115ED-BINO ファーストライト

仙台市内から車で約40分。市の北西部に位置する泉ケ岳の駐車場(標高約550m)にて今回BINO(SE115ED-BINO)のファーストライトを迎えることができました。松本さんを鳥取へ訪ねて早一週間。こんな早期に自分のBINOを持つことができるとは夢にも思っていませんでした。BINO製作をご依頼して以来、ずっとこの日が来ることを待ち望んでおりました。松本さんのここまでのご指導に深く感謝申し上げます。

梅雨空続く6月下旬、製作を依頼しているBINOの完成を見に行くため、仙台から夜行バス(仙台~大阪)+JR(大阪~鳥取)を乗りついで鳥取市を訪れました。松本さんは、ご多忙にかかわらずご夫婦で(!)私の訪問を快く対応してくれました。松本さんに会うまで「いったいどんな人(?)なのだろう」「光軸調整など難しい話は理解できるかな」等心配しておりましたが、それらは一気に吹っ飛び、長時間に渡り有意義な時間を過ごさせて頂きました。BINOの調整方法のみならず、これまで松本さんが歩んできたBINOの貴重なお話を伺うことができました。これは本当に勉強になりました(大収穫でした)。
BINO製作中は、松本さんから多くのご提案を頂きながら、異例の早さで進行しました。松本さんとのメールのやりとりはいつも率直で、未熟なわたしのいろいろな誤解をときほぐしてくれました。また「メイキングレポート」でも掲載されたように、(私が持ち込んだ)KenkoのSE115EDはカサイのBLANCA-115EDTに外見がそっくりですが、BINO用にはバックフォーカスがかなり不足ということでやむなく短縮加工してもらいました。また長年使用してきたHF経緯台についても心得るべき点などいろいろとご指導を頂きました。スタート時点から松本さんには本当にご苦労をおかけしました!

鳥取訪問も無事終了し、翌週自宅にBINOが届きました(箱5つ)。箱からBINOを取り出し再度ご対面!。ご指導受けたばかりの「うろ覚え」の光軸調整を行い、ベランダから地上の建物や電線で「像」を確認しました。初めはなかなか「像」が重ならず焦り(?)ぎみでしたが、なんとか合った(?)ので、いてもたってもいられず、BINOと三脚を後部座席に積み込み、近くの山(泉ケ岳)へ向かってしまいました。
現地は、雨上がりで地面が少し濡れていましたが、BINOの設置をして観望をさっそく開始しました。泉ケ岳は仙台方面(南東)が街明りでかなり明るいのですが、テストとしては十分な空で、晴れた日には天の川まで見ることができます。今回使用したアイピースはEWV32mm(25倍)とナグラー16mm(50倍)。さらに松本さんに加工してもらったマルチショートバロー(加工後1.75倍)を使用しました。

時刻は2011年7月5日(火)20時過ぎ、ついにファーストライトの瞬間です。はじめの対象は西天に沈みつつある月齢4の月でした。地上で合わせた(と思っていた)光軸はみごとに(!)ずれていて、はじめ月が二重に見えました。鏡筒のねじれを確認し、眼福とミラーを微調整して像が一致した時、地球照が美しい月がついに観望できました。流れる雲の合い間から月が見え隠れし、周辺部のクレーターがはっきりと立体的に見えました。しだいに西の空に見えなくなっていきました。
つづいて観望シーズン終了間近の土星。はじめその明るさが気になりましたが、タイタンや他の衛星までくっきりと確認できます。おとめ座の空域に浮遊する土星と衛星は、他の星々と調和し「一枚の絵」を見ているようでした。しばらくそのライブに見入ってしまいました。まさに「窓からのぞくような感覚」です。

初日だから調整程度までにしておこうと思っていたのですが、ここまで来るとさらに欲が出てきます。さっそくおおぐま座のメシエ天体めぐりへ出かけました。はじめはM81とM82です。2つの銀河が同一視野に飛び込んできた時、思わず暗闇で声を出してしまいました「キターっ!」。これだけの広視野で見たのは初めてです。2つの銀河の特徴が対比されはっきりと見えます。なんと不思議な感覚なのでしょうか。
つづいてM97、M108、M109、M106、M101、M51を次々と導入。ミザール(A・B)とアルコルもきれいに分離して見えています。正立像なので面白いように順番に導入できました。当日の午後、仙台ではいわゆる“ゲリラ豪雨”があり、“ひょう”まで降りました。直後から急に晴れだし、空気中の塵が落ちたので空のコンディションも良かったのだと思います。しだいに天頂に天の川も見え出しました。

