり夏バテ状態で困っています(^^;

 さて酷暑や大雨など色々全国で自然被害が発生しているこの夏ですが、先日、ペル セウス流星群極大日の前日に長野県小諸市の標高2,000mの山の上にある温泉宿 (ホテル)へ、星見を兼ねて避暑に行ってきました。
下界(!)では軒並み気温40℃越えを各地で記録した週末でしたが、標高も2,000m だと正に別世界。 日中でも気温は25℃前後、夜は15℃程度で、快適天国の時間を過ごすことができま した。
ただその天国気分を体感した後に下界へ降りた時のショック・ダメージは相当大き なものでした(@_@;

 この避暑旅行は、松本さんに作製・納品して頂いてから丁度1年の間、部屋の片隅 で「熟成」(?)させてきた130EDT-BINOのフィールドデビューの日でもありました。 危うく「宝の持ち腐れ」「部屋の肥やし」となりかけていたBINOが始動する良い キッカケにもなりました。

 130EDT-BINOは、自分にとって2台目のEMS-BINOです。 既に手元にはありませんが1台目のCAPRI-102ED-BINOは、東京に転勤するまで関西 のフィールドで大活躍してくれました。関西では車を1時間も走らせれば素晴らしい 星空に逢える場所がいくつもあって、それこそ「月の無い週末、晴れてさえすれば」 CAPRI-102ED-BINOを後部座席にヒョイと載せて星見に出掛けていました。
 しかし空の明るい東京(関東)に転勤してからは、「星空に逢う為には長時間車 を走らせないとならないので気楽に星見に行けないだろうな」という思いもあり、 回数が減るかわりに「高い質で満足できる遠征にしたい」という考えのもと 130EDT-BINOの作製をお願いしました。

 そんな130EDT-BINOを使って標高2,000mで楽しむ「夏の天の川クルージング」や 東の空から昇って来る「秋の空の淡い銀河」等々、一言で表現すると「濃く」見る ことができました。
 例えば、夏の定番”M8/M20/M16/M17″はこれ迄見たことも無い程にガスが大きく広がる 様子やその濃淡の詳細迄クッキリ見ることができ、また”M31″は正に写真の様に、 “M33″は渦を巻いている様子がハッキリと確認できました‥と、使い古された表現 ばかりで恐縮です。

 この星見には一寸興味深い話があります。 この度の避暑旅行には、「流れ星を観てみたい」という星見素人のメンバー3人も 同行していました。
 そのメンバーにBINOで幾つかの星雲・星団を導入して観てもらい「何に見える?」 と聞いたところ、その問いに返ってきた各人のコメントにびっくりしました。

M8 :「白っぽいモクモクした靄の中に、黒い川が流れているみたい」
M20:「割れたクッキーかなぁ?」「花の様にもみえる」
M13:「辛子明太子の輪切りみたい、ツブツブが美味しそう」
M17:「これ、昼間に見た榛名湖の白鳥(遊覧船)がひっくり返っている」「いや オマルに見えるけど(笑)」
M31:「宇宙戦艦のマンガでみたことある宇宙みたい」
M33:「グルグルしてる!」
M57:「あ~、星空の中にドーナツが浮かんでるぅ」「(某水族館の)いるかの リングだ」

表現は様々でしたが、初めて望遠鏡というものを覗くメンバーのこれらの感想や コメントは、このBINOの実力を正直に伝えたものではないかと思います。 いやホント素晴らしいものでした。

また私自身は、松本さんオリジナルの「中軸架台」の実力に興味がありました。 1台目のCAPRI-102ED-BINOの時はV社のHF経緯台を利用していました。CAPRIの軽量 鏡筒にもかかわらず、いつ迄も微振動が治まらず星像が揺れているのが気になって いました。
そこで130EDT-BINO作製時には、以前より「製作状況速報」で紹介されていた オリジナルの「中軸架台」に期待して作製をお願いしました。

