1立方センチの立方体

仕事台(今は小型旋盤の台)の下の本棚を整理していたら、小さい段ポールの箱に入った、 多数の木製の立方体が出て来た。 これは、8年ほど前に2年間ほど夜間だけ、某学習塾の非常勤講師をしていた 頃に使用したものだ。用事がなくなってからも、どうしても捨てることが出来ずに残していた物だった。

体積の概念が曖昧だった中学2年生の男の子のために、私は1cm角の木の棒をホームショップで探し、卓上の丸 鋸で、結構危険な思いをしながら1個ずつ切断して仕上げた。

これを1辺が2倍になるように、4個合わせて上から見ると、合体で出来た大きな正方形の面積が元の4倍になる ことが分かる。また、1辺に3個並ぶようにすると、9個で大きな正方形を形成することが分かる。これで、 面積比は相似比の2乗倍になることを男の子に納得させることが出来た。 私はさらにこれを立方体に発展させ、 体積比が相似比の3乗倍になることも教えた。

立方体でなくても、たとえば人間のような形でも、小さな立方体の集まりと考えることが出来る。 体重60kgの人 がたとえば6万個の1立方センチの立方体で近似させることが出来るとすると、同じ個数の1辺2cm(8cm3 )の立 方体で、2倍の相似比の人間を形成することが出来る。だから、完璧に相似のまま身長が2倍になると、体重は8倍に なるのだ。(この仮想の立方体の1辺は限りなく小さく想定できる。)

この男の子のお母さんが塾に月謝を払いに見えた時、お母さんの生活臭が痛々しく伝わり、私は何としてもこの子 の学力を上げてやろうと決意した。しかし、その思いがつのるばかりに、宿題をして来ない子にいつも笑顔で接する ことが出来なかったことから、次第に敬遠されてしまい、この子は結局塾をやめてしまった。今はすでに成人して いる勘定だが、あの頃の事をこの子はどう思っているのだろう。「妙に口うるさいオジサンだったなあ。」 と思っているのかな。