東天から天頂にかけて夏の大三角が見えています。次はそこへBINOを向けました。こと座のベガを導入後、そのままM57へ。リングははじめはっきりしませんでしたが、時間がたつにつれ、濃淡がはっきり見えるようになってきました。つづいてアルビレオ。「おーっ!」その美しいこと。少し下がって、コートハンガーとや座を確認し、こぎつね座M27へ向かおうとした時、思わずBINOを止めてしまいました。それまでM71はぼんやりしたイメージのマイナー天体でした。しかしその夜は「球状」に、さらに「分解」して見えるのです。この天体がこのように見えるのは初めてでした。マルチショートバローの効果でしょうか。「ここまで見えるとは...」しばし沈黙。じわじわと感動がこみ上げてきました。
15㎝BINOオーナー先輩の宮城のSさんもファーストライトのレポートに書いていましたが、本当に「星がありすぎ」です。いままで見えなかった星々が「双眼効果」によってよけい見えるようです。BINOで天の川をさっと「流し見」し、その美しさを十分に堪能しました。

ここまで来るともう止まりません。つづいてさそり座~いて座方面です。アンタレスを導入したのち、球状星団M4とM80を確認すると一気に下降します。すもうとり星付近を抜け、さそりの尾(シャウラとレサト)を経て、ついにM7へ到着。明るい散開星団の恒星一つ一つが前後に立体的に見えます!こんなことってあるのでしょうか?。そう思いつつ全速(?)で南斗六星付近へ向かいます(まるでジェットコースターですね)。
いて座で導入してみたかった天体に球状星団M22があります。この日は透明度もよく、M22がキレイに分解して見えました。この晩M13やM5も見ましたが、なぜかM22が一番キレイに見えました!つづいてM8干潟星雲(おーっ!)M20(あーっ!)M24(げっ!)へ天の川「上り」です。見える見える(あたりまえですが)、M17&M16のガスの様子までくっきり見えます。このあたりでたて座からわし座に向かいましたが、あまりに興奮しすぎで目標のメシエ天体を見失ってしまいました。「キターっ!」「おーっ!」「あーっ!」「げっ!」「ギャーっ!」コトバにならないコトバを暗闇で発しつづけ、もうすでに3時間経過。時刻はすでに23時近くをまわっていました。(どこにも通報されませんでしたが...)

東の空に秋の星座がのぼってきました。そうだM31が見えるかもしれないぞ。そう思い東にBINOを向けました。アンドロメダ座ミラクから上に恒星を2つ上がると...「でたっー!」M31です!伴銀河M32とM110まではっきりくっきり見えます!写真のようには見えませんが、230万光年はなれた天体を自分のBINOで見ているんだと思うと、感無量でしばらく見入ってしまいました。「もう単眼倒立には戻れないなあ...。」そう思った瞬間です。充実感と次回の期待を胸に撤収し、家に着いたのは1時近くでした。しばらく興奮で寝つけませんでした...。

これまで DOB(25cm)での観望が主に行ってきましたが、BINOはちがった切り口(双眼正立の世界)で宇宙を見せてくれます。短時間でこれだけ見ることができたのも、ずっと手動で天体導入を苦労(訓練?)してきたからなのだと思います。星図を片手に倒立像であることを想定し、なにかカンのようなもので常に導入していたような気がします。それでも25cmで星雲星団や銀河をとらえた時の感動はひとしおでした。
しかし、BINOの場合その感動とはちがっていて、天体の位置が星図の通りなのです(あたりまえですが...)。BINOの平面上部に星図を載せて(こんなことは従来の望遠鏡ではできませんね)、正立ファインダーでそのまま天体位置が容易に特定できるのです。このあたりまえのことに深く感動するのです。なにより導入自体がとても楽しく感じられました。
このBINOによってますます観望機会が増え、より多くの天体も導入できそうな予感がします。これから秋や冬の天体シーズンが本当にまちどおしく感じられました。

この日をなんとか迎えることができたのも松本さんはじめ、周囲の多くの人々たちのおかげと考えております。これからは、機会あるごとにBINOのすばらしさを周囲に伝え、もっと自分の時間を大切に過ごしていきたいと考えております。また次回レポートします。本当にありがとうございました!

仙台市 渡辺 利明

管理者のコメント;

渡辺さんより、115ED-BINOのファーストライトのご一報をメールでいただき、当リポートコーナーへのご投稿をお願いしたところ、快く詳細にまとめてくださいました。  初めてEMS-BINOでじっくりと天体を観察された感動を素直におまとめいただき、初期の感動を呼び覚ませていただいた感じがいたします。

お持込の115ED鏡筒(KENKO)が(恐らく同じOEM供給元と思われながら) 、想定していたBLANCA115EDT鏡筒とは仕様が大きく異なっており、最初はご心配をおかけしましたが、最終的にはBINOに特化したカスタマイズによって課題は全てクリヤーできました。 その都度、問題点を率直に申し上げましたが、素早いご反応をいただき、速やかに作業を進めることが出来ました。

渡辺さんには、この度の御地元の震災被災にもかかわらず、遠路をご訪問くださったことにつき、深く感謝いたします。 これより、秋~冬の天体も115ED-BINOに覗かれることを心待ちにしていると思います。 その節には、またぜひ追加リポートをよろしくお願いいたします。
さっそくの臨場感溢れるリポートをありがとうございました