 実際に使ってみての感想は「中軸架台にしてよかった」というものです。 決して軽く無いアポクロマートの鏡筒2本を載っけても、その微振動は最初の僅か です。そして一瞬のうちに揺れが治まります。各軸のホイール・軸受けを大きく 作って頂いたこともあり、上下水平の粗動(元々微動はありませんが‥)は極めて スムーズ。それこそ音もなく「スーッ」と動いて「ピタリ」と止まります。 「スーッ」と動くのは当たり前としても、この「ピタリ」と止まる(止める) ことはフリーストップ架台のとても重要なポイントだと思っています。
天の川をクルージングしていても、対象が視野に入ってきたら導入ハンドルを 握る手の力をそっと緩めるだけで「ピタリ」と視野の中心にストレス無く導入ナきます (HF経緯台はバックラッシュが発生してしまい、よくイライラしていました)。

 そんな優れた中軸架台ですが、鏡筒の脱着については一寸だけ改良ポイントが あるように思います。
松本さんが苦心して開発された一体型のアリミゾ。この一体型アリミゾその物は 大変優れたものです。しかしアリミゾを縦付することにより「メリット」と「デメ リット」が同居しています。
鏡筒取付け時にはそれほど気にならないのですが、取外し時はトップヘビーの鏡筒 のバランスを相当意識して作業しないとアリミゾからうまく外れずに架台・三脚 ごと持ち上がってしまいます。
つまりアリミゾに対してしっかり平行を維持した状態でアリミゾからアリガタを 抜く必要があります。これは慣れの問題ともいえますが、長時間の観測で疲れて ボ~っとした頭の状態では、ついつい無意識に引き抜こうとしてしまいます。 今後、少しでもスムーズに作業ができるように改良・工夫を検討したいと思って います。

最後に‥

 アポクロマート鏡筒を利用したEMS-BINOとしては、この130mmあたりが日常の移動 用としては最大級ではないかと思います。この度もエステートワゴンのトランクに のせて移動をしましたが、ハードケース入りの鏡筒2本と架台・三脚、アイピース やその他必要機材を積むとトランクはほぼ満杯です(最初は積めないのではないか と心配もありました)。
また重量もそれなりにあり、常に気合をいれて(気をつけて)運搬や組立をしない と腰を痛めてしまいそうになります。将来このクラスのEMS-BINOを作製される方は、 是非運搬や保管のことも考慮して検討されることをお勧めします。
ただこれらの課題(?)を背負っても、その何十倍何百倍の素晴らしい星見時間を 提供してくれるツールであることは間違いありません。そういう意味では、どの サイズ/どの鏡筒を選択するか悩ましいと思います。

 この度の星見を機に、これからは積極的に130EDT-BINOと共に素晴らしい星空に 逢いに行きたいと思います。その星見を更に楽しませてくれるEMS-BINOを短期間に 作製いただいた松本さんに感謝しております。ありがとうございます。

以上、納品から1年越し(?)の報告とさせて頂きます。

東京都 奥田浩

Comment y Matsumoto/ 管理者のコメント;

 奥田さんが去年のファインダーBINOに続き、今となっては懐かしくも感じられる130EDT-BINO(中軸式架台)のリポートを くださいました。

 中軸式架台は、一見単純なようで、エンコーダの内蔵や鏡筒の単体着脱の条件を課しますと、一挙に製作が難しくなります。 こうした特注架台を手掛けたことが、BINOの納期を極端に遅らせてしまった反省から、「中軸架台はもう作らない・・」という 決意を固めたのですが、こうして喜んでいただいているのを知りますと、またいつか、より合理的な設計での再開もあり得るのかな?と 思ってしまいます。^^;
 130EDT-BINO(中軸式架台)の製作記事は、BINO製作情報速報の2012年5月23日、6月9日~30日、7月2日~6日、13日、17日~19日、22~28日、8月1日~2日 に掲載しています。
 奥田さん、この度はご多忙の中、ずっと楽しみにしておりました130EDT-BINOの素晴らしいリポートをありがとうございました。 初心者の方の感想、新鮮で初心に立ち返らせてもらう気がしますね。
続報がありましたら、またよろしく御願いいたします。